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ホールディングス(HD)組織の設計・立ち上げに携わったコンサルタントの視点

~HD運営に求められる人事組織~

HDとは、他の株式会社を支配する目的でその企業の株式を保有する企業形態を指す。HD設立の狙いとしては、「グループ全体の経営と個別事業の役割分担の明確化」「事業会社への権限委譲による意思決定スピードの向上」「柔軟なリソースの配分」等を掲げる企業が多い。では、HD運営における人事組織とはどうあるべきであろうか。どのようなガバナンス体制とすれば良いのだろうか。(人事・組織コンサルティング ニュースレター Initiative Vol.77)

HD運営=垂直分業的ガバナンス

HDとは、他の株式会社を支配する目的でその企業の株式を保有する企業形態を指す(日本語名称では持株会社と呼ばれる)。他企業の支配を本業とするHDは純粋持株会社、本業を行いながら他企業の支配も行うHDは事業持株会社と呼ばれるが、HDは一般に前者を指すことが多い(本稿でもHD=純粋持株会社として取り扱う)。

HD設立の狙いとしては、「グループ全体の経営と個別事業の役割分担の明確化」「事業会社への権限委譲による意思決定スピードの向上」「柔軟なリソースの配分」等を掲げる企業が多い(図表1)。
 

図表1:HD設立のメリット・デメリット

では、HD運営における人事組織とはどうあるべきであろうか。どのようなガバナンス体制とすれば良いのだろうか。
従来、日本国内でのグループ経営における人事組織のガバナンスの多くは、各会社ごとに採用-育成-評価-配置・異動-代謝の人材マネジメントサイクルを回し、コーポレート機能としての本社がそのサイクルを取りまとめるという役割分担を基軸としていたと言える。

一方、HD運営におけるあるべき人事組織のガバナンスは、これとは大きく異なることになる。HD運営では、HD人事がグループ全体のルールを形成し、原則、そのルールの下で各社人事は事業のビジネス特性に応じた個別人事施策を展開することになる。つまり、HD人事はコーポレート機能として各会社を取りまとめているのではなく、自らが形成したルールの下に各社をコントロールするリーダーの役割を果たすことになる。従来の人事組織のガバナンスの在り方を水平分業的と捉えるならば、HDにおける在り方は垂直分業的と見なすことができる(図表2)。
 

図表2:人事組織の垂直分業的ガバナンスと水平分業的ガバナンス

図表2から分かるように、垂直分業と水平分業とでは“企画機能と実行機能との切り分け”という観点においてガバナンスの在り方が根本的に異なる。このガバナンスの在り方の違いこそが、図表1におけるHD運営のメリットに直結する。

HD運営の中で機能不全に陥る人事組織

HDという新たなガバナンス形態の中で、人事組織は図表1に整理したメリットを実現できているだろうか。弊社は、HD設立時における人事機能整理や人事業務改革に関するプロジェクト支援を複数提供しているが、その中で、HD運営において人事機能がうまく機能していないという声を聞くことが多い(図表3)。 

図表3:HD運営における人事組織の機能不全の事例

これらの事例を見ると、HD設立時の狙いのまさに真逆の姿に人事組織がなってしまっていることが見て取れる。

HD運営ではHDが“企画”機能を、グループ会社が“実行”機能を担うというように、両者の役割は厳密に(本来は分かりやすく)区分されるべきである。しかし、人事組織に焦点を当ててみると、各会社単位で“企画”“実行”の双方を担っていた仕事の進め方をひきずったままHD運営に移行している企業が少なくないのではないだろうか。

従来の仕事の進め方を根本的に変えることができないままでは、当然HDと各社の役割分担が曖昧になる。そして、この役割分担の曖昧さが、前述した人事社員マネジメントの混乱、人事業務や人事基幹システムの未統合(放置)に直結する。

つまり、HD運営の中で人事組織が機能不全に陥らないようにするためには、従来の人事組織としての仕事の進め方そのものを変えなければならないと言える。では、どのような点に考慮すれば、HD運営に相応しい人事組織のガバナンスを実現できるのであろうか。以降で、その方向性を提示したい。

