人材マネジメント改革への挑戦

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人材マネジメント改革への挑戦

ドキュメント 人事部変革プロジェクト ~企業価値向上に貢献する組織への進化を追う~ 第5回

本連載では、架空の会社・尾張マシナリー社を舞台にストーリーを追い、解説編でポイントを取り上げていく。前回は、PDCAサイクルとその体制づくりを解説した。第5回となる今回は、ビジネスパートナー活動として「本部の人材マネジメント計画」立案に奮闘する人事部員たちのストーリーを踏まえ、実践のためのトレーニングを行う際のポイントについて解説する。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.97)

《ストーリー編》

事例 :
尾張マシナリー(機械メーカー)
登場人物 :
有田…人事本部長、風土改革プロジェクトリーダー
瀬戸…人事部次長、HRBPの立ち上げを担う人事部改革のプロジェクトリーダー
最上…外部コンサルタントのリーダー
大野…外部コンサルタントのHRBP担当リーダー

 

前回までのあらすじ

ビジネスパートナー制が本格始動した。活動目標は,業務時間の50%。しかし,コトはそう容易に進まない。多忙過ぎて時間を割けない部員や,担当本部からの課題提起を見過ごしそうになる部員。リーダーである瀬戸と外部コンサルタントの大野は,ビジネスパートナーが足並みを揃え,かつ自律的に取り組めるよう,PDCAの流れと体制を整備した。併せて,個々人へのきめ細やかなフォローを続けた。こうして,少しずつ部員のなかに,ビジネスパートナー活動が根付いていった。

 

“御用聞き”からの脱却に向けて~本部の人材マネジメント計画を立ててみよう~

PDCAの整備や,大野のビジネスパートナーへのフォローが効いて,週次を基本サイクルとしたビジネスパートナー活動は,徐々に軌道に乗っていった。次の一手として大野が用意していたのは,人材マネジメント計画の立案だ。各ビジネスパートナーが数ヵ月かけて得た情報と洞察を踏まえて,本部が解くべき課題や施策を年間単位で企画するものだ。

“御用聞き”から始まったビジネスパートナー活動だが,効果的な年間計画を立てるためには,「いろいろやることがあるなかで,なぜ,これをやるべきなのか」「この取り組みをすることで,本部の事業計画にどう貢献できるか」といった,目的起点・将来目線への転換が必要だ。また,計画倒れに終わらせないためには,本部との理解を醸成し,巻き込んでいくことが求められる。大野が目論んでいたのは,“御用聞き”から,“自ら仕掛けるビジネスパートナー”への脱皮だった。

瀬戸は大野の目論見に同意しつつも,ビジネスパートナーの経験値・実力値に照らすとハードルが高そうだと漏らした。大野も,現状のままで計画立案ができると思っていたわけではない。ビジネスパートナーの大半は,業績低迷期に「とにかく,コストをかけずに,やらねばならない仕事に集中しろ」と言われ続けた世代だ。年間という長いスパンで,やることを一から定義し,実行した経験のあるメンバーはほとんどいない。

そこで大野が取り出したのは,人材マネジメント計画立案のためのフォーマットだ。このフォーマットのミソは,計画立案のために収集・整理すべき情報や考えるべき事項が網羅されていることだ。

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(1) 本部の問題(事象として起こっている「悪い状態」)と,その原因
(2) 本部にとって望ましい状態
(3) 本部の問題を取り除き,望ましい状態に近づくために取り組みたいこと
(4) 取り組みの実行スケジュール(年間)
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フォーマットでやるべきこと・考えるべきことを可視化したうえで,大野は,ビジネスパートナー全体会議で「課題設定トレーニング」を実施した。問題と課題の違い,論理的思考,望んだ成果を手にするための課題設定等々……。

「課題特定」という聞き慣れてはいるが奥深いテーマに,ビジネスパートナーたちは四苦八苦した。「本部のあるべき姿って何?」「本部の部員でもない自分たちが計画を立てても,受け入れてもらえるかなぁ」「自分の本来業務もあるのに年間計画なんて,キャパオーバーだよ」と,及び腰の発言が出始めた頃に放った瀬戸の一言が,場の雰囲気を変えた。

