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ビジネスパートナー制への着目

ドキュメント 人事部変革プロジェクト ~企業価値向上に貢献する組織への進化を追う~ 第2回

本連載では、架空の会社・尾張マシナリー社を舞台にストーリーを追い、解説編でポイントを取り上げていく。前回は社員ヒアリングによって人事部門に対する期待や課題を洗い出し、共有した。第2回となる今回は、人事部門改革の施策として「ビジネスパートナー制」を導入するまでの過程を解説する。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.94)

《ストーリー編》

事例 :
尾張マシナリー(機械メーカー)

登場人物 :
有田…人事本部長、風土改革プロジェクトリーダー
最上…外部コンサルタントのリーダー
笠間…プロジェクトに参画した人事部の若手


まずは人事部門の改革からはじめよう

沈黙のうちに、第2回のプロジェクト全体会議は終了した。会議の後、有田は最上に声をかけられた。
「まずは問題を共有できましたね。次は、我々で施策の青写真を描きましょう」
3回にわたる有田とコンサルタントらによる討議の結果、次の結論を導いた。

  1. 人事に関わる課題をよりタイムリーに経営層と共有し、スピード感を持って施策を決定・実行していくため、社長を議長とする人事委員会を設置すること
  2. 各部門の問題解決を人事としてサポートするとともに、手薄になっている業務(前号参照)を人事部門として担っていくために「ビジネスパートナー制」を導入すること
  3. 上記2点を最優先の取り組み課題とし、人事制度改革はいったん先送りすること


討議の過程で、有田は最上たちコンサルタントから「人事に関わる意思決定機能の弱さ」と「経営報告の頻度の少なさ」を指摘されていた。具体的に見出された事象としては、次のようなものだ。

  • 会社として重要な人事であっても、部門間の調整に時間がかかり、必要なときに必要な異動を行えなかったケースが直近1年間だけでも複数ある
  • 人的生産性が長期的に逓減している部門(国内営業部門や基礎研究部門)がある一方で、今後の成長ドライバーと期待されている海外部門やセールスエンジニアもあるなかで、人員投入は前例踏襲を繰り返しており経営戦略と連動しているとはいえない
  • 経営層のヒアリングで寄せられた人事部門に対する期待や課題がそもそも有田を含めた人事部門のリーダーにとって大半が初耳のことであった

有田は、こうした検討を経て、経営と人事部門の距離を近くすべきとの意見に賛同し、まずは人事委員会の設置を進めることにしたのだ。
また、手薄になっている業務の存在、各部門の人づくりへの関心の低さ、そして、人事部門がそうした実態を把握できていないことについては、「部門人事部の設置」と「ビジネスパートナー制の導入」の2つのオプションを比較し、人事機能の人的生産性を極力維持しながら部門の問題解決に焦点を当てた体制を組めることを重視し、「ビジネスパートナー制」を採ることとした(図表1)。

図表1 部門人事とビジネスパートナーの違い
※画像をクリックすると、拡大版がご覧になれます。

思い出される過去の失敗

有田は、最上たちとの議論を受けて、さっそく人事委員会の立ち上げとビジネスパートナー制の導入に向けて、人事部門の部長や課長たちと個別に対話を行うことにした。

人事委員会の設置については、皆が賛同してくれた。特に社長はじめ役員からは大いに歓迎され、最上たちと結論を導いてから2ヵ月後には、社長と専務、そして人事担当役員と経営企画担当役員の合計6名からなる人事委員会が開催されるに至った。

一方で、ビジネスパートナー制の導入には、人事部門のほとんどが否定的であった。さらに、人事部員と話を重ねるにつれて、彼らの引っかかりが少しずつ分かってきた。まず認識したのは、有田が不在にしていた間に「部門担当制」という仕組みを導入し、失敗した過去である。

少し昔を振り返ると、10数年前まで各部門に人事担当者を配置していた。しかしながら、業績が悪化するなかで間接機能の集約化が進められ、それまでは工場、研究開発センター、そして本社の各部門のフロアにあった人事のデスクは、工場の一部機能を除いてすべて本社の「人事部フロア」に集約された。その後、人事部員の退職不補充が続き、人数が減少してきたのであった。この過程で、現場をよく知る者は退職し、その“パイプ”は引き継がれることなく徐々に失われていった。その後、会社の業績が持ち直した時期─有田が海外駐在に出ていた頃に、人事部員たちは、今の有田と同じように現場とのパイプを取り戻すべく企画し、実行していたのであった。

しかしながら、この部門担当制は失敗だった。定着することなく、立ち消えていったというのだ。

「部門人事が廃止されてから10年近く経っていたため、各部門とも人事部のサポートなど必要ない体制ができあがってしまっていた。もはや部門担当制は必要ないのではないか」

