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現場力を強化する本社・人事部の役割

日本型人事のブレイクスルー 第6回

今回は、日本が転換期を迎えている領域の1つである「現場力」について、変わるべき要素と人事の関わり方の進化を考察していきたい。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.86)

なぜ今「現場力」を問い直す必要があるのか

製造業を中心に、日本の競争力を支えてきた力の1つに「現場力」がある。QC活動を代表として、現場が自律的に考え、行動することで、その遂行力・改善力を磨き上げてきた力である。かつて日本独自の強みであったこの力は、諸外国先進企業も脅威を感じ、「カイゼン」と名付けて学んでいった。

しかしながら、グローバル競争時代の現在においては、日本の現場力は必ずしも強みといえない状態になってしまっている。有名な大企業であってもコスト競争力の文脈から工場が閉鎖される例は少なくなく、閉鎖までは至らなくとも「技術部門と製造現場は進化しない部署」とレッテルを貼られている企業を多く見聞きする。現場力低下に関する課題は、何も今に始まったわけではない。バブル崩壊以降から、その兆候は見え始め、2000年以降は多くの企業で経営課題として捉えられ、何らかの取り組みが進められてきたはずだが、未だ解決されていない。

筆者は、現場力は大きく3つの要素から構成されると考えている(図表 1)。

3つとは、「遂行力」「改善力」「変化対応力」である。このうち「遂行力」と「改善力」の2つは現場主導で実施され、「変化対応力」は本社主導で実施されることが多い。今なお残る現場力の課題とは3つ目の「変化対応力」が十分に発揮されないことで起こっているように思える。現場には依然として世界に誇れるノウハウ、設備や人材が存在するにもかかわらず、向かっていく方向性がずれている、もしくは方向は合っていても時間軸が遅れていることで、グローバル競争で力を発揮できずにいるのではないだろうか。グローバル競争待ったなしの今、対策が喫緊に求められている。

図表 1 「現場力」とは何か

なぜ「変化対応」が進まないのか

まず、環境変化に対して必要な対応とは何かを述べたい。それは、環境変化を中長期的な未来まで見据えつつ、本社が方針を出し、現場がその必要性を理解し、必要な時間軸で施策を実行していくことである。本社が出すべき方針には、M&Aや海外現地工場の立ち上げ等の単発的なものと、国内を中心とした工場現場での強化策等の継続的なものがある。前者については、新聞等のメディアで見る機会も増えてきているように、近年加速してきている。一方で、国内を中心とした工場現場については、本社は方針を出しているものの、現場の変化が十分でないことが多い。

いくつかの企業に話を聞くと、その理由が見えてくる。本社側は、必要な目標を達成できるよう必死に方針を考えて、受け手側に伝わるよう表現にもこだわりながら資料を作成している。現場側も、今後の競争環境において今のままでは生き残っていけないという危機感を強く持ち、必要な施策についてこれまで以上に検討し、実施している。ただ、残念なことに、その間のコミュニケーションが十分に機能していない。本社の真意が現場に十分に伝わらず、現場の実態が本社に伝わらず、本社の方針と現場の施策が十分な連動性を確保できないでいることが多い。言ってみれば、現場・本社それぞれに課題があるというよりも、両者をつなぐコミュニケーションに問題がある状態だ。

コミュニケーションが機能しない3つの理由

では、なぜコミュニケーションが機能しないのか。理由は3つある(図表 2)。

1つ目は、現場に方針を受け取る余力がないからである。昨今の現場は工数的なゆとりがない場合がほとんどであり、管理職も事務業務に忙殺され、改善や人材育成といった本来業務が進まない。バブル崩壊後、1990年代はBPRブームが起こり、業務効率化・少人数化が進み、採用人数も抑制された。その後2000年に入り社会的要請からコンプライアンス強化等、現場の事務業務が増えた。さらに、コスト競争力強化の必要性が高まり、現場への増員は最小限に抑えられ、管理職を中心に業務負荷が高い状況が続いている。その結果、方針が降りてきても「作業をこなす」ことに手いっぱいで、「何が本当の目的で、なぜ必要なのか」と本質から考え直すゆとりがなくなっている。

