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障がい者の活用を通じた企業価値の向上

日本型人事のブレイクスルー 第7回

今回は、ダイバーシティの一側面といえる「障がい者」を取り上げたうえで、その雇用・活用の仕方を通した企業価値の向上についてご紹介したい。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.87)

障がい者の雇用が強く求められている

本連載第5回(前々回)の記事では、日本型人事のブレイクスルーの一環として、ダイバーシティという文脈から女性活用のあり方に言及した。ダイバーシティは多くの日本企業が取り組んでいる重要テーマの1つといえるが、ジェンダーやナショナリティ以外の側面について十分に検討が進んでいる企業は多くないのではないだろうか。

本稿では、ダイバーシティの一側面といえる「障がい者」を取り上げたうえで、その雇用・活用の仕方を通した企業価値の向上についてご紹介したい。

今回、「障がい者」を取り上げる理由には、障がい者雇用を取り巻く環境の変化が挙げられる。民間企業における障がい者法定雇用率は平成25年4月1日より1.8%から2.0%に引き上げられている。
さらに、平成28年4月1日施行の改正障害者雇用促進法を受け、法定雇用率の算定基礎に新たに精神障がい者が含まれることとなり(これまでは身体障がい者・知的障がい者のみ)、さらなる障がい者雇用の促進が企業に求められている。
また、同法では、障害者権利条約(*)の批准を受け、(1) 障がい者に対する差別の禁止、(2) 合理的配慮の提供義務、(3) 苦情処理・紛争解決援助、といった環境改善措置が定められていることからも、障がい者を“量”の観点から雇用するだけでなく、“質”の観点から活用することも企業に求められ始めているといえるだろう。
また、労働力人口が減少傾向にあることからも、雇用義務が増す障がい者を活用すべきだと考える企業も多いのではないだろうか(図表1)。

上記の背景を受け、障がい者雇用の量を拡大するだけでなく、戦力人材と捉え、企業としてどのように活用するか、そしてその活用を通じて、どう企業価値を向上させていくか、そこに向けたアクションの方向性はどのようなものかについて、ご紹介していきたい。


(*) 障害者権利条約:障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定める条約です。この条約の主な内容としては、(1) 一般原則(障害者の尊厳、自律及び自立の尊重、無差別、社会への完全かつ効果的な参加及び包容等)、(2) 一般的義務(合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること等)、(3) 障害者の権利実現のための措置(身体の自由、拷問の禁止、表現の自由等の自由権的権利及び教育、労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定。社会権的権利の実現については漸進的に達成することを許容)、(4) 条約の実施のための仕組み(条約の実施及び監視のための国内の枠組みの設置。障害者の権利に関する委員会における各締約国からの報告の検討)、となっています。(以上、外務省HPより) 2015年4 月現在の批准国は154ヵ国にのぼる。

図表1 労働人口の見通しと障がい者の法定雇用率・実雇用率の推移

右から2番目の最大化アイコンをクリックすると全体が確認いただけます
(左図)出所:総務省統計局「労働力調査」、JILPT「平成19年労働力需給の推計」
(右図)出所:厚生労働省「障害者雇用状況の集計結果」

今後の課題は、知的障がい者の雇用

まず、民間企業における障がい者の雇用状況について全体観をご紹介したい。厚生労働省が発表している、民間企業や公的機関における『平成26年障害者雇用状況の集計結果』(図表2)を見ると、2001年から継続してこの15年間、 ほぼ右肩上がりで伸びてきていることが見て取れる。なかでも注目されるのは、2010年頃から雇用割合が急速に増えはじめている知的障がい者の雇用である。

この背景には、法改正により2006年以降、精神障がい者を「みなし雇用」(雇用義務の対象ではないが、身体障がい者または知的障がい者とみなす)として雇用率にカウントできるようになったという経緯がある。精神障がい者の雇用促進に伴い、急速に知的障がい者の雇用もまた促進したと考えられる。また、2005年に発達障害者支援法が施行され、知的障害を伴わない自閉症やアスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害などの症例についても申請により精神障害者保険福祉手帳を取得できるようになったことも、上記結果に影響を及ぼしているといえるだろう。

知的障がい者の雇用にあたっては、身体障がい者と異なり、「どのような障がいがあるのか分かりにくい」点に留意する必要がある。今後知的障がいを持つ人たちの雇用が進んでいくなかでは、障がいが分かりにくい彼ら/彼女らに対してどう配慮するのか、どう戦力として活用していくのかが大きな課題となっていくことが予想される。上記背景より、以降は、主に知的障がい者のケースを事例に、障がい者の活用を通じた企業価値の向上についてご紹介したい。

図表2 民間企業における障がい者の雇用状況

 出所:厚生労働省発表「平成26 年 障害者雇用状況の集計結果」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000066516.html

