調査レポート

要員・人件費の生産性に関するDTCのベンチマーク調査から見えたこと

分析に欠かせない4つの指標と解釈の仕方

2012年8月、当社では『要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査』を実施した。この種の調査は日本ではあまり前例がなく、当社としても新しい試みであったが、結果として260社もの企業にご参加いただき、信頼性の高いレポートを発行することができた。本稿では4つの指標を例に取り、ベンチマーク調査の結果や参加企業とのディスカッションの内容を交えつつ、その特徴や読み解き方を簡単に解説したいと思う。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.58)

要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査 2016・2017年度版
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はじめに

2012年8月、当社では『要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査』を実施した※1。この種の調査はグローバルでは一般的だが、日本ではあまり前例がなく、当社としても新しい試みであったが、結果としては260社もの企業にご参加いただき、かなり信頼性の高いレポートを発行することができた。

※1 「通年参加」という方式で、現在も参加企業を募集しております

結果の解説の前に、今回このような調査を実施して印象的だったのは、調査票の記入に苦労された企業が想像よりも多かったことだ。個々に話を伺うと、「そもそもどの機能に何人投入されているか把握できていないし、把握したこともない。」「要員や人件費に関するデータの収集自体が大変。」などの状況があったようだ。

会社としての人的生産性・人件費効率を高めるためには、まず何よりも自社の状況を「見える化」しなければならない。調査への参加がきっかけになり、関連するデータを各部門から収集・取り纏めるプロジェクトを立ち上げたといった話もお聞きするので、まずは、自社の状況を「見える化」するために本調査をご活用いただければと思う。

そして、「見える化」の次のステップとして必要なのは、その「見える化」された情報を読み解き、自社の課題を分析することだ。今回も、レポート結果と自社データを比較してどのようなことが言えるのかについて、多くの相談をいただき、ディスカッションをさせていただいた。

そこで本稿では4つの指標を例に取り、ベンチマーク調査の結果や参加企業とのディスカッションの内容を交えつつ、その特徴や読み解き方を簡単に解説したいと思う※2。

※2 なお、以下で紹介している「間接機能比率」「管理職比率・管理スパン(役職者比率)」については、「自社の直間比率、管理職構成の実態把握と分析実務(労政時報 第3819号/12.4.13)」に詳しい解説が掲載されているので参照いただきたい。

[1] 間接機能比率

(1) 企業ごとに大きなバラツキが見られた

間接機能比率は、組織の生産性を把握する上で最も重要な指標の1つだ。当社の調査では間接機能を「事業の種類に関係なく会社を運営する上で必ず必要な機能で、収益に関わる活動に直接は関与しない機能」(経営企画、人事・総務、財務・経理などが該当する)と定義している。

ベンチマーク調査では、間接機能比率はおよそ10%という結果になったが、当該比率の第1四分位※3と第3四分位※3を比較すると2倍以上の開きが見られた。

※3 100社のデータを小さい順に並べた場合に、25社目の値が第1四分位、75社目が第3四分位となる。

 

(2) 意図的に削減しないと、減少したり、なくなったりしない

いくつかの企業に協力いただきインタビューを行ってみると、間接機能比率が中位値よりも低い企業では、ヘッドカウント管理や間接機能の集約・シェアード化などの取り組みをかなり厳格に行っており、逆に中位値よりも高い企業では、部門の要求のままに間接機能を強化してきたため、意図的に間接機能をコントロールする取り組みは行ったことがないというケースが多いことが分かった。

間接機能の業務量は意図的に削減しないと、減少したり、なくなったりしにくいものだ。はじめは必要最低限の業務からスタートしても、各部門の要求に応えているうちに徐々に業務の幅が広がっていく。したがって、間接機能比率を一定比率にコントロールしている企業のように、ヘッドカウント管理を徹底したり、業務効率をKPIを用いながら定期的にモニタリングし、必要に応じて対処策を講じ続けることが非常に大事になってくると言えよう。

 

(3) 間接部門比率は低すぎてもよくない

ただし、「間接機能比率が高い=悪」と、安直に捉えるべきではない。

間接機能は会社を支える基盤であり、コストに見合ったサービスが会社全体に提供されていれば問題はない。むしろ、間接部門比率が低すぎる場合には、直接部門が間接業務に時間を取られ、逆に非効率になっていないかについてチェックをすることが必要になると考えられる。