2つ目は、本社方針が現場の実態を踏まえ切れていないからである。本社側は現場に受け入れてもらえるよう必死に考えている。しかし、残念ながら現場の実態把握が十分でないため、現場側からしてみると、目指す方向は分からなくもないが、どうやったら実現できるのか分からない具体性の低いものになっている。例えば、コスト競争力と安全について、それぞれの所管部署から目指す姿について方針が下りてくる。それぞれがその必要性を説明してくるものの、現場からすると両者のバランスをどう取るかが重要になる。新たな設備投資を抑制すべきなのか、事故リスクの低減に向けて老朽化した設備を補強すべきなのか、相反する課題を抱え込んでしまう。バランスを確保するためのリスクマトリクスのようなツールもあるが、閾値を判断するのは人間であり、判断が難しい場合が多い。これを本社の各所管部署へ相談すると別々の回答が返ってくる。また、このようなやりとりをしているにもかかわらず、次年度には同様に判断に困るような方針が落ちてくる。この繰り返しによって、現場は本社の方針を単なるスローガンと考えるようになってしまう。

3つ目は、方針を落とし込むプロセスが十分でないことである。方針が伝わる過程を分解してみると、まず本社から現場のトップへ伝達される。ここは、双方向でのコミュニケーションも図りながら実施される。次に、現場ミドルに対して、現場トップもしくは本社から方針が伝えられる。こちらも直接実施されることが多いが、多くの場合、受け手がどこまで理解したのかまでは十分に確認されないまま終わる。そのため、経営に近い目線のミドル、現場に近い目線のミドルが混在した状態で、理解の深さにバラつきが大きく残ったままになる。そして、ミドルら現場第一線に伝えられる際には、背景や意図が適切に理解されないまま、場合によっては現場が誤解する内容として伝達されていく。

図表2 コミュニケーションが機能しない理由

突破口となる3つの方策 その1

では、本社・現場間のコミュニケーションをどうすればいいのかを3つの方策から考えてみたい。1つ目は現場の負荷軽減、2つ目は中心的な橋渡し役となる現場ミドルマネジメントの強化、そして3つ目は新たなコミュニケーション担当の設置である(図表 3)。前2つは、切り口に目新しさはないが、実現方法は変化しつつある。3つ目は、変わらない現状の突破口となりうる要素である。

1つ目の現場の負荷軽減は、最初に実施すべき施策である。現場に余力がなければ、コミュニケーションのつなぎ方を整えたとしても、実行できないままである。多くの現場では過去すでに業務改革を実施し、無駄の削減は一通り終えている。それでも現場に入ると報告資料の作成、会議等、まだまだ削減すべき業務は数多く存在する。特に、本社向けの報告資料や、本社向けの会議が現場の負荷になっている場合が多い。現場内だけでなく、本社・現場間の視点から検討することが業務削減を進める糸口である。

図表3 コミュニケーションを活性化する3つの方法

突破口となる3つの方策 その2

2つ目は現場ミドルマネジメントの強化である。本社と現場のコミュニケーションを中心となってつなぐのは、やはり現場のミドルマネジメントである。現場ミドルマネジメントが経営目線で方針を理解し、現場が理解できるよう、意見を吸い上げ、統合して、導く会話をできるようになると、本社方針と現場施策の整合性は格段に向上する。ただ、どうやって強化するかとなると難しい。


1つの例として、ある海外企業の事例を紹介したい。その米国企業では、現場ミドルマネジメントのコミュニケーション力が現場のパフォーマンスを左右するという事実をデータからひも解き、現場ミドルのリーダーシップ育成に力を注いだ。特徴的なのは、大学卒総合職の課長層だけでなく、高卒・高専卒の班長層を含めて、1つ深い階層まで実施したことである。教育内容は、収益性・コスト感などを養う経営学的な要素に加え、周囲の人材の話を聞き、導くファシリテーションと、部下を育てていくコーチングも軸にした。この企業は成熟産業であり、職場の再活性化は難しいと思われていたが、これが功を奏し、現場でのやりがい・働きがいが高まり、変化対応への方針理解と活動促進が進んだ。また、「リーダー教育を受けられる」と評判になったことで、人材市場から優秀な候補者が集まるという副次的な効果も生まれた。

