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多様化と流動化への本格的なチャレンジが始まる

日本型人事のブレイクスルー 第12回

これまで11回にわたり「日本型人事のブレイクスルー」と題して、デロイト トーマツ コンサルティングの各コンサルタントが、様々な観点から日本型人事に関する強みと課題、課題解決に向けた施策について提言を行ってきた。最終回では、これまでの各回を振り返り本連載のまとめとしたい。

第1回:「日本型人事」の強さと限界

日本型人事のこれまでの強みは「正社員のコミュニティ内活用と非正社員のフレキシブル活用による組み合わせ(イイトコドリ)」であると整理した。正社員コミュニティ内におけるコミュニケーションコストの低さや経営環境に合わせた非正規社員の労働力調整がその代表例であり、日本企業の安定経営に貢献してきたといえるが、今後、社会・企業内における構造的な要員構造の変化により、この強みが維持できなくなる可能性があることを示唆した。社会的な課題としては国民の高齢化と中長期的な労働力人口の減少の進行を背景に、シニア世代の活用増加により定年制や年次管理を中心とした正社員の安定的なマネジメントが崩れる可能性があり、非正規社員の人材獲得競争が激化して労働力調整の機能が損なわれる可能性も高い。企業内の課題としては、ワイングラス型・変形菱形といったミドル層を中心とした要員構成の歪みが、ミドル層自身の将来的な不活性シニア化のみならず、その下の世代の育成・活用へ悪影響を及ぼし始めている。

これら構造的な課題への対応として、オープンタレントマネジメントと多様な人的資産の活用という方向性を示唆した。

 

第2回:「シニア人材」を活かす仕組みとは

日本全体の要員構造が高齢化していることを踏まえ、特にシニア層(60歳以上)の人材活用に焦点を当てた。2055年には日本の人口の2 人に1 人がシニアとなる世の中において、シニア活用を考えることは不可避であるとしたうえで、現状よく見られるシニア層の活用を、(1)専門性発揮型、(2)現業継続型、(3)単純労働型、に整理した。現状では(2)と(3)が中心となるが、(2)は新入社員の成長機会を奪い、(3)はモチベーション毀損による不活性シニア化を招く可能性があるといった課題を提示した。

課題解決のためには、シニアのための「職域開発」が必要であり、シニアならではの知見・経験を活かした(1)既存業務掘り起し、効率性の向上を企図した(2)外部委託業務の内製化、地方や海外での活躍を目指した(3)新規領域の開拓、さらには、それらをより統合的に加速する方策として、シニア層コミュニティの形成を提言した。

 

第3回:「ミドル層(バブル層)」の今とこれから

主に大企業において過去に大量採用があり、現在でも人員ボリュームが多いミドル層の活用に焦点を当てた。この層は10~15年後にはシニア層に入るため、何もせずにいると不活性シニアの増加リスクもある一方、将来の労働力減少や優秀層の流出(特に国外企業への技術者流出)を踏まえると一律的な人員削減もリスクが高いというジレンマが課題であると整理した。一方、ベンチャーや中小企業では慢性的な人材不足が続いており、それが日本におけるイノベーション創出や事業継続の足かせにもなっている。

そこで、国全体としての人材の需給ギャップを解決することを企図し、大企業のミドル層がベンチャーや中小企業において活躍するスキーム、すなわち、従来の“社内使い回し型モデル”から“社内外循環型モデル(オープンタレントマネジメント)”への人材活用の考え方の転換が必要であると提言した。その実現のための取り組みとして、(1)人材の活用の場をオープンにする(社外のベンチャー・中小企業・NPO等の活用)、(2)失敗を恐れないチャレンジングな風土を作る、(3)「自社の成長=利益の拡大」という視点だけではなく「自社の成長=社会・経済への貢献により自社のレピュテーション・ブランド価値を高める」という視点を持つ、という3つの考え方を提示した。

 

