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パラダイムシフト時代を生き抜くためのデザイン思考【後編】

~起点はユーザーから人間性へ~
(Initiative vol.100 発行記念対談)

近年、経営者もしくは経営企画部門に「組織全体の文化を変え、経営戦略として変革を起こすための武器」として“デザイン×経営”を活用する動きが出てきている。Initiative vol.100発行記念として、biotope代表取締役社長であり、イノベーションプロデューサーの佐宗邦威氏と、デロイト トーマツ コンサルティング執行役員キャメル ヤマモトとの対談の後編をお伝えする。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative vol.101)

デザイン思考は誰にでもできるか?

キャメル ここで、素朴な質問ですが、デザイン思考って誰ができますか?小学生でもできますか?

佐宗 デザイン思考の構成要素を、レイヤーを分けて考えた方がいいかなと思います。「作って考える行動特性~プロトタイピングマインドセット」、「ビジュアルで考えて統合するビジュアル思考」、「ユーザー中心に多様なメンバーが共創していく創造的問題解決プロセス」「自分にとってのWhyを社会的意義に合わせて定義して自分なりに理想のビジョンを世界観として発信していく」という4つのレイヤーです。最初の作って考えるベースだと、子供からはすごく相性がいいでしょうね。創作キットとか、行動しながら考える脳ですし、小さいころからやればやるほどいいと思います。

一方、二番目のビジュアルシンキングになると、人によってビジュアルが得意・不得意というのも絶対あるので、一概に言えないと思いますが、ある程度情報処理の能力がないと難しいと思っています。要は、ある程度の情報を、抽象的に思考して整理するので、高校生くらいならいける気がします。

3つ目は共創による創造的問題解決のプロセスです。このプロセスを通じて、分野を横断して問題解決に当たるという協働型の働き方を学ぶフェーズで、これは、30代である程度専門性を持ったタイミングがベストです。最後が、個人のWhyを起点にしたビジョンデザインで、一人の人間としての審美眼や、過去の経験で積み上げたものを分解して再構築していき、世界観をデザインし問いかけていくフェーズです。これは、リベラルアーツ的な素養が必要ですし、様々な経験や分野を越えた知見も必要です。35歳以降くらいで、創造型のリーダーシップを担っていける素質のあるリーダーが、身に付けるべきだと思います。

僕の感覚だと、 20代前半はロジカルシンキングとかコミュニケーションといった人を動かしていく基礎力がものをいうので、これらを身に着ける時期ですね。

第三のレイヤーは30代前半~中盤くらいのマネージャー人材候補が、創造するスキルを持って、T型とかH型人材になっていく。もっと統合型になっていくのが第四レイヤーで、本格的なデザイン思考が必要となる。それは社会変革の志を持つものすべてと言えますが、年齢的にあえていうと35歳から40歳前後のリーダー候補に合うのではと思っています。

キャメル 統合型リーダーになっていく前の段階で、行動しながら考えたり、ビジュアル型で統合したりする要素技術が必要ということですか?

佐宗 あると思います。さっきキャメルさんがおっしゃられた美学の話とも近いですね。ハーモニーは距離感覚がないと感じられないから、空間認識に基づくビジュアルシンキングを持っている人の方が強い、逆にそれがないと拠り所となる経験に対する情報吸収効率が悪いはずです。経営者にアートが好きな人が多いのも、無意識にそのあたりを身に着けている人が結果的にアートを好きになるのだと思います。

キャメル 今の4つは、デザイン思考の対象をどこにおくかで、考え方がずいぶん変わってしまいそうですね。

佐宗 変わりますね。例えば共創型でニーズを引き出していくことで、よりお客さんとビジョンを共有して、営業をしやすくなるみたいな話は、さっきの話でいうと第三レイヤーの話で、コラボレーション型です。

ここは、ニーズが広がってきていますし、フレキシブルにサービスが提案できるので、そこはやればいいと思うんです。第四レイヤーは、完全に戦略レベルで、キャメルさんのWhyが鍵です。僕としてはそちらをメインとしてやっていきたいという気持ちが強いです。

 

デザイン思考の段階

時代は“Why”を必要としている

キャメル 近々予定しているセミナーの事前打ち合わせで、「Why、What、How」をテンプレートにして話すと言ったら、その具体例がふんだんにほしいと言われて、今、色々考えています。ただ例を出すと、せっかくWhy、Whatという変数表示のおかげで、なんでも入れられるように広げたのに、「例」にひっぱられて思考の枠が狭まるのは避けたいと思っています。他方で、例を出さないで、なんのこっちゃいと言われるのも避けたいものです。