このように、リーダーシップ教育を後継者育成としてだけではなく、中間人材層に実施する企業は海外中心に増え始めている。コストを考えると決断が必要となるが、実施した企業では効果が証明されつつある。ただし、教育だけでは一過性に陥りやすいため、継続の仕掛けも同時に整備が欠かせない。役割と行動指針を明確に定義すること、そして、正しい行動を適切に評価される制度を整えること、の2点が必要である。

このとき、現場ミドルにだけ役割を負わせないことが重要である。すなわち、ミドル以外の階層で一貫性が取れていないと改革は止まる。例えば、全社的に「挑戦」を行動指針として掲げておきながら、「挑戦して失敗した部長よりも、リスクを取らない部長が役員になる」という現実があると誰も挑戦しなくなる。

突破口となる3つの方策 その3

3つ目は、本社所属の現場コミュニケーション担当の設置である。現場ミドルだけでは、どうしても残る理解のバラつきに対して、本社側の目線で方針を理解した人間が、工場間の違いも把握しながら、現場ミドルに対して理解度を確認して必要な追加策を実施していくという仕掛けである。1つの好事例は、人事ビジネスパートナーがこの役割を担うやり方である。ある日本企業では、いわゆる工場人事という拠点全員を対象とした労務管理担当に加えて、現場とのコミュニケーションを主業務とした人事担当を本社所属で工場側に設置している。彼らは、工場間をローテーションしながら、第一線の班長クラスと対話し、意見を吸い上げ、必要な改革を進めるための知恵出しを実施している。この担当者については、(1)本社所属の課長以上が就く、(2)工場を横串で担当する、(3)優秀な人材がなる、という3点を重視しているという(図表 4)。本社所属という立場は、必要な改革を推進するというミッションを明確に担い、必要な情報を各部から収集する権限を持ち、また、本社課長以上とすることで、工場課長以上の立ち位置で動けるメリットがある。次に工場を横串で担当することで、1つの工場に閉じない目線で情報が収集でき、横串で比較ができることによって、課題がある現場の特徴の特定と、良い取り組みの横展開を可能としている。最後に、この役割は言ってみれば社内コンサルタントであり、課題解決力とコミュニケーション力に優れた人材でないと機能しないため、優秀人材を配置することになる。このポジションについては、まだ一般化していない仕組みだが、非常にうまくいっているようである。

このように、本社・現場間のコミュニケーションを活性化するたえで、“つなぐ役割”を強化していくことが効果的である。特に人事ビジネスパートナーに新たな役割を担わせることは、新たな機運のきっかけになる。

図表4 現場人事ビジネスパートナーを機能させる3つの要諦

変化対応力を担う人事部門の役割とは

ここまで話してきたように、グローバル競争時代において、現場力は「変化対応力」が成否を分ける局面となってきている。変化対応力を高めるためには、必要な方針を現場に浸透させるための「コミュニケーション」整備が鍵となる。そのためには、現場の負荷軽減、現場ミドルマネジメント強化、そして「人事ビジネスパートナーの新たな役割設置」が効果的である。

取り組みの実現に向けては、人的仕掛けの比重が高い。現場力はこれまでは現場および事業部が変えていくべきものであったが、今後は、人事が一体となって取り組むことが突破口となる。人事部に期待される役割は大きい。現場に届く変化対応力を本社が発揮できるよう、取り組みを推進し、今一度世界に誇る日本の現場力を取り戻していただくことを切に願う。本稿がその一助になれば幸いである。

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〔PDF, 529KB〕

ニュースレター情報

Initiative Vol.86

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
シニアマネジャー 北郷 聡

2015.10.28

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年6月号掲載)を転載したものです。

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