「持ち場の部門にいっても相手にされなかった。そうして、だんだん足が向かなくなってしまった」

「人事の人数が減っていることを認識すべきだ。そもそも工数が足りなかった」

「部門担当を通さずに直接相談が持ち込まれたるルートが定着しきっているなかで部門担当制を導入しても、結局は部門担当が、担当につなぐだけ。つまり、無駄なプロセスが増えただけだった」
 

「“御用聞き”からやってみよう」

有田は、再び最上を呼ぶと、「どうも私がいなかった時代に似たような取り組みを実行して失敗に至った過去があるようだ。ウチの会社では、ビジネスパートナー制はなじまなそうだから、違うやり方を一緒に考えませんか?」と伝えた。うなずきながら耳を傾けていた最上は失敗理由まで一通り聞き終えると、意外な一言をいった。

「皆さんの声を聴いて、むしろビジネスパートナー制が成功する可能性を感じます」と。

「まず何より、人事部員たちが自ら考え、すでに実行に移してきたことです。やる気・意欲のハードルは乗り越えられるのではないでしょうか? そして、失敗に至った原因は、うかがった限りでは“動き方の型化”“教育”“人事部門と各部との双方の体制”が不十分であったことにあるように思います。成功のポイントを押さえて、今度こそ成功させましょう」

有田が成功のポイントを尋ねると、最上は他社での取り組み事例を紹介した。有田の目に特に留まったのは、タスクの指示に関するきめの細かさ、あらゆるビジネスパートナーたちの成果物が徹底的にテンプレート化、あるいは、「穴埋め問題化」されていることだった。聞いてみると、これらを埋めるための作業手順についても全員を集めてトレーニングしたという。

翌日、有田はプロジェクトメンバーを招集すると、最上から聞いた成功に導く7つのポイントと他社での取り組み事例を共有した。

プロジェクトメンバーたちは、タスクが詳細に定義されていること、動きが徹底的に型化されていることを捉えて、ここまできめ細く導いてはいなかったと口にした。「これなら活動を立ち上げられるかもしれない」─多くのメンバーが内心そう思った頃合を見計らうように、有田が「まずは“御用聞き”からやってみないか?」と提案すると、前の会議で「幸せな職場をつくりたい」と思いを寄せてくれた笠間から、「部門担当制を導入したときも、各部門側は皆さん歓迎してくれていたはずですし、もう1度チャレンジしてみませんか?」と声が上がった。会議では、「工数の不足」と「適任者がいるかどうか?」に対する懸念が出たものの、「とはいえ、どうやったらできるか考えていくことにしよう」という意見が大半を占め、実行に向けた準備作業に入るという結論を確認して会議が終わった。

こうして、積極的とはいえないながらも人事部門の部課長の同意を取り付けると、有田は人事会議で提案を行い、そこでの承認を経て各部門の部門長に説明して回った。説明回りのなかで、有田は部門側の窓口役を置いてほしいと依頼した。どの部門長も趣旨に賛同してくれ、部門側の窓口役には、副部門長や本部長の筆頭格を指名してくれた。
過去の部門担当制の経緯をよく知る相手からも「我々も頼らせてもらうので、今度こそは定着させていきましょう」と力強い言葉を貰い、人事部に対する期待の大きさに、有田はむしろ身の引き締まる思いであった。

立ち上げに向けた準備作業で引っかかったのは、会議でも指摘された「工数不足」と「人選」であった。最上からは専従が望ましいとはいわれていたが、有田は当初から兼務でやるしかないと考えていた。これまでの経緯に最近の会社業績の復調も相まって、人事部門の人手不足感は顕著になっていたからだ。しかも、ビジネスパートナーは、教育や賃金など特定の領域だけを担当するわけではない。いわば“人事の代”のような存在だ。

どんなにタスクが型化され、トレーニングもなされ、体制も整えられるとはいえ、やはり対話ができる“エース級”でなければ任せられない。エース級をそんなに抜いてしまえば、今やっている業務に大きな支障が出てしまう。

そうして、数週間にわたる人事部内の調整の結果、20名のビジネスパートナーが選任されたが、いずれも、有田が考えていたように兼務となった。有田にとっての誤算は、その大半が、今抱えている仕事は一切減らすことなく、ビジネスパートナーとしての仕事を新たに加える形での選任となったことであった。有田は何とか“玉突き”で業務を編成し直し、少しでもビジネスパートナー業務に時間を割けるように調整しようと試みたのであったが、誰もが手いっぱいでそうした手をつけることができなかったのであった……。

