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デジタル時代の人材マネジメント

日本型人事のブレイクスルー 第8回

新しいデバイスの登場、クラウド、ソーシャル、ビッグデータ分析、IoT等に代表されるように、デジタルテクノロジーを用いた事業展開が進んでおり、これらを使いこなすことがビジネスに必要不可欠な時代が到来している。今回は、デジタル技術への適合性が高いとされる「デジタルネイティブ」についてご紹介したい。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.88)

これからのビジネスにデジタルテクノロジーは不可欠

スマートフォン、タブレットなどの新しいデバイスの登場、クラウド、ソーシャル、ビッグデータ分析等に代表されるように、デジタルテクノロジーを用いた事業展開が進んでおり、企業活動への影響が目に見えるまで進んでいる。
また、従来のデバイスに限定されてないインターネットの拡大が予測されており(IoT: Internet of Things)、デジタルテクノロジーを使いこなすことがビジネスに必要不可欠な時代が到来している。

デジタルテクノロジーを使いこなすには、デジタルテクノロジーへの深い理解に基づいて、ビジネスにイノベーションを起こせる人材が必要だが、そのような人材の活用には様々な問いがつきまとう。
「デジタル人材はそもそもどこにいるのか」「現有のIT人材は活用できるのか」といった入口の議論を越えることさえ難しいケースがある。
そこで、デジタル技術への適合性が高いとされる「デジタルネイティブ」が、有力な人材の候補として挙がってくる。

デジタルネイティブの特性と日本型人事管理とのギャップ

デジタルネイティブとは、生まれた頃からパソコンやインターネットが身近にあり、SNS等を介したコミュニケーションに親しんできた世代を意味している。

米国では一般に「ジェネレーションZ」を指すことが多く、日本では「ポスト団塊Jr.」や「ゆとり世代」に相当する(図表 1)。
個人差はあるものの、この世代は、スマートフォンやタブレット上でアプリを使いこなすなど、テクノロジーが日常生活の一部となっており、技術変化に適応し、応用して新しい価値を生み出すことに意欲的だといわれている。

デジタルネイティブは、仕事への価値観でも、これまでの世代と異なる特性を有している。就職先企業を選ぶ際に企業の将来性や給与・福利厚生等の処遇を重視し、また、条件次第では別の企業に移ることも厭わない等、シビアな判断を行う傾向がある(図表2・3)。

また、デロイトが行った調査(Deloitte Millennial Survey 2015他)によると、デジタルネイティブの組織や仕事に対する考え方は図表4のようにまとめられる。

これは、Employee Value Propositionと呼ばれる企業の従業員に対する訴求価値を検討する際に用いられるフレームワークに順じて作成したものであり、「個性」や「ダイバーシティ」、さらに「自発的」といったキーワードが目を引く。このようなデジタルネイティブの価値観を見ると、日本企業で主流となっている大量の従業員を集合的・画一的に扱う人事管理にハメることは容易ではないと考えられる。
デジタルネイティブが活躍するための仕組み・その仕組みが効果的に動くための土壌作りが喫緊の課題といえるのではないか。

図表1 日米世代別 価値観や働き方の志向性

図表2 就職先企業を選ぶ際に重視するベスト5

出所:「2016 年度 日経就職ナビ 学生モニター調査結果(2015 年1 月発行)」
「2012 年度 日経就職ナビ 学生モニター調査結果(2010 年 11月発行)」
「就職先企業を選ぶ際に重視する点 」をもとにデロイト トーマツ コンサルティング編集
 

図表3 日米世代別 価値観や働き方の志向性

出所:「2014 年度新入社員秋の意識調査」 公益財団法人 日本生産性本部

図表4 デジタルネイティブの企業や仕事に対する価値観(Deloitte Employee Value Propositionにより整理)

出所:Deloitte Millennium Survey 2015等を参考にデロイト トーマツ コンサルティング作成

なぜ今のビジネスには、デジタルネイティブが必要といえるのか?

(1)「タレント」としてのデジタルネイティブ

パソコンに代わるモバイルデバイスの普及ならびにクラウド、ビッグデータ等のテクノロジーの進歩によってビジネスおよび業務は劇的に変化している。すでに先進的なグローバル企業では、テクノロジーと事業を一体不可分として捉え、戦略を構想し、実行するための組織設計や人材の活用に着手している。

例えば、自社のテクノロジーの強化のみならず、テクノロジーを通じた事業戦略の構想・実行に責任を負うChief Digital Officer(CDO) を、CEOやCFOと同様に設置し、経営とテクノロジーの一体性をより高めようとする企業も出てきている。
もっとも、M&Aや事業提携を行えば、新たなテクノロジー自体をそれほどの労力をかけることなく自社に取り込むことはできる。
しかし、イノベーションを創出し、競合相手の機先を制するためには、組織や人材の整備が必要であり、中長期的な視点でいえば自前での人材の活用が望ましい。
よって、テクノロジーへの親和性が高く、新たなアイデアの創出が期待できるデジタルネイティブから、いかに優秀な人材を確保できるかが、企業の競争優位の向上につながるといえる。