障がい者を戦力として意識することが重要

障がい者の活用を考えるうえで、まず大事なことは、「障がい者は戦力にならない」という意識・先入観の見直しである。障がい者の採用にあたり、“障がい者は仕事のペースがゆっくり”“複雑な仕事は難しい”といった考えを抱いていないだろうか。実際に障がい者雇用に携わる方からは、「シフトを急に休むことはないし、仕事に手抜きもしないから、長期的に見れば障がいを持つ社員のほうが、安定した品質を提供できる」という声も聞かれる。

これは、仕事の種類によっては、障がい者のほうがより高いアウトプットを出せるケースが存在することを示している。1 人ひとりの障がい者に合わせた得意な仕事を付与することで、より高いパフォーマンスを挙げていくこと自体は、多くの企業がふだん行っている適材適所の人材マネジメントと何も変わらない。
個々の特性を強みと弱みに客観的に捉え直したうえで、強みを最大化し弱みをカバーしていければ、障がい者を戦力として活用することは可能である(図表3・4)。

図表3 障がい者のさらなる活用に向けた考え方の変化

図表4  IT関連企業における、障がい者雇用の主な実績(※主に知的障がい者)

障がい者採用の3つのポイント

では、障がい者を戦力として活用するためには具体的にどのような取り組みをすれば良いのだろうか。本稿では、その取り組みを採用と育成に分けて紹介したいと思う。

まず、採用については、以下のポイントを挙げることができる。

(1) 可能であれば、複数人採用する

初めて障がい者の採用を行う企業の場合、まずは1 名採用してみてから様子を見つつ徐々に採用数を増やしていこうと考える企業が多い。しかし、障がい者にも個々人の特徴があることから、 1 名のみを採用して、その事例で成功と失敗とを判断すると誤認を招きかねない。一方で、複数人を採用すると、個々人の違いがよく理解でき、先述した、障がい者の強みと弱みのマネジメントを意識しやすくなる。

(2) 採用時には、障がい者本人の働く意欲を確認する

障がい者の採用において、面接時に障がい特性にばかりフォーカスして見極めを行ってしまうと、戦力化につながりにくく、注意が必要である。障がいの部位や等級にばかり注目すると「○○ができない」「○○の仕事は難しいのでは……」というネガティブな先入観につながりやすいので、採用時には「○○の仕事がしたい」という障がい者個々人が持つ働く意欲を確認することが重要である。働く意欲を具体的に確認することで、戦力となりうる仕事が社内に存在するのか、戦力となりうるだけの要素を本人が保持しているのかを見極めることができ、採用後の育成方法へのインプットも得られる。また、面接等には、入社後に業務を指導する予定の社員を同席させてもよいだろう。より具体的に採用後の仕事・育成のインプットが得られるだけでなく、当該社員のレディネスの向上にもつながる。

(3) 仕事内容、働き方を具体的に決定したうえで採用を決定する

障がい者を戦力として活用できている企業の多くは、採用決定の段階で、どんな仕事をどのような働き方でやってもらうかを具体的に決定している。ここで重要なことは“働き方を決定する”ということである。例えば、障がい者のなかには、短期間であれば高いアウトプットを出せるが、それが長期間に及ぶと難しくなってしまうケースがある。このような場合、通常の就業規則とは異なる休憩時間を付与するなどの配慮が必要となる。“働き方を決定する”ということに関しては次項で詳しくご紹介したい。

なお、上記のポイントを考える前に、まずはインターンシップとして障がい者を1 週間~ 1 ヵ月といった短期間受け入れてもよいだろう(トライアルの実施)。障がい者と一緒に仕事をするという感覚を味わうことで、障がい者を1 人の人材として捉え、そこに“強み”“弱み”があることに気がつくのではないだろうか。

障がい者の働き方に対するすぐにできる3つの支援

採用後、実際に障がい者が業務に従事する段階では、これまで述べてきたように、障がい者の“強み”“弱み”への配慮・支援が必要となる。具体的な支援方法は個々の特性に応じて異なるが、障がい者を戦力として活用している企業の多くが以下の点に配慮している。

(1) 見本を見せたうえで、1 つの仕事に集中させる

一般的に、障がい者は複数のタスクを同時に進めた場合、多くの情報を処理しきれずに混乱してしまうことが多い。また、作業の度
合いを「まあだいたいこんな感じかな」などと曖昧に伝えた場合、その程度が分からず、期待通りのアウトプットを出せなくなるケースもある。どこまでやればよいのかを一目瞭然で理解できるよう見本を示したうえで、まずは1 つの仕事に集中させることが望ましい。そして、 1 つの仕事が十分にできるようになってから、仕事の幅を広げていくとよいだろう。

(2) 仕事上の時間(主に優先順位と期限)を明確に伝える

曖昧な時間の提示は、障がい者を混乱させてしまう。例えば、「すぐにやっておいて」「これはそんなに急がないよ」といった業務指示では、そのニュアンスを障がい者はつかみづらいことが多い。このような場合、「13時までにやっておいて」「前にお願いした○○の業務を終え、私に状況を報告してから、△△の業務を進めて」というように、業務の優先順位と期限を明確に(誰もが同じように理解するように)伝える必要がある。

