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企業グループ人材マネジメントのあり方

日本型人事のブレイクスルー 第4回

前回は「高齢化」を取り上げ、シニア人材を活かす仕組みを考察した。今回は日本型グループ経営、中でも日本型グループ人材マネジメントについて考察したい。日本型グループ経営とは、親会社を中心に形成される企業群の経営を指す。本稿では、日本型グループ経営において、優秀人材をより多く安定的に確保・育成していく方法について述べる。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.84)

はじめに

前回は日本型人事の構造的限界である「高齢化」を取り上げ、そのブレイクスルーとしてシニア人材を活かす仕組みを考察した。今回は日本型グループ経営、そのなかでも日本型グループ人材マネジメントについて考察したい。筆者が定義する日本型グループ経営とは、親会社を中心に形成されている企業群の経営を指す。そして、採用・育成・異動・処遇という人事業務を単社で実施するのではなく、グループに所属する企業全体で実施することをグループ人材マネジメントであると定義している。

日本企業のグループ企業化には時代による変遷がある。高度経済成長期以来、日本企業は事業領域や活動する地域が拡大するにつれ、事業の分化や企業の買収が進んできた。1990年代後半には独占禁止法の改正に伴う「純粋持株会社」形態の解禁や、連結決算の導入などを経て、「グループ経営」が普及・定着するようになり、人材の管理もグループ全体の課題として意識されるようになった。さらに2000年以降のグローバル化の進展によって、グループ経営は非常に複雑かつ広範な領域をカバーすることが求められるようになった。

こうした経営環境の変化に伴い、企業の各機能(人事、経理・財務、IT、R&D、サプライチェーン等)に求められる専門性は高度化してきており、それぞれの機能の中核を担う人材、あるいはそれをまとめ上げる経営人材を確保・育成することは人事にとっての最重要課題の1つとなっている。

経営人材あるいは高度専門人材の確保にあたっては、グループ企業が有する人的資源を最大限に活用し、これを計画的に育成することによって、企業の安定的な事業運営と将来の成長に資する人材を生み出す努力が必要となる。こうした人材を供給する源として、これまでの親会社中心の人材マネジメントでは供給が足りず、また複雑化した経営課題に対処するための多様な経験を積んだ人材を確保しなければならなくなったことで、これまで十分に活用されてこなかった子会社も含めたグループ全体からの優秀人材供給が必要となっている。

グループ人材マネジメントを通じて実現すべきは、グループ経営を支え、世界に伍していけるような優秀人材をより多く、安定的に確保していくことである。

海外との比較でみる日本型人材マネジメント

優秀人材の確保・育成を、グループ人材マネジメントを通じて、いかに実現するか。筆者は、日本型人材マネジメントの特徴が、優秀人材の確保・育成に必ずしもプラスに働いていないのではないかと考えている。グローバル企業との比較で見てみよう(図表1)。

日本型人材マネジメントの根底にあるのは、「社籍」による区分を軸とした人材の採用・育成・配置・処遇の実現である。グループ経営においては、持株会社あるいは中核となる事業会社籍の人材を主な対象として、グループの人材マネジメント方針が決定されており、親会社主導のコミュニティを中心としたグループ人材マネジメントが行われている。外部との比較合理性よりも、会社内部での階層や年次管理を主とする職能ベース・年功ベースの人事制度も、こうした社籍による区分を下支えしている。

実はこうした親会社と子会社の関係を中心としたグループ人材マネジメントは、日本特有の人事トピック、日本型人事の特徴の1つである。エクセレントカンパニーといわれるようなグローバル企業では単一の事業や企業を中心とした親会社・子会社の関係ではなく、グループ全体を1つの組織であるとし、どの企業も事業ポートフォリオの1つと考えるのが一般的である。従って、企業間に優劣はなく、同じグループ内における人材の異動は、日本型人材マネジメントのように親会社を起点として行われるのではなく、グループに所属するあらゆる会社間で横断的に行われている。

グローバル企業が相互に還流的に人材マネジメントを執り行っているとすれば、日本企業の人材マネジメントは親会社からの一方通行であるといえる。

日本企業とグローバル企業の違いは、対象とする人材の母集団に大きな差異を生み出している。日本では親会社あるいは中核事業会社が人材輩出の母体となってきた。つまり、あくまでも裾野は親会社に所属する人材に限られ、閉じられたコミュニティのなかでしか考えてこられなかった。一方で、グローバル企業では各エンティティに閉じることなく全社に裾野を広げて、そのなかから人材を選抜・登用してきた。社籍にこだわらず、より大きな企業グループとして広い範囲から人材を集めるため、母集団自体が大きく、優秀な人材も集めやすい環境を構築できている。