第4回:企業グループ人材マネジメントのあり方

グループ経営におけるグループ内の多様な人材の活用について、グローバル企業との比較から考察を試みた。これまでの日本企業におけるグループ経営は、親会社が中心となることで強力なガバナンスを敷き、求心力を高めて一体感のある経営を実現してきており、「社籍軸の人事管理」と「職能型人事管理」による親会社・中核事業会社を中心とした人材マネジメントがそのベースとなってきた。しかし、今後、労働力人口の減少への対応や複雑化した経営課題に対処できる多様な経験を積んだ人材を確保するためには、子会社も含めグループ内に保有する人材を最大限活用することが課題であると整理した。

欧米のグローバル企業は各エンティティに閉じることなく全社に裾野を広げて、その中から人材を選抜・登用しており、社籍にこだわらずより大きな企業グループとして広い範囲から人材を集めるため、母集団自体が大きく優秀な人材も集めやすい環境を構築できている。日本企業が一気にそこへ移行することは難しいが、グループ各社から人材プールを持株会社に集約してグループ内への配置を行いやすくした事例や、グループ各社社籍の区分にこだわらずグループ内から広く優秀な人材を集め、親会社で集中的に配置・育成を行う事例など、新しいグループ人材マネジメントのあり方を提言した。

 

第5回:「女性活躍推進」の先に見えてくるものとは

昨今高い関心を集めている女性活用は「古くて新しい問題」であるとしたうえで、男女雇用機会均等法施行以前から現在まで、女性を取り巻く環境や施策の振り返りを行った。これまで、女性総合職採用・働きやすい環境の整備・男女の意識改革など、課題は残しつつも施策は整備されている一方で、女性管理職比率の伸びは芳しくない。

女性管理職層を政府目標である2020年までに短期間で増やしていくには、女性を「女性全体」として捉えるのではなく個人にフォーカスすること、つまり、在籍する女性社員の階層・能力・経験値を把握していき、個別に登用プランを立てていく必要があると整理した。具体的には、サクセッションプランの明確化および、役員あるいは相応の力を持った管理職による、昇進を目的とした育成手法であるスポンサーシップの有効性について、他社先行事例も含めて提示した。さらに、女性版サクセッションプランを機能させるためには、現在の私生活への配慮や将来のライフイベント予測が必要であり、「会社とライフの融合」を進められるようなスポンサーと本人との強固な人間関係の構築が求められると提言した。

 

第6回:現場力を強化する本社・人事部の役割

少し視点を変え、日本企業の強みである現場力の再強化について考察した。グローバル競争を進めるうえで、現場の遂行力・改善力のみならず、中長期の変化を見据えて先んじて手を打つ力である「変化対応力」が成否を分ける局面となってきている。しかしながら本社が立案する戦略・方針を現場に浸透させるためのコミュニケーションがうまく機能していないことが課題であると整理した。その原因として、(1)現場に方針を受け取る余力がない、(2)本社方針が現場実態を踏まえ切れていない、(3)方針を落とし込むプロセスが十分でない、などの理由が想定される。

コミュニケーションを強化するためには、現場の負荷軽減・現場ミドルマネジメント強化に加え、人事部門が主導するべき「人事ビジネスパートナーの新たな役割設置」が効果的であることについて、他社事例も含めて提言した。

 

第7回:障がい者の活用を通じた企業価値の向上

ダイバーシティにおいて女性活用と並んで重要度が高まっている障がい者に焦点を当てた。特に知的障がい者については、雇用が増加しているとともに平成28年4月1日施行の改正障害者雇用促進法により今後さらに注目度が高まると想定されることから、その雇用・活用の仕方を通した企業価値の向上について考察した。知的障がい者は、身体障がい者と比して障がいが分かりにくいが、仕事の種類によっては障がい者のほうがより高いアウトプットを出せるケースが存在し、企業側が戦力として活用するという意識をより強く持つことが課題であると整理した。

