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「女性活躍推進」の先に見えてくるものは

日本型人事のブレイクスルー 第5回

本連載の前回までは、年齢別人員構成の変化を日本型人事の構造的限界の主原因と捉え考察してきた。今回は視点を変え、日本型人事において(誤解を恐れずにいうと)常に「脇役」的な位置づけであった女性に焦点を当ててみたい。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.85)

「女性活用」は古くて新しい問題

前回までは、年齢別人員構成の変化を日本型人事の構造的限界の主原因と捉え考察してきた。今回は視点を変え、日本型人事において(誤解を恐れずにいうと)常に「脇役」的な位置づけであった女性に焦点を当ててみたい。今、メディア等で「女性活躍」という単語を見ない日はないほど注目を集めているテーマだが、一方で男女雇用機会均等法(以下、均等法)施行から30年という事実を踏まえると「古くて新しい問題」だといえる。改めて、過去30年の日本企業の取り組みと現状課題および課題解決の方向性を示すこととしたい。

女性の管理職登用は待ったなしの状勢に

「女性活躍推進」には大きく2つの意味があると考える。

1つは労働力としての女性の活用。これは既に始まっている少子高齢化の進行による生産年齢人口の減少に対応するものだ。「ドボジョ※1」や「トラガール※2」などの登場がその典型例であろう。もう1つは女性リーダー層、いわゆる管理職層を増やそうという話である。そして現在、日本企業が特に頭を悩ませているのは後者である。

※1:土木系の仕事や学問に携わっている女性を指す
※2:女性トラックドライバーを指す

「202030」を実現すべく、政府は従業員301人以上の企業と国や地方自治体に対し、新規採用や管理職に占める女性の比率などの数値目標を含む「行動計画」を作成し、公表を義務づける内容が盛り込まれた女性活躍推進法※3を制定した。また、「日本再興戦略改訂2014」では、女性活躍推進に取り組む企業を適切に評価し、公共調達における受注機会の増大を図ること等が盛り込まれた。つまり、一般競争入札の実施にあたり、価格や技術の評価に加えて女性が活躍しているかどうかも評価項目として加えるということだ。このように、企業に対する政府からの要請は今後ますます強まると予想される。

一方、日本における女性管理職比率は、課長級で7.7%、部長級で4.5%と低い水準である。政府からの要請に対して、この現状を何とかしなければならないという切迫感が企業のなかで強くなっている。女性管理職層を増やすことについては待ったなしの状況といえるだろう。

※3:正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」。平成28年4月1日から、労働者301人以上の大企業は、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などが新たに義務づけられることとなる。(出典:厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html

ところで、改めて女性をリーダー層に登用することの効果について少し触れておきたい。イリノイ大学の研究チームは、「人種の多様性とジェンダー(性別)の多様性は、共に企業の売上、顧客数、収益の増加に結びついている」との実証分析結果を発表している。また、コーネル大学Industrial and Labor Relations Schoolの研究論文では、「多様性の水準がある一定程度に達するまでは、企業の業績にマイナスの影響を及ぼすが、ある水準に達するとプラスの影響を及ぼすようになる」とし、果実を得るまでには一定の時間・労力を要するが、中長期視点でみたときに企業業績に資するものとなる、との実証分析結果を示している。加えて、日本企業においても女性リーダーがプロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションの起点となっている事例や外的評価の向上につながっている事例が少なからず出てきていることから、女性活躍の推進が、企業競争力の向上につながることは、もはや自明といえる。

均等法の成立とその後の企業の取り組み

さて、「古くて新しい問題」と述べたが、改めて均等法成立時の社会的背景を確認しておこう。

1975(昭和50)年の「国際婦人年」を契機に、国内外で男女差別撤廃の動きが始まり、その4年後の1979(昭和54)年、国際連合第34回総会において、「女子差別撤廃条約」が採択された。日本は翌年1980(昭和55)年に同条約に署名したものの、条約批准には雇用における男女平等を定める法の制定が必要であったため、政府は批准に向けて国内法制の整備に動き出した。また、この国際的な機運の高まりからか、日本国内で男女差別(主には賃金・昇進・昇格に関わる男女差別)をめぐる訴訟が増加していったのもこの時期であった。

そして、1985(昭和60)年5月に均等法が制定(翌年4月施行)され、同年7月に上述の「女子差別撤廃条約」が批准された。これらの背景に鑑みると、均等法は女性自身の意識の芽生えもさることながら、国際的な外圧により成立したといえる。とはいえ、均等法以前は募集要項に「容姿端麗」や「自宅通勤」(つまり男性社員のお嫁さん候補)など堂々と記載されていたわけで、それを思うと均等法成立は女性の社会進出の大きな第一歩であった。「結婚をし、子を産み、家庭責任を負う」という生き方しかほぼなかった女性が、独身で仕事に打ち込み充実感を得るという生き方、「DINKS」という生き方、育児と仕事との両立にトライする生き方、というように多様な選択肢を持てるようになったのだ。