(2)「消費者」としてのデジタルネイティブ

もう1 つの視点は、消費者としての顔である。例えば1990年以降生まれに限っても人口の2 割以上を占めており、今後、遠くない将来にデジタルネイティブが、消費者の多数派を形成していくと予測される。
その際には、この世代の価値観・行動特性やニーズに対応した商品・サービスの開発ならびにマーケティングの構想が必要になる。
ある海外の銀行では、従来の対面型販売にとらわれることなく、デジタルネイティブをターゲットにFacebook支店を開設。別の銀行の事例では、18歳~ 28歳を狙った金融サービスを開発。若者向けの金融サービスをうたい、豊富なカスタマイズ機能や特典を盛り込んだサービスを開発し、若者が足を踏み入れやすいユニークな店舗づくりに注力している。
デジタルネイティブの台頭により、消費者の価値観や行動特性は、絶えず変化している。競争相手より優位に立つためには、消費者の変化を機敏に捉え、テクノロジーを活用してサービスを開発できる人材を、若い世代から獲得し、活用していくことが重要となる。
「若い世代のほうが賢い」(“Young People are Just Smarter”)。Facebookのマーク・ザッカーバーグの発言に表されるように、新しいテクノロジーを自然に、そして、貪欲に学ぶ若い人材を自社にて育み、活躍の場を与えていくことが市場競争を戦ううえでの鍵になりそうだ。

デジタルネイティブ活用のアプローチ

デジタルネイティブの活用では、根本的な価値観の違いを認めて特有の才能を活かす新しい人材マネジメントが求められる。デロイトでは、要員計画・採用・能力開発・評価と退職抑制の各段階ごとに、デジタルネイティブの価値観を認め、その才能を活かす新しい人材マネジメントを提唱している(図表5)。

■ 段階1 :要員計画

計画段階では、期待する役割や動き方を再定義することが重要だ。幼少期からパソコンやスマートフォンに慣れ親しみ、新しい情報技術と親和性があるデジタルネイティブの特性を事業の推進に最大限に活用するためには、従来組織になかった役割や動き方の定義が求められる。
事業部では、オムニチャネルなどに代表されるオンライン販売やマーケティングを推進する役割等、得意分野における役割定義が考えられる。
新たな役割の創出は、事業部に限られず、例えば、人事部内でも同様の取り組みができる(例:モバイルやゲーミフィケーションを活用した研修コンテンツの作成や、SNSを活用したダイレクト採用の推進、等)。
先進的な企業では、デジタルの活用を専門とした部隊を設置している例がある。現組織で新たに役割を作ることが難しい場合は、専門組織に人材を集中するような手段も採りうる。

■ 段階2 :採用

採用では、FacebookをはじめとするSNSを介した採用チャネルの強化や、SNSでの露出を意識したブランディングの強化等、デジタルネイティブの価値観にヒットする採用への転換が必要となる。
デジタルネイティブはSNSを活用したコミュニケーションを重視する傾向があり、そこから得られた口コミなどの情報も踏まえながら様々な判断を行っている。実際に、面接や筆記試験の内容をSNS上で共有し、応募の判断や試験の対策を立てることが新卒学生の間では当たり前に行われている。
また、仕事に対してはやりがい重視で個性や社会性を求める傾向が強いという特性を考慮した企業側からのメッセージ発信が重要だ。メッセージ発信を通じて、入社後のイメージを具体的に抱かせる工夫が求められる(「個性を活かせる職場」「会社で実現したいことが達成できる」期待感、等)。
具体的には、FacebookやLinkedInなどを通したダイレクト採用の強化・拡充、有効な採用メッセージ発信による認知度向上と良質な採用母集団の形成が求められる。また、既存の社員からの紹介・推薦などによるリファーラル採用も個人同士のネットワークを重視するデジタルネイティブには有効といえる。

■ 段階3 :能力開発

能力開発では、プロフェッショナルスキル研修、OJT、働き方(職場環境整備)がポイントになる。デジタルネイティブは、自らのやりがいやキャリア、生活の実現について強いこだわりがあり、興味のあるスキルの習得には非常に貪欲だ。自らの志向に沿った専門的なスキル獲得・向上の機会を提供することで、能力開発の効果およびモチベーションの向上が期待できる。
一方、職場の関係性では、フラットな関係を好む傾向がある。OJTは旧来の徒弟制度のような上下の「タテ」関係ではなく、寄り添う形の「ナナメ」や「ヨコ」の関係が望ましい。
働き方(職場環境整備)でも、プライベートを重視し、いつでもどこからでも働ける職場環境を望む傾向が強い。「9 時出社、18時退社が基本。ただし、残業は日常的」といった環境では生産性が上がらないばかりか、モチベーション低下や退職リスクの増大が懸念される。今後は、従業員満足度と生産性を高める観点から、働く時間と場所を柔軟に選択できる環境の整備がより一層必要だ。具体例として、1 日限定の在宅勤務制度、フレックスタイム制度の拡充、成果にコミットすることで基本給を減額しない短時間勤務制度の整備等が考えられる。

