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スマートワーク~長時間労働の是正とダイバーシティ推進~(後編:事例)

近年、少子高齢化による労働力人口の減少や、グローバル化の進展・国際競争の激化等に伴い、旧来の働き方・仕事の仕方を変え、ダイバーシティ推進や生産性向上を実現させるワークスタイル変革への注目が高まっている。後編となる今回では、ワークスタイル変革を成功させるために日本企業が押さえるべきポイントについて、事例とともにご紹介する。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.74)

はじめに

近年、少子高齢化による労働力人口の減少や、グローバル化の進展・国際競争の激化等に伴い、旧来の働き方・仕事の仕方を変え、ダイバーシティ推進や生産性向上を実現させるワークスタイル変革への注目が高まっている。

前編では、日本企業がおかれている現状を海外先進諸国との比較において浮き彫りにした。後編となる今回では、ワークスタイル変革を成功させるために日本企業が押さえるべきポイントについて、事例とともにご紹介する。 

時間と場所にとらわれない柔軟な働き方

情報技術の発達により、政府が後押ししているワークスタイル変革の技術的準備は整った。これにより、在宅勤務に加えて、より柔軟性の高い自宅以外のスマートワーク活用が可能となり、労働時間適正化と女性活用が更に推進されるだろう。

以前は、屋外で利用可能なネットワークが不安定、業務を遂行するための使い勝手が良いデバイスが限定的、端末からのデータ漏洩危機が防止しきれない等、スマートワーク導入の障壁が存在した。しかし現在は、ICT技術によってこのような障壁が取り払われているといっても過言ではない。このような技術革新に支えられている柔軟な働き方は図表3のように分類できる。 

図表3:スマートワークのシーン概要と効果一例

スマートワークのメリット

【事例1:Light Work】

日系大手エンタテインメント企業A社では、イノベーティブな製品を開発するためには、社外での情報収集が重要だと考える文化が存在しているが、実際は業務に追われて十分な余暇時間を確保することが困難であった。生産性向上による余暇時間創出を目指してiPhoneとiPadを貸与し、隙間時間での業務を可能とした。iPhoneとiPadではメールとスケジュール確認以外に、決裁も可能である。管理職が社外で決裁することにより意思決定が迅速化した。結果的に、隙間時間を活用しただけで、残業時間が約5%削減された。
 

【事例2:WAH(Work at Home)】

続いて、WAH(自宅での本格的な業務の遂行:いわゆる在宅勤務)の事例を紹介する。富士通ワイエフシーは、結婚・出産・育児を理由に退職しがちな優秀な女性の活用をきっかけとして、2006年度にワークライフバランス推進室を設置。2007年度初頭より、在宅勤務制度を導入。自宅から会社自席のPCを遠隔操作する技術を活用することで、自宅に居ながらセキュアな環境で勤務可能な仕組みを整えた。育児や介護の有無に関係なく、試用期間中を除く全ての社員に利用資格が与えられており、試行開始からおよそ4年後には、従業員351名のうち212名(約60%強)が制度を利用するに至っている。在宅勤務日は自由に設定可能であるが、週2日は出社することが条件。「最初は意思の疎通を心配したが、結果的にかえって仕事の効率が上がった」「通勤がないので、精神的・肉体的な負担が減少した」等の声が多く挙がっている。生産性向上により、一人当たり年間総労働時間が76時間減少し、定時退社率が82%から89%へ向上。定年退職を除いた離職率が4.5%から0.9%まで改善している。
(出所: 1,2,3,4,5)
 

【事例3:Smart Device Work】

2012年12月、ローソンは品揃えや棚割り等の店舗経営を指導するSV(スーパーバイザー)の業務効率化を目的に、1600台のタブレットを導入した。VDI(仮想デスクトップ)を活用してタブレットから業務アプリケーションへのアクセスを可能としている。従来は、店舗の状況を店内で紙に記録した後、改めてPCに入力し直し、本部へ送付していた。ノートPCでは起動時間が遅く、マウスやキーボードでの操作は店内での作業には不向きであった。一方、タブレットは、入力から結果の送信までを一気通貫で行うことができる。また、外出先からいつでも必要な情報を収集し、業務日報・勤怠管理が可能、カメラ機能を使ったWeb会議により、時間や場所を選ばず社員間でのコミュニケーションが取れる等、事務処理時間や移動時間の大幅な時間削減を実現している。ローソンは今後、これらのソリューションを、在宅勤務や出向者の社外勤務等にも適用していく計画である。
(出所:6,7,8)
 

