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解説 骨太の方針2021案から垣間見えるこれからの医療業界

医療業界に及ぼすインパクトを予測する

内閣府から骨太の方針2021の素案が提示されています。医療業界はこの骨太の方針に基づく制度設計が行われることとなるため、今後の医療業界の方向性を示すヒントが隠されています。そこで、今回は骨太の方針2021の素案から、今後地域医療にもたらされる可能性のあるインパクトを予想し、医療業界の今後の展望について仮説を紹介します。

骨太の方針2021原案に示された今後の方向性とは

骨太の方針2021原案では、基礎的財政収支を黒字化する方針が堅持されており、厳しい歳出改革を行う方針であることが想定される。また、財政健全化目標と歳出の目安として、社会保障関係費については、基盤強化期間においてその実質的な増加を高齢化による増加分に対応する伸びに収めることを目指す方針を目安として予算編成を行うことも示されている。

つまり、これまでと同様に高齢者の増加分への対応ができるよう予算を増額する方向で検討していくことが想定される。

仮にいわゆる高齢化に伴う社会保障関係費の「自然増」に予算規模を抑える方針が示されたと理解すれば、診療報酬の全体的な大幅なプラス改定は見込めないと考えるのが一般的ではないかと思われる。

医療業界に向けられたヒント

今後は感染症への対応を、平時の医療体制から迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築が不可欠であるとされ、地域において役割分担を明確化すること、また医療専門職人材の確保や集約するための対応方法を早期に議論していくものと記載されている。

また、感染症対応の状況検証や救急医療・高度医療の確保の観点を踏まえて、地域医療の機能分化・連携や、さらなる包括払いの在り方の検討も含めた診療報酬の見直し、診療所も含んだ外来機能の明確化・分化の推進、オンライン診療の浸透などが記載されている。

つまり、ポストコロナの医療業界では、感染症への対応を柔軟に行うことのできる医療提供体制を構築していくことを求めていると捉えるべきと思われる。

骨太の方針により医療業界のどの政策に影響がもたらされるのか

骨太の方針は内閣府が策定し、公表するものであるが、当該方針に沿って、各省庁が実施するべき政策を具体化し、推進されていくものである。

医療業界は規制産業であるといわれるが、厚生労働省が中心となって推進する医療政策であり、下記の目的、具体的な政策誘導があるものと理解される。

医療政策の目的におけるポイントは単純な医療提供体制の整備だけではないという点である。限られた国家予算のなかで医療という生活インフラを整備するためには巨額の予算が必要であるため、財政コントロールへの政策誘導を行うことも目的となっている点にあると考えられる。

医療政策には大きくハード面とソフト面での政策に分けられる。ハード面での政策には地域医療構想など社会インフラの整備を担当する役割を持っており、一方ソフト面での政策には診療報酬改定がその役割を担っている。

これらの政策は当然内閣府の方針に沿って展開されるものであるため、今回の骨太の方針に沿って、今後の医療政策が策定されていくこととなる。

地域の入院医療の提供体制にもたらされる変化

地域医療は地域医療構想に向かって、医療提供体制を整備していくことが現在も進められている。骨太の方針2021により、地域医療の機能分化や連携が進められていくこととなるが、昨今の機能分化や連携の推進状況をみれば、対応状況にはばらつきがあるのではないかと考える。地域医療構想は都道府県が主導する権限が付与されているものの、なかなか進んでいない都道府県もあれば、積極的に機能分化や連携を推進する施策を行っている都道府県もある。うまく進まない要因として、日本の医療機関の8割がいわゆる民間法人(医療法人)であることが大きいと考えられる。総論として地域医療構想には賛成の姿勢を見せているものの、いざ各論となった場合に積極的に機能分化や連携を進めることには躊躇があるためであると考えられる。

今後増大する高齢者の医療ニーズに対して、質も高めながら対応していくことのできる地域の医療体制を構築するため、都道府県では今後具体的な機能分化や連携に向けた事業などが増加していくと思われる。

また、前述したように社会保障関係費を「自然増」の医療費分の予算とすることを想定すれば、地域医療の機能分化や連携を促進されるような政策誘導として行われるソフト面の医療政策である診療報酬改定は全体として大幅な改定がない中、救急医療・高度医療の確保に対しては手厚く改定を行い、一方で救急医療や高度医療の提供も十分といえず、地域の中核病院としても位置付けがたい医療機関には厳しい改定となることが想定される。

なお、今回包括払い方式について在り方の検討を行うことも記載されている。この点については、現状の診療報酬にDPCが導入されているが、標準的な1日当たり診療報酬がきめ細やかに病期に応じた点数設計が進められていたところである。包括払い方式にはDPC以外に、アメリカ等諸外国でも採用されているDRGといわれる標準的な報酬を症例ごとに点数設計をする方法があり、日本でも白内障手術などの日帰り手術について部分的にDRGの思想に沿った包括支払い方式は採用されているところである。
ではすべての支払い方式をDRGに変更するかといえば、その点では在り方を検討する段階にあるため、2022年の診療報酬改定まで期間が短いためすぐには採用されるものではないと思われる。

ただし、このような高度医療の提供を行う医療機関を優遇する一方、それ以外の医療機関に厳しい改定を行う場合、留意しなければならない点として地域に唯一の病院であったり、高度な医療は提供できないが一定の救急医療等の役割を担っている医療機関も、地域では存続が求められることである。ドラスティックな改革は地域の医療崩壊を招くリスクも抱えているため、診療報酬改定によって医療崩壊が起きないよう、都道府県が注意して地域医療構想の実現に向けた政策を行っていくことが重要であると考える。

 

地域の外来医療の提供体制にもたらされる変化

今回の骨太の方針案には、診療所も含んだ外来機能の明確化・分化の推進、オンライン診療の浸透も記載されているところである。従来からかかりつけ医の推進などは進められてきているところであるが、これまでの流れを汲むものであろうか。

外来機能のかかりつけ医の重要性は従来から叫ばれているところであるものの、厚生労働省が開催している医療計画の見直し等に関する検討会の資料において、地域の外来診療を担っている診療所従事医師の高齢化が指摘されている。診療所に従事している医師は個人または医療法人により運営されているところであり、事業承継の課題も併せて抱えているケースが少なくなく、現在、診療所で提供されている医療サービスが今後も同様に継続されるかどうかについては不確定要素が多い。

 

同検討会においては、以下のイメージの提案も中間報告においてなされており、病院における外来診療と、診療所における外来診療の機能分化を促進することが提案されている。

 

上記のイメージはこれまでのかかりつけ医の機能の強化に加え、病院側の外来を専門家していくべき、という一つの方向性を示している。

また、具体的な機能分化は入院医療に関する機能分化・連携の促進政策である地域医療構想と同様に各地域ごとに実情に合わせた議論が必要であるとの意見が委員からも出ているところではあるが、具体的な検討体制などはこれから検討されていくものである。

 

今後の地域医療の向かう将来像

今後の地域医療はこれまで以上に明確に機能分化が進んでいくものと考えられる。特に高度な医療を提供したり、救急医療を担っている病院とその周辺において入院医療を支える病院、そして、かかりつけ医機能に特化した診療所がこれらの病院とシームレスにつながって、医療提供体制を構築していくものと考えられる。

自病院にとっての直接的な影響を予測するのみならず、地域の医療圏においてどのような変化が生じるのかを考えるにあたり、骨太の方針にはこのようなヒントが隠れているものと考える。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/6

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