「本来業務とビジネスパートナー活動の区別なんてない。ビジネスパートナーこそ本業なんだ」

業績低迷期を人事部員として過ごした瀬戸は,社員を「守る」ことが人事パーソンの務めだと強く信じており,「改革」という言葉は好きではなかった。しかし,会社の将来を案じる有田,尾張マシナリーを変えたいと奔走する最上や大野の姿を見て,考えが変わってきていた。

「今あるものを守るだけじゃダメだ。会社も世の中も,めまぐるしく変化している。我々は,将来の尾張マシナリーのために,ときには摩擦を恐れずにやりきることが必要だ。私は,それがビジネスパートナーのミッションだと思っている」 

瀬戸の言葉に,有田は深くうなずいた。

「1人でやろうと思わなくていい。私や瀬戸,他の人事部員をどんどん巻き込んでくれ。最上さんや大野さんの知見を,どんどん盗んでくれ。全員野球で取り組んでいこう」

全体会議の翌週。大野は,ビジネスパートナーとの個人面談を設定した。人材マネジメント計画の完成に向け,ビジネスパートナーが自身の思考を深める「壁打ち」役を務めるためだ。一巡目の個人面談で大野は「本部の情報はかなり充実している。でも,ビジネスパートナー自身の思考をもっと深めてほしいな」と感じた。全体会議でトレーニングしたものの,理論と実践はやはり違う。多くのビジネスパートナーの人材マネジメント計画は,これまで本部から聞いた情報をフォーマットに転記しただけにとどまっていた。

大野は,ひたすら「なぜ?」「これをやると何が変わるのか?」「これをやることで,副作用が生まれないか?」を問い続けた。例えば,「人が足りない,だから増員しよう」では,その場はしのげても,早晩同じ問題にぶつかる。さらに,全本部で増員してしまうと,人件費は大幅に膨らみ,会社の成長を阻害してしまう。大野は,決して自分から答えや方向性を提示することはなかったが,ビジネスパートナーが問いに答えられるようになるまで個人面談を続けた。

 

本部横断的な課題へのチャレンジ

大野は,ビジネスパートナー立ち上がりの16週間を, 3段階に分けていた。第1段階は“御用聞き”による信頼関係づく。第2段階は,ビジネスパートナーが,本部の問題点や真因を見極めて,課題を提起すること(人材マネジメント計画の立案)。そして第3段階は,限られたリソースで最大の効果を生み出すために,本部をまたいだ調整や連携を仕掛けること。

尾張マシナリーは長期の業績不振で苦しむなか,予算をぎりぎりまで切り詰め,そのときにどうしてもやらなければいけないことにのみ集中せざるをえなかった。業績が上向かず優秀な社員が去っていく状況で,残った社員たちは,自分たちの持ち場を守りきることに精いっぱいだった。その結果生まれたのが,人事も含めた「内向きな思考」「全社最適より個別最適」の風土だった(連載第1回の図表「現在の人事・部門のカバー範囲の整理」を参照)。質・量ともに人不足が深刻な尾張マシナリーだが,内向きのままでは前進しない。大野は,何としても,ビジネスパートナー発信で,本部横断的・全社的な改革のうねりを生み出したいと考えていた。

一方,瀬戸は,改めて各ビジネスパートナーが作成した人材マネジメント計画を眺めていた。それぞれ,本部の直面している問題と,それに対する課題・打ち手が書かれている。

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□今の部員構成は40代以上に偏っているので,
 後継者育成のために若手社員がほしい
□残業の長時間化傾向がみられるので改善したい
□部門教育の充実化のため,人事部員を助っ人として派遣してほしい……
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「これで会社が変わるんだろうか。本部の要望に応えながらも,もっと根本的で,持続的なやり方を,ビジネスパートナー全体で提言できないだろうか」

瀬戸は大野に相談した。

「ビジネスパートナーの書いた人材マネジメント計画を読みました。書いてあること1つひとつは確かにその通りだと思ったのですが,これらを,すべて個別に取り組んでいてはキリがないようにも感じました。それから気づいたのですが,似たような課題提起をしているビジネスパートナーも何人かいました。各自がバラバラに動くのも非効率な気がするのですが,どう進めるのがよいのでしょうか」

