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2017年のグローバル人事を振り返る ~2018年に向けた示唆・ヒント~

Global HR Journey~日本企業のグローバル人事を考える 第六回

「日本企業のグローバル人事を考える」と題したGlobal HR Journey。第六回目となる今回は、2017年のグローバル人事のトレンドについて振り返り、グローバル経営の進化に伴って新たな局面にさしかかるグローバル人事の最前線とこれからの潮流を読み解く。

機能軸強化の趨勢

嶋田 まず、我々のコンサルティングサービスや世の中の潮流をみて、2017年のグローバル人事のトレンドについて振り返りたいと思います。

古澤 グローバル人事の前に、その根本たるグローバル経営のトレンドについて振り返る必要があります。従来よりグローバル経営の要諦はマトリクス組織の経営だと言われてきましたが、2017年は特にこれが進化した企業が多く見られたように感じられます。特に、「事業」ではなく、経営企画や人事のような「機能」を軸としてグローバル経営を強化しようという動きが一つのトレンドであったように見ています。

キャメル そうですね。扱う製品がグローバルプロダクトになる業界や企業ほど、その傾向は顕著です。例えば、製薬・医療業界では機能軸強化に動いている企業が多いように感じます。ただ、こと日本企業においては、全般として機能軸よりも事業軸を重視した、事業先行の色合いの強いグローバル化を進めてきました。このような経営の歴史に加え、そもそも多彩なものを統制するというより、多彩なままで受け容れることが得意な日本の文化的な背景もあるとすると、機能軸による経営は日本企業にとっては不慣れな難しい課題とも言えそうです。

嶋田 事業部が独自に海外に進出し、自立した組織体としての運営を目指し、結果として全体の統制や秩序が無いまま海外子会社ばかりが乱立している状況は日本企業の典型的な光景です。ただ、こうした中でも、機能軸に振れてきた日本企業が増えてきたということですね。また、事業軸という基本路線は変えないまでも、機能軸でどのように事業の横串を通すかというテーマは、最近よく耳にするようになりました。

機能軸強化の背景

古澤 機能軸に振れてきた背景として、例えば、ITシステム等のグローバル経営に必要なプラットフォームを導入してきた企業が、いざそれを活用しようとした段階で、運用能力が問われるようになり、「やはり機能として強くないとだめだな」と実感した結果なのだと想像します。

キャメル また、例えば、戦略機能やデジタル推進機能など各事業で持っていると力が分散されていて効果・効率が確保できないことを避けるため、集約してレベルアップを図る例があります。事業構造が単一またはそれに近いところについては特に、セールスでさえも機能軸で(例えばグローバルアカウントのような形で)統合する傾向が出ているように思います。

嶋田 ではここでグローバル経営における機能軸の強化について、その背景・メリットなどを改めて整理したいと思います。まず、その狙いは、「機能と事業との健全な摩擦」でしょうか。機能軸の権限を強めたことによる健全な摩擦がグローバル事業の成長につながった例を耳にします。

古澤 複数の理由でメリットがありえます。一つ目は経営効率。経営資源の配分・管理をグローバルで実施する場合、機能軸で行った方が効率が良いでしょう。

二つ目はガバナンス。推進側である事業をけん制するのが機能の役割だとすると、機能がある程度は強くないとリスクが生じます。また、適切なけん制機能があるということは、裏を返せば、事業に安心して任せられるということであり、権限移譲しやすく、結果として経営のスピードにつながると言えます。

三つ目は人材育成。欧米のグローバル企業トップのキャリアパスを分析してみると、まず特定の機能分野でキャリアを積み、そこから領域を拡大していく傾向が強い。機能軸を重視した方がグローバルリーダーを育てやすいでしょう。

キャメル 自身の機能分野を特定すれば、早く一人前になれるし、そうなれば海外に出て行っても現地のスタッフと対等に渡り合うことができる()。ある機能分野で一人前になる、ということはグローバルでのパスポートを持つようなものとも言えるでしょう。

