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グローバル人材マネジメント

~「グローバルモビリティー」機能のアジア拠点設立~

育成目的におけるAPAC地域から他地域への異動、欧米諸国からAPACへのリーダーの異動・転籍、地域内における海外採用など、さまざまな形態の人材のモビリティーが進んでいる。APACにおいては、日本がリードしモビリティー機能を高度化させることが重要であろう。APACのビジネスを牽引する能力を持った優れた人材を、グローバルのタレントプールから大胆に配置・投入し、APACで効率的に管理・運営する基盤の構築が急務である。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.67)

アジア地域におけるモビリティーの高まり

新興国マーケットの成長をエンジンにM&Aや事業進出が拡大し、それに伴ってアジア地域における人材の流動化が加速的に進んでいる。

トーマツグループが行った”Talent Edge 2020: Redrafting Strategies for the Uneven Recovery”サーベイでは、EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)、Americas(南北アメリカ)、APAC(アジア太平洋)の全地域において、リーダーの欠如がビジネス上最も優先度の高い解決すべき課題だと位置づけられているが、その中でもAPACにおけるリーダー欠如が著しいという結果となっている。特に、R&Dリーダーや経営者不足がAPACの課題である。

こういった状況の中、日本からのアジア各国への異動はもちろんのこと、育成目的におけるAPAC地域から他地域への異動、欧米諸国からAPACへのリーダーの異動・転籍、地域内における海外採用など、さまざまな形態の人材のモビリティーが進んでいる。

しかしながら、日本企業の中で、APACにこれらのモビリティー基盤を整備している会社は少ない。EMEAやAmericasにモビリティーのCOE(Center of Excellence)があり、地域において効率的に高品質のサービスが提供できている会社はある。人材マーケットはまだ域内を中心に流動性が高いので、EMEAやAmericasでは現地人が中心となりモビリティーCOEを設立した経緯があるのだ。APACにおいては、日本がリードしモビリティー機能を高度化させることが重要であろう。APACのビジネスを牽引する能力を持った優れた人材を、グローバルのタレントプールから大胆に配置・投入し、APACで効率的に管理・運営する基盤の構築が急務である。

モビリティー機能の高度化は、モビリティーにまつわる下記のようなリスクやコストを考慮した上で進めていく必要がある。

1. タレントリテンションリスク

2. グローバルモビリティー機能の効率性

3. コンプライアンスリスク 

1. タレントリテンションリスク

グローバルアサインメントには離職リスクがつきものである。Deloitteが行った”Talent Edge 2020: Redrafting Strategies for the Uneven Recovery”サーベイでは、グローバルでインタビューを受けた従業員の内65%が既に転職活動中、若しくは転職活動をする予定にしていた。

またある企業では赴任後3年以内に40%の人が転職し、そのうちの53%がトップパフォーマーであった。

近年こういった人材マーケットの動きを受けて、グローバルモビリティーの考え方が変わりつつある。海外赴任は、様々なビジネスや国、また違った組織レベルでの経験を可能にし、自己の成長はもちろんのこと、キャリア機会や昇格の機会を高める為に非常に有効である。転職マーケットにおいても、雇用の可能性が高くなり、高い報酬条件を得る可能性も高まる。この様な赴任者の享受する利益を考慮し、赴任によって掛かるコストを会社と赴任者で分配するという考え方である。これは赴任経験によって価値の高くなった人材が流出するリスクを、会社として容認している動きである。 Deloitteが行った”Talent Edge 2020: Redrafting Strategies for the Uneven Recovery”サーベイによると、71%のCXOが今後12ヶ月以内にキータレントが離職するリスクを認識し対応を検討しており、グローバルモビリティーにおいては、短期的な金銭的メリットだけではなく、赴任者を対象とした評価制度の整備、昇格も含めたキャリア機会の創出、処遇の妥当性こそが、差別化を図る有効な手段であると考えている。

社命としての赴任を拒否することもなく、終身雇用が基本で赴任後の転職リスクも低い日本企業にとっては、海外赴任は会社都合であり手厚い生活保障が基本である。前述のグローバル人材マーケットの動向は、日本企業にとって別世界であり、組織としての対応ができていないのが現実であろう。

しかしながらAPACにおいて、優秀な人材が他欧米企業に転職していくことを防ぐ為には、こういった人材マーケットの動向を無視するわけにはいかない。外部市場動向を踏まえない対応は、優秀な人材のリテンションリスクを高め、会社にとって人材に対する過剰投資につながることになる。

それでは日本企業は、おかれている現状に対して何をしたらいいのであろう。

現在日本企業の80%程は、海外赴任規程と海外出張規程で、グローバルモビリティー制度を運営している*1。言うまでもなく、これらの考え方をそのまま海外事業体へ展開することはお勧めできない。また、海外の事業体に言われるままに個別対応を重ねるのも、上述のリスクをグローバル本社として管理できていないこととなる。