次に、均等法以降の企業の取り組みを振り返ってみたい。

(1)女性総合職採用

均等法制定と同時に、大企業を中心に、仕事も待遇も男性と同じ条件で働く「女性総合職」採用が開始された。以前筆者は均等法第一世代の女性総合職にヒアリングを行ったことがあるが、当時彼女たちは「男の3倍働け」と上司からゲキを飛ばされてきたという。

たまたまヒアリングした方々には皆、お子さんがいたが、育児については祖父母に頼ったり、ベビーシッターを使ったりと、いわゆる「外注」をフル活用して乗り切ってきたという。「相当お金をつぎ込みましたよ~」と笑いながら話す方もいたが、彼女たちの出産・育児期である1990年代には既に保育所不足が社会問題となっており、相当苦労されたことがうかがえる。そういった状況のなか、仕事を優先させることを選んだ均等法第一世代は、結婚や子供を諦め、一方、家庭を持ちたいと願った均等法第一世代は仕事を諦めてきたようだ。

ただでさえ少ない「女性総合職」のなかでも、現在も新卒入社した会社で昇進の階段を登っているのは一握りであり、現在、執行役員に就き始めた女性はこの世代の数少ない生き残りである。大多数の均等法第一世代たちは、家庭責任を果たすためにキャリアを諦めることになった。

(2)働きやすい環境整備

家庭責任を放棄して仕事に打ち込む、ある意味「男性のように」仕事をしなければ女性がキャリアを継続できないという状況を改善すべく、次に企業が取り組んだのは、「働きやすい環境の整備」だ。具体的には、法定を超える育児休業・子の看護休暇、短時間勤務制度、地域限定社員等である。働き方の多様性を担保することで、能力のある人材を確保し適所に配置するという企業側の狙いで整備されたこれらの仕組みは、女性のキャリア断絶を防ぐということに対し一定の効果を出してきた。一方、その副作用として、これらの制度をフル活用し、いわゆる「マミートラック」に乗る女性が続出した。

これらの仕組みは女性が働き続けるうえで必須のものであることは間違いない。ただ、「適材」のパイを増やそうという企業の狙いは外れたといえる。

(3)男性も女性も意識改革

制度も環境も整えてきたところで、ネックとなっているのは女性の昇進意欲と女性を育てる男性管理職の意識だ。男性も女性も意識改革を行わねばならぬ、ということで、女性の昇進意欲・キャリア志向を高めるための集合研修の実施や他業種交流機会の創出、男性管理職に向けたダイバーシティマネジメント研修の実施等、当事者および周囲の意識を変え、行動を変えることを狙った施策を打つ企業は増えてきている。こういった施策を継続的に打っていくことは、即効性はないかもしれないが徐々に目的に対する効果が表れるだろう。そういった意味で、中長期的には非常に重要な施策であるといえるが、一方、繰り返すようだが結果が如実に表れるまでには一定の時間が必要である。

女性を「女性全体」として捉える限界

ここまで、均等法以降の企業の取り組みを振り返ってきて、女性が活躍するための仕組みや環境は、一部課題を残しつつも、ある程度整備されているといえる。しかしながら、女性管理職比率(課長級)の、ここ25年の伸びは4%程度である(図表1)。意識改革にまつわる施策はこれから効果をあげるかもしれないが、それにしても30年かけてこの有り様である。筆者はこの問題の正体は、女性を「女性全体」として捉えることにあると考える。言い換えると、管理職・経営層へのキャリアパス整備、働きやすい環境整備、意識改革等、女性全体に対する施策はもう出揃った感がある。管理職層を5年という短期間で増やしていくには、今いる女性社員の階層、能力、経験値を把握していき、個別に登用プランを立てていかなければ追いつかない。女性の場合、管理職プール人材が少ないので、男性のように例えば100人採用したら10人ぐらい管理職候補者が出ればいいね、というマネジメントができない。ゆえに、個人にフォーカスする必要がある。

つまり、これからは「女性を管理職に」ではなく、「○○部のAさんを管理職に」「△△部のBさんを管理職に」と、特定の個人を一本釣りすることが有効であると考える。加えて、今後女性管理職を安定的に一定数輩出していくためには、「男性型」の働き方でないと上へ進めないという見え方は効果的ではない。女性管理職母集団の働き方の多様性を高めることが肝要である。

