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日本企業におけるグローバルタレントマネジメント実現に向けて

グローバルタレントマネジメントに関する文献は、「どのようにグローバル人材を育成するか」といった育成の仕組みにフォーカスしているものが多い。そのような中、本稿では日本企業がグローバル化していく上でのタレントマネジメント発展のパスを明らかにし、その過程でどのような論点があるのかを体系的にまとめることを試みている。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.67)

はじめに

グローバルタレントマネジメントに関する文献は、「どのようにグローバル人材を育成するか」といった育成の仕組みにフォーカスしているものが多い。そのような中、本稿では日本企業がグローバル化していく上でのタレントマネジメント発展のパスを明らかにし、その過程でどのような論点があるのかを体系的にまとめることを試みている。国内労働人口の減少や、事業のグローバル化・多角化に伴う、“グローバル人材”といった今までにない新しい人材へのニーズの高まりなどを背景に、日本企業におけるグローバルタレントマネジメントについての課題感は日増しに大きくなっている。しかしながら、その課題への答えは明確な形で存在しているわけではない。各社各様に人材をどのように管理・育成していくか頭を悩ませている現状に対して、1つの道筋を提示したい。それが本稿を書いた理由である。

グローバルタレントマネジメント実現のステップ

グローバルタレントマネジメントを語るためには、ビジネスのグローバル化の進み具合とそれに応じたリソース(グローバル人材)の充足度の両面から考える必要がある。ご自身の会社が図1の座標上のどこに位置しているのか、これからどの方向に進もうとしているのかを考えてみてほしい。

縦軸をグローバル化の深化度合い、横軸をグローバル人材の充足度とすると、グローバル化を目指す企業は、基本的に右上に行くことを志向する。左下の緑の四角、つまり「日本国内のみ、日本人のみでビジネスを展開している状態」から、まずはグローバル化の第一歩として、海外拠点を持ち、そこに日本人を赴任という形で行かせる。これが1つ目のステップだ。

図1: ビジネスのグローバル化とリソース確保に向けたパス

© 2013. For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting Co., Ltd. 

Step1:日本人が海外拠点に赴任で対応

日本人が海外拠点に赴任して対応する場合、以下の論点について明確にする必要がある。

 

•海外拠点の立ち上げに必要となる人材の要件が明確になっているか

•海外拠点への赴任をキャリアパス上でどのように位置づけているか

•海外赴任者をどのように特定しているか(ジョブローテーション、社内公募、FA)

•赴任前の研修が十分であるか(語学・文化・風習など)

•海外赴任中の評価・報酬・福利厚生などに関する処遇ルールが整備されているか

 

具体的に言うと、ご自身の会社の海外拠点におけるビジネスの立ち上げフェーズではどのようなスキル・能力・経験を持った人材が、何人必要となるのか、そういった人材をどのように見つけ出すのか、もしくは育成するのか、高いモチベーションを維持して海外に赴任してもらうための人事面での制度が整っているか、そういったことを検討することで、安定的にパフォーマンスの高い赴任者を輩出できるようになる。

 

なお、Step1の状態のまま、無理にグローバル化だけを進めていくと、すぐにグローバル人材の枯渇状況に陥る(図1の壁)。程度問題はあるものの、多くの日本企業は、この“壁”に阻まれてグローバル化が思うように進まない(グローバル化を推進していく人材がいない)状況に陥りがちだ。この壁を回避するためにも、座標上のより右へのシフト、つまりいかにしてグローバル人材を充足させるかについて積極的に策を講じていかなければならないのである。

 

Step1の時期を超え、海外拠点数がある程度増え、海外でのビジネスがある程度軌道に乗ってくると次のステップに移る。各海外拠点で採用したローカル人材をどのように計画的に活用していくかを考えるStep2だ。

Step2:ローカル人材の計画的育成・登用

ローカル人材の計画的育成・登用を考える前に、グローバル人材・ローカル人材・日本人社員(海外赴任者を含む)の活用モデルを検討する必要がある(図2)。

 

ここで言うグローバル人材とは、海外での豊富なマネジメント経験を持ち、新規拠点でのビジネスの立ち上げや、既存拠点の建て直しをグローバルワイドで行うことのできる人材を指す。会社全体を経営者層・マネジャー層・スタッフ層の3層構造とした場合に、どこの層を、どの人材群が担うかを検討することで、それぞれの人材群に対してどのようなマネジメントをしなければならないかが見えてくる。

 

