これからの社外取締役の選任・処遇への在り方

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これからの社外取締役の選任・処遇の在り方(2)

社外取締役の選任・処遇から、評価・再任までの実務の在り方

自社にとって、最適な社外取締役を選任するためには「自社が社外取締役に求める役割や責任、それを全うするのに必要な能力とはどういったものか」を明確にする必要がある。まず、社外取締役の役割・責任を説明した上で、選任や処遇等に関するあるべき考え方について5つの項目に分け、先行する米英の取り組みを踏まえながら説明したい。(労務行政研究所:労政時報 第3922号(16.12.23)より転載)

本稿のポイント

社外取締役の処遇

報酬を検討する上で、まず自社が求める人材に対して魅力ある処遇を提供するために、平均的な水準に比べてどの程度のレベルを目指すのかを決定することが必要。また、指名/報酬/監査委員会の委員への就任の有無やその他の役割などを踏まえ、職務価値に見合った報酬水準を検討すべきである。米英の例からすれば、日本企業でも優秀な社外取締役に対する年間報酬は現在の約2 倍近い1500万~2000万円程度まで上昇していくとみられる。

社外取締役の選任

自社に適した人材を社外取締役として選任するには、「求める役割や責任、それに必要な能力」を明確化し、“あるべき社外取締役像”を策定する。自社のビジネスを踏まえ、能力・スキル、経験などの面で、今後求められるもの、現在の取締役会に不足しているものを抽出し、具体化する。

  

社外取締役に求める役割・責任

2014年以降、コーポレートガバナンスの在り方の変化を踏まえ、社外取締役に関する考え方について、[図表7]のようなガイドライン等が示されている。この中で社外取締役に期待される役割は、主に「利益相反、役員の選解任、報酬決定に関する経営の監督」や「経営に対するアドバイス」とされた。

図表7 社外取締役に期待される役割と責任
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社外取締役に期待される役割を踏まえ、各企業では自社にとって「あるべき社外取締役像」を定義し、「自社としてどのような役割を社外取締役に期待するか」を決定する必要が生じてきた。こうした求められる役割のイメージを具体的に示したものが、[図表8]である。

図表8 社外取締役が企業内で担う役割と年間スケジュールの例
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まず最も大きいのが、「取締役会への出席」である。取締役会は、多くの企業でおおむね毎月1回、2~3時間程度で行われており、企業経営において最も重要な意思決定を下している。

また取締役会出席前に説明を受けたり、資料に目を通して質問や課題を考えたりするなど、事前の準備が必要となる。会議に出席した社外取締役は、コンプライアンス上のリスクチェックのみならず、例えば中期経営戦略で追加的に検討すべき視点の提供や新たなサービス開発の助言、M&Aの実行後押しなど攻めの経営戦略の支援も行っており、ブレーキとアクセルの両方の役割を担っている。

次に、「指名・報酬・監査などの各委員会への出席」である。取締役会と同日に行われるケースもあるものの、委員会には2 時間程度を要する。近年はこれらの委員会の議長を社外取締役が務めることもあり、企業側との協議等、事前に十分な準備が必要となる。

例えば、指名委員に就いた社外取締役は、単に推薦されてきた人物に対するコメントを出したり賛否を表明するだけではなく、後継者人材の見極めを行うために、本人へのインタビューを実施したりする。また、ある企業では、後継者人材がグローバル企業の経営トップとしてふさわしいかどうかを見るために、国際的なレセプションの場にその人物を同席させて立ち居振る舞いのチェックなども行っている。

ほかにも株主総会への出席や、企業への理解を深めるために工場や店舗等の現場視察、企業が主催するパーティー、入社式への出席等、社外取締役の仕事は実に多岐にわたる。

また最近では、製薬大手のエーザイの例に見られるように、取締役会での議論を活発化させるために、社外取締役相互のコミュニケーションを深め、コーポレートガバナンスやビジネスに関して自由に議論する「社外取締役ミーティング」を行う企業も増えてきている。

もちろんこれらは、各企業がどの程度社外取締役に対して企業への関与を求めるかによる。しかし、前掲[図表8]で見た一般的な例においても、年間の関与時間は、移動時間を除いた概算で100~150時間に上る。社外取締役に就任した場合、その求められる役割の重さや関与する時間が非常に多いことがご理解いただけるだろう。