うなずきながら話を聞いていた大野は,「ビジネスパートナーによる,発散型ワークショップをやりましょう」と提案した。

「ビジネスパートナーの皆さんは“担当している本部のために,何に取り組むべきか”という観点で計画を立てています。これは大変よい動きです。一方で,瀬戸さんがおっしゃる通り,課題や打ち手が他の本部とも共通している場合には,他のビジネスパートナーと協働したり,人事職制の課題に取り込んだりしたほうが有効です。従って,次に私が取り組みたいと思っているのは,人材マネジメント計画を材料に,本部横断で解決に当たるべき課題を特定することです」

大野は続けた。

「ビジネスパートナーの皆さんには,本部横断的な課題解決にもぜひ取り組んでほしいと思っています。だからワークショップが有効なのです。本部から仕入れた生の情報だけを頼りに施策を打とうとしても,視野が狭くなってしまいます。とはいえ,人事が本部の都合も聞かず,勝手に施策を作っても意味がありませんよね。それなら,人事パーソンでもあり,本部が何に困っているのかも分かるビジネスパートナーに,人事やビジネスパートナーが連携してやるべきことを自由に提言してもらってはどうでしょうか。ディスカッション形式にすれば,相互に気づきが生まれて,ビジネスパートナーご自身の視野もより広がりますしね」

こうして,次回の全体会議のテーマは,「ビジネスパートナー提言ワークショップ」に決定したのだった。

 

改革分科会の立ち上げ

3月のワークショップ当日。瀬戸は,会議室に集まったビジネスパートナーを前にこう切り出した。

「今日の全体会議は,大野さんと相談して,皆に自由に発言してもらうワークショップ形式にしたよ。ビジネスパートナーになって3ヵ月,本部からいろいろな情報をもらって,それぞれ考えていることもあると思う。それを吐き出して,人事パーソンでもありビジネスパートナーでもある我々に何ができるのか,知恵を絞ってほしいんだ」

瀬戸の言葉に続いて,大野がワークショップのやり方を説明した。

「今日は, 4人1組のグループディスカッションをやりましょう。まず,自分の担当本部から聞く問題やその背景を,どんどん付箋に書いていってください。次に,それをグループメンバーと共有し,ざっくばらんに意見交換しましょう。意見交換するなかで,“これは自分が担当する本部とも共通するなぁ”というものが出てくると思います。それは“共通課題”としてリスト化していってください。これは,今後の人事改革のネタになるものです。今日のワークショップの最後に,このリストを全体で共有しましょう」

2時間後。会議室の壁には色とりどりの付箋が貼られていた(図表)。

図表 ワークショップで貼り出された付箋のイメージ

図表 ワークショップで貼り出された付箋のイメージ
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「ではグループごとに発表していきましょうか。まずはAグループから」大野の一声に,ビジネスパートナーの1 人,上野が発表を始めた。

「人材不足の解消が挙がりました。我が社はしばらく新卒採用も中断していましたし,中途採用もしかりです。だから,どの本部も,少しでも自分の所に人を寄越してほしい状況です。ただ,都度採用するわけにもいかないので,異動をもっと促進し,社内人材を効果的に活用していくべきだと思います」

うなずきながら聞いていた有田が質問を投げかけた。

「人の量も質も一定ではないし,本部側の人材ニーズも,環境や事業状況によって変わっていくよね。さらに忘れてはならないのは,我が社は製造業であり,製造業の根幹は高い専門性や技術力・生産力であるということだ。高い専門性を身につけるには,長期間にわたる継続的な鍛練・習熟が必要だ。やたらと人を動かせばよいというものでもない。どうしたら,会社のためになる異動を実現できるだろうか」

Bグループにいた,品質管理本部担当ビジネスパートナーの鍋島が発言した。

「確かに,品質管理本部では,技術のバックグラウンドがなければ仕事になりません。ですから,本部独自で人材育成計画を立てていますし,開発や生産技術など,つながりが深い部署と直接異動のやりとりをしています。専門性ということも考えると,このやり方は,決して悪くありません。ただ,品質管理本部だけで異動の調整をやりきるのは,手間ひまもかかりますし,限界があると思います。人事が,部門の意向もくみ取りながら異動調整にもっと汗をかくと,本部は助かると思います。そのためにも,人事は,どこにどんな人がいるのか,よく理解しないといけませんね。例えば,品質監査の社内資格保有者は,現在非常に少数なので,もっと育成する必要があります。人事が,他部門もめて,素質がある人を発見して異動調整をかけられるとよいと思います」