[2] 人事機能従事者1人当りカバー人数

(1) グローバルの生産性は日本の1.5倍

人事機能従事者1人当りカバー人数は、人事機能の生産性を表す代表的な指標の1つで、全社員数÷人事機能従事者数により算出する。例えば、カバー人数が100人ということは、人事機能従事者1人で100人の社員の人事的なサポートを行っていることを意味し、直感的に理解しやすいことも特徴だ。

今回のベンチマーク調査を見ると、欧米のグローバル企業で目標ラインとされることが多い100人を大幅に下回る結果となった。また、トーマツグローバルで実施している欧米企業を中心とした同種のベンチマーク調査※4の人事機能一人当たりの中位値は100人を大きく超過しており、今回のデータと比較すると1.5倍もの開きがあることがわかった。単純に数値のみを比較すると、日本企業の生産性は大きく劣っていることになる。

※4 グローバルのベンチマーク調査データは、有償でのご提供が可能です。ご希望の方はお問い合わせください

もちろん、生産性として比較するためには、それぞれの提供するサービスや正社員以外の活用度合い、アウトソーシングのコストなどを加味しなければならないが、これだけの差があるということは事実として認識しておくべきだろう。

 

(2) 生産性の差が出ている原因は、人事の業務範囲の絞り込みの差にある

欧米企業のカバー人数が大きい理由としては、人事機能が担う業務範囲を思い切って絞り込んでいる(セルフサービス化を進めている)ことや、クロスボーダーでのシェアード化を進めていること等が挙げられる。また、海外企業においては特に、ヘッドカウント管理が厳格であることも人員がスリム化されている理由であると想定される。

実際、今回のベンチマーク調査で欧米企業並みのカバー人数であった会社からは、自社にはいわゆる企画機能のみを残し、採用・研修のオペレーションや給与計算などはシェアードやアウトソーシングすることで、人事の人数を意図的にコントロールしている様子がうかがえる。

 

(3) コスト効率という観点でも検証する

なお、シェアードやアウトソーシングを検討・実施する場合には、コスト効率という観点で検証することが欠かせない。

シェアード化やアウトソーシング化を行うと、カバー人数が増加することもあり、それだけで生産性が向上したように感じてしまう。しかしながら、業務を集約したが、その担当者に“業務を依頼するための業務”が新たに発生したり、担当者を含めてシェアード会社に移管したが、現状の給与水準が維持できるように価格を設定していたりして、コスト効率という観点では、全く生産性が向上していないといった失敗例も多いため、実際に取り組む際には留意が必要となる。

[3] 管理職比率・管理スパン(役職者比率)

(1) 管理スパンは部門別にもチェックする

管理職・役職者の捉え方は各社各様であるため、まずはその定義をはっきりとさせる必要がある。今回の調査では

役職者=実際の組織マネジメント業務を担うポストについている人材

 管理職=組織マネジメントの有無に関わらず、人事制度上の管理職※5として位置づけられている人材

※5 時間外手当の支給対象外など

と定義している。

管理スパンは組織のレバレッジを測る指標であり、役職者1人当りの部下の人数を表している。

管理スパンは狭すぎると組織効率の悪化をもたらし、広過ぎると役職者(組織長)が会議や承認、評価などで忙殺され、現場をキメ細かくマネジメントすることが難しくなってしまうため、適切な範囲でコントロールすることが重要だ。

今回のベンチマーク調査における管理スパンは、課長級は10名前後、部長級は30名弱であった。

この結果を自社と比較する際は、全社の平均的な管理スパンに加えて、部門別にもチェックしていただきたい。比較的上位ランクの者で構成されている経営企画などのコーポレート部門では管理スパンは全社平均よりも狭くても問題ない。一方で、シェアードサービスを担っている組織などでは管理スパンが狭くなりすぎないように、業務遂行体制を設計することがポイントとなる。

 

(2) 管理職比率を見る際には部下を持つ管理職と持たない管理職の差にも気をつける

管理職比率は、組織マネジメントを担っている管理職(=役職者)と、組織マネジメントを担っていない管理職(以下、便宜的に「スタッフ管理職」と呼ぶ)の合計人数を、全社員数で割って算出する。したがって、管理職比率を見る場合は、役職者とスタッフ管理職、それぞれの推移も同時に把握しておきたい。ベンチマーク調査では、管理職に占める役職者の比率という指標を用いて、それをチェックできるようにしている。