HD運営に相応しい人事の姿とは

ここまでの内容を踏まえ、(1)まずは、どのような人事体制が最もHD運営での運営に適合するのかを描いたうえで、(2)その体制を構成する人材をどう作っていくのかという順でHD運営での人事が目指す姿を提案する。

(1) 明確な機能分担による3部構成

ここから、それぞれの機能がHD化後に目指すべき姿とはどのようなものなのかを見ていく。

HD人事

グループ全体の人事に関する大きな方針出し、各社の実行に関する助言や支援を通じてグループの人事全般に関する企画・管理をリードすることが役割である。採用・労務・教育・賃金等の各領域に精通した専門家が揃っており、その知見をもとに各社へのコンサルティングサービスが提供される。

基本的にはHD人事が日々の定型業務のオペレーションを実行することはない。

個社の事情が大きく影響する組合対応や採用等の領域については、各社人事に企画主体を置かざるを得ないとする考え方もあるが、個別事情の考慮や不明確な分担が機能不全の元凶であるという見地から、少なくとも最初に目指すべき状態としては、企画の仕事をHD人事に集約する振り切ったモデルが理想形と考える。

各社人事

各社の事業に寄り添って経営課題をヒトの側面から解決する、いわゆる人事ビジネスパートナー(HRBP)が各社人事の役割である。

3つの人事組織の中でこの組織の確立が最も難しく、真のHRBPを日本企業の中に見かけることはほとんどない。企画から業務オペレーションまでをフルラインアップで具備し、複雑な制度・業務を切り盛りしてきた典型的な日本の人事部は、極めて特殊性の高い集団として価値を持っており、ビジネスの理解を後回しにできてきたからだ。

各社人事には、HD人事が策定したポリシーの範囲で自社の課題への打ち手を考え、各社を代表する立場でHD人事に掛け合うという動き方が求められる。HD人事の役割である企画領域にまで守備範囲を広げ、各社人事が思い思いに施策を立案することは、複雑な制度や業務フローの発生につながるため回避しなくてはいけない。

なお、日系企業においてHRBPを機能させるためのポイントについては、当コラムのVol.75で詳しく紹介しているため、ご覧いただきたい。

SSC

業務のスペシャリスト集団であるSSCの役割は、給与や各種の申請対応等、日々の業務オペレーションを確実かつ効率的に回し、サービスレベルとローコストオペレーションを両立することである。

(2) 全く異なる組織構築アプローチ

HD人事

人事の専門家集団を目指すという意味で、従来の人事部と一致性が最も高いのがHD人事である。そのため、HD人事設立時のメンバーには各社の人事部員をスライド起用するのが妥当であろう。もちろん、この時、実務家タイプの人材よりも企画特化のプロフェッショナルの仕事に適性が高い人材を厳選しておくことは言うまでもない。

では、HD人事が形成された後の中長期的な人材フローはどうか。ここでも従来の日本の人事部と一致性の高い運用が適するものと思われる。すなわち、一般的に背番号制と言われている「一度入ったらずっと人事」という外部との出入りが少ない閉鎖的な人材フローである。さらに加えるならば、人事領域の中でも「何の専門家なのか」が問われるのがHD人事であり、労務屋なのか、採用屋なのか、教育屋なのかという領域レベルで背番号がつくような育て方が相応しい。企画と実行を分離するというのがHD運営の基本コンセプトだが、単なる分離では意味がない。特化することで、それぞれがより深堀りされることが価値であり、求められている専門性の高さは従来のレベルではないのだ。

最後に、専門性とともにHD人事が具備すべきスキルと言えばコンサルティングスキルであるが、これは従来の人事部の働き方の文脈からは発展させるのが難しい種類のスキルかもしれない。外部のコンサルタントとの協業を若いうちから経験させることは、コンサルティングワークに慣れる機会になるうえ、「何でもひと通りやる」従来型の仕事のやり方から、「得意な人にやらせる」仕事のやり方を体感するという意味でも、有効なアプローチとなるのではないか。

各社人事

前述のとおり、各社人事の作り方が最も難しい。

各社人事に期待されるHRBPの要件をここで整理しておくと、自社ビジネスの社外・社内環境に関する全般的な知識を持ち、中長期の経営課題についてトップマネジメントと会話ができる一方、各職場にまでリーチできるネットワークとコミュニケーションスキルを備え、かつ人事の専門家であるHD人事と対等に人事の会話ができる人たちである。
おそらく社内にも外部市場にも存在自体が希少な人材であることから、現実的にはなるべく近い人材を探して育てることになろう。

