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経営計画を実現できる人員・人件費を投入できているか?

~要員・人件費管理と最適化のポイント~

本稿は、『要員・人件費の戦略的マネジメント』(労務行政、2013年12月21日)の出版にあたって書き下ろしたものです。本書では、「要員・人件費の“投入量”と“質”を“きちんと”マネジメントし、事業を強くし、企業を成長させること」を目指しています。本書に登場する6つの架空の会社のうち第2章に登場にするフタゴ電子を例に取り上げながら、要員・人件費マネジメントのポイントをご紹介します。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.70)

はじめに

適正人員数の算出、総額人件費管理、グローバルでの要員管理、労働分配率の適正化、労働生産性の向上、人件費比率の切り下げ、人件費削減、リストラ、適正人員計画策定、いろいろなキーワードで語られることが多いテーマではあるが、今回出版させていただいた『要員・人件費の戦略的マネジメント』では、「要員・人件費の“投入量”と“質”を“きちんと”マネジメントし、事業を強くし、企業を成長させること」を目指している。テーマそのものは、伝統的ではあるが、これをやり切れている日本企業は、むしろ減少してきているという危機感がある。

その構図はこうだ。
 

 1. 3年スパンの中期経営計画を策定し、利益率目標にコミット。

 2. 成長が思うように果たせず、人件費制約がより厳しくなる。

 3. 容易にリストラはできないので、採用を抑制する。

 4. 人員構成がゆがむ(平均年齢が40代半ばになるケースも)。
 

短期的な利益確保という観点では、これで良かったのかもしれない。しかし、もうこの対処を続けるわけにはいかない。では、この悪循環をどう回避するのか。くわしくは是非、書籍の中で詳細に確認いただきたいが、本書に登場する6つの架空の会社のうち第2章に登場にするフタゴ電子を例に取り上げながら、要員・人件費マネジメントのポイントをご紹介したい。

「フタゴ電子の人事部は何をしたか?」

フタゴ電子は、2020年までに売上高を倍増させることを目標として掲げていました。各事業部門も直近の業績が堅調であることから、かなり意欲的な業績目標を掲げていました。このようなケースでは、通常、人員要求も基本的には例年を上回る形で人事部に提出されることになります。実際、フタゴ電子の人事部には例年の2倍以上の人員要求が来ていました。一方で、足元の業績は仮に拡張基調にあったとしても、人事部としては、簡単に採用を拡大させるわけにはいきません。実際、フタゴ電子でも、ここ数年間は、人員要求を下回るように採用数を押さえ込んできたという事情があります。したがって、「ストレッチな中計→部門の意欲的な増員要求→採用数の大幅な拡大」という結論を簡単に導くわけにはいきません。

本書に登場するフタゴ電子の人事部人事企画リーダーの北川は、まず何よりも先に各部門にヒアリングを行って、「増員要求の信憑性をチェックする」ことを試みています。しかしこの試みは大失敗に終わっているばかりか、部門からはかなり強い口調で、人事部への不満をぶつけられる結果となってしまいました。

この反省から、北川は、“意欲的ではあるが、リスクにも配慮されている”採用人数を導くために、人的生産性指標に着目しながら分析を行うということにチャレンジしています。具体的には、複数の業績シナリオ、複数の増員シナリオ、複数の人件費シナリオを描き、それを組み合わせながら、採用人数を導き出していくという手法です。

このときに鍵となったのは、次のチャートです。

図表1:人的生産性と人的資源投入量の関係

このチャートは、縦軸に人的生産性(ここでは一人あたり売上高)、横軸に人的資源の投入量(ここでは人員数。なお、人件費を用いることもある)を置いています。すると、オレンジの売上高は、現状の人員数(4,456人)×一人あたり売上(5,391万円)で計算できます。このとき、現状の売上高約2,400億円を5,000億円にしようとすると、大きくふたつの方針を描くことができます。方針(1):人数は一人も増やさずに生産性の向上を目指す、方針(2):生産性は良化しないものとし、増員する、のふたつです。もちろん、どちらの方針も極端な方針であるため、その最適な組み合わせを、損益インパクト、生産性向上施策とそのインパクトを丁寧に検討・試算しながら、探っていくことになります。

さらに北川は、生産性向上余地を探るために、各部門の人的生産性分析も行っています。各部門が、過去から現在にわたって、生産性を向上させることができているのか、逆に人員投入に比して業績が伸び悩んでいる結果として生産性が下がっていないかを、指標数値を計算しながら明らかにしていくという方法です。