例えば研究開発の技術者のように、その分野での専門性が仕事をするために元々求められるような人たちはグローバル化が進んでいることが多いです。

嶋田 ちなみに、特定機能の専門家が少ないという点は、日系企業と海外の企業との大きな競争力の差が出ているテーマの一つですね。

機能軸へのシフトとグローバルリーダーの育成

嶋田 機能軸へのシフトとグローバルリーダーの育成についてもう少し掘り下げてみましょう。まずは特定機能の専門家とすることが、グローバルリーダーを育てる王道なのでしょうか。

キャメル すでに述べた通り、まずは専門性を育て、バックグラウンドとなるものを作る。その後、ジェネラリストの経験を持つべきではないかと考えます。その場合、タイミングや目利きが大切になります。

その企業の本流の事業領域でリーダーが育たないのは、事業環境をとらえる視点がその領域だけに留まって狭くなるからではないでしょうか。機能軸のバックグラウンドがあれば、その立場から様々な事業を理解しやすくなります。

古澤 グローバルリーダーといった時に、グローバルCEOだけを意識するケースが多いが、そうではなく、CFOやCHROの候補も育てるという発想が大切です。

嶋田 少し実務寄りの話ではありますが、機能軸組織下において、機能、事業やこれらを支援するHRBPならびにコーポレート人事との役割分担の整理は、リーダーの育成というテーマにおいてとても大切な点です。特にCEOはじめトップのポジションの候補となる人材は、特定の事業・機能といった枠を超えたレベルでの検討が欠かせません。

古澤 そうですね。機能の中で人材育成をするのは良いですが、成り行きで機能内にてアサインを続けていると単に「タコ壺化」が発生するだけなので、機能人材の育て方に対する会社としての思想を持つことは大変重要です。

キャメル 機能ごとに国際化が進んだ場合、本当に優秀な人材とそうでない人材の仕訳が加速化します。最初は英語ができなくて遠慮していた日本人が、外国人の力量がわかってきて「大したことないな」「だったら英語ができなくても自分の方が良いな」と徐々に自信を持ちはじめ、最終的にグローバルで活躍できるようになればしめたものです。

嶋田 少し違う角度ではありますが、人材確保という点でもグローバルで機能軸の組織が成り立っていることにより、高度な専門人材がグローバルで活躍する機会を提供しやすくなります。グローバルで自身の専門性を発揮し活躍できる場が得られること自体がモチベーションとなると考えた場合、機能軸の組織は、優秀な人材を確保しやすいと言えるのではないでしょうか。

機能軸への移行

古澤 機能軸への移行の第一歩は、機能の役割、オペレーションモデル、スペックなどを定義し直すことです。これは、その企業が目指す「ワールドクラス」を定義することを意味します。

次に「ワールドクラス」の水準を熟知した外部人材を迎えます。これは外国人や外資系勤務の経験がある機能の専門家などです。

これらの人材と、既存の人材が一緒に仕事をしてインタラクションが進む中、既存の人材も「ここまでやらないといけないんだ」という「ワールドクラス」の水準観が徐々にわかってきます。初めは既存の人材と外部の人材との間にハレーションも起きますが、それは織り込み済みで、受け容れようとする覚悟が大事です。この水準感にキャッチアップできた人はグローバルで活躍できる人材になるし、できない人は退出するかもしれない。一定の人材の入れ替えがここで発生することになります。

嶋田 このプロセスにおいて、報酬の水準を高めることは象徴的な意味で効果的です。これは「ワールドクラス」の外部人材だけでなく、既存の人材にも適用すべきです。「これからはワールドクラスの働きが求められる(=キャッチアップできない場合は退出することが求められる)」という自覚と空気を劇的に作ります。もちろん会社による効果的な打ち出し方が併せて必要であることは言うまでもありません。

