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病院情報システム管理のためのワンポイントアドバイス

誰でもできる運用・管理の3ポイント

医療機関における情報システムの高度化・複雑化が進む昨今、医療機関の規模を問わず情報システムの運用・管理に対する関心が高まっています。 導入済の情報システムを効率的に管理・運用するために何に気を付ければよいの? システムベンダーとの上手な付き合い方は?新しくシステム導入を検討する場合のポイントは?といった疑問に対し、実際の現場・運用に則した情報システム運用管理のポイントをご紹介します。

はじめに

1999年の旧厚生省通達による電子カルテの解禁以来、電子カルテシステムの導入率は上がり続けており、診療所を除く病院における電子カルテシステムの普及率は2015年時点で27.8%(※)と30%に届くところまで来ています。400床以上のいわゆる大規模と言われる病院での導入率は70.1%(※)に達していますが、我が国全体としては、まだまだ多くの医療機関で電子カルテの導入検討が行われ、一方で、導入済み医療機関でも老朽化にともなうシステム更新検討が続くことになるものと予想されます。

病床規模の大小を問わず、病院が電子カルテ(あるいはそれを含んだ病院情報システム:以降、「病院情報システム」と記載します)を導入・運用・管理を検討する際に問題となることの一つに、「誰が」あるいは「どの部署が」稼働後のシステムを担当するか、ということがあります。

 民間企業の情報システムと異なり、病院情報システムの運用・管理が問題になる理由としては、それぞれにベンダーの異なる多くの部門システムが、異なる運用を持ちつつ、複雑に連携し合っている点にあります。大学病院や大規模病院では、「情報システム部」・「情報管理部」と呼ばれるような専門部署があり、複数の専任職員、システムエンジニア(SE)が、病院情報システムベンダーと、日々やり取りを行いながらシステムの運用・管理を行っていますが、多くの病院では、そこまで充実した組織・人員を用意することは難しく、現実的な解として、医事課や経営企画課といった事務部門と、診療部・看護部・各検査部など、院内の各部署の担当者が、本来業務と並行して対応していることが多いのではないでしょうか。

将来、病院情報システムの管理・運用業務が評価され、施設基準などの診療報酬点数で評価される時代が来れば、多くの病院で専任の部署や職員の雇用も可能になるかもしれませんが、当面はこれまで通り、現場の職員が病院情報システムの運用・管理業務を進めることになるため、今回の記事では、現場の方々でも日々の病院情報システム管理に活用できる、運用・管理のポイントを整理しご紹介します。

※出典:オーダリング・電子カルテシステム病院導入状況調査報告書[2015年(H27年)調査版]一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会調査委員会

病院情報システム管理のポイント

・定期点検(各種機器の点検)
・変更管理(プログラム・マスタ更新作業内容の把握)
・運用管理規定(運用管理ルール)

病院情報システムの安定した運用・管理のためには具体的には何を行えば良いのでしょうか。実際の具体的運用・対策は、病院情報システムベンダーとの契約や、院内の業務分担などから確認することが望ましい面もありますが、まずはお手軽に始められる日常の点検作業をこれから記載しますので、今一度ご自身の所属組織でどの程度実現できているかチェックしてみてください。

医療機関に限ったことではありませんが、日常における定期的な点検は大切です。ここでの定期的な点検とは、例えば自動車でいうところの車検や1年点検ではなく(これについては最後に記載します)、日々の日常点検のことです。

自動車は日常点検で「タイヤは減っていないか」、「オイルは足りているか」、「各部から異音はしないか」、といったチェックをすることで、気持ちよく安全に走らせることができます。これと同様に病院情報システムでも日課としてのサーバー機器の点検や、前日にマスタデータを変更していないか、電子カルテベンダーが修正プログラムをリリースしていないか、といった変更点の把握し、職員間で情報共有を行うことで、障害の発生を事前に検知したり、問題発生の早い段階(例えば、外来診察が始まる前など)で原因に気が付いたりできる可能性が高まります。

また、チェック作業や情報共有が院内のルールに則っているか、責任範囲はどこまでか、といった、作業規範や権限規定を整理しておくことで、せっかく異常を検知しても初動対応が遅れることを防ぐことができるため、運用管理のルールについても、職員間で共有してください。

