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“チャイナアゲイン”で考える人材マネジメント

Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える 第十一回

今回は、「“チャイナアゲイン”で考える人材マネジメント」と題して、中国で日系企業に必要な人材マネジメントを取り上げます。製造業等による積極投資が行われている中国において求められる人材マネジメントはどのように変わっていくのか、考察します。

“チャイナアゲイン”

1979年に松下幸之助が鄧小平を訪れ、ブラウン管の技術協力を行い、そして1989年に北京にテレビ工場を建てたのち、1990年代を皮切りに日系企業はこぞって中国に生産拠点を築いてきました。潤沢な人材と安い人件費を目当てに工場を建てることから始まり、中国人の生活水準と所得が上がるにつれて、現地で売るための営業を強化する、そして、現在は中国人の志向に合う商品を現地でも適合、開発するということで、大手製造業の多くは研究開発拠点をおきながら市場戦略を検討しています。そんな中で、中国進出日系企業の先駆けである(井戸を掘った)パナソニックは、2019年4月に中国に本社を設置し、現地で戦略を作り、実行するための予算と権限を持たせ、カンパニー横断で中国に合う商品を開発、販売するという大きな再編が発表されました。経営の柱であった4カンパニーの垣根を中国においては、取り壊し、一体となって市場攻略に繋げる、そして、日本で握っていた権限とリソースを現地に投下するという日系企業にとっては前代未聞の取り組みとなります。

同じく中国で巻き返しを図るために積極戦略に転じた企業に、トヨタ自動車があります。ホンダ、日産ともに中国で増産の計画が発表される中、最大手のフォルクスワーゲンはおろか、日系両社に遅れを取っているトヨタとしては、全社的に中国を最重要地域として位置づけ、生産増強をはじめとして、(現在の常熟にある研究開発センター増強とは別に)先端研究開発拠点の設置や、中国政府が強力に推し進めているEV社の市場投入を計画しています。中国首相の李克強首相が北海道でe-paletteの工場を視察した際、対面した豊田章男社長は中国重視を説明するとともに、東京五輪後の北京冬季オリンピックにおけるインフラ協力についての支援話も進めています。

こういった大企業の戦略転換を受け、一時期はチャイナリスク一辺倒だったマスコミも、深セン等におけるイノベーションやBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)を含むICT巨大企業の動向、CATLやBYD等の電気自動車、Huawei・美的・格力等のメーカーの実力値や、既に日本を凌駕する一線都市のデジタル化等に、遅ればせながらも目を向ける記事が目立ってきました。政治的にも米中の貿易摩擦による関係悪化と日中平和友好条約締結40周年という状況の中、10月末に実現した安倍首相の訪中や来年かと噂される習近平主席の来日を控えて両国の関係も好転の兆しを見せています。トップ外交がビジネスチャンスに直結することもある中国(寧ろドイツのようにトップ外交をビジネスに活かすべき中国)において、軒並み苦戦を強いられている日系企業が勝ちモデルをいかに構築していくかが試されます。

中国戦略見直しの特徴

自動車OEM、パナソニック等の大手企業が進めている中国重視だが、関連企業、競合等に影響が波及することは必至です。今までは政治リスクや不動産バブル、債務の不良債権化等のリスクと世界最大の市場を両天秤にかけ、ある意味では中途半端な戦略でドイツ、米国、韓国企業等にも遅れをとっていた日系企業が多かったのが実態ではあります。一方、リソースを投資して攻勢をかける方に舵を切った日系企業の戦略策定にはいくつか特徴があります。

1) 日本主導型の戦略策定

トップ主導で全社マターとして中国市場を攻略するという強い意志の表れである一方、中国にある子会社を上手く巻き込んでというケースは実は多くありません。今までできていなかった中国子会社にどこまで期待できるかという現実論と、実態として、戦略策定ができる中国人マネジメントが育成できていなかったという点もありそうです。

2) 正しい市場環境の理解から

ビジネスを中国で行っている傍ら、今更という面もありますが、インテリジェンスなくしては攻略が難しい市場です。「自社の採用ブランド力と今後採用が難しくなる職種は?」「給与は競合と比較して競争力があるのか?」「消費者はどのような商品を求めているか?」「進出都市での人口の推移(少子高齢化はどれほど深刻化)は?」等、マクロ環境から市場動向、競合のベンチマークまであらゆる情報を入手し、戦略策定に活用することが可能です。

3) アライアンスを考える

巨大な中国市場、エコシステムを踏まえても自社のみで戦略を作ることは難しいため、多くの企業がアライアンスパートナーを探します。とりわけ最近、人気が高いのがBATで、どのように付き合うかというのが命題となっています。