【事例4:Nomadic Work】

大手日系製造業B社では、経営層が主体となり、シンクライアントPC(本体にデータが残らないPC)を利用して全社的に顧客オフィスの周辺等、場所や時間にとらわれずに、業務を可能にした。結果的に、作業時間が約30%減少し、中でも、営業事務作業(提案資料作成等)に要する時間が約50%削減された。また、同社はダイバーシティ推進の観点からも、長時間労働の是正や在宅勤務の導入等により、女性が働きやすい環境の整備に注力している。2000年から2012年にかけて、女性管理職数が約5.5倍となった。

よくある誤解と対処法

スマートワークの効果性は調査結果でも証明されている。総務省の「平成24年通信利用動向調査」によると、約半数の回答者が場所と時間に制限がない柔軟な働き方により「定型業務の生産性向上」を感じており、また女性活用に寄与すると思われる「移動時間の短縮」や「通勤弱者(育児中女性等)への対応」に関する効果も挙げられている。

このような効果が証明されているにもかかわらず、世界各国に比して日本でのスマートワーク導入は遅れている。Regusの調査(2011)では、「スマートワークを一切許可していない」企業の割合に関して、日本は主要先進諸国中最も高い50.6%を記録している。次いで中国が2番目に高い割合だが、それでも25.6%と、約2倍の差がある。更に、2013年の米Yahoo!の在宅勤務禁止に関する決定をうけ、「在宅勤務は怠けを助長する。米国でも在宅勤務が難しいのに、日本では到底不可能に決まっている」という声も少なからず聞こえてくる。

スマートワーク活用により大きな効果を享受することが可能であるにもかかわらず、導入を躊躇してしまう企業が多いのは、次に説明する3つの誤解に起因する場合が多いのではないだろうか。

まず、「スマートワークは業務の管理が困難である」という誤解である。自分の近くで業務をしている部下の管理は容易だと思うかもしれないが、実際にはそばにいるだけで安心してしまい、作業内容や進捗を適切に把握できていない上司は非常に多い。ICTを活用することで、業務管理に必要な「会社と同様の環境」を実現することは十分可能である。例えば、最近ではプレゼンス確認可能なユニファイドコミュニケーションやログ管理システムなどが発達しており、社内と遜色のないコミュニケーションを実現できるようになっている。マネジメントに必要なのは物理的な距離感ではなく、業務内容の明確化や、適切なタイミングでの進捗把握、成果による評価の徹底である。ICTと制度の活用により、場所と時間の自由度を向上させながら社内と同様のマネジメント機能を確保することが可能なのだ。

「労働コスト削減額以上にICTコストが大幅に増加する」という誤解からスマートワーク活用に踏み切らない組織も多いが、労働コスト以外にも、様々なコスト効果が存在しており、トータルでは、組織全体のコスト削減に繋がるケースが多い。例えば、離職率改善による採用や育成費用削減、従業員の通勤費用削減や電子化による印刷諸経費削減等が直接的なコストメリットとして存在する。加えて、オフィススペース削減の検討、フリーミアムソフトウェアの利用、BYOD(Bring Your Own Device/私物端末の業務利用)等を複合的に活用することによりスマートワーク活用時のコスト増大を抑制することが可能である。

最後の誤解は「スマートワークの実施により情報漏えいリスクが高まる」ことである。セキュリティ規則で禁じていても、従業員が社外で作業するために、業務用メールアドレスから個人のメールアドレスに業務関連の資料等を転送していないと言い切れるだろうか。このような行為は、従業員の個人端末やメールサーバーに業務用のデータが残存し、紛失・盗難・パスワード流出等が発生した場合には情報漏えいに繋がりかねない。このようなリスクは、ICT技術を活用して社外でセキュアに業務可能な環境を作ることで抑制可能である。近年では、データを端末に残さずに作業を可能にする技術や、データが残っている端末の盗難・紛失時にリモートワイプ(データの遠隔消去)する技術が確立されているため、適切にスマートワークを導入した場合は、単に社外での業務をルールで縛るよりもむしろセキュリティリスクを低減することに繋がる。

このように、3つの誤解は既に対処法が存在しており、スマートワークの導入と運用に関する障壁は格段に下がってきている。実際に、在宅勤務を禁止したYahoo!も、同社が置かれている現状に即していなかったための決断だとコメントしており、在宅勤務活用の効果そのものは否定していないようだ。したがって、誤解や在宅勤務禁止のニュース等に惑わされてスマートワーク導入自体を踏みとどまることはない。 

スマートワークの位置づけの転換

さて、これまではスマートワークの長時間労働の是正と女性活用における効果について解説した。スマートワークは育児・介護者等、特定の従業員に働きやすい環境を提供するための福利厚生に関する施策だと捉えられている場合も多い。実際にスマートワークの導入対象範囲を、まず育児者などに限定する場合も多いだろう。しかし、スマートワークの役割はそれだけにとどまらず、今後は「グローバル化」や「少子高齢化する労働市場」に対応するためには不可欠なものになっていくと思われる。これからの時代、スマートワークは福利厚生ではなく企業の経営課題を解決する経営戦略の一環として活用すべきである。

