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外国籍社員の活用を成功へ導く人材マネジメント方法
今後の競争優位の確立に欠かせない多様な価値観、経験、スキルを持った外国籍社員の能力を最大限発揮させるための「人材マネジメント」。この古くて新しい課題について、今回は筆者の出身国である中国に特化し、基幹人事制度(等級制度、評価制度、報酬制度)にフォーカスして解説する。
本稿では、今後の競争優位の確立に欠かせない多様な価値観、経験、スキルを持った外国籍社員の能力を最大限発揮させるための人材マネジメントのポイントに着目し考察する。
通常、人材マネジメントのスコープには採用、配置、基幹人事制度(等級制度、評価制度、報酬制度)、育成、代謝等を含むが、今回は基幹人事制度にフォーカスする(図1)。また、外国籍社員の特徴とはいえ、世界各国の人材特性を網羅的にまとめることが難しいため、筆者の出身国である中国に特化して例示しながら説明していきたい。
図1:人材マネジメント全体像
等級制度
人事管理の基盤となる等級制度には、大きく「能力」「職務」「役割」の3つの軸が存在し、日本でよく採用されている等級制度は職能資格制度である。職能資格制度の特徴としては、人事異動や職務変更に向いていると言われ、ローテーション等を通してじっくりゼネラリストを育成したいといった場合に向いている。
一方、多くの外国人は、自己成長を最優先に考え、じっくり歩むキャリアパスより、とにかく早く成長するキャリアを求める傾向が強い。例えば、中国の「80後」や「90後」(1980年代や1990年代に生まれた若者のことを指す、中国での呼び方)の世代は、一人っ子政策により親の期待を一身に背負い成長してきたことを背景に、「自己主張が強い」、「自己価値の向上を追求する」、「キャリアアップを重視する」等の志向を持つ人が多い。
そういった人材を活用する中国企業では、30代前半でマネージャーに昇格することが一般的で、優秀な人材なら20代後半に管理職クラスに昇格させるといったことも珍しくない。実際、昇格スピードや魅力的なキャリアパスの提示そのものを、優秀人材を惹きつける手段の1つとしてアピールしている会社が多い。
一方、従業員側も自身として早く成長するために、どういう仕事を任せてもらえるか、一定の裁量を持って仕事を任せてもらえるか等を重視する傾向がある。そして、1つの業務ができるようになったら、すぐ別の業務を任せてもらいたい、あるいはルーティンな単純作業ができるようになったら、思考力や一定のスキルが必要とされる難易度の高い業務をやりたい、新しい知識を身につけたい等、時間は限られているのだからとにかく若いうちに、自分が成長するための時間を有効に使うべきだという意識が強く、キャリア上のステップアップを目指そうとする人が多い。ただし、「90後」のうち、特に後半の年代(20代前半層)は、生活の質の高まりからか、上記傾向を持つ人材の割合が若干減少し、成長だけではなく自分の志向・関心に沿った仕事がしたいという人材が増えてきている。
この点はデロイトがグローバルで実施しているミレニアル・サーベイ※の結果とリンクしている。ミレニアル・サーベイによると、ミレニアル世代は有名になることや、巨万の富を築くことに対してほとんど欲がない。また、企業が強い目的意識をもつべきである、と彼らが考えている領域は、成長や利益の最大化より、従業員の満足度向上や顧客や社会への貢献(生活にポジティブな変化をもたらすサービス・商品を提供すること、雇用を創出すること等)であると明らかになっている。
※2016年に実施の世界29カ国を代表するおよそ7,700人のミレニアル世代(1982年以降生まれ)を対象とした調査。調査対象者は単科・総合大学の学位を取得し、正規雇用され、おもに(従業員100人以上の)大規模な民間企業で働いている
では等級制度において、外国籍社員をうまくマネジメントするアプローチは何か?ここでは3ステップで説明する。
1. まず、優秀人材向けのファストトラックを整備する。本人のモチベーション維持と幹部候補の早期育成を図るために、優秀な成績を残した社員を積極的に上位等級に登用できるよう、昇格ルールに飛び級制度を設ける。
2. 次に、入社直後から個々の社員の能力や志向性を見極め、誰をファストトラックに乗せるかを選定するといった人材の早期抜擢を実施する。且つその選抜結果及びファストトラックのキャリアパスを本人に伝えることで、モチベーション向上及びリテンションを狙う。
