精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の変遷及び新設病棟の活用検討 ブックマークが追加されました
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精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の変遷及び新設病棟の活用検討
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた政策的変遷から、令和6年度診療報酬によって新設された精神科地域包括ケア病棟を届出する場合における施設基準、人員配置等確認事項を整理している。
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた変遷
我が国の精神保健医療福祉については、平成16年9月に精神保健福祉本部(本部長:厚生労働大臣)で策定された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において「入院医療中心から地域生活中心へ」という理念が示されて以降、様々な施策が行われてきた。
平成26年3月に取りまとめられた「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」において、新たな長期入院を防ぐために、多職種の活用を中心とした精神病床の機能分化及び地域移行の推進により、精神病床の適正化、不必要な病床の削減といった構造改革を目指すこととされた。
平成29年2月の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書では、「地域生活中心」という理念を基軸としながら、精神障害者の一層の地域移行を進めるための地域づくりを推進する観点から、精神障害者が、地域の一員として安心して自分らしい暮らしができるよう、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指すことを新たな理念として明確にされた。
また、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進する観点から、令和2年3月より、有識者や当事者等を構成員とした「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」を開催し、令和3年3月に報告書が取りまとめられた。さらに、報告書において、その実現に向けた具体的な取組について検討し、実現を図るよう指摘されたことを踏まえ、令和3年10月からは「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」が開催され、同システムの構築のより一層の推進に向けた具体的かつ実効的な仕組みについて、検討が進められてきた。
令和4年6月には、「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」として精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築の推進に関する事項を取りまとめた報告書を踏まえ、また同月には障害者部会でも障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しに関する報告書がとりまとめられた。これらの内容に基づき、「関係法令等の改正や令和6年度からの医療計画、障害福祉計画、介護保険事業(支援)計画の策定に向けて、令和6年度診療報酬改定・障害福祉サービス等報酬改定・介護報酬改定等の必要な財政的方策も含め、具体的な改正内容について検討を進め、その実現を可能な限り早期に図るべき」ことが今後必要な対応とされた。
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける医療機関の役割
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおいて、精神障害を有する方等がかかりつけとしている精神科医療機関に求められる機能が取りまとめられ、入院、入院外によらず、かかりつけ精神科医機能を有する医療機関においては、かかりつけ精神科医機能の発揮のほか、連携拠点機能や救急医療体制への参画等が求められるとされている。
また、精神障害者の地域移行及び精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を一層進めるため、医療機関における入院時・入院中から、患者の希望や状態に応じて、退院後の地域における環境や生活を想定し、障害福祉サービス等の連携調整を行うこと等により、入院から退院後の地域生活まで、医療と福祉等による切れ目のない支援を行えるよう、障害福祉サービス等報酬と診療報酬の同時改定に向けて検討が進められた。
出所:中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)第575回(令和5年12月22日)個別事項(その18)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html
その検討を経て令和6年度診療報酬改定において、精神医療における改定事項の一つとして精神科地域包括ケア病棟入院料が新設された。精神疾患を有する者の地域移行・地域定着に向けた重点的な支援を提供する病棟である。精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進する観点から、精神疾患を有する者の地域移行・地域定着に向けた重点的な支援を提供する精神病棟について、新たな評価を行うこととされ、精神疾患患者の地域移行・地域定着を推進する観点から、多職種の重点的な配置、在宅医療の提供実績、自宅等への移行率の実績、診療内容に関するデータの提出等の施設基準が設定された。
また、平成28年4月の診療報酬改定において新設された、地域移行機能強化病棟入院料につて、届出期限が令和6年3月末までであったが、令和12年3月末まで延長された。
精神科病棟の再編に向けた検討
上述の政策的方向性を踏まえ、地域移行機能強化病棟入院料及び新たに新設された精神科地域包括ケア病棟へ再編する場合について検討を行った。その場合における確認事項を以下に記載する。なお、例示の病院は実在せず、それぞれの要件は筆者が想定したものである。
(例)許可病床数240床の精神科単科病院
新たに入院する精神疾患の患者の在院日数は短縮傾向にあり、地域の関係機関等との良好な連携により早期受診・入院及び退院促進の体制が進んでいた。また、人口の高齢化により認知症の方の入院ニーズは横ばいの傾向にあった。その中で、精神科急性期治療病棟及び認知症治療病棟の稼働状況は平均して80%以上であったが、精神病棟の稼働率は60%台と低迷、療養病棟は70%台を推移していた。また、精神病棟及び療養病棟にはそれぞれ1年以上入院している患者が5割を占めていた。今後、人口減少及び高齢化により入院患者の獲得に困難が生じるおそれがあるため、病床の削減及び再編を検討した。
参考:精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html
再編の方向性
精神科急性期治療病棟及び認知症治療病棟の稼働状況は平均して80%で、地域の関係機関等からの入院依頼があるため、病床数60床はそのままとした。
また、ここ数年において、精神病棟及び療養病棟の稼働が低迷していたことから、病床の削減を評価する地域移行機能強化病棟入院料の届出と精神科の訪問看護を拡充する戦略により地域移行・地域定着に向けた重点的な支援を評価する精神科地域包括ケア病棟の届出をする。
令和6年度診療報酬改定による地域移行強化病棟の主な変更点と届出の要件
- まずもって、地域移行強化病棟は届出時点で、(イ)届出前月の当該保険医療機関全体の精神病棟における平均入院患者数、若しくは(ロ)届出前1年間の当該保険医療機関全体の精神病棟における平均入院患者数、のいずれか小さい値を届出前月末日時点での精神病床に係る許可病床数で除して算出される数値が0.85以上であること。なお、届出に先立ち精神病床の許可病床数を減少させることにより0.85以上としても差し支えないとされる。
※本事例による数値 240床×0.85=許可病床数204床以下 - 長期入院患者の退院実績が2.4%から3.3%に引き上げられた。
※退院実績の算出:1年以上の長期入院患者のうち地域移行機能強化病棟から自宅等に退院した患者数(1か月当たりの平均)÷当該病棟の届出病床数
※本事例における数値 42床÷3.3%=1月あたり1.4人 - 精神病床削減の基準が30%から40%以上に引き上げられた。
※精神病床削減の基準の算出:地域移行機能強化病棟を1年当たりで40%減らしていること。
※本事例における数値 42床×40%=1年あたり16.8人
病棟ごとの診療報酬の要件
施設基準は満たせることとなったが、医師及び看護職員等の人員配置や収益性を確認した。
参考:精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html
病棟には専任の常勤精神科医が1名必要なこと、看護職員等について15対1配置数は変わらないものの、看護職員だけでなく、作業療法士、精神保健福祉士、公認心理士の配置が必要となる。
参考:精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html
収益性について、1日当たりの入院料の点数と平均患者数で乗じた合計点数を比較しても、差分がプラスであることから、増収になると考える。しかしながら、1年後に許可病床数が204床から17床減の187床となり、病院全体の稼働状況が80%以上となることから適正病床数と判断し、地域移行強化病棟は1年後には取り下げ、元々の精神病棟として届出をして戻すこととし、いずれ患者がいなくなる段階で病棟を閉鎖することも検討することとした。
参考:精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/10
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