あるべき社外取締役像の策定

このような役割を社外取締役に担ってもらうに当たり、どのような社外取締役が自社にとって適切だろうか。これには自社の「あるべき社外取締役像」を策定する必要があるが、これには大きく分けて三つのステップを踏む必要がある。

【Step1】自社で求められるビジネス上の特徴から、求められる能力・スキル・経験を整理する

社外取締役に求める役割が「経営の監督」や「経営のアドバイス」である以上、まずは、自社の中長期的な経営戦略を踏まえ、今後自社における経営の監督やアドバイスにおいて、必要となる能力やスキル等の要件を整理し、定義することが必要である(米英では、「Board Membership Criteria」という)。例えば、今後M&Aを積極的に展開したい、AI(人工知能)を活用した事業に進出したい、グローバルでのガバナンスを強化したい等である場合、それぞれM&A・財務の経験やAIに関する知見、グローバルでのビジネス経験が必要となる。

なお、この求められる能力・スキル・経験はあくまでも取締役会(ボードメンバー)全体で保有すべきものであって、個々の取締役/社外取締役が1人ですべての能力を有する必要はない点に留意いただきたい。

あるべき社外取締役像の策定に当たっては、社内・社外取締役等からインタビューを実施するところから始めるのがよいだろう。

デロイト トーマツ グループが実施した主要企業の取締役会事務局に対するアンケート調査によると、社外取締役に必要な要素として「経営幹部の経験」「国際ビジネス経験」などの経営経験および「コンプライアンス・法務に関する知見」や「財務・会計に関する知見」等の専門的な知見の双方が求められていることが分かる[図表9]。 

図表9 社外取締役に必要な経験・知見
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また同業他社が、社外取締役にどのような要件を求めているかを参考にすることも検討を行う上で有効である。特に米英の企業では、ProxyStatement(株主総会招集通知)でこれらの情報を詳細に開示していることが一般的であるため、参考となるだろう。具体例として米コカ・コーラ社は、自社のビジネス上の特徴から、それぞれに必要な選任要件やスキルと経験等を抽出している。※注

※注 The Coca Cola Company 2016 Proxy Statementより

これら自社で必要となる社外取締役の能力・スキルに関する要件定義は、インタビューの実施や、社内外の取締役との調整等を通じて抽出・整理することが必要となる。取締役会事務局メンバーだけでは、難しい場合があるため、コンサルタント等の外部アドバイザーを活用することも有効である。

【Step2】自社の取締役会に不足している/強化すべき能力・スキル・経験を明確化する

Step1で明確化した能力・スキル・経験等の要件を踏まえ、現状のボードメンバーが保有している能力についてレビューを行う。日本では、社内取締役が取締役会の過半数を占めているケースが多いため、取締役会全体で持つ知識や経験は、社内取締役が自社内で培った範囲を大きく超えないことが通常である。そこで、自社の中長期的な経営計画に照らした場合に、現有のボードメンバーにおいて、不足している能力や強化すべき能力がないかを明確にし、それらの能力を社内から補うことが難しいことが判明した場合、これらをStep 3でさらに具体化していく。

【Step3】社外取締役に求める能力・スキル・経験を具体化する

Step2で明確化した、自社に不足している能力・強化すべき能力等を踏まえ、いわば求人票に記載するような形で、社外取締役に求める能力・スキル・経験をMust要件とWant要件で具体的に落とし込む。

具体例を挙げると、Must要件としては、今後M&Aを積極的に展開して規模を急拡大させたい企業であれば、企業買収の経験を豊富に持つ経営者、あるいはM&Aアドバイザーの経験を有する、例えば投資銀行やコンサルタント出身者がよいだろう。またAIに関する知見を自社サービスに取り込みたい場合、最先端技術に通じている企業のCTO(最高技術責任者)が適当であろう。

またWant要件として、自社とは異なる周辺業界の経験(例:素材業界であれば、川下となる精密機器業界や自動車業界等)を持つ人材、あるいは自社の取締役会は日本人の男性が中心なので、女性もしくは外国籍の人材で、年齢は50~60歳くらい、現役の人材が選任されることが望ましい、等を設定していく。