《解説編》

改革を成功に導く7つのポイント

さて、尾張マシナリーでは、人事部門の動き方を変えるべく、「ビジネスパートナー」を立ち上げることとなった。これから、このビジネスパートナーの導入を柱に、人事部改革を進めていくわけだが、ここで、最上が有田に示した“ 7つのポイント”を紹介したい。

【1】具体的な活動内容を明らかにし、かつ、「型化」する

「人事部門を経営戦略の実行の要にしていく」「より職場や社員に貢献していく」という号令をかけて変わるものではない。尾張マシナリーの例が示すように、今ある業務で手いっぱいであるし、それぞれが業務を一生懸命やっている。そうした自負心を持って仕事をされているはずだ。しかしながら、人事部が経営のなかでどういう役割を果たしたいとか、どういう貢献をしていきたいか、という“お題目”だけで終わってしまっている例が多いことは事実である。

変化を生み出すのであれば、そうしたお題目を掲げるだけではなく、具体的に人事部門の業務をどのように変えるのか? それは誰(個人名)が担うのか? まで落とし込まなければならない。業務も、単に項目だけではなく、誰とどういうコミュニケーションをして、どういう検討を行い、どういう成果責任を負って、誰にレポートするのか? まで示すことが必要である。それがないままの議論では、互いにイメージするものも違ってしまう。尾張マシナリーでも、具体的にタスクが定義されることによって、「できる」「できそうだ」という感覚を共有することができていた。また、有田が人選にあたっての目線を持つことができた点も注目していただきたいポイントである。逆に、何をやるのかが漠然としたままでは、感覚的な議論に終始してしまう。また、仮に導入できたとしても、各人が自己流で実践することとなる。センスと才覚に優れたメンバーばかりならそれでも良いかもしれないが、勝手気ままな動きでは、組織としての学習はなかなか深まらないし、そもそも不十分な点についてのフィードバックもままならない。

【2】 目指す状態を言語化し、共感し合うチームを作る

具体的なタスクに落とし込むだけは、動きは生み出せても、持続性を持つことはできない。そのタスクは、何らかの目的達成のための手段であるはずだ。その活動を通じて何を目指すのか? 今までと何をどれだけ変えねばならないのか? を共通認識として持たねば、やらされ仕事になってしまう。─といえば、当たり前のことに聞こえるが、実際に改革に取り組んだ例を踏まえると、難しさを感じる課題である。

まず、あまりに「遠すぎる」目標や「高尚すぎる」目的だと感じられてしまっては、たとえ改革リーダーにとっての究極的な理想像であったとしても、組織のなかで求心力を持ちにくい。一方で、手に届きそうなレベルでは、その活動に対する本気を引き出しにくい。理想を掲げつつ、そこに至るまでの道筋まで落とし込み、担い手となる改革メンバーたちが「やってやろう」「できるだろう」と確信できるレベルが重要だ。尾張マシナリーの例のように“青臭い議論”を通じて自分事に落とし込んでいくプロセスを採ることは、1人ひとりの確信に落とし込んでいくための1つのやり方である。

次に、どんなに自分事とするための青臭い議論を行っても、「どうせやっても仕方ない」などと冷めているメンバーや、「こんなことは今さら言われるまでもない」などと妙に達観しているメンバーをゼロにはできない。ときには周囲の意欲を削ぐような言動を示す者も出てくる。目的や目標、そこに至るまでの過程を示し、共感を持たせていくことは重要であるが、一方で、その共感の度合いはシビアに見極め、生み出さねばならない変化を阻害しかねない場合には改革活動の担い手からは外れていただくなどの断固たる姿勢を示さねば、安定飛行には到達しえない。尾張マシナリーではまだ顕在化していないが、後々、この温度差が問題を引き起こすこととなる。

【3】 活動時間を明示する

人事部組織のなかで業務を見直す際に、それぞれの業務に専従で人を充てることができれば理想的である。しかしながら、人繰りや引き継ぎ、あるいは、想定通りに活動を定着しきれないリスクを考慮していくと、特に新しい業務ほど兼務となりがちだ。

一方で、実際にそれらの仕事を兼務するメンバーの立場からいえば、〈やらないと今すぐに誰かが困る仕事〉すなわちオペレーショナルな仕事を優先することとなり、〈やらないと将来誰かが困る仕事〉すなわち、尾張マシナリーの「ビジネスパートナー業務」のように経営や部署を能動的にサポートしにいくような業務は後回しになる。
従って、人事部門の役割をより高度化させようとすれば、このオペレーション業務の部分を克服せねばならない。アウトソーシングやITを活用した自動化、さらには業務プロセスの見直しによる効率化に至るまで、あらゆる手を打って、 1人ひとりの時間の使い方を変えていかねばならない。また、専従化できない場合は特に注意が必要だ。オペレーション業務を効率化しても、 1人ひとりの時間配分が実際に変わっていなければその果実は手にできない。どの業務にどれだけの時間を割くべきかを本人に明示して、実際の個々人の業務時間配分について予実管理を行い、定常業務から新業務へと業務時間がシフトされるよう粘り強く見ていくべきである。