本記事は、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2013 年10月号掲載)を転載したものです。 

あとがきに代えて

政府は2014年5月28日の産業競争力会議で、「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外)」導入の検討を正式表明した。来年の通常国会に労働基準法改正案を提出し、2016年4月の施行を目指している。労働時間ではなく成果で評価する賃金の仕組みを導入することによって、効率の良い働き方を促す狙いがある。たしかに、労働時間の長さと成果が比例しない創造的・知的労働に従事するようなホワイトカラーに対し、一律に賃金と労働時間の長さとを関連させている現行の労働時間法制には大きな限界があるといえる。創造的・知的労働は、オフィスだけで行われるわけではなく、逆にオフィスにいても、何かを生み出しているとは限らない。このような特徴は、ICTの普及によるスマートワークの拡大によって今後ますます強まっていくことが予想される。

「ホワイトカラー・エグゼンプション」によって、残業代目当てにダラダラ仕事をするケースが抑制され、未だ根強く存在する「残業は美徳」という悪しき習慣を払拭するチャンスだという期待がある。その一方で、成果を求めるあまり無制限に仕事を行い、かえって長時間労働化してしまうリスクや、「名ばかり管理職」のような悪用の可能性も危惧されている。長時間労働体質の改善は、制度だけで実現することは不可能であり、これまで述べてきたようなICTを活用したスマートワークの導入、仕事の役割分担や責任の所在の明確化、トップが率先して行う企業風土・カルチャーの変革等を複合的に講じる必要がある。そして、次に我々が考えなければならないのは、そうやって捻出された時間をどのように価値のあるもとして活用していくのか、ということである。

なお、弊社が行った『ワークスタイル実態調査結果』(プレスリリースはこちら)では、そのような新たな潮流に関して、データ分析を通じて次の2点を明らかにすることができた。まず1点目は、女性活用をはじめとするダイバーシティ推進とワークスタイル変革には、ポジティブな相関性がある。女性活用の必要性と達成感を感じている企業は、簡易的スマートワークを100%許容しており、約60%が本格的な在宅勤務や社外での勤務までを許容している。2点目は、労働生産性向上との相関性もある。 多くの日本企業では慢性的な長時間労働が問題となっているが、危機意識の高い企業ほど先行して柔軟な労務管理や雇用形態へ舵を切っている。 例えば、生産性向上の必要性と達成感を感じている企業の74%が裁量労働制の導入に積極的であり、将来のホワイトカラー・エグゼンプションにも前向きという結果が出た。さらに、本格的なスマートワークを全社的に認めている企業が、同業他社に比べて残業時間が多いと感じることは皆無であり、スマートワークの許容が生産性向上に寄与することも明らかになった。

最後に、未来の働き方を考える材料として、ピーター・ドラッカーが提唱する「パラレルキャリア」を紹介したい。「パラレルキャリア」とは、本業と同時並行で他の仕事を手がけたり、非営利活動等に参加することを指したライフスタイルである。企業は従業員に教育コストをかけず、新しいスキルや知識、人脈、経験を習得させることが可能になるだけでなく、従業員は、本業の仕事に対して新たな社会的意味や価値を見出すなど、仕事と生活の正のスパイラルを生み出す効果が期待できると言われている。かつて、ドラッカーが著書の中で繰り返し提唱していた思想であるが、近年の働き方に関する価値観の多様化、ICTの発達による技術的環境の整備、企業の社会貢献活動についての関心の高まり等を受けて再注目されている。現在では殆どの企業で設けられている副業禁止規定が廃止され、「パラレルキャリア」が当たり前となる時代がやってくるかもしれない。

日本企業ひいては日本社会が、新しい価値を生み出し、国際競争力を高めていくために、多様な働き方を選択できる魅力的な環境を整備していくことが必要不可欠となる時代はもうそこまで迫ってきている。

出所:
1) 富士通ワイエフシー:http://jp.fujitsu.com/group/yfc/pr/2011/001.html
2) Unisys Technology Review:http://www.unisys.co.jp/tec_info/tr109/10908.pdf
3) カナロコ:http://www.kanaloco.jp/article/28440/cms_id/28270
4) 日本財団:http://www.canpan.org/csr2009/report1939.html
5) JCAST会社ウォッチ:http://www.j-cast.com/kaisha/2011/04/28094495.html
6) DIAMOND ITビジネス:http://diamond.jp/articles/-/36651?page=2
7) NEC:http://jpn.nec.com/case/lawson
8) 新日鉄住金ソリューションズ:https://www.ns-sol.co.jp/casestudy/usercase/1174.html 

ニュースレター情報

Initiative Vol.74

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
シニアコンサルタント 大橋 克弘 
ビジネスアナリスト 定行 彩 

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。 

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