「うちのグループでは,採用についての課題提起がありました」続いて,Cグループの清水。

「本部からは,よく『欲しい人材が獲れない』と言われます。採用ホームページに求人情報は掲載していても,応募してくる人は,期待と少し違うようです。たまに,これぞという人がいても,他社に先を越されるなど……。何か共通課題がありそうです」

次に,Dグループの吉田が発表した。

「私は生産本部を担当しています。当本部は1 人ひとりが職人肌で,組織を束ねるという思考になりにくい。部長・課長ですら,『人の面倒を見る暇はない』と言うのです。しかも,マネジメントに対して特段の手当が支給されているわけでもなく,動機づけされにくい。これは,ホワイトカラーに多くみられる傾向です。一方,生産現場では『班長は割に合わない』という意見が多いのです。生産目標を達成するために,班長はぎりぎりの人数でラインを回して,不具合が出たら都度確認し,課長や部長への報告資料を作成しなくてはならず,それはもう大変なのに,ライン手当や深夜勤務手当はつかなくなるから,昇給した実感がないんです。だから今,生産現場では『班長になりたくない症候群』が流行っています。お金ですべてが解決するとは思いませんが,役割に見合う給料がほしいというのは当然ですよね」

これを聞いた最上は,ホワイトボードに何か書きながらビジネスパートナーにこう提案した。

「今日のワークショップでは,その場しのぎでは解決できない問題が提起されたと思います。集中的に取り組むために分科会形式で進めていきませんか?」

有田は会議室全体を見渡してこう締めくくった。

「分科会が扱う1 つひとつのテーマは普遍的だが,ここには我々の思いがこもっている。我が社が思うような動きを取れずにいた10年間の遅れを,この1 年で取り戻そう。大規模で抜本的な改革になるが,ぜひ,皆の力を貸してほしい」

【適材適所分科会】
人材情報を収集・更新・検索する仕組みを整え,適材適所やOJTを最適化する

【採用強化分科会】
安定的な人材調達のため,ほしい人物像の明確化や採用ルート・プロセスを見直す

【人事制度分科会】
内向きで,人材育成への関心が低い組織風土や人の動きを変える仕組みを作り出す

《ストーリー編》

《解説編》

改革を立ち消えにさせないために

今回は,ビジネスパートナーが“御用聞き”の動きから“仕掛けていく”動きへとシフトしようとする様子をご紹介した。また,瀬戸の「本部ごとの問題解決にとどまらず,会社全体を良くするための動きを生み出せないか」という思いが,改革分科会へと発展する道のりにも触れた。これまで,人事施策が立ち消えたり,頓挫したりした経緯のある尾張マシナリーでは,掲げた題目をやりきることも,大きなチャレンジであった。本解説では,改革をやり遂げるためのポイントについてお伝えしたい。

(1) 地ならしをする

これまでの回でも触れているが,尾張マシナリーでの人事改革は,ビジネスパートナーが,部門とのパイプを作ることから始まった。各部門に活動趣旨を理解してもらい,悩みごとや困りごとを話してもらえる存在になるため,まず,「週1 回は担当本部に出かけましょう」「本部から聞いたことを週報にまとめましょう」「毎週のビジネスパートナー活動時間を記録しましょう」など,仕事の型化を進めた。型を決めることで,ビジネスパートナーごとの活動のばらつきを見極め,瀬戸や大野がフォローできるようにした。

こうして,型に沿って活動するなかで,ビジネスパートナーが徐々に本部から認知され,相談される状況を作っていった。

最初は「人事のスパイ」とまで言われることもあったが, 1年が過ぎる頃には,すべてのビジネスパートナーが,本部の上級管理職との定例会議に参加できる状態にまでこぎつけている。

本部とビジネスパートナーとの間で,日頃会話をしたり,相談する・相談に乗るという相互関係が生まれて初めて,ビジネスパートナーから本部に提言する・仕掛けるという動きにつながる。逆に,このような地ならしのない状態で,頭ごなしに改革を訴えても,かつての瀬戸のような「改革嫌い」を生み出してしまい逆効果なので,要注意だ。

