ナレッジ

開発型病院投資ストラクチャー

我が国の病院経営は年々厳しさを増している中、COVID-19の打撃を受け、さらに業況が悪化しています。そのような中、建物の老朽化や耐震性の問題から、建替えを検討している病院の経営者は難しい判断を迫られています。本稿では、病院建替えの一手法として注目されている第三者の資金を活用した病院建替え(開発型病院投資ストラクチャー)についてポイントをまとめています。

厳しさを増す病院経営環境

我が国の病院経営を取り巻く環境は、医療費抑制政策、少子高齢化による担い手不足を背景とした人件費率の上昇、医療機器の高額化による負担増等により、年々厳しさを増しています。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の病院3団体の2019年度病院経営定期調査によれば、回答のあった会員病院の内、55.3%が医業損益赤字となっており、47.6%は2期連続赤字の状況です。

もともと厳しい経営環境にあった病院ですが、COVID-19による受診控えによる患者数減少や感染者受入による病棟機能の制限、人間ドック・健診の受入停止等により、足下ではさらに業績が悪化しています。病院3団体の「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」によれば、回答のあった会員病院の2020年4月の医業収益は前年同月比▲10.5%と二桁減少、医業利益率は前年同月の1.5%から▲10.1pt下落、全体で▲8.6%の赤字に陥っている状況です。

重い設備投資負担

厳しい病院経営環境の中、特に舵取りに悩まれているのは、建物の老朽化や耐震性の問題から、建替を迫られている病院です。

我が国では、病床規制が盛り込まれた1985年の第二次医療法改正前の駆け込み需要で、1980年前後に新病院建設が急増しました。そこから40年程度経過し、民間セクターを中心に建替えの必要な病院が多く存在しています。

図表1:病院着工件数の推移

出所:国土交通省「建築着工統計調査」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

一方、病院建替えに伴う投資額は、以前に比べて大きく増加しています。一つは、工事単価の上昇です。東日本大震災からの復興需要、東京オリンピックに向けた施設整備等を背景に上昇してきた工事単価は、COVID-19の建設業界に与える影響に留意する必要はあるものの、都心部の大規模再開発やリニア新幹線等の大型プロジェクトによる需要に加え、現場の職人不足や働き方改革(週休二日制導入)による人件費負担の増加から当面高止まりする見通しです。また、療養環境の改善、リハビリテーションスペースの確保等、従前に比べて1床あたりの必要面積が増加していることも投資額を引き上げています。

我が国では、病院建替えのための資金調達のほとんどを独立行政法人福祉医療機構や市中金融機関からの借入に依存しています。病院建替えに伴って多額の債務を抱えることは、財務の健全性を損なうリスクを生じさせることはもちろん、後継問題を抱える病院にとって、債務の大きさやその経営者保証が嫌厭され、円滑な承継の支障になりかねません。特に、将来にわたって病院経営リスクが高まっている上、建替えに伴う投資額も増大している現在の環境下においては、建替えが必要であっても、意思決定が難しい状況となっています。

図表2:病院建物の平米当たり建築単価の推移

出所:国土交通省 「建築着工統計調査」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

第三者の資金を活用した病院建替え

そのような中、課題解決のための一つの選択肢として注目されているのが、第三者の資金を活用した病院建替えです。個別案件によって形態はやや異なるものの、病院の事業用不動産(土地、建物)を第三者であるデベロッパー等事業者が所有し、病院は事業者と長期安定的な賃貸借契約を締結することで運営を行うものです。移転新築における土地の手当てや建物の建築は、病院と事業者が協議した上で、事業者が行います。

このような、所謂、開発型投資ストラクチャーの手法は、ホテル、商業施設、物流施設等の事業用資産で数多くの実績があり、近年、介護施設での適用も増えてきています。また、海外では、米国を中心に病院不動産の所有と病院の運営を分離した経営形態は普及しています。