【4】 週次・月次・年次のPDCAサイクルを回す

組織における改革活動であれば、変化を仕掛けてすぐに理想的な状態に到達することはありえない。活動を定着させるまでの間は週単位など極めて短サイクルで改善と個別指導を行っていかねばならない。

活動が定着化してくると、徐々に経営層や各部門から頼られるようになるだろう。しかし、持ち込まれる相談事は、オペレーション業務に閉じていた時代とは比べ物にならないほど多種多様になってくる。問題社員の扱いや労働時間に関する相談などクイックに動くことが求められる内容もあれば、要員構造のゆがみの是正や顧客ニーズの変化に合わせた人づくりなど腰を据えて動かねばらない内容も出てくる。さらに、「採用」や「教育」といった機能別組織ではなく、尾張マシナリーのような顧客別組織を取り入れている場合、持ち込まれる相談事は「○○できる人が○○までに何人必要だが」などと、採用・教育・賃金など機能を横断して検討せねばならなくなってくる。

改革活動を着実に定着化させ、社内顧客のニーズに応え、先回りしていくためには、個々人の動きを人事部門全体でしっかりと共有することが極めて重要である。時間軸の多様さを踏まえると、週単位・月単位~四半期単位・年単位~中計単位など、短・中・長それぞれでPDCAサイクルを回しながら動きを顕在化させていく仕掛けが重要である。

【5】 PDCAを回す体制を作る

PDCAサイクルは、本人たちだけで回せるものではなく、意思決定の当事者を巻き込んだ形が望まれる。尾張マシナリーの例であれば、部門に入り込んで問題解決をしていく以上は、人事部として意思決定できる者、また、部門側にはそこでの上級マネジメント層が、それぞれレポート先にならねばならない。レポート体制がなければ、PDCAサイクルをしっかり回し切ることはできないまま、活動は立ち消えてしまいかねない。

この点も詳しくは今後の展開のなかで取り上げていくが、実際に尾張マシナリーでは、このPDCAサイクルを回すために、週次で教育・採用・人事企画・労政・給与厚生の責任者が勢揃いして、週報で挙げられてくる問題をこなすこととなる。
 

【6】 実践のためのトレーニングを行う

こうした活動を進めるうえで、メンバーのトレーニングが必要となるケースは多い。それはエクセルやアクセスの使い方といった日々の情報処理スキルであったり、労働法令、人材教育、採用・入社、給与、労政、要員分析、要員・人件費計画の立て方といった人事領域に関わる専門性であったり、論理的思考法、論理的な文章表現法、簡潔な口述表現といった仕事力そのものの底上げであったりと、多岐にわたる。ビジネスパートナーは人事のなかで特定の機能を担う存在ではない。一通りの経験を積んできた人事マネジャー級の方だけを充てることができればこうした苦労も幾分は軽減されるであろう。しかし、そうはいっても個々の経験や専門、あるいは得手不得手は異なるものだし、ビジネスパートナーは、それまでの人事部での業務に比べれば個人で動き、バイネームで頼られる局面が多くなる。こうしたトレーニングを提供していくことで、有能に活躍できるよう導いていくべきである。

なお、経験的にいって、こうした活動は相互学習の機会を生み出すことができ、かつ、すぐに実践できるため、メンバーの満足度は極めて高い。活動へのやりがいと参画意識を高めるうえでも、定期的に全メンバーを集めてトレーニングを行うことは有効である。

【7】 段階的な発展を辿るよう設計する

ビジネスパートナー制を導入する際には、段階的な発展を意識すると良い。筆者の関わった最近の例では、 3 段階に分けて実行したケースがある(図表2)。

ビジネスパートナー制の導入は、人事の仕事のやり方そのものを変える改革である。しかし、これまで日々慣れ親しんだ仕事のやり方を変えることは一筋縄ではいかない。粘り強く、仕事として定着させきるための働きかけを行うことは、ビジネスパートナー制を本来の趣旨に沿った形で定着させるうえで不可欠なプロセスである。


図表2 ビジネスパートナーの段階的な導入例(※期間・内容は一事例です)
※画像をクリックすると、拡大版がご覧になれます。

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ビジネスパートナー制への着目
〔PDF, 469KB〕

ニュースレター情報

Initiative Vol.94

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
シニアマネジャー 国井 浩士

2016.10.26

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2016年2月号掲載)を転載したものです。

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