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外資系企業から学ぶ人事ビジネスパートナー実現の難しさ

劇的に変化するビジネスデマンドに対応できるタレントを世界中で確保していくには、より一層人事がビジネスと連携し、タレント戦略をビジネス戦略と一致させていく必要がある。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.68)

はじめに

昨年Oxford Economicsが発行したGlobal Talent 2021のレポートでは、今後劇的に変化していくグローバルビジネスに伴い、世界中で必要とするタレントのニーズも変わっていくと述べている。例えば、GEのChairman及びCEOである、Jeff Immelt氏は、この5~10年で多くの企業が現在の「グローカライゼーション」から「リバースイノベーション」にビジネスを移行していくと予言している。「グローカライゼーション」とは、本国の市場で開発されたサービスや製品を海外市場の顧客に合わせて加工して展開しているビジネスオペレーションであるが、一方で「リバースイノベーション」とは新興市場から生み出されたイノベーションを本国の先進国に持ち帰るオペレーションを意味する。

このようなビジネスデマンドに対応できるタレントを世界中で確保していくには、より一層人事がビジネスと連携し、タレント戦略をビジネス戦略と一致させていく必要がある。ビジネス戦略にタレント戦略を一致させるとは、言い換えると、事業上の戦略を読み解いて、それが必要とする組織・人事のケイパビリティを定義し、かかる組織・人事のケイパビリティを調達・確保することである。その際特に重要なのは、事業戦略は必ず変革の要素を含むので、そういう変革にぴったり対応する変革的な打ち手を組織・人材の面でも講じることである。

こうした新しい人事的施策を確実に実行していくには、従来型の人事部がもっている機能や役割では不十分である。そこで、今、最先端を走るグローバル企業においては、人事部の中の正式な組織・役割として、人事ビジネスパートナー(HRBP)を設けて、その役割に優秀な人材をつけて、各事業部門に配置する。そして、たとえば、海外の新規ビジネス戦略を策定する場で、その国・リージョンの従業員データを基に、様々な人材面でのアドバイザリーを実施できる体制を整えている。このような組織上の工夫によってたとえば次のようなことが可能になる。

• 海外に新規ビジネスを立ち上げる際に必要な人員数を把握し、現状の人員数とのギャップをすぐに特定できる
• 新規ビジネス立ち上げのプロジェクトマネジャーを任せられる候補者リスト(ローカル、リージョン、本社の人材含)を速やかに提示できる
• 新規ビジネス成功に必要なタレントギャップを評価し、ギャップを埋めるための人材獲得、グローバルモビリティー、又、育成についての戦略・計画の検討・実行ができる

このような高いケイパビリティーは、むしろ国内だけで実現しようとしても容易ではない。

ある外資系グローバル企業であっても、一年前まではグローバルヘッドカウントレポートを作成する為に、世界中の拠点に膨大な手間と時間を掛けさせ、結果としてはあまり信用性が高くないレポートが一ヵ月後に本社にあがってくるという状況であった。人事として、急速に拡大しているグローバルビジネスの成功を支援するには、迅速な人材データ分析・決断・実行が不可欠である一方で、多くの企業は現状の人事業務を運用するだけで精一杯であり、なかなか根本的な人事オペレーション改革を進められないスパイラルにはまっている。このスパイラルから脱出する為の重要なポイントとして下記3点を挙げたい。

1. 人事業務の適材適所の見直し
2. Business Process Reengineering(BPR)では解決できない非効率性の原因の追求
3. 統合されたタレントと基幹人事システム、そして、そのデータをグローバル管理する仕組みの立ち上げ 

人事業務の適材適所の見直し

このスパイラルから脱出する為の第一ステップとして、まずは現状の人事業務が適材適所に運用されているかを確認してほしい。外資系グローバル企業の人事改革プロジェクトをしていると、日本支社の人事はグローバルから見て本来人事部がすべきでない業務も担っているケースが多々ある。例えばその典型的な例としては労務管理である。未だに多くの日系企業は、人事部が出退勤データ入力を従業員にリマインドしたり、従業員は有給休暇申請を人事部に提出することを義務付けている。

しかし、従業員の労務管理においては、現場のマネジャー以上が実態を把握し、そのマネジャーが自分の部下の労働時間管理の責任を持ち、リマインド・承認等の業務を実施することが最も効果的であり効率的である。このプロセスに人事が入ることで、何の価値も発揮できないどころか、ワンステップ業務を増やしてしまっている。前稿で紹介があったマネジャーセルフサービス(MSS)の導入も、現場に仕事を増やすことになると反対する日本の人事部は少なくない。しかし、実際に導入した経験から感じたことは、現場のマネジャーは業務を増やすことに抵抗していたのではなく、新しいMSSシステムの使い方を学ぶことに戸惑いがあったということだ。現場のマネジャーは既に様々な人事業務(労務管理、採用、退職、異動)を行っている。