これまでの連載でも指摘してきたように、日本は労働人口が減少する局面にあり、多様な人材を活用しなければ生き残ることはできない。少子化に伴う労働力の供給が減少するなかで、親会社の人材だけでは必要な人材を賄えなくなることが予想される。もちろん女性やシニア人材を活用する方策も併せて検討していかねばならないが、グループ経営の観点で見れば、グループ子会社の人材をより身近な人材群として活用しない手はないだろう。

図表 1 グローバル企業と従来の日本企業の取り組み対比

日本型人事が広く人材を活用できない2つの理由

日本企業は閉じられたコミュニティのなかで人材マネジメントを行っており、グループ内の人材の活用を十分に行っているとはいい難い。人材の活用が進まない原因について、著者は主に2つの理由を想定している。

1つ目の理由は、先に述べた「社籍」を軸とした人材管理を行っていることである。日本型グループ経営においては、親会社が非常に強い力を持っており、親会社籍の人材と子会社籍の人材との間で実質的な格差が生まれてしまっている。将来経営に貢献することを期待して、親会社籍の人材を子会社の高い役職に出向させて経験を積ませるという手法が長らく行われてきた。その際に、子会社籍の人材はある一定のポジションで昇格・登用が頭打ちになる「ガラスの天井」が敷かれ、それにより子会社人材のモチベーションが低下するなどの問題が発生してきた。これは子会社に対するガバナンスを強化するという意味合いもあったのだろうが、一方では、親会社は採用ブランド力があるため、優秀人材は親会社にこそいるとの自負があり、子会社籍人材の活用を視野に入れてこなかったともいえるだろう。このように、親会社と中核事業会社からなる閉じられたコミュニティのなかで人材のマネジメントを行うようになった結果、グループ内には優秀であってもグループ経営の中枢に引き上げられることのない人材が見受けられるようになった。

人材の活用が進まない2つ目の原因は、日本の伝統的な職能型人事管理である。高度成長期に日本の成長をけん引してきた伝統的な製造業に多く見られる職能型人事制度は、当該企業のミッションを遂行するためには最適な人事管理かもしれないが、全く異なる事業やミッションを持った企業と融合する際には人材の受け入れを困難にさせる要因となる。職能とはあくまでも当該企業で求められる能力を制度化したものであるため、そこに別種の能力を持った人材を当てはめることが難しいのである。

例えば、海外M&A等で外国企業を子会社化した事例で考えてみよう(図表2)。一般的には欧米企業は職務ベースの人材管理を行っているため、職能型の人事管理とは相容れない。無理に職能ベースの制度枠組みに引き込むこともできなくはないだろうが、やはりハードルが高く、実態としてはほとんど行われていない。一方で、日本企業の人事制度を完全に職務型に切り替えることも、日本企業が歩んできた歴史や発展の経緯を踏まえると、おいそれと実行する気にはならない。結果として、グローバル企業のように、子会社をグループの一部として内部に取り込むことができず、ホールディングカンパニー(以下HD)の下に全くの別管理を行う異質の組織として、ぶら下げたままの形にしておかざるをえなくなるケースが多く見られる。

「社籍軸の人事管理」と「職能型人事管理」が広く普及した結果として、日本企業はますます閉じられたコミュニティのなかだけで、人材マネジメントを執り行うようになっているのではないだろうか。

図表 2 日本型グループ人材マネジメントの特徴

2社の先行モデルから次の日本型人事を探る その1

ここまで見てきたように、日本型人材マネジメントの特徴である「社籍軸の人事管理」と「職能型人事管理」により、親会社・中核事業会社を中心とした人材管理が敷かれ、これがグループ内の人的資源の有効活用を妨げているのが現状である。

一方で、親子関係をベースとした経営管理、職能型人事制度に代表される、経験と習熟をベースにした人材管理は、これまでの日本企業の成長を支えてきた重要な仕組みであり、これをグローバルで標準となっているグループ一体型の経営管理、職務ベースの人材管理に転換することは極めてハードルが高い。グループ内の人材を最大限活用し、なかでも優秀な人材を確保・育成していくにあたっては、日本企業特有の経営・人事管理体制を念頭におきつつも、現在は一部の社籍区分に閉じられたコミュニティの枠組みを少しでも広げると同時に、人材の異動・配置がスムーズに進むような仕組みを導入しておく必要がある。

