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M&Aにおける企業文化の課題(後編)

海外の人事関連M&A事情 (5)

前回は、企業統合における文化の重要性と、統合を成功に導くためにとるべき企業文化への対応について解説しましたが、今回はその対応策として具体的な7つのアプローチをご紹介します。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.31)

企業を統合する際の文化への対応

企業統合において企業文化を統合しようとする際は、その目的を明確にしたうえで適切な対策を講じることが必要になります。企業文化はしばしば理解しにくいトピックだとして片付けられたり、経営者にも軽視されたりしがちです。しかし、次に述べるアプローチのように、文化への取り組みをビジネス上の意義や成果に直接的に関わるものとして取り扱うことにより、その重要性を関係者に認知させることが可能となります。

1.チェンジマネジメントの取り組みにおいて文化を最重要課題のひとつとして扱う
 

多くのケースにおいて、M&Aにおけるチェンジマネジメントの主要なタスクは従業員コミュニケーションであると誤解されています。もし従業員コミュニケーションが企業の統合プロセスにおける意思決定の内容の周知にとどまり、意思決定そのものを円滑にするものでないならば、本来チェンジマネジメントにおいて求められるレベルからほど遠いといえます。

もしチェンジマネジメントに携わるメンバーが、企業文化に関する取り組みを自らが責任を持つべき主要な課題として位置づけているのであれば、このチームは統合の成否を左右する極めて重要な役割を担っていることを意味します。またその際、チェンジマネジメントチームはこのような責務を果たすことができる人材の確保がとても重要となります。

2.企業文化に対応する「オーナー」を特定し、これらの人々を上級経営層の直属とする
 

対等の合併か否かを問わず、統合する企業双方の文化・考え方を代弁する人材を企業文化の「オーナー」として文化統合の取り組みに参画させることが大切です。これら「オーナー」は人事や組織開発の専門家であることが望ましいですが、社内の人材が自らの企業文化を正しく認識することは難しいため、外部の人材も併せて起用することが効果的といえます。

また、文化に対する取り組みの重要性を常に関係者に認識してもらうため、統合プロジェクトにおけるステアリングコミッティーのような定期的なミーティングの場において、文化に関するトピックを常にアジェンダとして盛り込むことが大切といえます。

 

3.誰の目にも明らかで測定可能な成果を生む取り組みにフォーカスする
 

統合プロジェクトのステアリングコミッティーでは、企業文化を検討するにあたって、その意義が曖昧であったり不明確なままであったりすることは到底認められないでしょう。「オーナー」たちには、文化をビジネス上の意義や成果と関連付けて考えるとともに、机上の空論ではない事実を根拠として検討することが求められます。

これは例えば単に「従業員のチームワークの促進を奨励する」ではなく、「統合後の新会社において営業チームのメンバー間のコラボレーションを促進すべく、調査・分析に基づく適切な対応策を実施するとともに、効果測定を可能にする」といったレベルを目指すことを意味します。統合された営業チームのメンバーがお互いの会社の商品を積極的に販売したり、両者の間に存在する壁を取り除いたりすることが求められている場合、後者のようなアプローチは、単にチームワークの重要性を呼びかけるというだけより、遥かに意味のある取り組みといえます。

4.双方の企業の企業文化について悪い点だけでなく良い点についても考慮する
 

ふたつの企業が統合するとき、あたかもベスト版のCDを作成するように双方の企業文化の良い部分を選んで新しい会社の文化とする方法がしばしば行われます。しかしながら、文化の統合はベスト版のCDを作成するような単純なものではありません。企業の強さの源泉となりうる文化的な側面は必ずしも容易に移転できるわけではありません。

例えば、歴史が長く成熟度の高い企業は、製品のポートフォリオを拡充させるべく、比較的新しい企業を買収することがあります。この場合、成熟度の高い企業では明確に定義された管理手法や手続きに則った事業の運営が当然のように行われている一方、様々なことが曖昧なままになりがちな新興の企業では、このような事業運営が必ずしも容易に受け容れられない可能性があります。こうした状況では、片方の企業の良いところをもう一方へ単純に移転するようなやり方はうまくいかないと考えられます。

このような場合における対応方法のひとつとして、各社にとって強みの源泉となりうる要素を企業統合後も必要に応じて維持し続けるといった方法が考えられます。例えば、ある企業同士の合併においては、片方の強みである事業部門がほぼそのまま維持される一方、別の部門は統合の効果を最大化すべくある片方のやり方に統一されました。企業文化を維持するか否かを機能ごとに検討したのです。

統合する企業間で文化の相違がある場合、それらが本当に統合可能であるかを検討する必要があります。もし統合によりマイナス効果の発生が可能性として想定される場合、事業への影響を十分勘案して検討することが重要です。尚、このような検討においては、ビジネス上の意義や成果に直接的に関わる事項にフォーカスすることが大切です。さらに、統合に際して従業員に理解してもらいたい文化や、新しい文化が事業や個人の成果に対して与えうるインパクトについて明確にしておくことが重要といえます。