これまでは電話・メール・申請書等の媒体で行ってきた業務をMSSへ一元的にリプレイスするという位置づけで導入することで、多くのマネジャーが受け入れてくれる。そして結果として、人事部は著しい業務効率化が得られる。MSSはこれまで人事異動等に伴い人事部が手間と時間をかけて行ってきた業務(申請書作成、異動先・異動元部門長からの承認取得が、人事システムへの入力等)を「承認」と「完了」ボタンのクリックのみに減少してくれる。

是非、MSSそしてESS(Employee Self-Service)の導入をきっかけに、本来現場がやるべき人事業務を適材適所化することを検討してほしい。 

BPRでは解決できない非効率性の原因の追求

BPRを実施することで、一定の業務効率化が図れることは間違いないが、全ての業務の効率化は難しい。その理由としては、業務の複雑性やボリュームの根本的な原因は業務運用の非効率性ではなく、上流にある人事制度に存在する。特に欧米企業と比べると日系企業は手厚い福利厚生制度を整備している。ある企業では子供の小学校入学祝ギフトを贈る制度があり、その運用に手間をかけていた。

• 多くの社員からギフト選択の返事がない為、人事部がリマインドの連絡を度々送っていた
• 多くの社員が引越し後に住所変更届を提出しない為、ギフトが間違った住所に贈られ手戻りが発生していた
• 社員が離婚届けを提出しておらず、また子供とは殆ど会っていない状況だった為、ギフトを迷惑がられた 等

また、ある大手企業ではこのようなお祝い制度に対して、役職や勤務年数によってもらえるお祝い金が異なってくるという要素も追加されていた為、給与担当者は毎回人事規定を確認して、お祝い金を振り込むというステップを踏んでいた。このようなオペレーションは非常にルーチン化することが難しく、海外の安価なアウトソーシングをしようとする際もオペレーションミスの原因になり、最終的に本部に持ち帰ってきたというケースは耳にしたことがある。

従って、オペレーションコストを削減するには、上流にある制度や規定等も合わせて見直す必要があり、人事オペレーションの責任者は、その制度を継続するコスト・ベネフィットを明らかにし、トップ層への提言をしていくべきだ。海外アウトソーサーを使うほどオペレーションコストを削減できる方法はないが、それを実施する前に必ず業務をグローバルスタンダードレベルまでシンプル化することが成功の鍵である。 

タレントと人事基幹システムをグローバル管理する

統合されたタレントと人事基幹システム、そして、そのデータをグローバル管理する仕組みの立ち上げ

本稿のはじめに述べたグローバルかつ戦略的な人事サービスの提供を実現するには、グローバルで統一した人事データが必要不可欠である。しかし、これまでのグローバル人事基幹システム導入における教訓とは、グローバル人事基幹システムと各国で異なる給与、タレントシステムやGDW(Global Data Warehouse)へのインタフェース設計が充分でなかったことである。

結果として、マニュアル対応でダブル入力やデータフォーマット変換に時間が費やされて、業務非効率性の原因を感じてきた。また、グローバル共通のデータを維持するには、グローバル共通のデータ入力プロセスが必要であり、そのプロセスを実行してくれるグローバル共通の組織体(In-house又はアウトソースされたシェアードサービスセンター)が必要であることはご尤もかと思うが、案外プロジェクトの予算削減の中で、スコープアウトされてしまったケースも少なくはなかった。

最後に、これまでのオンプレミス人事システムはカスタマイズが柔軟にできるために現状の業務にシステムを合わせるやり方になりがちで、業務の効率性やコスト削減が期待したほど改善しないケースも散見された。

最近のクラウド系人事システムはカスタマイズに制限があり、また導入期間と工数もこれまでのオンプレミス人事システムより短いことで知られている為、現状の業務にシステムを合わせると言うより、これまでの業務を変えてシステムに乗っていくというイメージである。つまり、業務変革に伴うチェンジマネジメントはより必要になるが、その過程でBPRも実現可能となる。クラウド系人事システムの到来により、今後は根本的な人事オペレーション改革が期待できる。 

最後に

多くの外資系企業では既にHRBPという人物が存在し、担当事業部門に対して人事サービスを提供するという体制になっている。しかし、私が本稿で伝えたかったことは、結局、HRBPという役割を作っても、現状のオペレーション業務を縮小しない限り、HRBPもあふれたオペレーション業務をサポートせざるをえなくなり、結局、HRBPとして必要な能力開発やサービス提供の実現につながらなくなっているということだ。

この教訓を受けて、私がこの数ヶ月で携わった新しい外資系企業の人事改革プロジェクトは、クラウド系人事基幹システム(MSS/ESS含)と統合されたタレントシステム、及び、オペレーション業務のアウトソーシングを一度にまとめて行うという内容である。是非、日本企業の人事も、新しいクラウド系人事システム導入を視野に入れ、根本的なオペレーション業務改革を進め、現状のオペレーション業務を縮小した上で、戦略的な人事の実現について検討してほしい。 

ニュースレター情報

Initiative Vol.68

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー 石本 夏美

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。 

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