図表1 役職別女性管理職割合の推移

注) 平成23年度の[ ]内の比率は岩手県、宮城県及び福島県をのぞく全国の結果。
出典:厚生労働省 平成25年度雇用均等基本調査
 

サクセッションプランに加え会社とライフの融合を

では、具体的にどのように一本釣りしていくかを提示したい。

管理職層および経営層へのパイプラインを構築していく。それぞれのレイヤーの人材プール(役員候補の人材プール、部長候補の人材プール等)に現在何人の女性がいて、○年後には何人となって、といった時間軸と目標人数を可視化していく。そして、「○年以内に、このポジションに引き上げるには、こういった経験を積ませなければならない」というシナリオを策定する。そのために、「これまで積んできた経験と、昇進するために足りない経験は何か」と、「昇進させるためには、どういう仕事・役割を、どのタイミングで担わせるのか」を明確にする。前提として本人の意思は欠かせないので、動機づけもしていく。いわゆるサクセッションプランだ。

これを確実なものとするためには、役員あるいは相応の力を持った管理職による、昇進を目的とした育成手法であるスポンサーシップが有効だ。メンター制度のような精神的なサポート機能に留まるのではなく、管理職昇進までの具体的な道筋を明らかにし、そこにコミットする。女性が管理職に就くためには、本人の努力(成果・能力)だけでは限界がある。組織の論理や仕組み、暗黙のルールを知り尽くした強力な支援者(スポンサー)が不可欠だ。昇進に関しては男性も同様だと考える人は多いかもしれない。しかし、女性の場合、上司の後押しを得て抜擢されたり、新たなチャレンジに引き合わせてもらったりといった機会が相対的に少ない。

スポンサーシップ・プログラムの例として、ドイツ銀行における取り組みが挙げられる。ドイツ銀行では、女性のシニアリーダーを増やすための取り組みとして、ATLAS(Accomplished Top Leaders Advancement Strategy)というプログラムを2009年から実施している。これは、同銀行のCEOが中心となって開始したもので、Group Executive Committeeがスポンサーとなり、異なる事業領域・地域から選出されたシニア層の女性社員に対して必要なキャリアに関する助言や昇進を勝ち取るためのサポートを行っている。結果、プログラム参加者の50%が新たな役割を担うようになっており、2013年にはマネージングディレクターもしくはディレクターレベルの女性が全体の18.7%を占めるようになっている。

ただし、サクセッションプランとスポンサーシップだけでは女性の場合はまだ不十分だ。女性版サクセッションプランを機能させるには、現在の私生活への配慮(家族構成、配偶者の転勤可能性等)と、将来のライフイベント予測(近いうちに結婚をする予定があるのか、第二子の希望があるのか等)への配慮が欠かせない。スポンシーとそういったことも話せるような強固な関係性を築くこともスポンサーの重要な任務とし、そのうえで、与える仕事、就かせる役割をプランニングしていき、必要な支援を打っていくべきだと考える(図表2)。

結婚観や家庭観など個人の価値観に企業が立ち入ることは一般によしとされていない。ただ、女性管理職を増やしていくことについてのブレイクスルーに向けたキーワードを探るとすれば、「会社とライフの融合」であると筆者は考える。その昔、日本企業においては上司が適齢期の社員に結婚相手を紹介したり、仲人を務めたりと、個人のプライベートに関わっていたことが多かった。ただ、いつ頃からかは定かではないが、会社と社員のウェットな関係を、特に若い世代が敬遠し出した。またセクハラ問題やプライバシー保護の意識の高まりにより、いつしか社員個人の「ライフ」と会社は、お互い入ってはいけない領域のようになった。しかしながら、自社人材の全部あるいは一部を1つの共同体の中で「仲間」として長期的に手厚く扱い、長期的なスパンにて有効に活用していく日本型人事においては、その分断はむしろマイナスに働くのではないか。これは女性だけに限ったことではなく、「大介護時代」を控えた今は、男性にも関わることである。

図表2 スポンサーシップにおけるスポンサーのミッション

女性活躍推進の先に見える世界とは?

最後に、女性活躍が進み、女性が管理職層の一定比率を占めるようになることで、日本企業がどう変わっていくのかを考えてみたい。本連載第1回にて、日本型人事メカニズムの強みの1つとして正社員コミュニティの「コミュニケーションコストの低さ」を挙げた。今回提唱した女性管理職というのは、例えばライフイベントを経て職場復帰した後に管理職になるような、これまでとは違うモデルで昇進し、経営の中枢に入っていく人材でありながら、暗黙知的な共通認識を有している人材である。つまり新しい血でありながら、これまでの良さも保持しているのである。このことが、日本企業をより強くしていくのではないだろうか。

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ニュースレター情報

Initiative Vol.85

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
マネジャー 桑原 由紀子
コンサルタント 関口 千恵

2015.09.28

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年5月号掲載)を転載したものです。

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