3. 上記のような仕組み自体はすでに整備・導入している日本企業も必ずしも少なくないとは思われるが、ここでポイントになるのは、いかにファストトラックに乗せるような現場マネジメントを実践するか、同時に成長スピードを意識している優秀人材にいかにフォーカスし、育成施策を実際に実行に移していくか、といった実運用が最大のポイントになる。Off-JT研修の実施はもちろん1つの手として考えられるが、現場での業務遂行で成長を図るOJTがやはり最大の機会となる。
前述の通り外国籍社員は、日々の業務を通じて(あえて言えば、会社に貢献したいというよりもむしろ)自己成長を実現したいと考えている人が多い。それゆえ、日々の成長につながりにくいと思われる日次/週次の簡単な業務(基本的に誰が行ってもさほど出来栄えに差がつかない事務作業、ルーティン業務等)のみ任せられると、自身の時間という有限な資源が浪費されていると考え、不満をため込んでしまうことも多い。また、「まだ若手社員だから、とりあえず基礎的な業務をできるようになってほしい。スキルや経験は後からついてくるものだから」といった感覚的で、論理的でない説明の仕方は外国籍社員には通じない。
例えば、「後から」というのは、「いったいいつなのか」との問いに、実は誰も答えられないにも関わらず、こういった曖昧なコミュニケーションで済ませてしまっているのが日本企業の実情である。業務の与え方としてポイントになるのは、日常のルーティン業務のみならず、難易度の高いチャレンジングな業務も同時に任せることである。例えば中国企業でよく実施されているのは、プロジェクトへの参画、創造性が要求される新規事業の立ち上げへの参画、課題解決や付加価値向上が求められる業務へのアサイン等で、本人の挑戦意欲を引き出そうとする試みである。そうすることで、本人は日々の業務を有意義に感じ、成長実感を得ることができる。また企業側にとっても、より柔軟な業務配分ができるほか、人材育成の成果も高まることが期待できる。
評価制度
日本の評価制度には3つの特徴がある。1つ目は「和を保つ」という文化のもとで、社員の評価結果に極端な差をつけず、特に若手社員に対しては、ほぼ同じ評価をつける傾向がある。2つ目は、評価フィードバックを実施する際に、部下を傷つけないように、ダイレクトな表現を避け、婉曲的もしくは抽象的・概念的に話すことが多い。3つ目は、そもそもフィードバックを実施していない、もしくは評価の理由を伝えずに評価の最終結果のみ伝えるという上司も少なくないのが実情だ。このような場合であっても、部下側も、たとえ評価の理由が気になっていたとしても、上司に説明を求める日本人は少数派ではないだろうか。
一方、外国籍社員は大きく異なる。例えば中国では、他人より損したくないという気持ちが強く、周りの人と比較しがちであるため、同僚の評価結果を直接本人に聞くことは決して珍しくない。その結果、その評価結果にほとんど差をつけられていないことに驚き、それに対して理解できない人も多いのではないかと推測される。
なぜなら、中国では人口が多く競争が激しいため、例えば学校では常にクラスや学年で成績ランキングを公開し、トップ学生を表彰する等、学生間の差が明確にされており、またそれが奨励されている。実際、企業においても成果に基づいた信賞必罰の文化が広く浸透している。このように、中国企業では当たり前のように、社員の間には能力にばらつきがあり、残す成果にも差があるはずなのだから、評価結果に差がつくのは当然のことであると考える。さもなければ、特に優秀な人材は、「自分が頑張っているのに適切に評価されていない」と感じてしまからだ。
このような考え方がある種の“当たり前”になっている外国籍社員をマネジメントしようとすると、日本人の管理職がよく困るのが、被評価者である外国籍社員が自身の評価結果に納得しない場合に、上司に対してその理由や根拠の説明をとことん追及する人が多いという点だ。特に、筆者の知りうる限り、中国籍社員は上司との信頼関係を重視する傾向が強く、自分が信頼できる上司ならその人のために頑張る一方、上司が信頼できない場合には、いかに将来性のある会社でも簡単に辞めてしまうことも少なくない。管理職が部下からの、例えば上記のような評価根拠に対する追及にきちんと対応しないと、「この上司は信頼できない」と判断されてしまい、離職リスクが高まる結果となる。
では、評価制度においてうまく外国籍社員をマネジメントする方法は何か?ここでは3つの方法を提案する。
1つ目は、人事評価結果について、少しおおげさに言えば、マスコミ向けの記者会見の場で説明できるくらい、透明且つ明確な評価根拠を持つことができるように評価基準を定め、共有することが大事になる。例えば、従業員の納得を得やすいKPI連動型賞与制度を設計する、職能資格制度であっても客観的且つ明確なコンピテンシー定義及び基準を整備する、そして、それらを用いて言葉で明確に説明できるように管理職に準備させる等が考えられる。