5.企業文化の違いに妨げられない意思決定プロセスを確立する
 

意思決定のスタイルは多くの場合、企業固有の文化に深く根ざしています。迅速な意思決定は企業の統合を推進する上で大変重要な要素のひとつである一方、意思決定がままならない場合、顧客や従業員によるロイヤルティが損なわれてしまう可能性があります。また、統合される企業の意思決定スタイルの相違が迅速な意思決定を妨げる可能性がある一方で、統合を推進するプロセスにおいては普段と異なる意思決定スタイルが求められるということが意思決定をより難しくしているといえます。

この問題は極めて重要であり、企業文化に対応するチームは、以下のようなアプローチを通じて、統合プロジェクトの推進を担うリーダーを支援する必要があります。

◦統合される各領域における意思決定責任者を特定する

◦統合される企業双方の意思決定スタイル(意思決定の前提事項や構造、プロセス)を理解し、意思決定者が適切な判断を下せるようサポートする

◦意思決定者に対して意思決定の締め切り等を含む期待値を伝える(迅速な意思決定を求めることが、意思決定スタイルの変革を促進する一助となることが考えられる。また、このとき、ある程度不確実な状況下でも迅速に判断を下すよう積極的に促すことが有効と考えられる。)
 

上記のような取り組みは意思決定という重要なテーマにおいて変革を起こすベースになりうると考えられます。

 

6.従業員の感情に配慮した従業員向けのブランドを確立する
 

従業員のリテンションが統合における重要なテーマの一つである場合、顧客によるロイヤルティの維持・向上と同様に、従業員によるロイヤルティを保つための対策を講じる必要があります。

企業買収が行われる際は、キャリア発展の可能性や報酬、アイデンティティ等、様々な要素により形作られる買収側企業のブランドイメージが、買収される側の従業員にとって魅力的なものとして映る必要があります。対等の合併が行われる場合は、双方の企業の従業員にとって全く馴染めないようなブランドは避け、共有できるものを新たに創ることが大切です。その際、片方の会社の要素ばかりを汲み取るべきではなく、また双方の企業の従業員が持つ期待は同一でないということを肝に銘じておく必要があります。

7.新しく確立されるべき文化について周知するとともに、統合において重要なインターフェースとなる組織の双方の従業員のチームワークによる成功体験を促す
 

合併後の市場戦略や管理部門の統合戦略などが検討される一方で、研究開発から製造部門への連携や製造部門からフィールドサポート部門への連携、営業部門の統合など、事業の運営上クリティカルな統合領域においては、部門から部門への指示や情報の受け渡し方・情報共有のあり方など、仕事の流れが大変重要となります。統合のインターフェースとなる部分では事業による価値の創出がスムーズに行われるよう設計されるとともに、継続的に改善される必要があります。

もし双方の会社の従業員が共通の目標の達成に向けて共に行動し始めれば、相互の信頼感や尊重する気持ちが醸成されるはずです。また、このような行動が組織に浸透していくことにより、企業文化をベースとする人々の考え方も徐々に融合されていくと考えられます。これは従業員の行動を変えるために文化を変えるのではなく、まず行動を変え、行動が変わることに伴って文化も変わっていく、という考え方であり、企業文化を変革させる典型的なやり方とは逆のアプローチであるといえます。

このアプローチの根底には、「新しい行動の実践が会社や従業員の目標達成や成果創出につながる場合、企業の文化はこのような行動を促すような文化へと変容していく」、という考え方があります。尚、逆に必ずしも成果につながらないような行動を従業員に強いる場合、従業員は旧来のやり方に一層固執してしまうことでしょう。

おわりに

企業の統合にあたっては、統合後の企業による事業価値の創造に大きな影響を与える企業文化の重要性が十分認識される必要があります。企業文化への対策を講じるにあたって、企業文化が暗黙的である一方で従業員に対して大きな影響力を持つこと、単純に新しい文化・価値観を押し付けるだけでは従業員に受け容れられる可能性は低いこと、また企業文化はビジネス上の成果にインパクトを与える行動に深く関わる、といったことを理解することが大切です。

また、企業文化を目に見えない曖昧なものではなく、ビジネス上の意義や成果と密接に関連付けて捉えることが、統合後の新しい企業文化の確立にあたって経営者を巻き込む際に重要になります。企業文化は、ビジネス上の成果や意義と関連付けることで、統合の目的を達成するための効果的なツールになりうるのです。

今回で本シリーズは一旦終了させていただきますが、今後も引き続き海外のM&Aに関する記事を発信していく予定ですのでご期待ください。

ニュースレター情報

Initiative Vol.31

著者: フレデリック・D・ミラー Frederick D. Miller
(ディレクター/デロイト コンサルティングUS・ニューヨーク事務所)他

翻訳:デロイト トーマツ コンサルティング ヒューマン キャピタルグループ M&Aチーム

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