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「ミドル層(バブル世代)」の今とこれから

日本型人事のブレイクスルー 第3回

前回はシニア人材のより有益な活用に焦点を当て、その取り組み施策に言及した。シニア世代と並び、日本型人事のブレイクスルーという観点で今後さらなる課題となりうるのが、「バブル世代」と呼ばれる1987年~1992年に大量採用された層の活用である。この層は、一般に企業内に多く在籍し、今後のシニア人材予備群となる。今回はこのバブル世代をミドル層(ミドル人材)の代表的な世代として定義したうえで、ミドル層を取り巻く状況を整理し、活用に向けた施策の方向性を提言したい。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.83)

2人に1人がシニア層・予備層の時代が来る

前回は日本型人事にとって影響が強いと想定されるシニア人材のより有益な活用に焦点を当て、その取り組み施策に言及した。シニア世代と並び、日本型人事のブレイクスルーという観点で今後さらなる課題となりうるのが、「バブル世代」と呼ばれる1987年~1992年に大量採用された層の活用である。この層は、一般に企業内に在籍する人員ボリュームが大きく、いわば今後のシニア人材予備群ともいえる。今回はこのバブル世代をミドル層(ミドル人材)の代表的な世代として定義したうえで、ミドル層を取り巻く状況を整理し、活用に向けた施策の方向性を提言したい。

ミドル層の不活性シニア化を抑制するには

日系大手企業はバブル期に新卒一括大量採用を行った結果、要員構造をみると、現在は40代後半の在籍数が多くなっている(図表1)。このバブル世代は10~15年後にはシニア層に入るため、その前に活用の仕方を検討する必要がある。

不活性シニア層の抑制に向けた取り組みの1つとして、バブル世代の人員調整(要はリストラ)を進めるという方法はあるものの、将来の労働力減少を踏まえると単なる人数削減ではジレンマを抱えてしまう。あるいは、雇用調整のプールと位置づけて雇用継続を図った場合は、優秀な人材から自主的に流出してしまう可能性が高く、本来は残ってほしくない人材ばかりが居残り、不活性シニア層がさらに増加するという事態にもなりかねない。こうした先のリスクを見据えながら、ミドル層の活用に頭を悩ませている読者の方も多いのではないだろうか。

図表1 国内人口におけるミドル層(=バブル世代・1987年~1992年入社)の状況

中小企業やNPOでは人材不足が深刻化

ミドル層のなかでも超優秀者は次期幹部候補として、すでにサクセッションプラン等に組み込まれていると予想される。では、それ以外の人材はどうだろうか。現場の第一線でプレイングマネジャーとして活躍し、プレイヤーとマネジメントの両面の観点を併せ持ち、“社内における有識者”として扱われている人材も多いだろう。にもかかわらず、ミドル層はボリューム自体が大きいことから人員調整の対象となりやすい。先述のように、単なる人員調整では優秀者ほど企業から流出しやすく、場合によっては他国の企業に採用されてしまう。知識やノウハウを蓄積した優秀者の流出は国力の危機といっても過言ではないだろう。

一方で、国内ベンチャー等の中小企業では人材確保が大きな課題になっている。ある調査によれば、ベンチャーを含む中小企業およびNPOが抱える経営課題のうち、資金調達以上に人材不足がクリティカルな課題であると判明している(図表2)。しかも、人材不足の主たる原因として、報酬のアンマッチという問題の次に、人材確保ルートがない(見つけられない)という問題が挙げられている点が興味深い。

これに加え、さらに興味深い事実がある。日本国内で廃業した中小企業の半分近く(45%)は意外なことに経常黒字であり、廃業原因の上位に後継者不在が挙げられているのである(2014年『中小企業白書』より)。まさに、経営存続のために人材を必要としている場所に適切な人材が供給もしくは育成されておらず、一方で業務効率・コストの点から余剰人材を抱えている場所が存在している、すなわち人材の需要ギャップを示している。この状況は、日本の技術・メンタリティ等の貴重な資産の先細りを示唆していないだろうか。

図表2 ベンチャー企業における経営ニーズ・人材確保上の問題点

出所:
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「2013年度ベンチャービジネスに関する年次報告書発表資料」2014年2月12日
 

日本企業が直面しているイノベーションの課題

人材面の課題と並行して、現状の日本のビジネス環境を概観してみたい。周知の通り近年の日本経済は停滞し、その市場規模は継続的な縮小傾向にある。これに伴い、過去に日本経済の成長を支えてきたイノベーションの創出も、年々インパクトが薄れている。ソニーの“ウォークマン”、ホンダの“オートバイ”等、1990年代以前は、世界を席巻したイノベーションが数々創出されていたのに比べ、1990年以降はむしろ海外企業によるイノベーションにとって代わったパラダイム・シフトが目覚しい。iPhone、Facebook等の海外で創造された新たな価値が瞬時に我々の生活に密着し、かつ多大な影響を与え続けている。