このような能力・スキル面、人材属性面からの要件定義を構えた上で、基礎要件として以下のような要素も定義しておくことが望ましい。

  • 自社が大切にする価値観を理解する素養を有しているか
  • 自社が今後直面する状況/もしくは近しい状況に関する経験を有しているか
  • 過去の経験に拘こう泥でいすることなく、自社の状況を自分事と捉え、柔軟に対応ができるか
  • すでにいる他の取締役会メンバーと協調することができるか
  • 社外取締役として、十分な時間を確保することができるか
  • 当該人物を選任した場合に、自社の取締役会のダイバーシティが確保されるか

このように、社外取締役に求める能力の定義に当たっては、自社の戦略に見合った形で、具体的に定義づけし、落とし込んでいくことが重要なのである。

社外取締役の選任

前章の通り、自社にとって必要な社外取締役を明確にすることができたとしよう。では、そのような社外取締役をどこから見つけてくるかが次のポイントとなる。

現在多くの日本企業においては、社外取締役の候補者は、当該企業の経営者からの推薦が多いと言われている。しかし、これでは自社にとって必要な要件を持つ社外取締役の人材プールが限られてしまう。

このため人材プールをより広げるには、サーチファーム等の活用も検討する必要がある。日本でも人材紹介事業者を中心に社外取締役に関する紹介事業のサービス展開を行っている企業が増えてきており、積極的な活用が望ましい。例えば、英国の大手製薬メーカーであるグラクソ・スミスクラインは、人材紹介会社のエゴンゼンダーが候補者リストを作成しているなど、候補者の抽出を外部に委託し、自社にとって適した社外取締役の任用を行っていることを開示している。

このように、社内からの推薦および社外からの獲得の両面から人材プールを形成し、社外取締役の選考を行っていくことが望ましい。もちろん、社外取締役の選考に当たっては、社内での取締役会のメンバー等での検討を踏まえ、指名委員会等の中で議論を行う。

社外取締役の処遇

社外取締役を任用する際に避けて通れないのが処遇条件の検討と決定である。すでに社外取締役の争奪戦が進行し、今後もさらに激しさを増していく中で、自社にとって適切かつ優秀な社外取締役を登用するためには、やはり競争力のある報酬水準を提供することを意識すべきであろう。

では、社外取締役に対するあるべき処遇とはどのようなものだろうか。以下では米英の現状を踏まえながら、日本企業における社外取締役の今後の処遇について提示したい[図表10]。

図表10 日米英における社外取締役の処遇の違い
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【報酬水準】

(1)日米英で異なる報酬水準決定の考え方

社外取締役の報酬水準に関しては、自社の企業規模や業界・業務の複雑性を踏まえた上で、報酬のベンチマーク調査を参照しながら設定する必要がある。デロイト トーマツ コンサルティングが実施する「役員報酬サーベイ2015」の調査結果でも、日本の社外取締役の報酬水準(年収)は、企業規模が大きくなればなるほど報酬額が高くなる傾向が出ており、東証1部上場の大手企業では約1000万円が中央値となっている。また米国では平均2900万円、英国でも平均1300万円程度である[図表11]。

しかしながら、報酬の決め方には、日米英で違いがある。まず日本では、指名/報酬/監査委員の兼任や、各委員会の議長ポストの兼務をしても、報酬額は変わらず一律である企業が多い。一方、米英では、ベースとなる固定報酬の金額は全員一律であるが、報酬委員会の委員に就任すると追加で1 万ドルを支給、議長に就任すると追加で2万ドル支給というように、その職務と報酬の関係性が具体的に明示されている[図表11]。

図表11 米英企業における社外取締役の報酬の例
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このように、社外取締役の報酬の決め方が異なる背景には、報酬決定の考え方の違いがある。通常、日本では役位をベースにした報酬体系となっており、役位が異なれば報酬額も異なっている。

一方、米英の社内取締役の場合、報酬額はジョブサイズ(職責・役割の大きさ)および職種によって決まっている。すなわち、日本では社外取締役という「役位」に対して報酬を支払っており、追加の職務があっても、追加報酬は支払わない。一方、米英では社外取締役という「同じジョブサイズの仕事」に対して一律の報酬を支払うが、取締役会の議長や、指名・報酬委員会等の委員に就任すれば、当然ジョブサイズが大きくなるため、その分の追加報酬を支払うのである。