(2) メッセージを打ち出す

ストーリーでは,大野が「提言ワークショップ」を提案し,ビジネスパートナー自らが改革のネタを生み出すよう仕向けていた。ビジネスパートナー活動が始まって一定期間が経過し,本部の生々しい実情を知ったタイミングで実施したからこそ,現実的で具体的な提言へとつながっている。

「現実的で具体的な提言」とは,「得たい果実が明確な提言」ともいえるだろう。尾張マシナリーの社員が「それ,よく分かる」と肌感覚を持って理解できるような提言だと,提言を実行する際の巻き込みも図りやすくなる。

また,ビジネスパートナーや人事部員など,推進役の拠り所ともなる。そのような提言の象徴として,キーワードとなるようなメッセージを繰り返し発信し,改革の趣旨をあらゆる関係者に浸透させることは非常に有効だ。例えば尾張マシナリーでは,ビジネスパートナーの全体会議で,様々なキーワードを打ち出していた。ビジネスパートナー制立ち上げ当初は“御用聞き”, 3ヵ月後のキーワードは“仕掛ける動き”“巻き込み”だった。これらのキーワードを,経営報告,従業員説明など,あらゆる局面で徹底して発信していった。

もちろん,メッセージを発信する前提として,プロジェクト開始時に行った100人インタビューやビジネスパートナーによる本部意見収集など,きっちりとした現状把握・課題認識の裏付けがあることは忘れてはならない。

(3) 巻き込み,オーナーシップを持たせる

ストーリー中で有田が発言していた通り,改革は1人でやる必要はない。同じ人事部門に所属する部員や,各本部のビジネスパートナー窓口担当,本部の部長会出席メンバー等々,巻き込める相手はいろいろだ。ただし,「人事だけではやりきれないので助けてください」では,人不足に悩む尾張マシナリーのような会社では受け入れられにくいだろう。「あなたと一緒にやれば,解ける課題はここまで広がるんです」という夢をともに描き,巻き込む相手の心を揺さぶるようなコミュニケーションが欠かせない。

同じ夢を見ただけで終わらせず,それを現実に移すためには,何にどういう形で参画してほしいのかを明確にすることも必要だ。「部門間で連携を図る」という名目でとりあえず集まるという会議もたまに見受けられるが,これこそ立ち消えの温床である。尾張マシナリーでは,相応の工数を割いて,人材マネジメント計画を作成し,本部の上級管理職と合意形成を図っていった。また,本計画実行の立ち上がりが早かった本部では,計画共有時に,本部側での体制構築についても打診していたり,既存の本部の会議体にうまく相乗りすることができていた。

(4) 動きをグリップし,意思決定のできる事務局を置く

今回のストーリーでは,ビジネスパートナーによる人材マネジメント計画の立案の様子を描いた。これまでの型に沿った一律的な動きから,ビジネスパートナーが本部のために何をするか,個別に考え実行するというステップアップ期に当たる。

ビジネスパートナーの動きが個別化すると,1人ひとりの持っている“弾”が人事部門からは見えづらくなる。しかし,人事に籍を置きながらビジネスパートナー活動を行うことの意味合いを考えると,ビジネスパートナーの動きをしっかりグリップし,必要に応じて指令を飛ばす事務局機能は非常に重要だ。

具体的な事務局体制は各社各様だが,尾張マシナリーでは,人事部員がビジネスパートナーを兼任し,人事の各機能長(部長クラス)が事務局を務めていた。事務局メンバーが,ビジネスパートナーを通じて本部から上がっている声を迅速にキャッチし,「採用」「異動」「組合とのコミュニケーション」といった打ち手を講じることができるからだ。さらに,改革分科会の立ち上げにより,ビジネスパートナー発の提言が,全社施策にまで発展している。

各ビジネスパートナーの活動の起点が本部単位なのに対し,事務局は,ビジネスパートナー全体の動きを俯瞰し,全体最適の視点から人事施策につなげていく。事務局は,単にビジネスパートナーの「尻たたき役」ではない。本部の声に対して人事施策で応える,本部との対話のハブなのである。

事務局とビジネスパートナー,事務局と本部との対話のあり方については,今後の連載でも触れていく。

《解説編》

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ニュースレター情報

Initiative Vol.97

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 国井 浩士
マネジャー 沼田 真理子

2017.1.30

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2016年5月号掲載)を転載したものです。

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