佐宗 そこは、プロダクトライフサイクルで説明できるのではないかと思っています。いわゆる創業期はWhyなんですよね。発展期はストラテジーがWhatになる。飽和期はHow勝負ですよね。今は、AIをベースにしたインターネットのライフサイクルが始まったところだと思いますので、創業時代のスキルが必要になってきます。国際政治を見ても戦後の体制が崩れ始めて、破壊と創業期になっていますよね。

キャメル 時代が創業的なふりだしに戻っている感じですね。

佐宗 そう思います。戦略面でいっても、Whyの方が大事なので、今の創業期が一番“ガラガラポン”していますね。

キャメル 先ほどのWhy1とWhy2の順番じゃないですけど、情勢変化が加速している中で、情勢をちゃんと捉えることには限度があり、むしろ、自分が何をしたいか明確にすることが先決という筋がでてくるのもわかります。

佐宗 あともう一つ環境変化があるとしたら、おそらく「表現」です。人の心を動かす、人を動かす。キカイにはできない、この2つが結局最優先のニーズになってくる時代だと捉えると、なおさらWhyのところは重要です。

キャメル 人を動かすというというのはどういうイメージですか?人間のやる領域というのはAI等によって良くも悪くも変えざるを得ない中で、あえて「人間」を強調することにはいろんな意味合いがでてきますよね。今までもヒューマニズムみたいなのはありましたが、それは人間だけでやっているから成り立つ世界で、今後はより、AIでは絶対できない人間のオリジナリティの領域という意味でのヒューマニズムにその意味がかわっていくと予想していますがどうでしょう。

佐宗 「当たり前のようにできないことに価値がある」という方向で、マーケットダイナミズムの対象が変わり、便利になると不便の価値が高まります。AIは基本的には行動しなくなってもよくなる流れを作っていくので、逆に面倒くさい行動をするのが楽しい、あえて意思を持ってやることに価値が出てくるのではないかなという気がします。

キャメル それは、価値観のパラダイムシフトですね。これまでは、人によって価値観は違うけど、価値のあるものを作ることにすごく意味があって、途中の苦労はあまり関係なくアウトプットとして価値ある何かを出せるかという勝負でした。ところが、AIが入ってきたことで、結果の価値よりも、いろいろ苦労してやるプロセス自体が本当に生きているってことの証・価値になっていく、みたいなことでしょうか。

佐宗 そう思います。間違いなくそうなってきます。全員にとっての正しい尺度が崩壊していく時代になってしまうので、主観的な満足しか基本的には無くて、ゲーミフィケーションなどは、それをすごくやりやすくしている一つの手法だと思います。

キャメル あれは共通尺度ですよね。あれが個人ごとに作られるイメージ。他の人と比べるのではなくて、自分の上達・成長をはかる自分だけの尺度です。

佐宗 これから、「学び」自体がビジネスモデルになってきていて、個人化した学びが楽しくて、自分に納得させるための虚構、ストーリーなんですね。そこにはすごくお金を払う。それが今の20代の行動パターンですね。

キャメル 虚構なんですけど、実は虚構じゃないかもしれない。結果的にそれで仕事が見つかったりすれば、実利に結びつきますね。学びのところが重要で、その昔、オールポート(心理学者)はパーソナリティ論で、数十年前に、人々を比べるための共通のメジャーではなくて、個人ごとの特性を個人ごとに測るための特注メジャーの考えを出しています。僕を測る6~7段階の尺度と佐宗さん用の尺度は尺度自体が異なる、みたいに。

佐宗 そうですね。組み合わせてアップデートされていったりもしますし、皆変わっててOKみたいな、そんな世界が良い学びを作るのかもしれないですね。
 

新しい価値観に向かうベクトル

デザイン思考で内発的動機付けの文化を創る

キャメル 話は変わりますが、「組織と人材」に対して、デザイン思考をどう反映していくかという点では、そこも変わっていく余地が十分ありそうですね。

佐宗 クリエイティブエコノミーの領域が増えているので、生産設備が個人だとすると、個人主観の動機をドライブできるものが一番持続可能な生産手段となります。そのためにもWhyが重要になるという整理になります。KPIに対して思うのは、内発的動機がいかにドライブされるかという心理学の知見が役に立つと思います。評価というのは外からの視点であり、外的インセンティブです。