仮に図2のオプション1を志向する場合、ローカル社員の育成はあくまでスタッフレベルの人材を育成することに主眼を置けばよく、採用に関しても、そこまでハイレベルな人材を獲得しようとしなくてよい。しかし、オプション2もしくはオプション3を志向する場合はそうはいかない。いかにして優秀なローカル人材を獲得・育成するか、そこに海外ビジネスの発展が懸かってくるからである。いずれにしても、現有人材のスペックや今後の海外ビジネスの展開を踏まえ、中・長期的にどのモデルを志向するかを検討することがローカル人材のタレントマネジメントを考える上での道標となる。

 

ローカル人材個々のスキルや能力・経験等の可視化が論点となってくるのもこのステップだ。ローカル人材を計画的に育成・登用しようと考えると、どうしてもそのための基礎情報が必要となってくる。しかもアクセスしやすい形でだ。実際に、私が関与させて頂いているクライアントからも、ローカル人材のスキルズ・インベントリー構築の相談を受けるケースが目立つようになってきている。

 

管理すべきデータは、一般的に従来の人事システムが持つデータ量よりも多い。スキル・能力・これまでの職歴(前職を含む)といった基本的なデータのほかに、過去の評価結果や上司やカウンセラーからのフィードバックコメント、さらには特に海外では、趣味や社内ネットワークまでが管理対象となるケースがある。個々人に応じた育成やアサインを考える上で、インプットになる情報は何かを考え、必要な情報を収集できるプロセスを構築することが重要だ。このようなニーズを答える形で、昨今では多くのタレントマネジメントシステムが登場している。比較的安価に導入・運用できるクラウドベースのタレントマネジメントシステムが出揃ってきている現状を鑑みると、まずはエクセルでの情報管理からスタートし、必要なデータの精査やプロセスの構築をしていきつつも、ある程度成熟したタイミングでこれらシステムを導入するか否かについて検討していくのが良いのではないだろうか。

 

ローカル人材の活用が軌道に乗ってくると、次はいよいよグローバル人材の計画的育成・登用というステップに入る。海外拠点の数も大幅に増え、各拠点で人材やビジネスが多様化してくると、海外での豊富なマネジメント経験を有したグローバル人材の必要性が高まる。このステップでは「日本人社員」という括りは限りなく薄くなり、人材マネジメント上、日本も1つのローカルとして見なされる。日本人も含めた全ローカル社員の中から、いかにしてグローバル人材を計画的に育成・登用するかが論点となる。

図2: グローバル人材・ローカル人材・日本人社員(海外赴任者を含む)の活用モデル

© 2013. For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting Co., Ltd. 

Step3:グローバル人材の計画的育成・登用

Step2ではローカル人材の活用エリアは拠点内で完結するため、各拠点長が育成をコントロールすればよかった(もちろん本社人事や研修部門との連携を取りながらではあるが)。ただしStep3になるとグローバル人材に関してはグローバルレベルでの管理が必要となる。これはつまり、グローバル人材の人事権を各海外拠点から本社人事へと移管しなければならないことを意味し、ここで拠点長との調整がうまくいかず、躓いてしまうケースも散見される。グローバル人材のマネジメントに関する各海外拠点-本社人事間、人事部-国際事業部間の役割分担を整理しなければ前に進むことはできない。

 

またStep2で可視化した、各ローカル人材のスキル・能力・経験等を統合し、グローバルで1つのプラットフォームを持つことも検討する必要がある。所謂、「グローバルサクセッションマネジメント」、グローバル人材が就くべきキーポストを特定し、当該ポストの次世代・次々世代の人材を特定し、登用に向けて必要な育成を計画的に行っていく仕組みの実現である。グローバルサクセッションマネジメントの実現に際して重要なのは、トップマネジメント層がサクセッサー一人ひとりをしっかりとモニタリングし、個々のアサインや育成など、必要な人事施策を決定していくプロセス・会議体・役割分担を明確にすることだ。

 

あるクライアントから、サクセッサー個々の情報は精緻に管理され、いつでもアクセスできようになっているが、いざ○○支社の管理部門のトップに誰を任命するかという局面になると、トップマネジメント各々の思惑が錯綜し、決定できない。という話を伺った。データによると候補者それぞれが優秀なのは分かるが、誰が適任かという議論になると、結論が先送りになってしまうというわけだ。これに対し提案させて頂いたのは、当該クライアントのグローバル人材(=経営陣)にとって必要なスキル・能力・経験等を定義し、各項目をポイント化する。例えば、海外でのマネジメント経験を1カ国で○点、2ヶ国で○点……、海外でのビジネスの立ち上げやターンアラウンドの経験があれば○点……といった具合にポイント化し、サクセッサー個々のポイントを算出する仕組みを構築するということである。

図3: サクセッサーのポイント化イメージ

© 2013. For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting Co., Ltd. 