また、戦力化に向けた採用と育成の具体的なポイントを提示したうえで、障がい者雇用を通じた企業価値向上の姿として、(1)障がい者が働きやすい雇用を継続的に実現しうる企業は、あらゆる従業員の強み・弱みをマネジメント可能な企業に変貌する可能性があること、(2)障がい者雇用率を基準に取引先を選択する、入社したい会社として選択されるというように、障がい者雇用を通じた企業価値の向上を社会全体のルール形成につなげられる可能性があること、(3)社内での多様性の配慮がサポートし合う環境を作ることにより、それが顧客へのサポートに拡大していく可能性もあること、の3つを提示した。

 

第8回:デジタル時代の人材マネジメント

これまで(シニア、ミドル、女性、障がい者等)とは異なる切り口として「デジタルネイティブ」を扱った。テクノロジーを用いた事業展開が急速に進んでいるなか、デジタルテクノロジーへの深い理解に基づいて、ビジネスにイノベーションを起こすことのできる人材の候補が「デジタルネイティブ」である。生まれた頃からパソコンやインターネットが身近にあり、SNS等を介したコミュニケーションに親しんできた世代であり、やりがい重視で仕事に個性や社会性を求める等の価値観を見ると、日本企業で主流となっている大量の従業員を集合的・画一的に扱う人事管理にハメることは容易ではなく、個々人が活躍するための仕組みやその仕組みが効果的に動くための土壌作りが喫緊の課題であると整理した。

新たな人材マネジメントの方策について、当社グループのDeloitte Digitalも含めた事例を交えながら、採用においてはSNSにおけるブランディング、やりがい・社会性重視という特性を考慮したメッセージ発信、また、能力開発や働き方においては志向に沿った専門的なスキル獲得・向上の機会提供、職場でのヨコ・ナナメでの関係作り、働く時間と場所の柔軟な選択等の施策を提示した。また、評価・退職抑制においては、日常的な成果や能力の改善に関する意見交換を行うチェックイン式フィードバックやオフィス環境も含めたコミュニケーションの場作りが重要であると提示した。

 

第9回:変革期を迎えた日本型労務管理の今後

海外進出・グローバル化の進展に伴い転換期を迎えている日本企業の労務管理に焦点を当てた。日本型労務管理の強みは、労使協調路線等を通じた安定的な従業員コミュニケーションを前提とし、労働者や労働環境・就業条件等をきめ細かく、かつ丁寧に管理することを通じて労務リスクを最小化することであり、商品やサービスレベルの品質維持・向上にもつながるものであると整理した。しかし、海外拠点の現地化推進により拠点の状況がブラックボックス化して深刻な状況になるまで変化に気づけない事態も想定されるとともに、日本型労務管理の手法やノウハウを現地プロパー従業員に十分に委譲しきれず、労務管理上の抑止がきかなくなる恐れも発生している。

具体的な施策としては、ガバナンス強化・様々な情報ソースを通じた見える化・労務管理ノウハウの明文化など、労務担当者の属人的な経験やノウハウに依存するのではなく、特定の海外拠点での有事発生に個別対応するのではなく、仕組みで管理し高度に標準化された危機対応をとっていくことが今後の潮流となっていくのではないかと提言した。さらに、従業員の区分・ニーズが多様化するなかで、労務担当者の多様化も同時に進めることが望ましいと提示した。

 

第10回:古くて新しい課題「リーダー育成」

デロイトが実施しているサーベイ『グローバル ヒューマン キャピタル トレンド2015』において、重要度がトップ(にもかかわらず対応度が不十分)という結果になっているリーダー育成について考察した。リーダーに求められる資質やコミュニケーション技術は時代に応じて変遷しており、特にこれからの日本企業の経営テーマは、コアコンピタンスへの集中や効率化から、イノベーションや新たな価値の創造といった未来志向の活動へシフトしているなかで、育成という観点からは人事部門はその変化に対して課題意識は持ちながらも十分に対応できていないと思われる。

今後、リーダー育成において人事が取り組むべき主な課題は、(1)リーダーとフォロワーの関係が、従来の上下関係から「感性」や「思い」といった感情面を共有しお互いに影響を与え合う関係に変わったことに対して、テクノロジー活用や情報発信力の育成を含むリーダーの能力開発の仕組みをどのように構築するか、(2)将来を嘱望されるリーダーを自組織内に閉じ込めすぎず、リーダーの視野を広げるための「行動」や「外部ネットワーク」といったキーワードを含む仕組みをどのように構築するか、(3)「思想」「志」「人間力」といった、論理性やMBA的スキルとは異なり極めて個人的な「感性」や「思い」の世界へどのように立ち入っていくのか、の3つであると整理した。