2つ目は、評価の最終結果のみならず、外国籍社員に納得してもらえる良い点と課題、そして課題改善に向けたアドバイス、来期以降の期待を確実にフィードバックすることである。外国籍社員に対するフィードバックのポイントは3点あると考える。
まずは具体例を示しながら、対象者個人に焦点を当てて、確実にコメントをすることが大事となる。どの部下にも当てはまりそうなコメントではなく、本人のために役に立ち、且つ本人から見ればきちんと自分のことを見てくれていることがはっきりと理解できるようなコメントが良い。
例えば「目標に向けて努力し、基本的にやり抜いた」「よく頑張った」ではなく、どの目標に対して、どのように努力し、どれくらいの成果を達成したのかについて、たとえどんなに本人はわかっているはずだと思ったとしても具体的な言葉にして伝え、ゆえに評価結果はこうなのだ、というようなコメントであれば説得力が増す。
次に、外国籍社員の価値観や働き方等の多様性を自らが尊重していることをはっきりと言及すること(これもわかっているだろう、ではなく言葉にして明確に伝えること)、そして、自分と同じようになることを求めたりしない点である。職場で、上司が「俺が若いときは、毎日夜中まで仕事を頑張っていた」、「営業の仕方についてはとりあえず俺の背中を見てついてこい」、「会社への貢献精神が日本人社員と比較して薄い」等といったことを、外国籍社員部下に話しても理解してもらえないばかりか、自分には真似のできない特殊なことを自分に押し付けようとしていると思われかねない。
特に「俺の背中を見て育て」といった言い方は、時代が変わり社会が日々進歩している中で、どうして昔の(日本人の)やり方を見習わないといけないのか、と外国籍社員が理解に苦しむ典型的な例である。最後に、言語・文化・商習慣等の違いを評価理由にしないということが大事になる。
「コミュニケーションにおいて日本語が通じないところがある」、「日本のビジネスマナーができていない」、「日本人の婉曲的な表現を理解できていない」等の理由により、評価を下げた場合、その結果は外国籍社員には受け入れ難い。なぜなら、いくら日本に馴染んでいると言っても100%日本人になりきれるわけはなく、言語や文化・商習慣上のギャップは必ず生じてしまうものだからである。そしてそれは短期間で解消できることではないので、評価が下がるとなると本人のモチベーションに大きな影響を与える。
それゆえ、言語や文化ではなく、能力・スキル・成果等にフォーカスしフィードバックしたほうが、納得感が得られやすい。もちろん、日本企業において働く以上、語学力を上達させ日本の文化・ビジネスへの理解を高めること自体を求めるのは間違いないではないが、それは評価ではなく、人材育成の一環として注力することをお勧めしたい。
3つ目は、フィードバックの頻度を短サイクルで行えるように工夫することである。前にも述べたが、外国籍社員は長期スパンでじっくり成長していくという志向ではなく、特に優秀な人材は早い自己成長を求める傾向にあるため、フィードバックは年に2回もしくは1回のみ実施するのではなく、月に1回程度の短サイクルで、上司と1対1のコミュニケーションを実施することをお勧めする。それにより早期の成長を実現することができ、且つ本人のモチベーション向上にもつながる。
報酬制度
日本の報酬制度には2つの特徴がよく見られる。1つ目は、同じ企業に入社する大卒新入社員の初任給は全員同じで、その後、給与が定期的(年1回)にゆっくり上がっていく点である。2つ目は、会社業績によるが、原則として賞与支給が年に2回に留まる点である。
一方、中国では、即戦力でない新卒社員の初任給は低く設定している企業が多い。例えば、2016年の中国全土における大卒新入社員入社半年後の平均月収は4,376元(約7.5万円)[i]に対して、同年の日本の大卒新入社員の初任給は平均20.3万円[ii]となっており、中国の3倍近い水準である。もちろん中国では企業の資本(内資・外資)、規模、勤務地等により初任給が大きく異なり、また近年の採用マーケットにおける激しい競争により、優秀人材を確保するために同じ企業内でも新卒社員に提示している初任給には幅がある。
こういった事情を加味しても、初任給の平均値から見れば、日本のほうがまだ大きな魅力がある。しかしながら、初任給に競争力があっても、外国籍社員が日本の企業に就職すると、入社後の定期昇給額の低さに驚くことが多い。日本では、毎年の平均賃金増加率は1.5%~1.9%に収まる[iii]一方、中国では、大卒新入社員の就職3年後の賃金増加率は87%となっており、初任給の倍近くである[iv]。定期昇給額が低いことに加えて、社会保険料の控除額が増えると手取りが逆に前年より減ってしまうこともあるという日本の現状は受け入れ難いだろう。