4) 国家プロジェクトへの参入

一帯一路も有名ですが、中国では500のスマートシティプロジェクトがあり、世界でも圧倒的な数です(2位は欧州で90程度)。都市毎にテーマが異なりますが、(モビリティ、スマート交通、IoT、インフラ等)それぞれ大きな予算を持って、協賛企業を探している。どこまで自社の強みを活かした具体的な提案ができるかが問われる。

中国には500のスマートシティプロジェクトがあり、長江と珠江デルタ地域に集中している
Note: incomplete statistics, only key cities 出所: smart city network, Deloitte research

人材マネジメントを考える

人事の役割は会社の戦略を支え、促進していくことであるため(少なくとも邪魔をすべきではない)、新中国戦略では新たな人材マネジメントが求められます。また、人事戦略から各施策まで、一貫性を持って変革を行っていく必要があります。先ずは人事戦略からですが、Haierのように評価トップ40%の社員のみに賞与を支給し、加えてLTIも与える一方、評価下位層は雇用契約が打ち切られるような徹底した成果主義を導入するのか(上位40%に入らない社員はリテンションの必要なし)。または、Huaweiのように高官以上の昇格は社員自らが立候補する形にして(会社はポストに必要な要件を厳密に定めるのみ)、積極的な人材を育てることを重視するのか。とある在中国大手日系製造業は、イノベーション人材の獲得と育成を目指して、採用で人材が競合するであろうBATの人事施策をベンチマークし、会社のフロアレイアウトもイノベーションが起きやすいものになるよう改装を行った上で、ITシステムにも更に投資を行っています。また、働き方も可能なところはプロジェクトベースの小チーム制に移行し、今までの部門単位を超えた組織体制で業務効率化を目指しています。何れにしても各人事施策の拠り所となるような明確な人事戦略、社員にとっては明確なメッセージが必要となります。

また人事戦略に合わせて、各種人事施策においても多様な検討が必要になります。

【人事施策検討のポイント(例)】
・採用:より高い質の人材確保を目指した、トップ大学との人脈構築。また、人材見極めを適切に行うことを目的としたアセスメントやインターンシップの実施(採用面接の段階から、ハイポテンシャル人材の見極めを実施している企業もあり)。

・要員管理:間接人員の徹底した効率化、例えば一汽VWでは、BPR部門を設置し、毎年BPRを通した業務効率化を実施。また、Robotic Process Automation(間接業務自動化)を中国でも導入する日系企業が増えている。効率化を支えるには人材の柔軟な配置も重要なため、大手中国企業ではローテーションや拠点を超えた人の異動を実施している。

・人材育成:可能な限り個人レベルでの育成プラン策定と全社・部門別キャリアプランの設計。早期育成を実現するためのファストトラックやOJT促進の仕組み構築(frequent feedback等)。経営幹部の早期育成のため必要なのは、早期選抜そして、選抜者に対しての特別な育成プログラムとモニタリングであり、選抜タイミングは若年化が進み、新卒採用の段階から開始する企業も。

・人事制度:多様な人材を管理できる柔軟性のある制度構築。優秀人材の選別とローパフォーマー対策は表裏一体で取り組む(それを実現できる制度構築が必要)。また、経営幹部(候補)のリテンションとしては、LTI導入事例が増えている。中国で上場している日系企業は少ないので、ストックオプションの代わりにパフォーマンスユニットやファントムストックを導入。

・風土改革:新戦略に沿った、会社のビジョン、ビジョンと戦略に伴う「今までの働き方とは異なる」という明確なメッセージ。組織の新風土に対して、特に現地社員から支持が得られているかの確認。

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最後に在中国日系大手製造業の人材マネジメント変革事例を紹介します。ポイントは、新中国戦略と連携した人材マネジメント変革プロジェクトとなっていること、そして一貫性を持って、採用、要員管理、人材育成、人事制度、組織風土から駐在員の意識改革等の各施策が繋がっていることです。当然ながら、どれほど入念で素晴らしい中国戦略を策定したところで、それを実施する人材、特に中国人社員のコミットメントが得られなければ、絵に描いた餅で、戦略実行がたちまち行き詰ります。とはいえ、実務を抱えながらも、人事としてやるべきことをマッピングし、根気よく各施策のPDCAをまわすのは簡単な仕事ではありません。但し、中国市場で勝ち抜くためには、間違いなく人材が力を発揮せねばならず、人事部門自体が、中国戦略の実行に責任を持てるか、人材マネジメントの実行力と情熱が問われます。

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