社外取締役の報酬決定について、「社外取締役の自身の過去の報酬水準、キャリア・社会的影響力、スキル・専門性等を考慮して、同じ社外取締役でも、報酬額に差を付ける必要があるのか?」という質問が多く寄せられる。これに対しても、上記の考え方から、日米英のいずれにおいても、同じ「社外取締役」であれば報酬額は変えない、ということが一般的であることがご理解いただけるだろう。

(2)報酬水準を検討する際のポイント

さて、上記のような状況を踏まえた上で、あるべき社外取締役の報酬水準をどのように考えるべきだろうか。ポイントは2点ある。1点目は、自社にとって適切かつ優秀な社外取締役を採用するために、報酬水準を平均的な水準と比べてどの程度の水準(例えば、上位25%あるいは上位10%など)を目指すのかを決定することである。特に自社が欲しい社外取締役は、他社から見ても欲しいと思う人材であることが多い。このため、単純ではあるが、ベンチマークよりも高い報酬額を適用することで、欲しい人材を自社に引き付ける可能性を高めることができる。

2点目は、職務価値に見合った報酬を検討することである。すなわち、米英の例で分かるように、各職務と報酬の関係性を明確にすることである。

社外取締役の業務が多岐にわたる中で、どの仕事に対して、いくらの報酬を支払うかを明示するほうが、社外取締役にとってもフェアであり、欲しい人材の引き付けにつなげることができる。

日本の社外取締役の報酬水準に関しては、人材の争奪戦が激化する中で、今後数年の間で上昇することが予測される。具体的には、米英の例を見ると、優秀な社外取締役人材であれば、1500万~2000万円程度まで上昇していくのではないかと筆者らは予想している。

【報酬構成】

報酬構成に関しても、日本と米英では、考え方が異なっている。日本の場合、固定報酬のみの報酬体系が多く採られているが、米英においては固定報酬に加えて、業績に連動しない形で株式報酬を支払うことが一般的である。こうした違いの背景として、米英では「社外取締役が株主の代わりに取締役メンバーおよび企業の監督を行う」、したがって「社外取締役は、株主との利益を共有するべきである」という考え方が定着していることが大きい。

そのため会社として、株式報酬の付与や、株式保有ガイドラインにより、年間固定報酬の3~5倍相当の株式保有を義務づけているケースが多い。

日本における先進的な事例として、武田薬品工業が2016年より社外取締役に対して業績非連動型株式報酬を付与しているケースが挙げられる。今後日本でも社外取締役に対して株式報酬を付与する考え方が浸透し、数年後には違和感のないものとして受け止められるようになっているだろう。

【金銭以外の報酬・福利厚生】

日本では、金銭以外の報酬・福利厚生について、旅費以外にはほとんど支給を行っておらず、必要に応じてハイヤー(運転手付きの貸切乗用車)等を付ける程度である。一方、米英では医療保険や生命保険費用の負担、他国で会議がある際の配偶者分の旅費支給なども行われているが、企業によって考え方がさまざまであり、一律に特定の傾向があるとは言い難い。必要なことは、自社にとって最も優秀な社外取締役を引き付けるために、どのような福利厚生を付与すべきかを検討するという観点であろう。

社外取締役の評価

日本企業の大半では、社外取締役の評価は実施されていない。2015年に適用開始されたコーポレートガバナンス・コードでは、「第4章 取締役会等の責務」で、以下のように記載されており、社外取締役の評価は、この取締役会評価の中で行われるべきものと考えられる。

【原則4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
(前略)取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。
【補充原則4-11(3)】
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

米英では主として、ガバナンス委員会等で社外取締役の評価を行っており、そのプロセスはおおむね次のStep 1~ 3のようになっている。取締役会の実効性評価に関する事項についてすべてを記載することは誌幅上難しいため、ここでは、社外取締役に関連する部分に絞って紹介したい。なお、取締役会評価における社外取締役の評価は、通常は取締役会議長もしくは社外取締役の筆頭者が中心となって行う。実務的には、取締役会事務局が、取締役会議長や当該社外取締役の指示を受けて、各種評価に関連する事務を担当するのが一般的である。

