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人事指標(HR metrics)で組織効率を最大化する

~ベンチマークで基準値の“感覚”を掴め~

既に、“グローバル化”という言葉が陳腐になりつつある昨今、言葉の壁に苦労している方も多いのではなかろうか。 しかし、数字は万国共通語だ。これをグローバル経営の推進に使わない手はない。本稿では、数字を通じたグローバル経営の第一歩として、ベンチマーク調査を活用するためのポイントを解説する。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.78)

数字は万国共通語

既に、“グローバル化”という言葉が陳腐になりつつある昨今、言葉の壁に苦労している方も多いのではなかろうか。何を隠そう、筆者もその内の1人である。

しかし、嬉しいことに数字は万国共通語だ。母国語が何語であろうとも、数字の「1」は同じ「1」を意味するのである。これをグローバル経営の推進に使わない手はない。そして、数字を通じたグローバル経営の第一歩として、ベンチマーク調査を是非活用して欲しい。

  「将来に向けて、要員を増やすべきか、減らすべきか」
  「我がグループとして、人件費をどうすべきか」
  「○○会社の組織をどう形作るべきか」

これらの問いに、定量的かつ明快に回答できるようになること、これが数値を用いた基準値経営の目指すところだ。複数の経営指標について、中期経営計画や競合他社の数値と比較しながら、目指すべき目標値を設定することが求められるのである。

しかしながら、これまで日本では要員・人件費の生産性に関する有用なベンチマークデータを入手することが難しかった。そうした中、デロイト トーマツ コンサルティングでは、2012年から149の生産性指標(*1)に関するベンチマーク調査を開始し、「2012・2013年度」調査で312社、「2014・2015年度」調査では246社(2014年8月時点)の企業に参画いただいている。

本調査への参画により、自社の人的生産性を定量的に把握するだけでなく、業界や売上規模別にみた場合、自社の生産性がどの程度の水準に位置するのか、どこに改善余地があるのかを把握することが可能となるのである。是非、この「要員・人件費の生産性ベンチマーク調査」の情報を用いて、組織・人事課題に数字で切り込むということにチャレンジして欲しい。

そこで、本稿では、人事指標をベンチマークする際のポイントを解説、単なる「高い・低い」の分析に留まらない考察方法についてご紹介したい。

*1:149の生産性指標について詳しく知りたい方は、(hc_benchmark@tohmatsu.co.jp)宛にメールでご依頼ください
**: 「要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査」のご案内はこちら

数字を「他社」と「過去の自分」と比べる

前段でも少し触れたが、ベンチマークの方法には大きく二つの方法がある。一つは、弊社が提供しているベンチマーク調査のように他社と比較してみるという方法、もう一つは、自社の過去の水準と比較する方法だ。

(1) 「他社」と比べる

弊社が提供している「要員・人件費のベンチマーク調査」では149の指標をベンチマークできるようにしているが、まず確認していただきたいのは、会社の人的生産性をチェックする際に重要な2大指標である「一人当たりの生産性(*2)」および「人件費効率(*3)」の値、次に見ておきたいのが、「間接部門比率(*4)」である。この3つの指標について自社の水準を把握することで、大まかな自社の生産性の状況、および改善余地について考察を行うことが可能となる。

*2:一人当たりの生産性:活動・成果を定量化した指標÷人数 例:一人当たり売上高(社員一人当たりでいくらの売上を生み出しているか)
*3:人件費効率:活動・成果を定量化した指標÷人件費 例:人件費当たり売上高(投入した人件費に対して何倍の売上を生み出しているか)
*4:間接機能比率:間接機能人員数÷全社員人数 (全社員に占める間接機能従事者の比率)

「他社」との比べ方

他社と比較する場合に注意が必要なのは、指標数値を“勝ち負け”だけで捉えようとしては、解釈を誤る場合がある点である。後述するが、生産性指標の高低は、必ずしも良し悪しに直結するわけではない。あくまで、自社の組織の特徴を把握するというイメージで、ベンチマーク数字の比較分析を行っていただきたい。