具体的対応方法
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具体的対応方法

 ◆各種機器の日常点検

まず、簡単ですが効果の高いものとして、目視による機器の確認があります。病院情報システムのサーバー機器のランプを普段から確認しておくと、普段は緑や青のランプが赤やオレンジの点滅や点灯等に変わっていることがあります。多くの場合、ハードディスクの一部が不調になっていたり、内部冷却用のファンが異常をきたしたり、という警告サインです。普段と違うランプを見つけた段階で病院情報システムベンダーに連絡することで、致命的な障害に至る前段階での予防交換などの措置を取ることが可能となります。
また、ネットワーク監視ソフトやウィルス対策管理ソフトが利用可能な場合は、前日のログに不正なアクセスやウィルス検知の痕跡が無かったかの確認を行うことで、個人情報の漏洩やウィルス感染の拡大を防止できる可能性が高まります。

◆ プログラム・マスタ更新作業内容の把握
病院情報システムでは定期的にマスタデータの更新リリース作業があり、時には、修正プログラムのリリース作業も行われます。作業については、病院情報システムベンダーのSEが行うこともあれば、当該システムを主に利用・管理する部門のマスタメンテナンス担当者が対応することもあります。これらのリリース作業に関して、院内関係者間で具体的な内容と影響範囲を作業前後に確認・共有しておくことは、何か問題が起こった時の初動に影響を与えるため、大変重要です。ここで注意する点としては、「できるだけ定期的にリリース作業が行えるよう日程ルールを決める」「事前の作業内容の共有・報告を文書で行う」ことです。可能ならば、作業を行う曜日を固定することで、仮に不具合が起こってもリリース作業が引き金となったかどうかの切り分けが容易になりますので、検討してみてください。

・ 運用管理規定の確認
起こってほしくないことが起こってしまった時の、職員の対応の拠りどころとして、運用管理規定が整備されているか、確認してみてください。多くの病院で、運用管理規定があっても形骸化しているかもしれませんが、そこには誰が責任者で、普段どういった対応を行わないといけないか、が書かれているはずです。運用管理規定については、次回、詳しく取り上げますが、まずは、存在の確認と、最後に更新されたのはいつか、という点は確認してみましょう。
運用管理規定は、病院情報システム管理の法律です。では法律に対する憲法に相当するのは何かというと、厚生労働省が策定している、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」ということになります。もし、運用管理規定がしっかりと整理されていなければ、ガイドラインを参考に、実務的な規定を院内の担当者で作成することをお勧めします。

おわりに

いかがでしょうか。今回ご紹介した内容は、再び自動車に例えるなら、日常点検、タイヤやバッテリー・オイルの交換、整備手帳の確認といった感じかもしれません。
みなさんの自宅の自動車なら当たり前のことかもしれませんが、目の前の病院情報システムでも当然のものとなっているでしょうか。
今回ご紹介した対応・作業について、職員数や業務量の関係で難しいという場合は、例えば、自動車を買ったディーラーにメンテナンスを任せるように、電子カルテベンダーや専門の委託業者に対応を任せることも一つの選択肢です。この場合、病院情報システムが故障したときの病院に与える経済的なインパクトを想定し、(言葉は悪いですが)どこまでの時間・安全をお金で買うか、という基準での検討も必要になります。
とはいえ、今回述べたポイントはそれほど難しいものではないので、自己点検を兼ねて、一度チェックしていただければと思います。
実はこういったチェックポイントの情報は、病院情報システムベンダーに依頼することで提供してもらうことができる場合が多いですので、もし手元にない場合は、一度、病院情報システムの担当営業やSEに相談してみてください。
最後になりますが、実はこういった定期点検や対応を行っていても、病院情報システムは使えば使うほど課題が出てきます。例えばデータ量増加に伴うデータベースの処理速度低下などです。こういった日常点検では対応できない問題に対しては、自動車ならディーラーや整備工場での定期点検や車検を行い、必要な整備を受けるように、病院情報システムベンダーと相談して、具体的な問題のポイントを明確にしつつ、対策を決めていくことが必要になります。この対策・対応についても、今後の記事で具体的に紹介していく予定ですので、ご期待ください。
次回は運用管理規定の考え方・作り方について掲載予定です。

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