まずは、グローバルモビリティーのポリシーを定めることが重要だ。最初に会社の中長期計画に基づいたグローバル人材の考え方を議論し整理する。その考えに基づき、グローバルモビリティーポリシーにおいて、報酬や福利厚生だけではなく、選抜、キャリア、評価、処遇の考え方も含めることが重要である。会社と赴任者の両者が、リスクと機会を判断することができる包括的な項目を挙げる必要がある。

次に、タイプ別の赴任規程を整備する。会社のビジネス戦略を達成する為の業務目的達成が主となる赴任なのか、個人利益がより大きい育成目的の赴任であるのかによって、赴任にかかるコストの会社/赴任者間の負担割合が変わる。こういったタイプ別の赴任規程を整備し適用するケースが欧米企業において増加してきており、日本企業も検討を開始しているのが現状だ。

 

 • Long Term International Assignment

 • Short Term International Assignment

 • Localization

 • Permanent Transfer

 

これらは、現在グローバルで主流となってきている赴任規程タイプの一例である(詳細はこちら)。

こういった各種規程の中では、投資対効果を見据えた詳細項目の定義が重要である。目的に応じた人選基準の作成、赴任期間の限定、異動先報酬制度の適用検討、手当ての上限設定など、コスト意識の高い検討がされてきている。また一方、高まる優秀人材のリテンションリスクを考慮し、人選の有り方、赴任業務内容の決定方法、評価、赴任中コミュニケーション、キャリア機会、昇格を含めた処遇に関する考え方を検討し明示することも、現在のグローバル人材マーケットでは差別化要因として非常に有効である。

出所

 *1:Deloitte Japanese Companies Global Mobility Survey 2011

2. グローバルモビリティー機能の効率性

APACに専門性が高く、複雑なモビリティー機能を設立し、効率的に運営するのは大きなチャレンジである。モビリティー機能の生産性を表す数字として、24人の赴任者に対して1人のモビリティー担当者というグローバル平均値がでている。日本企業に籍を置くアウトバウンド赴任だけでなく、アジア諸国から日本へのインバウンド赴任、APAC内拠点間異動を含めた時、この生産性の数値は達成されるだろうか?

モビリティー機能は、海外事業体各社で持つよりもシェアードサービス化する方が効率的である。海外事業体の中には規模が小さく、人事担当者がいない場合やモビリティーに関する専門知識がない場合も少なくない。また、規模の小さな海外事業体の赴任者の数は限られるので、経験知を積み上げるのにも時間がかかる。APACのモビリティーCOEが、事業体間を異動する赴任者のアサインメントや赴任先でのグレードに関するアドバイスを行い、それに伴う報酬の一元管理、ペイロール、リロケーション・イミグレーション・税務サービスの統一化を行うことによってコスト削減や運営の効率化を図ることができる。

その際に、人選、アサインメント、評価、コミュニケーション、キャリアに関する人材マネジメント機能をグローバルモビリティー機能に追加し、会社と赴任者間の期待値管理をしっかり行うことによって、赴任経験満足度向上させ、赴任後のリテンション率の向上に高い成果を出している会社もある。

また、APACにおけるグローバルモビリティーのCOEを、日本ではなくシンガポールやインドなどで検討しはじめている会社もある。英語が話せる高度人材の確保のしやすさ、優遇税制、人件費、優れた施設提供などが、アジア拠点化の主な要因である。

3. コンプライアンスリスク

グローバルモビリティー機能の高度化にあたって、コンプライアンスリスク管理は非常に重要である。にもかかわらず、赴任者や出張者などグローバルモビリティー領域でのコンプライアンスリスク管理体制はまだまだ十分であるといえないのが現状である。

APACへの進出にあたって、例えば中国において、技術支援がPE認定(Permanent Establishment: 恒久的施設)され、技術支援目的の出張者に係る租税条件の適用が否認された製造会社は、追徴課税150万元(約1,850万円)、罰則金を未納税金の50%課金されたケースが有り、新興国でのリスクが高まっている。

まずは、左図のモデルを参考に税務コンプライアンスリスクの要因を理解することができる

できれば専門家の支援を得てリスクのたな卸しを行い、APACでの適切なコンプライアンス管理体制を検討することが重要である。

(69KB, PDF)

終わりに

日本企業のこれまでの成長を支えてきたのは人材であり、人材は常に貴重な財産であった。だからこそ、これまで人財の価値があがるよう、丁寧に人材マネジメントを行ってきた経緯がある。グローバル人材マネジメントにおいても、モビリティーの基盤整備を行い、質の高い赴任経験をしてもらうことにより、グローバルで活躍することができる人材プールを構築していくことが求められている。 

ニュースレター情報

Initiative Vol.67

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー 深見 貴子

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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