(2) 「過去の自分」と比べる

人事指標は、数字が良すぎると逆によくない兆候を示していることが多いという特徴がある。

例えば、一人当たり生産性が他社に比べて極端に高い(高くなってしまっている)場合、人手が足りなくなっている、長時間労働が慢性化している、必要な安全管理のための業務体制が構築できていない、などの状態に陥っていたり、本来は人がいれば実現できたはずの成長の機会を逸している可能性さえある。

このときに大事になってくるのが、「過去の自分」との比較である。「5年前の過去最高水準だったときと比較しても明らかに数字が良くなりすぎている」、「直近の数字は他社と比べて高いが、5年前と比較すればそれほどは高くない」、といった「過去の自分」との比較による考察を行うことで、良い数字が本当の意味で“良い”ものであるかを判断することができるのである。このように、自社の○○指標が他社の中位値を上回っている⇒中位値までスリム化せよ、といった単純なロジックにはならないことにご留意いただければと思う。

「過去の自分」との比べ方

自社の過去からの推移をチェックする際に重要となるポイントは、同じ計算方法で計算することである。例えば、人件費効率であれば、人件費を正確に捉えることよりも、同じルールで計算をすることに主眼を置くことの方が重要である。例えば、一言で“人件費”と言っても、正社員だけか、契約社員や派遣社員は含めるのか、福利厚生費や退職金は含めるのか、出向者は含めるのか等、決めなければならないことはたくさんある。この時、どのやり方が正しいのかを突き詰めるのではなく、簡易にタイムリーに計算できる方法でルールを作ることがポイントとなる。

**: 「要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査」のご案内はこちら

ベンチマーク指標の解釈の仕方

例1)「一人当たり生産性」は低い(*5)が、「人件費効率」は高いA社

*5:本文中の“高い”“低い”は母集団の中位値と比べて言及しているものとする

他社よりも「一人当たり生産性」の値が低いということは、他社よりも一定の売上ないし粗利等を稼ぐのにより多くの人数を投入していることを意味する。より多くの人手がかかっているのだから非効率になっているに違いないので、スリム化すべきという議論に短絡的に行かないようにしたい。実際、これ自体は、良いことでも悪いことでもない。タイムリーな顧客対応、繁閑の吸収などを、人手で解消しているのであれば、想定どおりの姿とも言える。

さらに、この情報に「人件費効率」の情報を加えてみる。例えばA社では、「人件費効率」は他社に比して高い。「一人当たりの生産性」が低く、「人件費効率」の高いA社は、他社に比して“人数”を投じていると言えるが、何らかの方法で “平均単価”を抑制することで、人件費が過剰になりすぎないようにコントロールをしていることがうかがわれる。

もしA社がこのような姿を意図的に作り出しているのであれば、特に課題はないと言える。このように、「一人当たり生産性」指標のみをチェックしようとすると誤った判断をするリスクもあるので留意されたい。

例2)「一人当たり生産性」は高いが、「人件費効率」は低いB社

反対に、「一人当たり生産性」が高く、「人件費効率」は低いという状態になっているケースも少なくない。これは、一人ひとりの能力が高く、平均給与は高いが、少ない人数で業務をまわすことができるというような状態である。

この場合も、これが意図された姿であれば、特に問題はないと言える。しかしながら、10年前は平均年齢が30代前半で若い組織であり、平均給与も低かったが、直近は平均年齢が40歳を大きく超え、一人ひとりの能力が向上したことにより「一人当りの生産性」は向上したものの、平均給与が高くなってきたことにより「人件費効率」が低くなってきている、という場合もあり、こうした状況が数値情報をベンチマークしてみて初めて明らかになったのであれば、対応方法について至急検討を深める必要がある。特に、平均年齢と単価が今後も上がり続けないかについてはしっかりと確認しておくことが必須となる。