■ 段階4 :評価・退職抑制

評価・退職抑制では、チェックイン式のフィードバック、モチベーション向上策、Know-whoネットワークコミュニティ強化などが重要となる。この世代は、明確な理由を重視する傾向があり、短期間で日常的な成果や能力の改善に関する意見交換を行うチェックイン式フィードバックは、有効なマネジメント手段となりうる。
また、モチベーション向上策としては、オフィス環境をいかに魅力的にするかが改めて重要視されている。米国西海岸では、オフィスを魅力的にして優秀な人材を獲得・確保することが主流になっており、魅力的なオフィスでなければ採用が難しい状況だ。実際に、デロイトと取引関係がある米国企業が日本に進出するにあたり、立地環境を重視して表参道や青山などの若い世代に魅力的な立地を選定し、従業員が快適に過ごせるようにコミュニティスペースを盛り込む等、従業員へのホスピタリティを配慮した設計を行っている。
また、デジタルネイティブは、人との出会いや関係性を重視していることから、例えば、定期的な従業員同士の交流の場を意図的に作り、従業員が積極的にKnow-whoネットワークコミュニティを強化する仕組みを作っていくことも求められる。

図表5 デジタルネイティブの人材マネジメントサイクル

デジタルネイティブを迎え入れ、活かす事例

このように、デジタルネイティブを活用していくには、行動特性や価値観を尊重し、彼らが活き活きと働ける新しい人材マネジメントに則った労働環境の整備が重要である。
業態を急拡大させているネットベンチャーの採用事例、そして、そのような人材を迎え入れている事例の2 つを紹介したい。

■ 事例1 :業態を急拡大させているネットベンチャー

この企業では、独自のインターネットサービスを展開しており、近年は海外での展開に力を入れている。事業の展開スピードを維持・加速していくため、優秀な人材、特にエンジニアの獲得・引き留め策の強化を迫られていた。そこでデジタルネイティブをターゲットに、職場の魅力を訴求できるポイントを前述の4 つの段階で精査し、メッセージやコンテンツの魅力・正確性を向上させた。併せて採用ウェブサイトを含め掲載媒体の見直しを検討した。
また、採用チャネルについても、デジタルネイティブの特性を踏まえて、LinkedInなどのダイレクト採用や社内からの紹介などによるリファーラル採用を強化するなど、採用方法の多様化を図ることで、より効果的な採用の実現を目指した。

■ 事例2 :デロイト(Deloitte Digital)

では、具体的に、デジタルに強い人材を迎え入れる際にどのような取り組みが行われるのか。デロイトでは、デジタルテクノロジーのビジネス領域への活用をグローバル規模で推進しており、デジタルへの造詣の深いクリエイティブ人材を外部から迎え入れた。
そのような人材は、現有の経営およびITコンサルタントと異なる特性を有しているため、魅力的な職場として映るように、新たな環境を整備した。これには、服飾規定を含む就業規則、採用基準、評価、労働環境等、幅広い課題への取り組みに及んだ。具体的には、服飾規定ではスーツにこだわらずカジュアルな服装を許容した。採用では、従来のコンサルタント職とは異なる基準を適用し、併せて自由かつ広いオフィス環境を準備した。
しかしながら、異質な人材を社内に迎え、異なる環境を用意することに対しては慎重な声が挙がった(比較的フラット・柔軟な組織で動いているコンサルティング会社であるにもかかわらず)。そのような声に対しては、「デジタルの切り口でコンサルティングビジネスにイノベーションをもたらす」といった目的を明確に伝え、社内の合意形成を図った。

働き方の文化や、そもそものビジネスモデルの違いにより、従来のコンサルタントとの協働が難しい場面はあるものの、組織があえて多様性を受容し“異質なもの”を取り込むことによって、ビジネスにイノベーションを創出する仕掛け作りに挑んでいる。

生き残りのためにデジタルネイティブの活用を

図表6 は、日米においてエクセレントカンパニーの寿命がいかに縮んでいるかを示したものだ。競争の激化により、「エクセレントカンパニー」と呼ばれる企業の生き残りが困難であることが分かる。

企業は、持続的な成長を行ううえでは、絶えずイノベーションによって「ブレークスルー」を起こしていく必要があり、その糸口として、デジタルネイティブの活用を考えてみてはいかがであろうか。

図表6 日米のエクセレントカンパニーの入れ替わりの推移

出所:フォーチュン500に関する分析結果
http://www.aei.org/publication/fortune-500-firms-in-1955-vs-2014-89-are-gone-and-were-all-better-off-because-of-that-dynamic-creative-destruction/
https://www.constellationr.com/research/elements-business-architecture-digital-transformation
 東証第1部のデータは Bloomberg SPEEDA 等のデータをもとに
デロイト トーマツ コンサルティングが試算
 

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〔PDF, 1040KB〕

ニュースレター情報

Initiative Vol.88

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
マネジャー 田中 公康
シニアコンサルタント 平野 圭祐

2016.4.18

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年8月号掲載)を転載したものです。

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