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社外取締役制度を意味のあるものにするために

2014年6月27日公布の「改正会社法(会社法改正)」では、社外取締役設置の義務は見送られましたが、附則により、2年後に社外取締役の設置義務付け等の措置を講じる、とあります。社外取締役の要件や期待されている役割について、コーポレートガバナンス・コードの視点から解説します。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.72)

社外取締役の設置について

役員報酬および役員体制等のガバナンス体制に関する見直しのお手伝いをさせていただく中で、最近では、社外取締役の設置について議論する機会が多い。この1年の間でも、トヨタ自動車、住友化学、キヤノン、新日鉄住金など大手企業が初めて社外取締役を選任したり、会社法の改正関連等「社外取締役」に関する記事を目にする機会が多くなったと感じられている方々も多いのではないか。そこで今回は、社外取締役の設置について考えてみたい。 

会社法改正案の概要~社外取締役の要件の厳格化

2013年11月に臨時国会に提出された「会社法の一部を改正する法律案」(以下、「改正案」)が、2014年1月24日から開催されている第186回通常国会で審議されている。

この改正案では、i)監査等委員会設置会社制度の新設、ii)社外取締役及び社外監査役の要件の厳格化、iii)親会社株主が子会社経営陣を責任追及できる制度(多重代表訴訟)の新設等から構成されている。法案の目的としては、社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化、並びに、株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図るためであると、法案提出理由に記載されている。改正案の詳細等については、法務省のサイトを参照のこと(*1)。

以下、本改正案の内容について社外取締役に関連する事項を整理してみる。 

社外取締役の設置

改正案では、社外取締役設置の義務付けは見送られた。但し、有価証券報告書を提出しなければならない監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)が社外取締役を置いていない場合は、定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないとある。つまり、原則として社外取締役を設置すべきで、設置しないのであれば、その合理的な理由の説明を求められている。例えば、社外取締役を設置する事により被るデメリットがあるのならそれを理由として説明できるのかもしれないが、各会社の置かれた状況に応じて説明するのは簡単でないだろう。

現在は「社外監査役が外部からの経営監視機能として十分に機能しているため社外取締役を選任していない」といった内容の開示を目にする。そもそも監査役の役割には会計監査と業務監査があり、後者は、取締役の職務執行が法令と定款を遵守して行われているかを監督検査することであり、社外取締役が、長期的に企業価値を向上させるために経営を監督・モニタリングすることとは役割が異なっているので、社外監査役が社外取締役の役割を果たすのは難しいと考える。

このように一見高いハードルを設置されたようにも思われるが、日本経済団体連合会では今までも改正法務省令の施行等に対応した開示書類のひな形(*2)を作成してきているので、今回も同様の対応をすると思われるため、これを参考に対応する会社が多いのだろう。もちろん独自の考えや対応でガバナンス強化に取り組んでいる会社もあるが、現時点ではそれほど多くないのが実状だと思われる。

 

社外取締役の設置状況

しかし、社外取締役の設置状況は、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)サーベイ(*3)の2013年調査結果では上場企業の62%の企業が社外取締役を設置しており、また、東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2013(*4)よると、東証上場会社の53.7%が社外取締役を設置している(いずれも委員会設置会社を除く)。このように、既に上場企業の半数以上は社外取締役の設置に対応済みである。

また、附則には、2年後に企業統治に係る制度のあり方を検討し、必要性に応じて社外取締役の設置義務付け等の措置を講ずる、とされており、ガバナンス強化に向かっている世の中の流れ等からも将来的に義務化される可能性は高い。であれば、社外取締役を設置していない会社においては、この機会に社外取締役の設置に向けて体制準備を始めた方がよい。

社外取締役の要件

現在の社外取締役の要件は、i)自社または子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他使用人(以下、「業務執行取締役等」)でないもの、ii)過去に自社または子会社の業務執行取締役等でなかったもの、と定義されている。