【Step1】評価項目の準備

まず、取締役の評価に関する準備を行う。評価項目は、定量項目と定性項目を含んでおり、主として取締役会に対する貢献の量と質の観点から、評価が可能なものであることが望ましい。定量評価の軸としては、取締役会および各委員会への出席率を中心に評価する。また定性評価は主として、専門性や多様性等を活かした議論への貢献がどの程度あったか(経営やガバナンス上の観点からの示唆等)について評価する。またツールとして、評価帳票の作成も行う。

【Step2】評価の実施

次に、社外取締役を含む取締役会メンバー全員を対象として評価を行う。
定量評価部分は、取締役会や各委員会への出席率を取締役会事務局等が記入することで対応する。
一方、定性評価部分は、取締役会メンバー自身が自己評価を行う。自己評価を行う理由は、社外取締役は、指名・報酬委員会等で、社長をはじめとする取締役の選任・解任や報酬の決定に影響力を及ぼしているため、社内取締役である社長等が評価を直接行うことは、ガバナンス上、望ましくないからである。社内・社外取締役間での評価のなれ合いを排除する、という意味においても評価者・被評価者という関係になることは避けておく必要がある。

【Step3】評価結果のまとめ

取締役会メンバーの評価結果を取締役会事務局が集約し、まとめを作成する。特に社外取締役に関しては、先述した「あるべき社外取締役像」に照らして、要件に対して適切な能力発揮や貢献がなされているかについて、チェックを行うべきである。

その上で、次年度以降の課題を抽出する。実務的には取締役会事務局が課題抽出の素案を作成した上で、取締役会議長や社外取締役と議論をしながら整理していくケースが多い。また、この途中、社内・社外取締役に対して、取締役会議長などからインタビューを実施することが望ましい。評価帳票上では記載されていない事項や、取締役会ではなかなか言えない本音の部分、悩み等が聞けることも多いためである。

企業に見られる評価の工夫例として、自分以外で最も貢献した社外取締役を数名選ばせるケースもある。例えば、フォーチュンTop50にランクインする某企業では、個々の社外取締役の貢献度評価を積極的に行っている。具体的には1年に1回、取締役会に残したいと考える「自分以外」の社外取締役を5名推薦し、もし誰からも推薦がなかった場合、その者には退任を求めるというものである。

社外取締役の評価については、手探りの企業も多いため、まだ対応ができていない企業も多い。
しかし、次に触れる社外取締役の再任を検討する上では、社外取締役の評価は欠かせない。今後各社において取り組みがさらに進展することを期待したい。

社外取締役の再任

前項で述べた社外取締役の評価結果を踏まえ、次は社外取締役を再任させるべきか、退任させ、新たな社外取締役を任用するべきかを検討するプロセスに進む。

まず社外取締役の選任に当たっては、指名委員会等の取締役会以外の場で議論を行い、公平性・透明性を高めることについては、多くの方が同意されるであろう。その上で、再任に当たって特に重視すべきポイントは、取締役会のリフレッシュメントである。社外取締役は、「社外」「独立」であるからこそ外部の目線で忌き憚たんのない意見が言えることに価値がある。

もちろん、社外取締役に自社のことをしっかりと理解してもらうために、ある程度の時間が必要であることは否定しない。しかし、長期間にわたって、同じ会社の社外取締役であることは、ある種のなれ合いを生み出してしまう。日本の社外取締役の任期は1~ 2年であるものの、一度選任されればよほどのことがない限り、企業側から退任を要請されることは少ない。このため、社外取締役のポストに、同じ人物が長期にわたって在任するケースもあり、取締役会の活発な議論を停滞させることにつながる恐れもある。

社外取締役の平均在任期間がおおむね4年程度である米英の例から、こうした問題を適切に回避するための具体策を検討すると、(1)定年の設定、(2)在任年数の設定、(3)一定期間ごとの入れ替えなどが有効といえる。