(3) 指示する人/質問を受ける人を固定化する(できれば同一人物が望ましい)

業務に応じて複数の人から指示を受け、様々な人に臨機応変に質問するということが、障がい者にとって非常に難しい行為である可能性がある。このような状態を回避するには、指示・命令系統を分かりやすく設定する必要がある。障がい者に対して業務指示を出す、質問を受ける人をなるべく同一人物とすることで、障がい者は混乱することなく、業務を進められるだろう。また、席にいる際には当該従業員が質問をいつでも受けられる状態にしておくことが重要である。障がいの内容によっては、質問を受ける人物の忙しさ等を配慮できないケースもあるからである。また、障がい者は通常の業務のなかから自身の仕事ぶりをセルフモニタリングすることが難しいケースが多いことから、1 ~3 ヵ月程度の短いサイクルで仕事ぶりの振り返りを公的に行う場を設けるとよいだろう。もちろんそれに応じて勤務時間を変更していく等の配慮は必要になるだろう。

障がい者雇用の新たなステップ:戦力としての活用から、企業価値全体の向上へ

ここまでの内容から、「障がい者を戦力化するのは大変だ」と思われる読者の方も多いのではないだろうか。しかし、障がい者に限らず、そもそも人の雇用自体が難しい。本来、人材を採用し活用するには、障がい者であってもなくても個々人の特性と仕事とのミスマッチを防いでいくことが重要である。

図表1 で紹介したように、障がい者雇用の数自体は着実に増えているし、実際、戦力として活用できている企業も少なくない。障がい者の活用段階でいえば、Stage 2 まで進んできている企業が増えつつあるのではないかと推察される(図表5)。本稿における採用・働き方の支援のポイントを実行できている企業は図表5のStage 2 に相当すると考えられる。

そして、障がい者活用が継続され、企業に定着することが、単に障がい者を戦力化するだけでなく、企業全体の価値向上につながると考えられる。この企業全体の価値向上の実現こそが、障がい者雇用の究極のゴールといえるだろう。最後にこのゴールイメージについて簡単に触れ、本稿を終えることとしたい。

図表5 障がい者の活用段階

まとめ

○ あらゆる個性に対応しうる働き方の達成

⇒ 障がい者は1 人ひとり、能力の凹凸が激しいことから、就業環境のフレキシブルな調整が求められる。同時にそれは、誰にでも当てはまる課題であることを理解する必要がある。ダイバーシティの対象となりやすい女性・外国人は、男性・日本人と比較して就業環境の調整が行われていると見ることができる。つまり、障がい者が働きやすい雇用を継続的に実現しうる企業は、あらゆる従業員の強み・弱みをマネジメント可能な企業に変貌する可能性を秘めている。その達成が、企業にとっての様々な価値向上につながることは明らかであろう。

○ 障がい者雇用を機会とした企業主導による社会ルールの形成

⇒ 女性活用において、ウォルマートは女性活用率が一定確率以上の企業と優先的に売買の契約を締結する等のアクションを通して、一企業に留まらない取り組みを推進している。
(出所:合同会社 西友 ニュースリリース)
そうすることで、女性活用が企業にとって意義があることを自ら発信し社会全体を巻き込んでいる。障がい者雇用においても同様の取り組みが考えられる。
例えば、障がい者雇用率を基準に、取引先を選択する、入社したい会社として選択されるというケースを考えてみていただきたい。障がい者雇用が企業価値を向上しうることを他社にも動機づけ、一企業に留まらない社会全体でのルール形成につなげてはいかがだろうか。

○ 広範な多様性を配慮して活かし、企業価値を高める

⇒ 障がい者を戦力として活用しようとする際に押さえるべきポイントは、障がいのない社員に対するポイントとほぼ変わらない。障がい者雇用で成果をあげている企業は、例外なく社員のモチベーションが高く、また、商品やサービスに対する信頼性も高いとされる。それは、障がいだけではない従業員の様々な多様性に配慮する組織が形成されているからではないだろうか。社内での多様性の配慮がサポートし合う環境を作ることにより、それが顧客へのサポートに拡大していくこともあるのではないだろうか。


法的な観点、労働力の観点から障がい者雇用に取り組もうとする企業は今後も増えていくと予想される。障がい者を戦力とすることだけでなく、障がい者雇用を通じた新たな雇用の仕組み形成までを視野に入れた取り組みを進めることが、今後必要となってくるのではないだろうか。

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〔PDF, 531KB〕

ニュースレター情報

Initiative Vol.87

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
マネジャー 高柳 良和
マネジャー 沖津 泰彦
コンサルタント 尾後貫 鈴奈

2016.2.24

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年7月号掲載)を転載したものです。

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