(1)病院にとってのメリット、デメリット
この手法を採用するにあたっての病院におけるメリット、デメリットは次の通りです。

病院にとっては、多額の債務と経営者保証の負担から免れ、賃貸借条件によるものの金融機関借入の元利弁済より支出を抑制できる点が最大のメリットです。それ以外に、不動産開発の実績と経験豊富なデベロッパーと組むことで、鉄道駅や商業施設、公共施設等と複合開発を行い、駐車場や食堂、会議室、休憩室等スペースを共有化する取り組みも行われており、実現できれば、病院部分の投資額を抑制し、賃料負担額の軽減を図れるメリットがあります。複合開発は、財務面だけでなく、人の流れを変え、集患力を高める効果を享受できるメリットもあります。

また、民間病院においては、少数の営繕担当または総務等が兼務する形態にて建物管理を行っているケースが多く、能力含めた人的リソースに課題があります。その点、この手法によれば、不動産所有者において、自らの賃貸物件である病院建物の価値の維持は大きな関心事であるため、計画的な修繕等により、自己所有に比べて長期にわたって建物を安全で快適に使用できる可能性があります。

デメリットとして取り上げている、将来的に他の事業者に売却され、不動産所有者(賃貸人)が変わってしまう点については、病院から特に心配する声があります。この病院側の懸念を解消するため、過去の事例では、病院側からの申し入れにより、賃貸借契約の中に、将来的に賃借人である病院による買取りオプションの特約や、他の事業者への売却の際に病院と事前に協議する規定を設けたものがあります。

(2)課題

信頼できる事業者の選定

この手法を採用するにあたって、病院及び不動産所有者となる事業者は、病院の非営利性を害さないようにストラクチャーを組成する必要があります。この点、国土交通省「病院不動産を対象とするリートに係るガイドライン」(2015年7月1日適用)が参考になります。

同ガイドラインにおいては、資産運用会社(不動産所有者)は、医療の非営利性及び地域医療構想を含む医療計画の遵守という病院の事業特性並びに病院開設者以外の者が経営に関与することはできないという「病院の事業特性等」を十分に理解しなければならないと定められています。賃借人となる病院側においても、経済条件だけでなく、病院の事業特性等を十分に理解し、経験豊富な事業者を信頼できる開発パートナーとして選定する必要があります。

賃料負担能力の維持

病院不動産は、その建物を使用する病院のために設計、建築された個別性の高い不動産であり、流動性、他用途への転用可能性も限定的です。そのため、事業者にとっては、他業種の事業用資産と比較してリスクが高く、対象病院の中長期的な賃料負担能力を厳しく見定めます。病院がこの手法による建替えを進める場合、過去の実績だけでなく、地域での自院のポジショニングの再考とそれに合致する医療供給体制再構築の検討を踏まえた新病院のあり方、それに基づく緻密な事業計画の策定を行い、その実現について、強いコミットメントを示す必要があります。

専門的かつ多岐にわたる論点

病院の建替え、特に第三者の資金を活用して建替えを行う場合においては、病院事業以外に、ファイナンス、不動産・建築、税務等、専門的かつ多岐にわたる論点を整理し、関係者との調整を図りながらプロジェクトを進めなければなりません。各論点に精通した人材が病院内にいない場合、専門性の不足から病院の要望をプロジェクトにうまく反映できない、情報の非対称性から事業者に対して交渉力が弱い等の問題が生じます。

まとめ

開発型病院不動産投資ストラクチャーの手法は、病院建替えにおける一つの方法として、我が国においても徐々に広まりつつあり、病院や事業者からの相談も足下では増加しています。ただ、同手法は、専門的かつ多岐にわたる論点を整理し、事業者と対等に交渉しながら、プロジェクトを進めていく必要があります。そのため、病院単独での対応には専門性やマンパワー面で限界があることから、経験豊富な外部アドバイザーの選任が成功のために不可欠と考えます。

以上、病院建替えの一つの手法として、第三者の資金を活用した建替えについて説明しました。本稿が病院建替えにかかる投資負担の重さに悩まれている病院経営者において、参考になれば幸甚です。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/06

関連サービス

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ

■ ライフサイエンス

■ ヘルスケア

ヘルスケアメールマガジン

ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)

記事一覧

メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。

配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更

お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。

>メールマガジン利用規約
>プライバシーポリシー

お役に立ちましたか?