 

(3) 管理職比率は人員構成の特徴と組み合わせて見ることが必要である

管理職比率の適正値は、各社の置かれている状況や人材マネジメントの考え方によって異なるため注意が必要である。例えば、人員構成のピラミッドが40代中盤にピークがあり、30代の中盤から後半が谷になっている(バブル期に大量採用した日本企業に多く見られる)企業で、無理に管理職比率を維持しようとすると、管理職への昇格年齢、役職への就任年齢が遅くなり、マネジメント層の平均年齢が上昇するとともに、40歳前後の人材がマネジメントの経験をする機会が減少し、組織の活力が失われることにもなりかねない。【図表1】

中長期的な観点から組織力強化に向けた人事政策・制度のあり方を考え、それに照らし適切な管理職比率が実現されているかをチェックすることが肝要である。

図表1、日本企業に典型的に見られる人員構成のピラミッド(イメージ)

© 2013. For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting Co., Ltd. 

[4] 退職率(自己都合)

(1) 新陳代謝の活性化が課題

退職率は、もちろん組織の新陳代謝・定着率を見る指標であるが、自社の人員数調整のコントロール手段として機能し得るか否かという観点でも、把握しておくことがポイントとなる。米国では退職率が10%を超える企業も多く、リテンション(組織への定着)が課題となることが多いが、日本では逆に退職率が低く、場合によってはパフォーマンスが思わしくない人材のアウトフローを促進していくことが課題になるケースがある。

実際、今回のベンチマーク調査でも、自己都合退職率の中位値は、業種によってかなりの差が見られたものの、全体としてはおおよそ2%前後となっており、非常に低い結果となった。

中には、社内で育成した人材を外部に流出させないために意図的に退職率を低くコントロールしているケースもあるようだが、あまりに退職率が低いとローパフォーマーを社内に抱え込んだままになっている可能性が非常に高くなる。

また、退職率が低いと前述のとおり人員数のコントロールも難しい。景気変動に応じて新卒採用を行ってきた多くの日本企業では、それに合わせて年齢ピラミッドに山と谷があるケースが多く見られる【図表1】が、その形が是正されないまま歳を取っていくことになる。それによって、団塊世代の大量退職、中間世代がいないことによる後継者不足、技術伝承など様々な問題が生じ、かつそれが予測できているにもかかわらず有効な手立てが講じられずにいるケースが多いようだ。

ちなみに、退職率(自己都合)が1%、3%、5%のそれぞれのときに、現在の社員規模を維持するために必要な採用人数を理論的に計算すると、1000人の会社の場合、1%では約30人、3%では約45人、5%では約60人となる。すなわち、これだけの人数が定年と自己都合により退職し、毎年入れ替えるための人員を確保する必要があるという計算になる。これは、あくまで算数上導かれる人数であるが、実際には年齢構成のばらつきがあるため、瞬間的にはさらに多くの人数を採用することが必要になる時期もあるはずだ。ところが、今の採用人数では、将来的な組織のダウンサイズを免れない企業も多いため、今一度自社の採用人数は、10年後、20年後の組織体制づくりに向けて必要十分かを検証してみることをお勧めしたい。あわせて、そうした作業を通じて、健全な退職率(代謝率)を見出していくことも必要だろう。

まとめ

経営指標を分析する際には「外部」と「内部」の両面から分析することが重要だが、その「外部」の視点を与えてくれるのがベンチマーク分析だ。

ただし、ベンチマークは所詮、置かれている環境やこれまでの経緯・背景など、様々な条件が異なる会社との比較でしかない。しかしながら、少なくとも他社と比較して自社の生産性がいい・悪い理由を考えることは、自社の強み・弱み、特徴、過去の経営判断やその経緯を再認識でき、今後の打ち手を検討する際の手がかりを得られることが多い。

また、自社についても、マルチ(事業部間、機能別の組織間、地域間、階層間など)視点で、各々の差異を一つひとつ丁寧に把握し、比較検討することで有益な示唆を得られることが多い。

最後に、当社の『要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査』は「通年参加」という方式で、現在も参加企業を募集している。ぜひ参加し、今後の取り組みのきっかけにしていただきたい。

ニュースレター情報

Initiative Vol.58

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
シニアコンサルタント 高山 俊

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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