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日系グローバル企業で人事ビジネスパートナーモデル(HRBP)を機能させるには

欧米先進企業がHRターゲットオペレーティングモデルに移行し、人事組織や人事プロセスに関してグローバルスケールでの標準化・効率化・高付加価値化を進めてきている中日系グローバル企業で人事ビジネスパートナーモデルを有効に機能させるにはどのような方策があるのか考察する。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.75)

人事ビジネスパートナー(HRBP)とは

デイビッド・ウルリッチ氏(David. Ulrich, a professor at University of Michigan and a partner at the RBL Group)が人事組織の新しいあり方を提唱してからすでに15年が経過した。

多くの欧米先進企業が以下の人事ビジネスパートナー(HRBP), CoE(Center of Excellence/ Expertise), HRオペレーションの3つの柱によるHRターゲットオペレーティングモデルに移行し、人事組織や人事プロセスに関してグローバルスケールでの標準化・効率化・高付加価値化を進めてきている。

<HRターゲットオペレーティングモデル>
1. 戦略的なビジネスアドバイザーとなる人事ビジネスパートナー(HRBP)
2. 報酬・採用・人材開発等の人事領域の専門家集団であるCoE(Center of Excellence/ Expertise)
3. 人事データや日常の人事業務を担うHRオペレーション(多くの企業ではHRシェアードサービスの立ち上げ)

日系企業も海外事業比率の高まりや海外でのM&A増加に伴い、欧米先進企業の後を追う形でこのグローバルスタンダードモデルへの移行を試みる事例も増えてきている。しかしながら、HRBPの概念は他の2つ(CoEとHRオペレーション)に比べて、現行組織での役割や働き方からの乖離が大きく、定義や運用に戸惑うことが多い。

スーパー人事コンサルタントの期待役割を担える人はわずか

このHRBPとはどのような役割を担い、何をする人なのか。彼らは人事部門の一員ではあるが、実際の職場はビジネス側(事業部門)にあり、テクニカルな人事の専門家としての客観的なアドバイスをするだけにとどまらず、事業本部長やラインの管理職と同水準レベルで事業環境を理解し、その事業固有の組織・人事課題解決に対して踏み込んだ提案、解決策の提示を行う役割を担う。つまり、文字通りビジネス側にとっての真のパートナーという位置づけである。

こうなると人材要件としては、ビジネスのことを熟知しており、人事の専門性も高く、かつ問題解決能力(コンサルティングスキル)も高いという“何でもできるスーパー人事コンサルタント”と定義してしまうことが多い。しかし、この定義に完全に合致した人材を多数抱える人事組織に、すぐに移行できるはずもない。このような人材は、外部マーケットのなかでも非常に貴重で、かつ報酬水準が高すぎる。社内で育成するのも、人事オペレーション中心で育ったキャリアではコンサルタント適性のある人も少なく、仮に存在したとしても育成に時間がかかるからだ。あまりに理想を描きすぎた結果、現実の人材とのギャップが大きく、全く機能しない現実に直面している企業も多い。ウルリッチモデル導入後数年が経ち、改めてHRBPの武器やビジネスとの関わり方を再度考える時期に来ている。 

日本固有の問題は事業の複雑性なのか、能力開発の遅れなのか

確かに我々のコンサルティング経験から人事部門の変革を考える上で、欧米企業でも同様にHRBPの育成が課題であることが多い。しかし日系企業はさらに出遅れていることは間違いない。その出遅れの背景は何か。単一事業体ではなく、直接的な関係を持たない多岐に渡る事業体で構成するようなコングロマリットビジネスモデル(日本ではエレクトロニクス業界だけでなく、IT業界等でもこのような志向性を持つ企業は多い)ではHRBPの期待役割はとりわけ複雑で、それゆえ日本でのHRBPの育成と定着は難しいのか?ということを、最近日系グローバル企業の人事部の方々と議論をしたばかりだ。

(1) “コングロマリット型”企業のHRBPの難易度の高さ

確かに、“コングロマリット型”では、収益モデルや顧客、社員に求められるスキルや人材マーケットでの獲得の難易度等がビジネスにより異なるため、違いに応じたHRBPの役割が求められる。具体的には、次のようなビジネスが混在している企業のケースである。

ビジネス(i)
急成長するITビジネスで大量採用と人材定着が急務の事業、または反対に成熟したビジネスで、高止まりした人件費やベテラン層の要員構造が課題の事業

ビジネス(ii)
専門性や技能を起点に、安定した利益追求のビジネスモデルであり、あまり人材の出入りも激しくなく、長期にわたっての技能的な習熟が必要な事業(例:エネルギー系ビジネス)

ビジネス(i)では、人材の採用・出口戦略といったダイナミックでスピーディな人材マネジメント対策が求められることに対して、ビジネス(ii)では長期間にわたっての一貫した技能伝承や人材開発の対策がより必要とされる。つまり、HRBPの役割はビジネスの特性に応じて異なり、それに答えようとすると、専門性や経験の観点で難易度がより高いという解釈もできる。