それでは実はモチベーションがドライブされないという矛盾があって、頻度高くフィードバックし、メンタリングも行い、現状課題の難しさと自分のスキル不足について会話をするというアクションが、結局はパフォーマンスを上げるという話はそれはすごく分かるなと思いました。コーチングといった分野かもしれないですが、長く自分がパフォーマンスを上げ続けられるためには内省するスペースとガイドとしてピンポイントなフィードバック、長期的な探求目的というのがセットです。アンダース・エリクソンというフロリダ大学の教授の理論で、これが僕はすごくいいなと思っています。

キャメル 当社でも、年に1回のパフォーマンスマネジマントはやめて、毎週ないし隔週フィードバックする「チェックイン」という仕組みを取り入れています。プロジェクトでも、クライアントと直接的かつ頻繁に、あれが良かったとか今度こういうのをやってみたらとかフィードバックを得る方向になっています。皆気付きつつあるんだと思います。

佐宗 あとは短期目標、内省の掘り下げとか、さらには20%ルールのように個人で探求できる環境を作ってあげるとか、そういうことなんじゃないかなと思います。忙しすぎて、自分で振り返る時間がないというのがおそらく一番課題なのだと思います。その余白を企業側で作るというのがまさに経営課題です。

キャメル 人事制度等の諸制度も、たぶんそういう動きを支援する方向に合わせて変えることになるんでしょうね。

佐宗 面白いことをやっているIT系のスタートアップは、逆にどんどんアナログになっています。スタンドアップミーティングとか、相互にフィードバックしあうとか、内的動機をドライブした形で最大化しようという積極的なエクセキューションを前面に出した企業文化を持っているスタートアップ型企業が増えてきていて、そのような組織モデルをすごくナチュラルにネイティブに適用するとそういう発想になってくるのかなと。

対話の質をどう上げるかとなると、文化創造ですよね。会社の文化になってくるし、やりたい、かっこいいとお互い思えるのが結構大事になってくる。組織とデザインという、一種の美学的なモードが必要なのだと思います。

キャメル デザイン思考は、まさに文化みたいなところに一番効きますね。

佐宗 PDCAに代わるプロセスという意味でデザイン思考が役に立つと思います。それは、さっきの話の、コラボレーティブに作っていくという第三レイヤーの話です。
 

人事制度の変化

Doing/ Not Doing/ Being

キャメル プロセスと行為の質を高めるということですね。チクセントミハイのフロー体験のように今このときの没頭体験もあれば、今週、今日どうするかみたいな計画的行為もあるし、遠くのWhyに向かうビジョン的な行為もある。そのようにさまざまな「時間」でみた行為の質を現代風に高めていくことが課題ですよね。

でも、そういう「行為」よりももう一歩手前の前提が、佐宗さんの本に出てくる「ハピネス」で、そこはこれからのデザイン思考に絶対入ると思っています。あとは、ハピネスのさらに手前の前提として、存在しているだけで安定していてOKという境地があり、そのうちに射程にはいるかもしれません。

佐宗 ちょうど先々週、曹洞宗の僧侶である藤田氏のインタビュー*で、「doingの世界からbeingに行くための手段」や「doingからbeingにいきなり行くわけではない。まずundoして、 Not doingする。あえてやらないところから自然にやらないところへ」という話を聞いて非常に共感しました。

キャメル なるほど、Not doingの方が自然なんですね。

佐宗 自然に「やらない」。まさにbeingで今自分がいるのは世の中のご縁に生かされていて、その状態だけでいいというのが禅の最終的な目標で、マインドフルネスにコミュニケーションを良くするとか言っている段階で邪道だよと。

キャメル まだdoingの手段にとどまっていますからね。

佐宗 beingのためにdoingしたら意味がないみたいなことを彼が言っていて、すごく面白いと思ったんですけども、その「しない」ということでどうやっていくのかという問いがすごく深くて僕も答えが無くて。

キャメル デザイン思考でいうと、デザインしない一方で、デザイン思考のデザインの射程を広げるところまで行き、そこで1回止めるというか。

佐宗 そこが面白いポイントだと思っています。今って社会自体がオープンに繋がった複雑系システムになっていて、変化が増幅されやすい環境になっていると思います。これからの人類を考えた時に宇宙という次のフロンティアを探すグループと、もう1個はサステナビリティ派というか、今のままで持続可能な世界を作っていこうというグループがあると思います。