実際に日本企業のなかでもこの問題に真正面から取り組む動きが出始めている。

大手消費財メーカーA社はこれまで事業の中核会社籍の社員を経営人材として育成し、グループ全体の経営・事業を統括する役職へとつけることで、成長を果たそうとしてきた。しかし、経営環境が厳しさを増すなかで、さらに企業成長力を高めるためには、グループ内の他の会社籍の社員からも抜擢を行うとともに、社内での競争環境を整備してより一層、人材力を高める必要に迫られた。A社はHDに将来の経営幹部候補人材を転籍・集約することで人材プールを形成し、国内外の子会社への出向を通じて企業グループ全体の再成長を実現しようと試みている。HDには新たな人事諸制度が整備されており、公平な環境で人材の配置・育成が実現できる状態を作りあげている。

大手耐久財メーカーB社では、A社のようにHDへの人材の集約・転籍は行わない一方で、子会社から優秀な人材を密かに洗い出し、より広範な関連会社の重要な役職につけることで人材の育成を図っている。経験を積ませ、可能性が見出されれば、親会社の社員と同様に経営の中枢へ引き上げることを模索している。人事制度や処遇についてはある程度各社の自主性を維持しつつも、一定以上の役職には、グループ共通基盤(等級・評価・報酬等)を整備・導入し、不公平感を是正して内部の競争環境を作りあげている。

A社とB社の事例を比較すると、B社のほうがより進んだ事例と見て取ることができる(図表3)。

図表 3 先行する日本企業の人材プールモデル

2社の先行モデルから次の日本型人事を探る その2

A社の場合は、持株会社を設立し、そこにグループ内の各企業から優秀な人材をプールすることで、人材の確保・育成に結びつけている。しかしながら、人材の再編成がなされた後は、従前と同じく親会社籍の人材を中心とした人材管理が維持されるため、基本的には従来の社籍を軸とした人材マネジメントを踏襲していることに変わりはない。人材のプールを1つの社籍区分に集約することで、人事制度面あるいは人材管理面の運用は容易になるため、B社のステップに進む前の中間地点としては有効な施策といえよう(あるいは、採用をHD籍に一本化することによって、実質的に社籍による区分を廃するという工夫も可能である)。

B社の場合は、社籍の区分にこだわらず、グループから広く優秀な人材を集め、親会社で集中的に配置・育成を行うことで、企業の成長を果たそうとしている。社籍による区分を取り払ったという意味で、よりグローバル企業に近い形ではあるものの、各社の人事制度や処遇に大きな差がある場合には、所属会社間での不公平が生じる懸念が残る。B社の施策を採用する企業のなかには、一定階層以上についてグループ共通の基盤(人事制度)整備やグループ一体型の福利厚生制度(年金等含む)の導入を通じて、不公平感を緩和するとともに異動・配置を容易にしているところもある。

今後の日本企業が目指すべき方向として、親会社・子会社の関係からグローバル企業のような企業体制への急転換は現実的ではないと考えられる。まずは現在の日本型のグループ体制を維持しつつも、親会社に閉じた人材マネジメントの考え方から脱却する方策を検討することが有効である。今回ご紹介した2社の取り組みが、貴社での検討の一助となれば幸いである。


本稿では、グループ人材マネジメントを取り上げ、日本型人事の特徴である社籍と職能型人事制度を軸とした人材管理の利点・課題を整理するとともに、今後の人材マネジメントをより意味のあるものにするための方策について、グローバル企業の事例や先進的な取り組みを交えながらご紹介してきた。

高度成長期を支えた日本型人事には利点も多くあった。親会社が中心となることで強力なガバナンスを敷き、求心力を高めて一体感のある経営を実現してきた。しかし、現在はある意味において、エリートである親会社籍人材と、子会社籍のプロパー人材の間での「格差」へと変質し、逆にグループの力を最大化できない阻害要因ともなってきている。この壁を取り払い、子会社も含めてグループとして保有する人材を最大限に活用することで、グローバル企業と伍して戦える人材を確保・育成することが可能になるのではないだろうか。

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〔PDF, 484KB〕

ニュースレター情報

Initiative Vol.84

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
マネジャー 加藤 光康
シニアコンサルタント 上林 俊介

2015.09.02

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年4月号掲載)を転載したものです。

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