「新規事業の立ち上げ」「新しいサービスの開発」「他社との差別化」等は、日本企業が直面している重要な経営課題の1 つである。こういった課題解決の手法として、社内ベンチャー制度等を実施している企業も存在するが、思うような成果が得られていないというのが経営層の率直な感想ではないだろうか(図表3)。

本稿では、この課題感への対応策と関係づける形で、ミドル層の新たな活用イメージを紹介したい。先述のように、ミドル層はそのボリューム自体が大きいことからも、そのなかにはプレイングマネジャーとして実務・マネジメント双方に精通した人材も多く含まれるはずである。ミドル層という、企業に眠れる巨大なリソースを呼び覚まし、かつ、恐れずイノベーションを創出できる環境・条件を準備することで、雇用調整と人材の活性化という2つの課題を解決する道があるのではないか。以下に、この課題解決に挑んだ海外企業の事例をご紹介したい。

図表3 企業の連結売上高に占める既存領域と新規領域との割合

脚注:
上記はいずれも総売上高に占める各領域別の総計の比較により算出している。なお、日本企業について回答企業の各領域割合の「平均値(全企業平均値)」で みても8.6%と同様の傾向となっている。
出所:
*1:「Business R&D and Innovation Survey 2009」(米国商務省国勢調査局および国立科学技術財団)より
*2:「第1回 全国工業企業イノベーション調査 2007」(中国国家統計局)より

人材の社内循環から社外を含む循環へ転換を

フィンランドの大手通信機器メーカーであるNOKIAは、Bridge Programと呼ばれるキャリア移行プログラムを展開し、業績低迷に伴う厳しい雇用調整局面を克服した。同プログラムは、欧州をはじめ各地の拠点で大規模に実施されたもので、自主退職希望者を募り、社内外転籍の斡旋に加え、起業を志す者にはビジネスプランの策定から資本金・研修等の支援までを実施し、雇用対策社員による約1,000社の起業を実現している。

同プログラムのポイントは、人材に対する考え方が、余剰人員の削減というコストの観点のみならず、NOKIA起点の新たなビジネスエコシステムの創造、地域経済に貢献するという投資的な観点を持ち合わせている点である。さらに、自主退職希望者が今後も輝いていける新たなキャリアパスを提示し、その支援をもプログラムに含めていた。これにより、同プログラムは国家レベルの優良な投資施策の1 つに位置づけられている。

翻って、日本型人事における人材活用とは、一企業のなかで完結する正社員コミュニティでの“人材の使い回し”というのが実態といえる。それが日本型人事の強みでもあったが、企業内での活用先が見えない状態に陥った場合には、漏れなくそのまま企業外への放出という帰結になってしまう。

しかし、今後はNOKIAのように、人材を社内だけではなく社内外の循環に生かしていくという観点、すなわち人材活用の考え方の転換が日本企業に求められるはずである。つまりそれは、従来の“社内使い回し型モデル”を“社内外循環型モデル”へ転換させることを意味する。

この変化を生み出すには、(1)人材に対する多様な活躍機会の提供(機会を見せる)と、(2)セーフティネットの提供(不安を抑える)、という2つの柱を同時に実現することが重要と考えられる。(1)の手段としては、ベンチャーに加え、NPO・NGO・中小企業等幅広い企業・組織との接触機会を付与していくこと、(2)の手段としては、社外循環に向けたスキル転換等の機会やブーメラン出向等の“戻れる安心感”の付与、社外循環の悩みを持つ社員のネットワーク形成等が有効になるだろう(図表4)。

(1)の具体的な事例として、一部の欧州企業は、従業員のボランティア活動参画を通して、社会課題の最前線に触れさせ、そこから新規市場の発掘やネットワーキングを形成させていくICV(International Cooperate Volunteering)という取り組みを積極的に進めている。この取り組みは、その企業のコアコンピタンス・技術を、社会課題の解決に活かすプロジェクトといえる。

また、日本国内ではNPO法人のクロスフィールズ社が、“留職”というプログラムを提唱している。これは、参加企業の人材を新興国のNPO法人に一定期間派遣し、社会課題に取り組んでもらうというものである。NPO法人等の人材不足の解消を図るとともに、企業内の雇用調整をより有益に進め、各国政府・企業等とのネットワークの開拓にもつなげ、(1)・(2)の両者を実現しうる代表的な取り組みといえる。CSRの推進や、急成長とともに浮き彫りになる新興国の社会課題への意識の高まりを背景とした先進的な取り組みともいえるだろう。