これらの定量的な分析結果を手土産に、北川は、各部門に再度ヒアリングを行いました。これにより、当初は感覚的な議論と文句に終始していたヒアリングを、建設的な議論をする場に変化させることに成功しています。

これが、フタゴ電子のケースの概要です。ここから学べるポイントは大きくふたつあります。

 1. 人件費制約が厳しいから単に採用を抑えるという単線的な思考を止め、様々なシナリオを多面的に検討し、最適な経営指標の組み合わせを導くこと

 2. 感覚的な議論の応酬を止め、定量的な根拠に基づく議論へと転換させること

 

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本書では、このように6社の企業が、要員・人件費マネジメントに苦労する様子を描きながら、最適化に向けたマネジメントのポイントを学んでいただけるように工夫をしている。そこから導かれる『要員・人件費の戦略的マネジメント』の要諦が次の7つだ。

 

『要員・人件費の戦略的マネジメント』の要諦7つ

■「未来時点」で考えよ


要員・人件費の分析においては、実は、現状分析そのものには意味がない。なぜなら、現状の姿は、何らの施策を打っても、打たなくても、5年後には必ず異なる姿になっているからである。例えば、「現状のわが社では人件費が100億円かかっており、本当は90億円に押さえるべきであるため、10億円の人件費削減が必要だ。」という議論は、ほとんど意味がない。本書の登場人物たちの多くも、このミスを犯している。5年後には、(何もしなくても)人件費は110億円になっているかもしれない。また、成長のためには、人材の追加投入が必要で、人件費は120億円にしないといけないかもしれない。すなわち、5年後の将来時点での「なりゆきベース」での人件費と、あるべき人件費投入額を比較分析することが重要になる。例えば、未来時点での「現状(=2018年現在)とあるべき(=2018年時点)」の比較という視点での検討を是非行ってみていただきたい。 

■巻き込み、引き込み、共有化せよ
 

要員管理・人件費管理のためには、現場の意見をうまく吸い上げ、意見を引き出すことが重要だ。検討の早い段階から他部署や現場を巻き込み、数値を示し、目標を共有することで、より現実的かつ効果的な計画の策定が可能になる。同時に、実行局面で、実際の計画を現場に落とし込む際に、無用な反発を避けることも可能になる。

我々の経験でも、人事部内でさんざん検討を行い精緻に作成した計画を、経営企画部に見せたら全く把握できていない前提条件が明らかになった、現場に説明したら知らない事情が次々と発覚したなどの苦い経験がある。要員・人件費を最適化する取り組みは、全社に大きな影響を及ぼすことが多いため、その動きの作り方、他部署の巻き込み方については、慎重に作戦を練ることがポイントになる。

 

■見える化と数値化を徹底せよ


本書に登場するすべてのケースにおいて、登場人物が最初に苦労しているのが、定量化して見える化することだ。7つのケース全てにおいて、あるべき姿の検討や計画への落とし込みは定量的な分析に基づいており、そのゴールも数値化されたものになっている。実際、部門を説き伏せたり、経営者に意思決定をせまったりするためには、数字の根拠を示すことが必須である。

例えば、以下のような数値を数分以内に答えられるだろうか。わが社の人件費は……、人数は……、ここまでは何とか答えられるかもしれない。しかし、人件費単価は……、一人当たりの売上は……、人件費効率は……、過去の3ヵ年の推移は……、要員構成のコブは……、間接部門比率は……、といった話になると途端に調べないとわからないばかりか、調査だけで数週間かかってしまうという会社も多い。これでは、適時適切な経営判断はできないし、あるべき姿の検討もおぼつかない。また、総額人件費と言っても、その「総額」とは何を指すのだろうか。派遣社員は含めるのか、出向社員の取り扱いをどうするのか、福利厚生費は含めるのか、海外赴任者はどうするのか、外注費は本当は人件費見合いなのではないか、これらの取り扱いは意外に悩ましく、ルールを定めていないと「わが社の総額人件費は、○○円です」とすら答えることが難しい。数値化、見える化は、少々の苦労がともなっても、是非避けずに臨んでいただきたい。

■トップダウンから始めよ


現場の要求を踏まえてボトムアップで要員計画を検討する場合、ほとんどの場合は要員の見積もりが膨らむことになる。なぜなら現場は“売上”目標を掲げており、それを達成するための人手は多い方が良いからである(但し、現場に利益責任まで負わせている場合は、本来投入すべき人員数を投入せず、絞込み過ぎてしまうという失敗をしてしまうこともある)。

