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転換期を迎えた人材グローバル化戦略

~グローバル化は次のステージへ

人事の世界に「流行語大賞」があれば、2010年の大賞は間違いなく「グローバル採用」である。「グローバル採用」は単なる一時の流行ではなく、これから我々が直面していく困難な変革過程の重大な第一歩となる大きな転換点と捉えた方が、より現実的かもしれない。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.37)

1. はじめに~グローバル化は次のステージへ

人事の世界に「流行語大賞」があれば、2010年の大賞は間違いなく「グローバル採用」である。猛暑となった今年の夏に様々な業界のトップ・プレイヤーが大規模な外国人採用を打ち出したことは、皆さんのご記憶にも新しいことと思う。

外国人採用そのものは目新しくはなく、技術系を中心として部分的な採用は行われていたが、今回のような大掛かりな話ではなかった。あえて似たものを考えれば、バイリンガルの日本人(海外留学生)の採用競争であって、こちらの方は1990年前後、2000年前後に続く、第3次のブームという見方もできる。

決定的な違いは、「日本人」という属性がもはや意味をなさなくなりつつあるという点である。この違いこそが、企業の将来像に対する認識の大きな変化(「グローバルな日本企業」から「日本オリジンのグローバル企業」)を象徴している。その観点では「グローバル採用」は単なる一時の流行ではなく、これから我々が直面していく困難な変革過程の重大な第一歩となる大きな転換点と捉えた方が、より現実的かもしれない。

2. グローバル化のこれからの課題 ~改革は本丸へ

今後のグローバル化の課題の第一はグローバル人材の量の確保である。国内ビジネスが主、海外が従であった時代には、オペレーションの海外進出は、会社によって異なるが、販売、生産や研究など一部の機能に限定されていた。一方、昨今では市場の新興国シフトに合わせて、マーケティングや開発、間接機能を含むバリューチェーン全体が海外に移転し始めており、また内需型産業であるサービス業の海外展開も本格化している。

一方、国内の収益を維持しなければ新興市場に投資すらできないため、当面の間は国内の組織を維持しながら海外オペレーションを立ち上げて行かざるを得ず、こうなってくると、そもそもの頭数が決定的に足りなくなってくる。

第二の課題は質の確保である。海外に移転したバリューチェーン全体をドライブし成果を上げていくためには、縦串の機能的専門能力に加えて、リーダーシップやコーディネート力といった横串の力、つまりマネジメント能力が重要である。最近、複数国のオペレーションを束ねる地域統括会社を設立する企業も増えているが、そこで求められるのはまさにマネジメント能力であり、それなくしては統括機能そのものが成立しない。

ここで問題となるのが、マネジメント能力(またはポテンシャル)を持った人材の確保の方法である。もちろん、新興国にもそういった人材はたくさんいる。特に富裕層の子女にはMBAなどの留学経験を持つマルチリンガルのポテンシャル人材や、社会のエリートとして広い人脈と高いビジネス・マインドを有する人材も多い。

しかし現地の財閥系や外資グローバル企業と伍して、そのような人材の獲得に成功することは容易なことではない。また、日本からそのような人材を送り込もうにも、語学のハンデに加えて、国内の成熟した組織で狭い経験しか積んでいない社員の中から適任者を探すことは至難の技であろう。

第三の、そして最も解決困難な課題は日本人のマインドセットの変革である。2~3年前から「ガラパゴス化」という言葉がよく聞かれる。閉鎖的な国内市場で独自の進化を遂げた結果として、技術的には最先端の製品・サービスを実現しながら海外の市場の支持を得られない現象を表す言葉だが、人材もまた然りである。

これまでの日本独特の企業文化や制度に過剰に適応した結果として、グローバル化という急激な環境変化に対応する力が低下している現実がある。

「人事のガラパゴス島」は、様々な慣習や制度が精緻に組み合わされた複雑で一貫した生態系である。企業内教育を前提とした新卒一括採用から始まり、育成を意識した漸進的かつ属人的な職務と権限の付与、超長期の動機づけをねらった能力主義による選抜など、日本企業のお家芸ともいえる仕組みは、相互に深くつながっており、全体の整合を崩すことなく一部を変えることは難しい。

また、これらの仕組みはグローバルな普遍性を有しているとは今のところは言い難く、さらに困ったことに、この生態系を長い年月をかけて構築し運用してきた多くの日系企業は、強い自己主張やスピード感のある判断、多様な考え方に接するストレスへの耐性といったグローバル人材に必須のマインドセットの涵養には成功していない。

結果から見ると、これまでの日本企業の人材マネジメントそのものが「人材ガラパゴス化」の根っことなってしまっている。

以上のように、グローバル人材の量、質の不足から始まる問題意識は、結局のところ日本企業の本丸の仕組みそのものの課題に行き着くというのが筆者の基本的な仮説である。この仮説が正しければ、問題の解決は困難で時間のかかる道のりとなる。