(2) HRBP人材の役割の絞りこみ

このように、一見すると事業の複雑性にあわせてHRBPの役割も複雑化してしまうような解を求めがちであるが、はたしてそのようにすべきだろうか。そもそも新しい役割を導入するとき、それをこれまで存在しないような複雑で高度な形で定義してうまくいくのだろうか。ないものねだりになってしまうのではないだろうか(HRBPの導入を始めた企業からのヒアリングに基づくと、実際すでにその兆候がみられるようだ)。

われわれの経験に基づくと、新しい役割・機能を導入するときはなるべく絞り込むことが望ましい。HRBPという新しい役割・機能についても、思い切って絞り込んでみてはどうか。具体的には、たとえば、 “一点突破で要員・人件費マネジメントスキルで事業側への付加価値提供を目指す”ということである。要員・人件費マネジメントスキルとは事業部門における人材の、「量」「質」「ビジネス特有のKPI分析」といった軸で現状を把握し、将来の目標実現に向けてのアドバイスを行うことを指す。ちなみにこの分野の方法論は、我々の中で体系化した形で整理しているため、学習可能である。

ビジネスモデルが大きく異なっていたとしても、事業を成長させるためにタレントマネジメント、特にマクロな視点で短期・中長期の視点から適正要員・適正人件費計画の分析、策定、モニタリングを行うことは普遍的に求められるはずである。加えて、事業体ごとに環境分析、傾向値、施策展開は異なっているので、この領域は必要性が高いにも関わらず、全社視点しか持たないコーポレート人事側では踏み込んだ対応が出来ない。それ故に事業部側にいるHRBPがこの分野をリードし、全社視点の汎用的な分析や提言ではなく、自分達の事業に踏み込み、特化した形で分析し、課題の特定・方向性を、事業独自の特性を踏まえた事業現場の視点で提言することは、ビジネス側にとっても価値が高い。

HRBPがこの明確な武器を身に付ければ、汎用的でなく、事業特有の課題をデータ分析で浮き彫りにすることができ、事実と論理によって具体的な提言ができるので、事業本部長やラインマネジャーに対して、対等な立場で議論や示唆を提供することが可能になるはずだ。

(3) HRBP人材のローテーション等

他方で、仮に上記のようにHRBPの役割を絞り込む場合も、従来の人事とはかなり異なる役割であることから、いくつかの配慮が必須である。配慮すべきことの例を3つあげよう。

一つは、HRBPの役割を定義上絞り込むだけでなく、パートナー役を担う人材の実際の役割をそれだけに絞り込むことである。人事パートナーを導入しても、とりあえず組織名と名刺の肩書きを付け替えるだけという状態が少なくないことも想定される。HRBPがオペレーションの役割も引き続き担ってしまい、結果的にHRBPは肩書きのみで、過去の役割から脱却できないという状況に陥ってしまうというのも頷ける。やはり、今までオペレーションを中心に担ってきたメンバーを、明日からあなたは戦略的パートナーとして活躍するように、といわれても能力発揮の観点でできないのである。

さらにいえば、人材の能力や適正の観点で、オペレーションを担ってきた人材と、HRBPに求められるスペックは明らかに異なるので、後者の役割を絞り込んでも、オペレーションしかできない人材にその役割を期待するのは無理だろう。

第二は、HRBPのローテーションである。HRBPが特定の事業の人材状況について深く理解していくためには、HRBPのローテーションについても再考が必要である。いくら役割を絞り込んでも、HRBPが事業体を跨いで定期的にローテーションが起こるケースでは事業内容の理解や発揮能力の面で難易度は増してしまう。HRBPがその事業体に一貫して関与する想定であればこの難易度をぐっとおさえることができる。そうなれば、単一事業ビジネスをしている欧米系企業のHRBPとなんら役割や難易度は変わらないはずだ。

その意味で、役割の絞込みと並んで、事業部門でのジョブローテーションのあり方についても考えなおすべきだろう。他方で、いったん、あるHRBP人材が、しぼりこんだ役割をある事業でマスターすれば、その人材が他の事業に移って、同じ役割を果たす場合には時間はぐっと短縮できるだろう。

もう一つ必要なことは、従来型の人事機能との連携である。もとより、絞り込んだHRBPの役割・武器がいくら強力だったとしても、それでビジネス上の人事問題が全て解決するとは思わない。専門性の観点では本社のCoEメンバーからの協力を仰ぐこと、あるいはHRBP間で連携し、特定分野の課題解決に詳しい人の協力を得ることも時には必要である。1人で何でもできるスーパー人事コンサルタントを短期間で育成し、配置することは不可能だ。しかし、一点突破のスキルを持ち、足りない部分は人事組織の中で補い合える仕掛け(ナレッジマネジメント)を作り出すことで、日本企業のHRBPは現状よりも存在感を増し、機能する可能性があることをお伝えしたい。 

ニュースレター情報

Initiative Vol.75

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
マネジャー 熊田 麻里 

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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