グローバル化への「抜け道」として

各ステップにおける論点を整理・解決していくことで、日本企業は一歩一歩、ビジネスのグローバル化とグローバル人材の充足を進めている。これは紛れもない事実だ。しかし一方で、これから本格的にグローバル化に舵を切ろうと考えている日本企業も多い。そのような企業は、いつまでもグローバル化の先駆者たちの背中を追いかけ続けなければならないのだろうか。ここからは多少乱暴な話になることを覚悟の上で、図1の右上にいち早く辿り着くためのする方法について2つの提言をさせて頂く。

 

1つ目の提言は図1のパスをショートカットする方法である。図1のStep1→Step2→Step3というパスはあくまでもOrganic Growth(有機的成長)の中での話に過ぎない。昨今、多くの日本企業が海外に本社を持つ企業に対し積極的にM&Aを展開している。このような合併や買収は単にビジネスのグローバル化を加速させるだけでなく、グローバル人材を充足させる絶好の機会にもなる。M&Aを進めていく上では、合併・買収先の企業とのタフな交渉が続く。こういった場面に参画し、グローバルの仕事の進め方を“生”で学べる機会はそう多くない。また合併・買収後、M&A先への出向なども、グローバル人材育成の場となり得る。

 

とにかく重要なのはM&A先の会社と意図的に「混ざる」ことだ。もちろん、全員が混ざる必要はない。グローバル人材の育成は選択と集中だ。選抜された「金の卵」たちをグローバルビジネスの最前線へと送り込み、混ざり合わせることによって、早期にグローバル人材を育成することが出来るはずだ。環境が人を変えるという話はある側面で非常に正しい。例えば筆者が関与させて頂いた、とあるクライアント(外資系企業の日本法人)では、効率化に向けたグローバル共通プロセス導入により、ある時から突然、自分の上司が外国人になり、多くのグローバル電話会議がセットされるようになった。当初は戸惑っていた社員も、今では日常的に、ごく当たり前に英語でのコミュニケーションを行っている。

 

合併・買収するまでは良かったが、そのまま放置してしまっている案件をよく目にする。これからグローバル化を急速に進めていく中でM&Aの機会をグローバル化のジャンプアップの機会と捉え、うまく活用してほしい。

 

2つ目の提言は図1のパスを進むスピードを上げる方法である。そもそもグローバルでのビジネスを牽引するようなグローバル人材が本当に必要なのだろうか。日ごろから多くの日本企業のクライアントとお話をする中で、常に頭の片隅にある質問だ。誤解を恐れず現時点での私見を述べるとすれば、答えは、「必ずしも必要ではない」である。図2では、日本を含めた各海外拠点で働くローカル人材と、グローバルワイドでのマネジメントを行うグローバル人材とを明確に分けるオプション3をあるべき姿として定義している。この場合のグローバル人材は適応力に優れ、海外複数地域でのマネジメント経験を持ち……といった「全知全能型」のリーダーである。もちろんこういった人材が充足していれば、その企業のグローバル化に向けた推進力は増す。

 

しかし、こういった人材でなければグローバル化した企業のマネジメントは本当にできないのだろうか。各国のビジネスやマネジメントのやり方を知り尽くしたローカルのマネジメント層(グローバルのビジネス経験が豊富なわけではなく、英語力も決して高いレベルではないが、マルチカルチャーへの順応性が高く、人と業務をマネジメントするスキルに長けている人材)が国連さながらに集まって、お互いの知恵や経験を結集する形でグローバルレベルの判断をしていくやり方もあるのではないか。もしこのやり方が成立するのであれば、無理にグローバル人材の充足に拘る必要はない。各ローカルで優れた人材を計画的に育成・登用できていれば良いので、必然的にパスを走り抜けるスピードは速くなる。このようにマネジメントの組織体制を変えることで、企業のグローバル化をスピードアップできる可能性がある。

 

抜け道については多分に私見を含めて書いている。しかしながら、日本企業がグローバルで勝っていくためには、タレントマネジメントの領域においても様々な試行錯誤・創意工夫が必要であることは明白である。本稿が皆様の会社における議論のきっかけになれば幸いである

ニュースレター情報

Initiative Vol.67

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
マネジャー 高柳 圭介

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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