基本的には前者のマニフェスト・デスティニー派のほうが世界における発言力が強いのでそれに合わないと生きていけないみたいになっているんですが、実は変化を止められないだけで、そんなに変化することを誰も求めていないのではないのかと僕は思っているんです。

キャメル 変化の世界では、本当にクリエイティブな人はいいけど、そこから落っこちてしまう人がかなり出てくる。

佐宗 弊社のパートナーに歴史学者の人がいるので、いろいろ議論しているのですが、マルクス主義が生まれた1920年代当時も、機械が人間の仕事を失わせるという社会不安がありましたが、今の話もおそらく人間中心で考えると逆にスピードを上げ続けるということ自体が目指す姿じゃないということもあり得ます。

その中で、色々な人がWhyを考えた結果、マルクス主義に変わる新たな格差是正の思想モデルができていく、そんな前夜にいるのではないかと思いますね。答えがない時代なので、逆にそういう思想を問いかけていくという人をビジネスの場で増やしていきたいと思っています。

キャメル エコノミクスでいえばコストパフォーマンスの問題に収束します。コストパフォーマンスを求め続けると、かなりの人間のコスパは対AI劣位となり、置き換えられるのは不可避でしょう。それでも人間の側がハッピーだったり存在として安定しているためには、価値観がかわって、コスパ以外で価値判断できるようになることが必要です。ただ、社会的にそういう価値転換がどのようなスピードで可能なのかはちょっと分かりませんけど。

佐宗 新しい思想をどこが発明するかというのが、かなり大事だと思っていて、国際情勢とクリエイティブクラスがどこに移動するか。シリコンバレーから今ベルリンに移ったりしていますけれども、その2つを見ながら動くのが必要かなと思っています。

キャメル クリエイティブクラスでいうと、その人自身が移るから、世界のいくつかの場所がなっていくのだろうと思います。日本も入れれば良いですね。

佐宗 ロボティクスとかだったらチャンスがあると思います。AIは今の流れだとシンガポールとかでできそうな気がしますし。アーティストはベルリンが招致しています。寛容なドイツ・中国・タイ、不寛容なアメリカみたいな光景が政治的にも兆しとして見えたりするので。どうひっくり返るか分からないので、モニタリングするしかないと思うんですけど。

 

対談者プロフィール

佐宗 邦威氏

株式会社biotope 代表取締役社長

さそう・くにたけ◎ イノベーションファーム biotope 代表取締役社長。イノベーションプロデューサー。イリノイ工科大学Institute of design修士課程修了。

P&Gマーケティング部入社。ヒット商品ファブリーズ、柔軟剤のレノアを担当後、P&Gとジレットの企業合併のさなか男性用髭剃りブランドジレットのブランドマネージャーを務め、世界初5枚刃のFusionの発売を手がける。2008年10月ソニーに入社。クリエイティブセンターにて商品開発プロセス変革プロジェクトやグローバルカスタマーインサイト部門の立ち上げ、グローバルエスノグラフィープロジェクトの全社導入を行う。

2012年8月よりイリノイ工科大学Institute of design, master of design methodsコースに入学し2013年卒業。グローバルトレンドリサーチや、人間中心デザインの方法論を活用した新規事業のインキュベーションを担当している。

米デザインスクールの留学記ブログ「D school留学記~デザインとビジネスの交差点」著者。

◇主な著書
『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング) 2015

 

キャメル ヤマモト

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
執行役員

きゃめる・やまもと◎ デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員。東京大学法学部卒、青山大学大学院国際政経学科修士、オックスフォード大学セントアントニーカレッジ・シニアアソシエイトメンバー。

外務省(アラビスト)、外資系コンサルティング2社を経て2007年より現職。
現在は主に日本企業のグローバル化を組織・人材面で支援。
2010年からビジネスブレークスルー大学でリーダーシップ論を教えている。
2013年から(海外経験が少ない人のための)グローバル人材育成のためのFuture Global Habits(FGH)プログラム開発、提供中。

◇主な著書
『グローバルリーダー開発シナリオ』(日本経済新聞社) 2009
『世界標準の仕事術』(日本実業出版社) 2010
『世界水準の思考法』(日本実業出版社) 2011

 

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パラダイムシフト時代を生き抜くためのデザイン思考【全文】
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