ナレッジ

アジア諸国で見込まれる高齢者サービス

「高齢化先進国」といわれる日本は高齢化社会が抱える課題にいち早く取り組み、日々ソリューションの開発に取り組んでいます。 今後、かなりの速度で進むと見込まれるアジア諸国の高齢化を背景に、日本のこれらの技術やサービスは注目を浴びています。 中国やインド、東南アジア等の高齢者市場でどのような機会が見込まれるのかについてご紹介します。

はじめに

デロイト トーマツ グループは、アジアパシフィック地域の他のデロイト メンバーファームと共に、昨年Deloitte Asia Pacific(デロイト アジア パシフィック 以下、デロイトAP)を設立しました。デロイトAPは、日本(デロイ ト トーマツ)のほか、中国、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジアの5つのメンバーファームが参画しており、ヘルスケア領域でもより付加価値の高いサービスを提供するためにメンバーファーム間でのコラボレーションを進めています。

アジアは世界で最大の、かつ急成長が見込まれる高齢者市場を抱えており、2030年には世界の65歳以上の人口の60%を占めることになるとみられています。一昔前との違いは、彼らは彼らの親の世代に比べ、高齢者になってもより豊かな生活を送りたいと望んでいるという点です。

本稿は、そうしたAP地域の高齢者市場における新たな機会やビジネスモデルについて各メンバーファームからコメントを入手してとりまとめたものです。

中国

現在、中国における60歳以上の人口は1億8,800万人ですが、2030年には3億5,000万人と現在の米国の人口よりも多くなるとみられています。中国では一人っ子政策等の影響から高齢者介護の依存割合は「高齢者4人、夫婦1人、子供1人」といわれ、中国の高齢者介護市場は世界で最も重要な投資のオポチュニティとなっています。しかし、高齢者介護市場はまだビジネスモデルが形を成し始めたばかりの比較的初期の段階にあります。

中国政府の明確な政策目標は、統合された医療・介護サービスを開発することです。これを促進するという観点から、次の大きな2つのオポチュニティが窺えると考えます。一つは、中国の現地事業者とグローバルな資本提供者の提携を基礎とした、海外の医療・介護にかかるビジネスモデルの国内への適用です。このようなパートナーシップは、高齢者介護市場に長期的視野を持つ投資家にとって重要なオポチュニティといえます。もう一つは、病院、一般開業医、リハビリなどの医療と介護施設や宿泊施設を統合するような、高齢者が介護のみならず医療やリハビリも受けられる高齢者介護施設の開発が求められていると考えられます。

 

オーストラリア・ニュージーランド

オーストラリアやニュージーランドでは、現在の高齢化率は日本に比べ低い水準にあるものの、今後、高齢化が急速に進んでいくと見込まれています。いずれの国においても高齢者介護市場では設備投資が依然として投資オポチュニティの重要かつ大きな要素であり続ける一方で、両国の焦点は、できる限り在宅で高齢者が過ごすことができる環境の整備に置かれています。

オーストラリアでは、2022年までに74,000人が政府補助金付きのホームケアパッケージを受け取ること(在宅介護パッケージプログラム)を目的とした対策がとられており、在宅介護を促進するという観点から、次の大きな2つのオポチュニティを挙げることができます。一つは、オーストラリアでも介護事業従事者の確保が課題となっており、2050年までに46万人から93万人の確保が必要といわれている点です。移住労働者の確保と技術訓練、早期退職者やパートタイム労働者など、これまでとは異なるリソースの労働モデルの活用をはじめ、様々な解決策が検討されており、これらに貢献できる技術が注目されています。もう一つは、可能な範囲で対面式の対話レベルと頻度を効率化・縮減することができるロボット工学等のニューテクノロジーや、非物理的ケア支援のためのバーチャルケアを提供し、在宅環境がもたらす社会的孤立の問題を軽減することができるデジタル技術の使用が注目されており、大きなオポチュニティになっています。

 