なぜなら、現在の日本企業の人材マネジメントの仕組みは、それぞれに背景と目的があって、決して悪いこと、間違ったことをしてきた(している)わけではないからである。不実なこと、非合理なことであれば解決は容易であるが、そうでないので話はややこしい。

とはいえ、これらの仕組みが、本来はグローバル人材の供給源であるはず(そうあってほしいという願望を込めて)の日本本社の人材輩出能力を損ねているとすれば、どんなに大変でもチャレンジしていかなければならないし、それが次世代への責任であろう。

3. 人材グローバル化戦略のキーワード

これまでの人材グローバル化は「現地化」を軸に進められてきた。現地において「WAY(ウェイ)」を教育し、その流儀を理解し実践する現地人を登用し、経営を任せるというアプローチである。自動車や電機など海外展開のフロント・ランナー達が、長年にわたって資本と労力を投下して成功を収めた方法論である。

「現地化」はグローバル化戦略の基本であり、今後も中心テーマの一つであることは間違いない。一方、日本企業の本丸の仕組みの変革については、本格的な取り組みはまだ実験段階である。

ただ、本丸の改革は様々な批判に耐える骨太の思想と、組織の現状とビジネスの特徴に即した現実的な解が必要であり、その意味では定番と言えるアプローチは今のところない。また、企業ごとにグローバル化のステージに大きくバラつきがあるため、具体論は一概には論じられない。本稿では重要と思われるポイントをいくつか検討するにとどめ、個々の企業に則した戦略の立案ステップ等の具体論は次の機会に譲る。

 

まず、「多様性の確保(ダイバーシティ)」は一つのキーである。これまでの日本においては「ダイバーシティ」は主に女性、障がい者等の社会参画や、「イクメン」に代表されるライフ/ワーク・バランスという側面から取り組まれてきていることが多いように感じる。

だが、ダイバーシティのねらいは本来そこにはとどまらない。筆者の知る限り、米国のアカデミックでは少なくとも十数年前からダイバーシティが生み出すビジネスのベネフィットが論じられていた。移民国家という彼の国の特殊性は、いわばグローバルの縮図であり、当地におけるダイバーシティは単なる社会的公正さの実現という文脈では語りきれない。

マーケティング、生産、労務といった企業活動の様々な側面においてダイバーシティがコストや義務でなく、利益と成長の源泉であるという思想が確立され、実感されたことが、ダイバーシティの現実世界における推進力となっていたと推測している。

日本企業がガラパゴス化の罠から脱出するためにも、多様性は重要なキーワードとなろう。米国企業がマイノリティの採用や昇進を半ば強制的に推進したように、ある程度は力づくでも組織の多様性を高めていく必要がある。その意味では「グローバル採用」は間違いなく、即効性とインパクトのある手段の一つと思える。

その一方で、受け入れた多様な人材パワーをいたずらに浪費することなく、各々が持てる力を存分に発揮できる環境をつくっていくことも必要だ。すでに述べた日本企業固有の人材マネジメントは「日本人男性の超長期雇用」が前提になっており、多様化された職場においては「公正で納得性のある仕組み」であるとは必ずしも言えない。

キャリア目標や会社や仕事への関わり方の異なる人材が共存できる仕組みは、おそらく、今と比べてより短い時間軸における公正性・納得性が求められるであろうし、人材育成の考え方や方法も今とは大きく異なるものとなろう。

それらの変化の一つひとつが、これからの日本企業の新しいOperating System(弊社ヒューマン キャピタルグループ パートナー キャメル・ヤマモトの表現を借りた)を形成していくと考えられる。

同時にコミュニケーションのあり方も大きく変わっていくことになろう。英語の社内公用語化もショッキングだが、一方、例えば会議の進め方や上司と部下のコミュニケーションのあり方も、よりロジカルで効率的(つまり「あうん」でない)な姿に変わることはより大きな変化であろう。この段階では、組織の全てのメンバーがグローバル化の渦中に入り、まさに「他人ごとから自分ごと」になっていくのである。

4. まとめにかえて

グローバル化に対する抵抗感の底には、日本企業が積み上げてきたアイデンティティが否定されているという感情的な反発があると感じる。それは、単なる仕組みの変更ではなく、そこで信じていた「正しさ」や「価値観」そのものを書き換える苦しみである。人と組織を変えるための様々な取り組みは、このような個人の感情とのせめぎ合いであり、全ての人が諸手を挙げて賛成してくれるような類のものではない。

なぜグローバル化しなければならないのか、グローバル化した会社とはどんなものか、その会社でそれぞれの社員は何をしているのかを、一人ひとりに向かって語りかけて行かなければならない。グローバル化の努力の中心には、この労苦に信念を以って立ち向かうリーダーとチームが必要である。

これまでの仕組みを整え運用してきた人事部が、自らを変えることによって、その重責を担っていくことが今こそ期待されており、それはまた、もう一つの人材グローバル化戦略の要である。

ニュースレター情報

Initiative Vol.37

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー 土田 昭夫

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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