例3)「一人当たり生産性」が低く、「間接部門比率」が高いC社

このパターンは、わかりやすい。会社全体の従業員人数が多く、特に重荷になっているのが間接部門であることが明らかであるからだ。例えば、「間接部門比率」を中位値まで引き下げることで、「一人当たり生産性」を中位値に近づけることができるのであれば、間接部門の比率が大きいことが会社全体の生産性に影響を及ぼしていたことがはっきりとわかる。一方で、間接部門比率を下げるだけでは、一人当たり生産性が業界中位値に届かないケースも少なくない。この場合は、直接部門側についても掘り下げた分析とBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)といった取り組みが必要になることが想定される。

上記のように「組織の特徴を掴むという視点を持つこと」「複数の指標を組み合わせること」がベンチマーク分析においては肝要である。

計算の内枠にあるものと、外枠にあるものを理解しておく

他社の水準や自社の過去水準との比較を行う際によく議論になるのが、“外注工数”の活用度合いである。ご存知の通り、ビジネスをまわすために必要な工数が正社員だけでまかなわれているケースはほとんどなく、外注工数の割合が過半を占めるケースさえある。同業界であっても、自社が外注業者をうまくマネジメントする方法で差別化を実現しており、他社とは一概には比べられない等、他社との比較からだけでは良し悪しを判断しにくいケースも多い。

このときに見るべき指標は、「人件費効率」ではなく、「工数コスト効率」という指標だ。「工数コスト効率」は、各業務にかかる“人件費+業務委託費”の効率性をみる指標であるが、この指標を他社と直接比べるのは難しい。そこで、まずは自社の生産性推移を分析する際に、「工数コスト効率」の観点からの分析を行ってみて欲しい。また、弊社のベンチマーク調査では、人件費に加えて業務委託費や外注比率に関するデータも収集しており、可能な限り他社と同条件で比較できるように工夫しているので、そちらも是非ご参照いただきたい。

**: 「要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査」のご案内はこちら

≪参考≫「2012・13年度および2014・15年度の2回の調査から見るトレンド」

  • 日本企業の間接部門比率の中位値は、約10%
    ・2012・2013年度の調査と2014・2015年度の調査、いずれも間接部門比率の中位値はおよそ10%であった。従って、間接部門比率が10%程度であれば、効率性としては他社に比して悪くない水準であると言える。
    ・しかし、中位値が10%ということは、半数の会社が10%以下の水準ということであり、実際に約50社は8%~10%の間、残りの約60社は8%未満の水準である(2014・2015年度調査より)。
    ・従って、中位値であること自体に安心せず、スリム化余地がないかの検討を進めることをお勧めしたい。
  • 日本企業の人事機能は、グローバルの1.5倍
    ・日本企業の人事機能正社員1人当り正社員数は約70人であるが、デロイト グローバルで実施している同様のベンチマーク調査(母集団は欧米系の外資系企業)の人事機能正社員1人当り正社員数は約100人であり、約1.5倍の生産性の差となっている。
    ・日本企業とは組織構造や事業部門とHR部門の役割分担に違いがあるとはいえ、日本企業はコストの重荷を背負ってビジネスをしていることを肝に銘じておきたい。
  • シェアード化による生産性の悪化
    ・間接機能の生産性向上のためにシェアード会社を立ち上げ、業務の集約を実施した結果、間接機能に従事する正社員数は減少し、1人当りの生産性が外見上は高くなっているように見えるが、業務委託費まで含めた工数コスト効率の値が低くなっているケースが多く存在する。
    ・特に、グループ内のシェアード会社の従業員が出向者や親会社出身の高い人件費のまま転籍を実施している企業において、その特徴は顕著であるため、その姿を維持するのか、何らかのメスを入れていくのかの検討が必要となる。

**: 「要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査」のご案内はこちら

ニュースレター情報

Initiative Vol.78

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー 岡本 努

2014.11.26 

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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