また、機能軸組織はしばしばグローバルマトリクス組織であるわけですが、この組織に相応しい人事評価の仕組みを備えることも必要です。これは機能軸・事業軸の双方からの上意下達に効いてくる評価者の設定という面もありますし、管理効率性という観点からのグループでの仕組みの共通化という面もあります。

グローバル情勢~中国・インド

古澤 ここ最近はなんといっても中国企業の存在感が増しています。例えば、2017年末のアジア時価総額ランキングのトップ10に日本企業でランクインしたのはトヨタだけ。韓国からはサムスン、台湾からはTMSC。あとは全部中国企業です。*注 Bloombergを観ていてもアジア市況を語るのは中国人になっている。

キャメル そうですね。中国は国策として研究開発を支援しています。特許の発案数も米国を凌駕する勢いです。それに対して、日本企業の対中戦略はあまり変わっていない。いまだに中国法人内での公用語が日本語だったりします。

日本企業は、将来のグローバルリーダー候補を育てる場を中国にする等、中国におけるHR戦略の練り直しをすべきではないでしょうか。

嶋田 またインドも、中国とは少し違う角度で注目すべきです。インドは大国ですがご存じのとおり事業環境は中国とは異なり、例えば、世界の時価総額トップランキングに顔を出す企業はほとんどありません。これはGDPが日本の約半分、中国の1/5程度という経済規模にも拠るかと思います。他方、インドは数多くの欧米グローバル企業の経営者を輩出しています。これは、インド国内の所得が依然高くないことや、必ずしもビジネスがしやすくない状況にも起因すると思います。もしくは、インド国外で活躍の機会を見出したくなるような状況にあるとも言えるかもしれません。さらに、英語力が高いことや、インド自体が多民族国家であることにより、生来のグローバル経営の巧者と言えなくもありません。

日系企業で、インド出身の人材を経営の中枢に迎える例は一部の例外を除きほとんど出てきていません。これは非常に勿体ない状況だと思います。

古澤 そうですね。中国はグローバルリーダーを育てる舞台、インドはグローバルリーダーの供給源として、捉え直してもよいかもしれません。

[注] 日本経済新聞・ウェブ版、「アジア時価総額、中国企業が躍進 IT、金融が存在感 上位50社ランキング」(2018年1月10日)

古澤 哲也
古澤 哲也

執行役員 古澤 哲也
組織・人材コンサルティング歴15年以上。国内外の企業の様々な経営課題を組織・人事面から解決する業務に従事。特に、経営・事業戦略をグローバルに推進するためのグローバル人事戦略の立案、各種人事基盤の設計から組織風土改革までをトータルに支援する経験が豊富。
主な著書に、『MOTリーダー育成法』(中央経済社)、『変革を先取りする技術経営』(共著・企業研究会)等。

山本 成一(キャメル ヤマモト)
山本 成一(キャメル ヤマモト)

執行役員 山本 成一(キャメル ヤマモト)
組織・人材面で日本企業の国際化を支援するコンサルティングに従事。主な著書に、『プロフェッショナルリーダーシップ』(共著・東洋経済新報社)、『世界標準の仕事術』(日本実業出版社)、『グローバルリーダー開発シナリオ』(共著・日本経済新聞出版社)、『稼ぐ人、安い人、余る人』(幻冬舎文庫)、『グローバル人材マネジメント論』(東洋経済新報社)、など。その他、講演多数。

嶋田 聰
嶋田 聰

シニアマネジャー 嶋田 聰
グローバル人材マネジメント、グローバル共通人事制度、国際人事異動制度の設計・導入支援などに加え、クロスボーダーM&A・PMIや、学習・人材開発等、日系企業のグローバル化の人事領域における支援に数多く携わる。海外におけるプロジェクト経験は北米・南米・欧州・アジア・アフリカ含む約20ヵ国。多国籍チームのプロジェクト・マネジメント経験も豊富。

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