東南アジア

従来、東南アジアにおいて介護施設は親の「放棄」と社会的に言われたこともありましたが、2025年までに、東南アジアの60歳以上の高齢者人口は総人口の20%以上を占めると予想されており、高齢者介護を取り巻く環境に変化が見られています。

東南アジアでは、広く持続可能な高齢者介護を発展させていくうえで、グローバルからの資金と新たに介護領域に参入する産業からの専門知識を活用することが非常に重要であると考えられており、この側面で2つの重要なオポチュニティを把握することができます。一つは、高齢化にかかるマンパワーの課題を克服するために、高齢者が可能な限り在宅で生活することを可能にする医療技術のイノベーションです。シンガポールでは、資金や規制面でのサポートを通じてこれらの技術を奨励し、地域に引き付ける方法を進めています。もう一つは、高齢者の単身世帯の増加という人口統計的傾向が抱える課題への対応です。高齢者の生活分野で必要なベッド数や介護者数の乗数として作用するのはこの要素であり、非常に重要な指標です。これまで、開発者はシニア住宅の建設、運営、資金調達に腐心してきましたが、これらの環境変化を踏まえ、まだそれほど医療を必要としていないケア環境のコミュニティ構築にオポチュニティが把握されています。老人ホームという概念は、コミュニティ内で優雅に高齢化するための場所として再定義されたかもしれません。より裕福なアジアの団塊世代がアクティブエイジングを計画しているため、東南アジアではこれらの高級アクティブエイジング住宅が増えていく可能性があります。

 

インド

インドでは複数世代が一緒に暮らし、子供が年老いた親の面倒を見るのが伝統的な考え方でしたが、現代では親を地方に残し仕事を求めて都市に移り住む若い人も少なくありません。アジア地域の他の国々より高齢化は遅いものの、インドでは60歳以上の高齢者が2015年の総人口の8%程度から2050年の総人口の20%程度に増加すると見込まれており、2026年までに60歳以上の人口は1億7,300万人に達すると予測されています。

非常に大きな高齢者市場の予測を背景に、次の2つの大きなオポチュニティが考えられます。現在、インドの民間部門は、積極的に高齢者向け介護施設の開発に取り組んでいます。しかし、それらはアッパーミドル階級向けに現在の低品質のサービスを改善することを目的としたものであり、大多数の中流階級の国民には手の届かないサービスです。一つは、手の届く価格での質の高いケアに対して、明確なニーズとオポチュニティがあるという点です。すでに、現状では在宅医療を展開する事業者等にプライベートエクイティおよびベンチャーキャピタルの資金調達が行われているようです。もう一つは、手の届く価格帯の老人ホームの長期的な成長に係るオポチュニティです。政府が運営する老人ホームでは人手が足りず、状態が良くないケースもみられる点が課題認識されています。 老人ホーム用地の取得は開発にあたっての大きなハードルの1つになりますので、官民のパートナーシップを通じた手の届く価格の介護施設の開発が大きなオポチュニティの一つとなっています。

 

おわりに

アジアの高齢化を考えるうえで、現在そして将来享受されるであろうアジアの成長を支えてくれた高齢者の世話をすることは、私たちアジアに住む全員にとって社会的および経済的に不可欠であり、また大変価値のあることです。一方で、各国政府の予算が厳しく、多くの場合、そうした需要に十分に対応できていない現実があり、これが民間資本へ大きなオポチュニティをもたらしています。

本稿では、決して網羅的とは言えませんが、アジア全域で活気がみられる高齢者介護市場にかかるオポチュニティについて検討いたしました。本稿に記載の内容は各メンバーファーム担当者の私見であり、異なる見解もあることをご容赦ください。

 

関連サービス

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ

■ ヘルスケア

■ デロイト トーマツ ヘルスケア


関連記事一覧

~今後、デジタル技術は病院にどのような変化をもたらすだろうか~。

~EHR、PHR、遠隔医療に関して~

お役に立ちましたか?