図表4 企業における「人材活用モデル」の転換

ミドル層を活用し、イノベーションを実現する3つのポイント

最後に、ミドル層を効果的に活用することでこれまで日本で起きにくかったイノベーションを創出させる3 つのポイントを紹介したい。
まず、イノベーションを創出するには、これまでの正社員コミュニティをベースにしたタレントマネジメントから脱却する必要がある。従来の日本企業では「人材を自社のスキームのなかで活かす」という考え方をしていた。しかし、今後は、「自社の成長をより促進させる人材を企業間(場合によっては企業外組織間)のなかで育成するキャリアパスを整備する」という考え方に変換していく必要がある。具体的には、

(1) 人材の活用の場をオープンにする
(2) 失敗を恐れないチャレンジングな風土を作る
(3) 「自社の成長=利益の拡大」という視点だけではなく「自社の成長=社会・経済への貢献により自社のレピュテーション・ブランド価値を高める」という視点を持つ

という3つの考え方を踏まえた取り組みを実施すべきと考える。

(1) 制度設計:人材の活用の場をオープンにする

これは、人材の活用の場を社外にも広げる仕組みを整備する、もしくはNPO法人などを含めた外部プログラムに参画することを意味する。オープンな人材活用制度の整備により、社員はバラエティに富んだキャリアパスを得ることができる。もし、出向先でのチャレンジが気に入るようであれば、そのまま出向先で活躍してもよいこととする(転籍もありうる)。やはり自社に戻りたいのであれば、それもまた許容する。それにより、外部組織で得た知見・価値を自社に持ち帰り、ともすれば硬直的になりやすい“自社の常識”を少しずつ柔軟にしていけるのではないだろうか。

さらに、外部組織で取り組んだ仕事が、例えば、注目度の高い社会課題「地方の活性化」や「新興国の社会インフラ整備」「全く新しい市場の開拓」等の解決につながるものであったとしたら、出向も“人減らしなどではなくチャレンジである”と好意的に受け取られる。併せて、実際に出向等で外部組織に移ったメンバーに対する手厚いサポート体制の提供も欠かせない。

(2) 組織風土変革:失敗を恐れないチャレンジングな風土を作る

(1)を整備したことで得られる副産物ともいえるが、特に出向モデルを採用することで、“戻れる場所がある”“何回でもチャレンジできる”という意識を根づかせることが可能になる。これにより、社員の起業家マインドを醸成し、より自由な発想・よりチャレンジングな企画の創出も期待できるだろう。

ここで注意したいのは、(1)とも関係するが、チャレンジを少しでもネガティブに捉えさせないということが重要になる。「オープンに人材を活用する」と言いながら、それが中小企業や地方への一方通行ではイノベーションは起こらない可能性が非常に高い。確実な社内外循環とすることが、次々に社にとどまらないミドル人材を生み出し、さらなる循環をもたらすのである。

(3) 意識変革:「自社の成長=利益の拡大」という視点だけではなく「自社の成長=社会・経済への貢献により自社のレピュテーション・ブランド価値を高める」という視点を持つ

グローバル社会における企業の成長・企業の価値とは、財務諸表上の数値のみで語りつくせるものではない。一部の企業については、退職者たちを「元・○○社の」ではなく「○○社卒業生の」というように、好意的な価値を伴って語られることがよくある。すでに退職した社員たちによって、その企業のSeedsが広がり、さらにその価値が高まると考えた場合、大企業とベンチャーとのアライアンスや都市圏から地方圏への仕事の転換といった取り組みを積極的に行っていくことにも一考の余地があるのではないだろうか。

上期のような変革を大企業が率先して実施することが望ましいと想定される一方で、中小・ベンチャー等の人材の受け入れ側もこれに対応する必要があるだろう。具体的には、新規事業テーマ例・マネジメント支援・技術指導等、受け入れる人材に期待するミッションの明確化や、人材受け入れに対する自組織内の認識の共有化・プログラム化を事前に図っておくことが挙げられる。

知見・経験を蓄積したミドル層には、大いなるポテンシャルが秘められている。こういったタレントの有益な活用により、企業内外の人材の新陳代謝を活性化させることは、組織・人事面における日本企業のさらなる成長の一助となりうるとともに、従来日本企業が得意としていたイノベーションの創出を再び促すためのトリガーとなるのではないだろうか。その意味でも、まずは、大企業側の人材マネジメント(キャリアパスや人事制度)をオープンタレントマネジメント仕様に変えていくことが強く望まれる。

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ニュースレター情報

Initiative Vol.83

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
パートナー 小野 隆
マネジャー 高柳 良和
マネジャー 沖津 泰彦

2015.05.28

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本ニュースレターは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年3月号掲載)を転載したものです。

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