そのため、要員計画を策定するに当たっては、まず“トップダウン”で検討を始めたほうが良い。まずは全社として実現したい姿(本書の例で言えば、売上高10%UP〔1章〕、売上高倍増〔2章〕、間接部門半減〔5章〕等)があり、その実現のために全社として要員・人件費がどのような状態となっているべきかを明らかにすることから始める。その上で、各部門の状況(人的生産性の実態、成長目標、コスト制約等)を踏まえて人材投入計画を策定するというプロセスで検討を行うことが望ましい。

■要員・人件費プランニングはリスクシナリオをベースに考えよ


「この成長計画を成功させるためには、人員を投入することが必要だ。うまくいけば、売上が増え、成長できるから問題ない。」これは、現場が必ずと言っていいほど、言い出すことだ。しかし、本社サイドとしてはそうはいかない。「もし売上が思うように伸びなかったら?」「人件費以外コストが予定どおりに削減されなかったら?」「マーケットが大きく変化したら?」このような発想を持つことが欠かせない。実際、各章においても、当初仮説を多面的な観点から検証し、計画書としての落着のさせ方を模索している。ただし、やみくもに保守的になり過ぎると成長機会を逸するリスクも他方では存在するため、この点は留意をしておきたい。上記のフタゴ電子でご紹介した図表などのフレームを活用しながら、バランスの良い計画をどのように策定していくか?にチャレンジしていただければと思う。

■後追い・緊急避難の人員削減を回避せよ


国内市場の縮小に伴い“効率化”が求められている企業は多い。筋肉質な体制を実現するために、人員数の削減を検討している企業もあるだろう。しかし、ここで一度考えていただきたいのは、本当に“今いる”社員を辞めさせる必要があるか、ということである。

例えば、会社として利益を確保するために人件費を削減(正確には、人件費効率を向上)させたいのであれば、人員数は削減せずに人件費単価をコントロールすることにより対応可能であったり、特に既存領域での効率化が課題なのであれば、新しい領域・人材の投入が必要な領域に再配置するという方法も考えられる。もちろん、単純な再配置ではなく、“玉突き”的な人事異動を検討する必要がある。このように、“効率化”を行う方法は様々存在しており、必ずしもいわゆる“リストラ”が必要ではないケースが多いので、ご留意いただきたい。

■外部の専門家を使いこなせ


要員・人件費マネジメントが事業の成否の鍵を握ってくるのはどのような局面か。それは、ストレッチな成長を目指す場合、事業構造の抜本的な見直しが必要となった場合、そして最近で言えば海外への展開スピードを加速させることを真剣に検討しなければならなくなった場合等、これまで当たり前とされてきた人事運用では太刀打ちできなくなるような転換ポイントに差し掛かったときである。

しかし、経営企画や人事のリーダーは、現状の課題を解決し、実務を確実に推進することは得意であっても、ゼロから考え直すという経験をしている方はそれほど多くはない。また、自社のこれまでの慣習に囚われてしまい新しい発想ができなかったり、社内の様々な力学に翻弄され、本来やりたかった議論がやり切れず、埋もれている問題に気付かないといった事態に陥りがちである。

そうした場合に有効なのが、外部の専門家をうまく使いこなすことだ。もちろん、丸投げではいけない。知見やスキルをうまく引き出し、社内の利害をファシリテートさせ、改革の動きを作り出すきっかけとして、使いこなすことがポイントになる。特に、ゼロから検討することが必要な場合、あるいはベーシックであっても今まで要員・人件費マネジメントに真正面から取り組んだことがないケースでは、1つの手段としてお考えいただくのが良いだろう。 

「要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査」

デロイト トーマツ グループでは、ここ4年にわたり「要員・人件費計画策定勉強会」「人的生産性ベンチマーク調査」を実施しており、前者には70回にわたって1,000社以上、約3,000名の方にご参加いただくとともに、後者の調査には前々回(2012年・2013年度)、前回(2014年度・2015年度)あわせて600社以上の企業にご参加いただいている。改めて、関心の高さに驚いている。今後も継続的に、セミナーや記事、実際のプロジェクトなどを通じて、日本企業の成長を支える「要員と人件費のマネジメント力の向上」に少しでも貢献できればと思っている。

(481KB, PDF)

ニュースレター情報

Initiative Vol.70

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー 岡本 努

本稿は、『要員・人件費の戦略的マネジメント』(労務行政、2013年12月21日)の出版にあたって書き下ろしたものである。

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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