現時点で社外取締役を設置していたとしても、改正案の要件を満たしていないのであれば、新たな候補を見つけ選任するというプロセスが必要になり、実務的な負担が大きくなるものと思われる。実際、DTCサーベイ2013年調査結果では、社外取締役を設置している上場会社(委員会設置会社を除く)のうち、《親会社または関係会社の出身者》13%、《株主または株主である会社のもの》27%となっており(図1)、この一部は上記iii)またはiv)に該当すると思われるので社外取締役の要件を満たさない可能性がある。 

図1:社外取締役の属性

社外取締役に求めるもの

社外取締役の役割は、長期的に競争力と企業価値を高めるために健全性を確保しながら、経営・取締役の業務執行を監督・モニタリングすることである。競争力と企業価値を高めるためには、経営執行部の迅速な意思決定や機動的な業務遂行が必要で、この意思決定や業務遂行を監督する事が社外取締役の最大の役割であろう。

経営者としての経験が必ずしも必要とは思わないが、経営を監督する立場であるので経営に対する理解の高い人材が求められることになる。業界によっては単なる経営者としての経験ではなく、具体的なビジネスについての深い理解も求められるであろう。そういう意味では同じ業界の出身者でなければ十分な監督機能を果たせないこともあり得る。また、企業価値を高める可能性の買収を、社内取締役のみだと担当業務の保身のため頭ごなしに敵対的としてしまいそうなところを、第三者の立場から社外取締役に冷静に判断してもらう事ができるかもしれない。

加えて社外ということに関しては、社内取締役同士であれば中々監督という行為をし難いであろうから中立的で柵の無い立場に立つ事ができる、また社内取締役の殆どは同じ企業文化の中で育って来て考え方など近くなる傾向にあると思われるため外部からの異なった視点を取り入れる事ができる。

DTCサーベイ2013年調査結果では、(社外取締役設置の有無にかかわらず)上場企業が社外取締役に期待している役割としては、《経営の監視》が68%と最も多く、《議案の適法性・妥当性の確保》53%、《新規事業に関する助言》31%、《M&Aに関する助言》26%と続いていた(図2)。この様に意識としても、経営の監視という本来あるべき役割が期待されているようだ。 

また、労力と時間をかけて招聘した社外取締役に機能してもらうためには、会社としてもそれなりの体制整備が必要になる。例えば、i)社外人材を招く目的の明確化(当然に本人にも意識付けておく等)、ii)社外取締役が発言しやすい体制構築(社内役員は聞く耳を持つ、複数の社外取締役を招聘等)、iii)社外取締役への充分な情報提供(社内役員との情報量の格差が大きくならないようにする等)といった事が考えられる。 

図2:社外取締役に期待している役割

最後に

経営者の不祥事による企業価値の毀損が数年前に起こったりしたこともあり、コーポレート・ガバナンスを充実させる流れは着実に進んで来ている。ガバナンス強化のためのキーは経営・経営者の監督とも言われており、この体制として社外取締役が大きな役目を果たし得るであろう。社外取締役を新たに設置することは、一朝一夕にできることではなく、実務に与える影響もかなり大きいと思われる。実を伴わない形式だけのものであれば勿論不要であるが、今回の会社法改正が、個々の会社の実態に則したガバナンス体制への構築・見直しを行う契機になればと思う。

(注)会社法および改正案等、法律の正確な表現については、原文を参照のこと。 

<参考資料>
*1) 会社法の一部を改正する法律案
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00138.html

*2) 会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型
https://www.keidanren.or.jp/policy/hinagata.html

*3) デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)サーベイ:
デロイト トーマツ コンサルティングでは「役員報酬サーベイ」2002年より継続実施、役員報酬に関する事項だけではなくコーポレート・ガバナンスに関する取組状況の調査も充実(例年8,9月頃より募集を開始し、参加費は無料で実施)。ご興味のある方はこちらをご覧ください。

*4) 東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2013:
http://www.tse.or.jp/rules/cg/white-paper/

「戦略的な役員報酬改革 / 村中靖 著」(税務経理協会) 

ニュースレター情報

Initiative Vol.72

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
シニアマネジャー 小松 洋

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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