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スマートワーク~長時間労働の是正とダイバーシティ推進~(前編:概論)

近年、ダイバーシティ推進や生産性向上を実現させるワークスタイル変革への注目が高まっている。スマートワークもその一つである。本稿では、スマートワークを一つの切り口に、前編で日本企業が置かれている現状を海外先進諸国との比較において浮き彫りにし、後編ではワークスタイル変革の成功に向けたポイントについて、事例とともにご紹介する。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.73)

はじめに

近年、少子高齢化による労働力人口の減少や、グローバル化の進展・国際競争の激化等に伴い、旧来の働き方・仕事の仕方を変え、ダイバーシティ推進や生産性向上を実現させるワークスタイル変革への注目が高まっている。

本稿では、そのような背景を踏まえ、前編で日本企業が置かれている現状を海外先進諸国との比較において浮き彫りにし、後編ではワークスタイル変革の成功に向けたポイントについて、事例とともにご紹介する。  

子育て世代男性の長時間労働

政府は2013年6月の閣議で、「少子化社会対策白書2013」を決定した。この白書では、子育て世代の30代男性の5人に1人が週60時間以上の長時間労働をしており、育児参加が進まない一因だと指摘。少子化対策の観点から働き方の見直しや労働時間の抑制が必要だとしている。これだけを少子化の原因とするには、様々な異論・反論もあるだろうが、過労死・鬱病の問題や、男女の仕事と生活の調和の観点から、日本の長時間労働と男性中心社会に対する批判は国際的にも高まりをみせている。

海外先進諸国との比較において、国際労働機関(ILO)によると、日本は週当たり労働時間49時間以上の労働者の比率は23.1%と先進国(OECD高所得国)の中で韓国を除くと最も多い(図表1)。調査対象国の中で、最も比率の少ないオランダ6.4%と比べると、実に4倍に近い労働者が長時間労働となっている。 

図表1:長時間労働の国際比較

日本の男女格差水準は先進国で最低クラス

また、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムの報告書「世界男女格差報告2012(Global Gender Gap Report)」では、日本は対象となった135カ国中101位となっている(図表2)。各国の順位をみると、1位から4位までは北欧諸国で占められており、その他の主要な経済国の順位は、オランダ11位、ドイツ13位、イギリス18位、アメリカ22位、中国69位、日本101位、韓国108位となっており、日本は先進国で最低水準、G20でも、韓国に次いで最も低い順位となっている。

同報告では日本について、女性の幹部職員や議員の少なさを指摘し、「女性の教育レベルが高いにも関わらず、労働市場でうまく活用されていないため、教育投資に見合う利益が出ていない」と述べている。更に、男女の雇用格差をなくすことで、女性の社会進出を促進し、日本のGDPが16%増えるとの研究も紹介している。高度経済成長時は、長時間労働が可能な男性社員が中心となり労働集約型産業を支えていたが、近年は「グローバル化」や「少子高齢化する労働市場」に対応するため、働き手や働き方を多様化する必要性が高まっている。 

図表2:男女格差の国際比較

ワークスタイルの先進国から学ぶ

「女性は家で育児」という元来からの文化等、文化的・歴史的背景に関して日本とオランダ間の類似点が多数あるが、近年オランダでは女性の社会進出が進んでいること等、日本がオランダから学べることは多い。なぜ、オランダでは、労働時間の適正化と女性活用が進んでいるのか。オランダがワークスタイル改革に取り組んだ背景を具体的に解説する。

80年代前半、世界的グローバル化により国内の産業が空洞化。雇用危機による男性の失業率上昇を受けて、家計を助けるために女性の社会進出が開始された。しかし、キリスト教民主主義文化を背景に、以前から女性が育児を担っていたオランダでは、女性がフルタイム就労するための保育サービスが不足していた。景気低迷をうけて、政府は財政支出抑制と減税を推進しており保育サービス拡充にはいたらなかった。女性の社会進出と待機児童数の抑制を同時に実現する折衷案として女性のパートタイム就労が進んだ。

近年では、スマートワーク(働く場所・時間に縛られずICTを活用して柔軟に勤務する働き方※)により、多様な人材活用と労働時間適正化が更に推進されている。オランダ経済省(Ministry of Economic Affairs)が2001年に実施した調査「Ict,flexibilisering en emancipatie」では、スマートワークが女性の社会進出を支援すると考察。また、ワークプレイス・ソリューションプロバイダーのRegus(本社:ルクセンブルク)は、2012年に、スマートワークの導入により73%のオランダ企業が生産性向上を感じていると発表した。実際に、OECDの調査では、80年代から現代にかけて、労働時間が25%減少した。

※近年では、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をテレワークやモバイルワークと呼ぶ場合もあるが、国内外におけるそれらの定義は曖昧であるため、本稿ではあえて「スマートワーク」と定義している

オランダにおけるスマートワークの推進は、交通混雑の緩和や育児介護者の就労をそれぞれ推進している各省庁の思惑とも一致している。交通混雑緩和による従業員への通勤負担軽減、家庭の事情等から様々な制約がある多様な人材活用を目的として、柔軟な働き方が推進されている。

このように、ワークスタイル変革に踏み切った当時のオランダと、女性の社会進出や待機児童等の問題を抱えている現在の日本は同じ状況下にあると言えるだろう。ワークスタイル変革に遅れを取っている日本では、政府が主導となり推進していく兆候がある。日本政府は2015年までに在宅型スマートワーカー数を700万人とする目標を設定し、既に各省庁が各種取り組みに着手している。他にも、三本の矢の一つである成長戦略の中核に『女性の活躍』を据えたり、「世界最先端IT国家創造宣言」においてスマートワークを活用したワークライフバランス追求を目指している。

後編へつづく

情報通信技術の発達や政府の取組みにより、日本においても、ワークスタイル変革に必要な環境は整いつつある。その一方で、当社で実施している「ワークスタイル実態調査」の結果を見ると、半数の企業がワークスタイル変革のニーズは感じつつも、実施には至っておらず、従来の働き方を変えることに慎重姿勢である。次回は、変革を阻害している要因や成功ポイントを、実際にワークスタイル変革を成功させた企業の事例を交えご紹介したい。

本記事は、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2013 年10月号掲載)を転載したものです。 

ニュースレター情報

Initiative Vol.73

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
シニアコンサルタント 大橋 克弘 
ビジネスアナリスト 定行 彩 

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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