では、どう育てるか。時間をかけて長期的にHRBPを輩出していくための育成方法については、別の機会で詳しく言及することとし、ここでは、さしあたって当面どうするかという視点で、各社人事の作り方を考える。

<事業部門からの登用>

立ち上げ時に各社人事を担う人材候補は、主に3つあると考える。
1つ目は、事業の最前線で活躍している人材の中から、要件に近い者を登用するというものだ。自社ビジネスを体で覚えて理解しているという状態は2,3年ではとうてい作れないが、人事の専門家と対等に会話ができる基本知識を身につけるのは、それ程には時間はかからない。

人事未経験の営業人材が突如人事を任されて、非常に上手く適応しているケースを我々のクライアント先で見ることがある。そのうえ、このタイプの方との仕事は非常にスムーズに進む傾向がある。おそらく、事業視点ありきで後から人事視点が乗ってくる思考プロセスが、ものごとを推し進めるのに適しているのだろう。「実行」を担う各社人事に求められるものと一致する。3つのオプション中、この案が「松」の策と考えられる。

<コンサルタントの中途採用>

経営課題をヒトの側面から解決するということを日常的に仕事にしているという意味では、人事系の経営コンサルタントを外部から調達するという選択肢もあり得る。事業の方向性を踏まえて考える、人事の専門家と協業するといった筋肉は鍛えられているはずだ。

ただし、自社の事業理解という点で「松」の案にはとうてい及ばない。また、財務諸表や給与データ等を分析することには長けていても、社内でものごとをぐいぐい推し進める力やスムーズに進めるための社内ネットワーク等も、習得までの道のりは長そうだ。3つのオプション中、「竹」の策と言えるだろう。

<既存人事部員のスライド>

3つ目は既存人事部員のスライドで、最も回避すべき「梅」の策であるが、実際に最も選ばれやすい。

HD運営に転換をすることで、本来は重複する人事機能が解消され、要員の余剰が発生する。すると、これらの人材をどう扱うかという問題が出てくるはずだが、この問題が無意識のうちに考慮され、多くの企業では従来の人事部が各社にそっくりそのまま残ってしまう。問題そのものに向き合わずやり過ごしてしまうのである。正論を言えば、既存人事部員に提示される選択肢は、実務スペシャリストとしてSSCに移るか、選抜されてHD人事を担うか、事業部門に異動するか、あるいは社外への転身が原則であろう。

何よりも雇用優先、既存人材のモチベーション優先という場合には、この案を前向きに捉えられなくもない。もともと人事部には同期の優秀人材が集まる傾向があり、HRBPとして活躍する素養も十分にあるはずだ。社内ネットワークという意味では、「竹」の案よりもはるかに優れている。仮に、強力な意識転換がなされ、企画の仕事への未練が断ち切られたうえ、彼らが順々に事業部門をローテーションし始めるようなことが起きれば、求めるHRBPが輩出されるかもしれない。

SSC

当面の業務を止めないために、一時的にHDや各社籍の高給与水準の人材が出向等でSSC業務に従事することはあり得るが、その状態を長期化させてはいけない。コスト面の問題に加え、人のモチベートができなくなってくるからだ。

SSCと従来の人事部の最大の違いは、キャリアの広がりや上昇志向の高い人材をモチベートできる仕事がないことである。よって、就社型の総合職として入社してきた既存の人事部員をスライドさせることはリスクが大きく、職務面・待遇面で範囲を限定して働きたい人材(典型的には、家事や育児に軸足がある方、カネよりも社会とのつながりに価値観がシフトしているシニア等)に絞り込む必要がある。

ここまでの総括としてあらためて強調しておきたいのは、HD運営への転換は人事の体制にも非常に大きな変化を要求するということだ。機能分担の在り方、求められるスキルセット、育成の仕方等、多くの面で従来型の人事部からの決別が必要である。

 

 

 

ニュースレター情報

Initiative Vol.77

著者:デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー 沖津 泰彦

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

本記事は、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2014年4月号掲載)を転載したものです。 

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