そこで、日本企業における社外取締役の定年制度等の実態を見ると、デロイト トーマツ コンサルティングの調査では、(1)の定年や、(2)の在任年数を設定していない企業が68%に上り、大半の企業は対応できていない[図表12]。 

図表12 日本企業における社外取締役の定年制度
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また、同調査結果によれば、定年・在任年数を設定している企業でも、社外取締役の定年年齢(平均値)は67歳であり、他の社内取締役(61.5~67歳)よりも高くなっている。定年の最高年齢に関しても、社内取締役では70~75歳が多いのに対して、80歳としている企業も散見された。また社外取締役への在任年数の上限は、平均6.5年であり、最高は10年であった。

社外取締役のリフレッシュメントを意識して、具体的に開示しているものとして、例えば、コニカミノルタの事例が挙げられる。同社では、社外取締役に関して「就任後も在任期間が長期化することで独立性が懸念されることがないよう、原則4年間の在任として再任制限を設ける」といった規定を設けている。

社外取締役のリフレッシュメントを考える上での一つの指針として、日本取締役協会の「コーポレートガバナンスに関する基本方針 ベスト・プラクティス・モデルの策定」が参考となる。これによると、「指名諮問委員会は、再任時において独立社外取締役の在任期間が6年を超えるような場合には、再任の当否を特に慎重に検討する」としており、6年を超えるかどうかが、期限を検討する上での一つの目安といえるだろう。また、対策例の一つに挙げた「(3)一定期間ごとの入れ替え」をすることの趣旨は、同時期に複数名の社外取締役が一気に入れ替わると、取締役会の連続性を担保することが難しくなることを避ける意味合いである。

具体的なイメージを見てみよう。日本企業の取締役会は平均11人のメンバーで構成されているが、このうち3分の1を社外取締役とすると、3~4人となる。このメンバーを2年ごとに1~2人ずつ交代させていくと、常時2人程度が継続して取締役会に残り、1~ 2人が新たな社外取締役として入ることとなる。これにより、経営を理解した社外取締役による経営の連続性の確保と社外取締役のリフレッシュメントを両立させることができる。

以上のように、取締役の再任の際には、社外取締役の評価結果、取締役のリフレッシュメントを考慮しながら、「あるべき社外取締役像」を踏まえて検討していく必要があり、この点が、単なる選任とは異なる部分といえる。

結び

最後に、本稿で触れてきた社外取締役の選任から処遇、評価、再任までの実務ポイントを整理・要約して示しておく。これらの取り扱いや実務対応に関して、日本企業ではまだ浸透していないが、今後は先行する米英の事例を踏まえながら、さまざまな取り組みが各社で進んでいくと想定される。 冒頭で触れたように、適切な人材獲得に向けた企業間競争がすでに現実のものとなっている今日の状況の下で、社外取締役の選任・処遇に関する課題と対策の検討に向け、本稿で紹介した情報と資料を参考に役立てていただければ幸いである。

  • 社外取締役に求められる役割・責務は、取締役会のみならず、指名・報酬・監査等の各委員会への出席等へと広がってきたが、今後は従来以上に拡大し、社外取締役をめぐる人材争奪戦もさらに激しさを増していくことが見込まれている。
  • 自社に適した、優秀な社外取締役を確保するためには、自社にとってのあるべき社外取締役像を定義した上で、社内取締役からの推薦に加え、外部のサーチファーム等を活用して人材プールをつくる必要がある。
  • 人材プール形成と併せて、当該社外取締役要件に合致する人材を引き付けるための報酬水準や報酬構成について、他社ベンチマークを踏まえて設定すべきである。人材争奪戦の結果、今後の報酬水準はおおむね1500万~2000万円程度に上昇することが予測される。また報酬構成も、固定報酬に加えて非業績連動型の株式報酬を付与することが一般的になると予想される。
  • 社外取締役を有効に機能させるためには、取締役会の年次評価において、社外取締役の貢献をチェックするとともに、人材の「リフレッシュメント」に向けて定年制や在任期限等を設けることにより、「社外」の立場からの忌憚のない意見を踏まえた議論が行われるよう、留意する必要がある。

執筆者

  • 村中 靖(むらなか やすし)
    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員/パートナー
  • 淺井 優(あさい ゆう)
    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアコンサルタント 
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