デジタル時代の新しいラーニングのアプローチ

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デジタル時代の新しいラーニングのアプローチ

Global HR Journey~日本企業のグローバル人事を考える 第四回

Global HR Journeyの四回目となる今回は、米国で加速するラーニングアプローチの変化についてリポート。従来のクラスルーム形式は、ビジネスで必要なスキルを学ぶ手段として十分ではないと考えられ、新しい学び方が様々な企業で採用されつつある。米国に駐在するコンサルタントが紹介する。

米国では最近L&D (Learning & Development)分野の成長が著しく、伝統的な従来の学び方から大きくシフトする動きが出ている。社員が個々のニーズに合わせ多様な研修メニューを自主的にオンデマンドで選びいつでもどこでも効率的・効果的かつ継続的に学ぶというアプローチへ変わりつつあるのだ。

これら学びの変化が起こっている要因には、この新しいアプローチをミレニアル世代が望んでおり、デジタル変革を進める活動との高い親和性がある。さらにこのアプローチを可能とするラーニングテクノロジーの進化もこの変化へ大きく寄与している。

 

ミレニアル世代のニーズ

米国ではミレニアル世代(1983年から2000年の間に生まれた世代)が既に労働人口の半数以上を占めている。この世代は「学習・成長機会を提供してくれること」が働く場を選ぶ際に重要であるとしており、品質の高い学びの機会を提供できることがこの世代に対する雇用者としての企業ブランドに大きく影響する。

ミレニアル世代の多くはデジタルリテラシーが高く、スマートフォンなどを使っていつでもどこでも情報へアクセスする。ビジネスのために得たい知識をスマートフォンで学ぶことに何の違和感を感じることもない。

米国労働統計局によると労働者の在職期間の中間値は4.2年(2016年1月時点)と労働者の流動性の高さを示している。また、技術革新のスピードが早い今日では5年経てば今まで有効であったスキル・経験が陳腐化してしまうと言われている。このような環境下、人々は業務に必要な知識・スキルを迅速に学ばなければならない。しかし、日常業務をこなすのに忙しく、仕事を離れて教室でまとまった学ぶ時間を確保するのは容易ではない。

Sources: The 100-Year Life: Living and Working in an Age of Longevity; A New Culture of Learning: Cultivating the Imagination for a World of Constant Change

 

デジタル変革に求められる能力・スキル

従来の学び方はデジタル時代に必要な人材育成にも適さなくなってきている。デジタル時代に突入した今、テクノロジーの変化、ビジネスモデルのイノベーションが加速し破壊的変化がハイテク産業に限らず、従来から存在するビジネスのいたるところで起こっている。

加速化した市場の変化の中では、業界を問わず既存企業もその存在を脅かされ、Google、Amazon、Facebookといったインターネット企業が引き起こしている変化と無関係ではいられなくなってきている。

業界は分解され、新しいバリューの組み合わせ・枠組みの中で勝負することを強いられる。防衛的な戦略の実行にしろ、果敢にデジタル技術を活用して収益機会をとらえる新しいビジネスモデルを取り入れるにしろ、競争優位性を保つためには従来からある組織能力の見直しをせざるを得ない。

立てたプランをじっくり進めていくという旧来のやり方は役に立たなくなってきており、アジリティ(俊敏性)を高め、スピードと柔軟性をもって市場における変化へ対応できる能力を備えなければならない。必要な組織能力を備え、それを支える社員能力と学習のアプローチを考え直すべき大きな転換点を迎えているのである。

デジタル時代に対応するためには例えば以下のようなスキルを獲得しなければならない。 

・関連性のあるデータ、洞察を得ながら、大きな変化を読み取る察知力
・データ解析をもとに適切に人を引き込みつつ、常に正しく決定する意思決定力
・古いやり方を捨て、正しいアプローチを迅速に取り入れ、すばやく進める実行力
・自分の部署、組織を超えた機能、組織横断型のコラボレーション力 

これらのスキルは、従来からの方法でじっくりと教室で学ぶよりも、俊敏にチームで調査・分析しながら学ぶ方が有効性が高い。

 

ラーニングテクノロジーの進化

イネーブラーとしてのラーニングテクノロジーが飛躍的に発達していることも学び方の変化に影響している。

キュレーション(収集・選択し、推薦・提供)されたコンテンツ、ビデオ、MOOCs (Massive Open Online Courses)、ライブラリーをプラットフォーム上に統合し、オンデマンドで学習できる環境を提供できるツールが多くのベンダーにより提供されてきている。

学習コンテンツのコモディティ化も進んでおり、新しいスキル習得のための高品質な学習コンテンツが無料か低コストでアクセスできるようになってきた。企業のラーニング組織は時間とコストをかけてコンテンツを自主制作するのではなく、豊富に存在するコンテンツの中から社員の役に立つものを迅速にキュレーションする能力を問われ始めている。

AIにより学習コンテンツのキュレーションや、(書籍や音楽配信サイトが提供するような)リコメンデーション機能を有するツールも開発されている。従来は管理ツールにとどまっていたLMS (=Learning Management System)も一部のものはこれら機能を新たに有し始めている。

 

ラーニング組織の変化

企業のラーニング組織自体も新しい学びのアプローチについて今までとは異なる考え方をすることが求められきており、その役割もトレーニングコースの企画・運営といった活動内容から変化してきている。

デロイトが企業学習に関して調査したサーベイによると、「従来からの教室でのトレーニング、E-ラーニング」が、必要な知識やスキルを学ぶのに最も好ましくない方法であるとの結果が出た。一方でコラボレーティブな学び方やチームメンバーとの知識共有や調査・分析の協働などがより有効であるとする回答が多かった。

有効な学び方に関する上記のような認識の変化を反映し、テクノロジーを活用しながらシステム、プロセス、プラットフォーム、ネットワークなどのインフラベースの整備・提供へ役割の主軸を転換する動きが出ている。

企業内大学もトレーニングセンター的な役割から、リーダーシップ開発、コラボレーション促進、クロスファンクショナルなチームがイノベーティブなアイデアを生み出す場としての役割に軸足を移しつつある。

企業内大学やラーニングコースのカタログ(それがバーチャル、オンラインであっても)を作って満足している時代は終わりつつある。社員に学ぶ自由を与え、彼らの好奇心をアクションにつなぎ、学びの速度を高め、毎日貢献できるようにするといった、よりパフォーマンスにフォーカスしたラーニング組織へ変わっていくのがトレンドとなっている。

多くの企業は自社の学習の仕組みが時代遅れになってしまうかもしれない分岐点に立っており、ラーニング組織は大きな変革を求められている。デジタル時代の競争に勝っていく能力を備えるために、この変革を果敢に進めていく企業が今後さらに増えることは間違いないであろう。

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