 

第11回:「複業」の拡大による労働力確保の可能性

これまでほとんど議論されてこなかった複業(仕事に正・副を設けないという考えから「複業」と記載)に焦点を当てた。日本企業においては、労働力減少への対応という量の観点のみならず、グローバル化やテクノロジーの進展によってビジネス環境の急激な変化により、必要とされる役割や能力・スキルのミスマッチが加速するリスクがある。質の面の要請から、人材を柔軟に組み替えていくことが課題となっており、その解決策の1 つとなりうるのが、近年トレンドとなりつつある複業であると整理した。

先進事例では専業禁止をうたう企業も出ており、個人の側からも複業に対して肯定的な風潮が見られること、また、複業禁止は無効という見解もある一方で、労務管理上あるいは機密管理上の理由から禁止としている企業も多く、これらをどのように解決していくかが課題であると整理した。課題解決策として、(1)対象者・対象業務の設定(一定の経験年数以上など)、(2)線引きルールの明確化(申請制度など)、(3)複業容認カルチャーの醸成、(4)情報漏えいを未然に防ぐ仕組みの整備(VDIなど)など、現実的な施策を提示した。

 

連載のまとめ

本連載を振り返ると、日本型人事は人材の量の面だけでなく質の面でも変革を迫られていると感じる。人材の量という観点からは、本連載の中でも何度も言及している通り、中長期的な労働力減少へどのように対処していくかが大きな課題である。出生率をいきなり高めることは難しいため、シニア、女性、障がい者など、これまで企業が十分に活用できなかった人材の活用を進める必要がある。あるいは、外国人の活用についても今後さらに議論になるであろう。

一方、見逃せないのが、人材の質の観点である。日本がGDPを維持していくには、従来の産業・事業のみならずイノベーションを活性化させていく必要がある。第10回(古くて新しい課題「リーダー育成」)においても触れているように、これまでの効率化重視の経営から、社会とのつながりを踏まえたイノベーションや新たな価値の創造を重視する経営へと力点が変わってきている。この実現のためには、企業内に人材や価値観の多様性を持たせることがポイントである。シニア、女性、障がい者などが持つ様々な価値観を企業活動に取り込んでいくだけでなく、企業グループ内における子会社・関連会社の人的資産(海外子会社におけるナショナルスタッフも含む)を組織の壁を越えてこれまで以上に活用したり、デジタルネイティブと呼ばれる若手人材群の活用を推進したりすることが求められる。さらに、イノベーションを生み出すには、自社内だけでなく、外部(大企業、中小企業、ベンチャー、NPO等)との連携・協働を進め、オープンイノベーションを加速させる必要があるだろう。多様化を進めるには、人材が出合い・共に刺激を与え合うよう、個社の部門間、企業グループ内、企業・組織間の人材流動性を高めていくことが不可欠と考える。

また、多様化や流動化が普通となる組織をまとめていくためには、高い志を語り共感によって人を惹きつけるリーダーシップが求められるであろう。さらに将来的には、人工知能、ビッグデータの進展により人材が活躍する領域そのものも見直しが必要となるだろう。

*      *

本連載開始以降、クライアントから本連載で取り上げた各テーマに関するご相談が増加しており、日本という国あるいは日本企業のモードチェンジが進んでいることを実感している。日本型人事のブレイクスルーは個々の施策で済むものではない。日本型人事が意識的にあるいは無意識的に見ようとしてこなかった人材群に改めて向き合い、多様化や流動化を実現するための人材マネジメント方針・施策群を統合的に再構築していくことが求められると考える。

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ニュースレター情報

Initiative Vol.92

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
執行役員/パートナー 小野 隆

2016.8.26

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2015年12月号掲載)を改編したものです。

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