賞与については、前述した短サイクルのフィードバックと同様に、成果を上げたらすぐ奨励する、つまり短サイクルで賞与を支給したほうがモチベーションにつながりやすい。例えば中国の企業では、1ヵ月欠勤無しで働いたら、月収に加えて「全日出勤ボーナス」を支給する、四半期の販売目標を達成したら「四半期販売ボーナス」を支給する等、上げた成果・貢献に対してすぐインセンティブを支給する企業が多い。また、年金に対する考え方とも似ているが、遠い将来もらうお金より、今すぐ使えるお金が欲しいと考えている外国籍社員(特に中国人)は少なくないというのが筆者の考えだ。
上記に加えて、外国人は非金銭的報酬より、金銭的な報酬を望む傾向にある。例えば表彰(賞状+賞品)等より、自分の思う通りに使える現金のほうが良いのである。先に触れたデロイトのミレニアル・サーベイでも、報酬と経済的恩恵がミレニアル世代の仕事選びの最大の決め手であることが窺える。ただし、次にくるのが「適正なワークライフバランス」なので、価値観が多様化しているとも言える。
では、外国籍社員を効果的にマネジメントするための報酬制度構築と運用のポイントは何か?ここでは2つの方法を提案する。
1つ目は、メリハリのある報酬テーブルを設計する点である。前述のように、外国籍社員は信賞必罰の文化をすでに当たり前のこととして受け入れていることが多く、例えば成果を出せなければ昇給なし、もしくは降給する、場合により解雇もあり得るということもさえも受け入れている(もちろん、その根拠をきちんと示し説明するという点が欠かせないことは前述の通りである)。それゆえ、報酬のメリハリ、すなわち最高評価と最低評価の差を大きく設定することを勧めたい。
例えば中国では、社員から最も期待される年末ボーナスを、最低評価は0、最高評価なら月収の30倍相当額の賞与を支給する会社もある。定期昇給率についても、最低は0、最高は20%まで設定している会社が主流である[v]。昇格昇給率は等級制度のポリシーにもよるが、等級毎のレンジ幅を重複させない等、ステップアップが感じられるテーブルの設計が求められる。
2つ目は、短サイクルのインセンティブを支給することも検討の余地があると思われる。例えば月収を低めに設定し、月次で業績連動賞与を支給する方法で常にモチベーションを向上させることも考えられる(もちろん、労基法や社会保険・労務上の配慮は必要となる)。現行の年2回支給する賞与制度と違いすぎて運用が難しい場合には、例えば短サイクルで評価のフィードバックを実施し、上げた成果を年2回の賞与に反映することを約束し、その成果が認められていることを本人に示すといった方法も考えられる。
[i] 原所:中国社会科学文献出版社・MyCOS研究院 『2017年中国大学生就職報告』、為替レート1元=17.2円(2018年1月28日時点)を使用
出所:新華社HP
[ii] 厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査(初任給)」
[iii] 厚生労働省 平成25年~平成28年「賃金引上げ等の実態に関する調査」
[iv] 同1、2013年大学卒新入社員の就職3年後(2016年)の賃金増加率を使用
[v] デロイトが実施した中国地場の大手企業(多数)に対するヒアリング結果よりまとめた
本稿で述べてきた等級制度におけるマネジメントのポイント、評価制度における明確な評価基準の整備、具体例を示す等のフィードバックのポイント、報酬制度におけるメリハリのあるテーブル設計等の人事制度上の工夫は、外国籍社員はもとより、日本人にとっても上昇志向が高く成長を重視する優秀人材に適用できると考える。もちろん、昨今の日本人もそうだが、中国人若手人材のキャリア観や仕事観も多様化しており、一律にこのようなルールを適用することは望ましくないため、職種区分を設ける等、人材の志向性に応じた処遇やインセンティブの与え方ができるような制度設計や運用ルールを整備していくことが肝要となる。
デロイトのミレニアル・サーベイでも、ミレニアル世代は自分のキャリアをコントロールしたいと望んでおり、且つコントロールが出来ていると実感している人は組織への帰属意識がやや強いことが明らかになっている。今後、グローバル化・デジタル化がますます進む中で、優秀且つ多様な人材の確保・活用への対応力の向上が、企業の成長に欠かせない重要なファクターとなっていくと考える。
著者:毛 暁嬌/ Xiaojiao Mao
(デロイト トーマツ コンサルティング シニアコンサルタント)
※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。
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