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全国で医療情報を確認できる仕組みの導入メリット
地域医療連携ネットワークとの違い、使い分けを考える
医療機関間の情報連携の要として、「全国で医療情報を確認できる仕組み」「電子カルテ情報交換サービス」の構築が進む。地域医療連携ネットワークと共存する地域では、どのように使い分けて活用するかが課題となる。それぞれの違いについて、考えてみよう。
データヘルス改革の基盤構築が着実に進んでいる
国は、データヘルス改革の基盤としてオンライン資格確認ネットワーク普及構築を進めている。その付帯サービスとして、医療機関間の情報連携の要となるのが、「全国で医療情報を確認できる仕組み(以降、本仕組みという)」である。
本仕組みは、全国の医療機関が、患者の同意の下、患者の医療情報を確認できる仕組みである。現在構築が進められており、参照できる情報の種類が段階的に拡張されている。本記事の執筆時点(2022年9月)では、レセプト情報、特定健診(詳細は図表1参照)の結果が提供されており、今後、手術や傷病名等の拡張が見込まれる。
図表1 全国で医療情報を確認できる仕組みにおいて参照が可能な情報
本仕組みの医療機関への1番のメリットは、今目の前にいる患者の受療行動、加療の状況を包括的に把握できることである。
従来の診療では、患者やその家族からの申告(手帳等の提出含む)、及び一部の医療機関が把握・提供している情報(診療情報提供書、地連医療連携ネットワークにおける情報開示病院からの開示情報)のみが参考にされてきた。そのため、患者側からの聞き取りが困難なケース(認知能力が低下している独居の患者、意識障害のある救急患者等)や、慢性疾患を複数抱えるマルチモビリティの患者で複数医療機関を受診しているケース(いわゆるポリドクター、ポリファーマシー)などでは、状況把握に課題が残っていた。
本仕組みの活用により、医療機関の診療行為プロセスが前述の課題を解決する方向に今後変化すると考えている。例えば、治療方針を検討する際、現在患者に提供されている医療の量、質、組み合わせの有効性を事前に確認できることが想定される。
さらに将来的には、患者個人の包括的な情報と各種データに基づく示唆を同時に医療従事者が受け取ることで、更なるプラスの影響を及ぼす可能性が期待される。
一方で、医療機関間の情報共有の仕組みとして、これまで地域ごとに地域医療連携ネットワークの構築が進められてきた。このため、本仕組みと、既存の地域医療連携ネットワークとが共存する地域では、どのように使い分けて活用していくのか、課題に感じている方も多いだろうと思う。さらに現在検討されている「電子カルテ情報交換サービス(仮称)」の動向も見逃せない。
そこで本稿では、「地域医療連携ネットワーク(以下、地連NWという)」と「本仕組み」、「電子カルテ情報交換サービス(仮称)」それぞれの違いや使い分けについて、以降に整理する。
どのシステムにも一長一短がある
まず、各システムの違いについて、整理する(図表2参照)。
第一に地連NWだが、地連NW参加医療機関は、通常、情報を開示する医療機関と、参照のみを行う医療機関に分かれる。
その構築目的により、情報開示主体や、開示情報の範囲が様々であるが、情報開示医療機関の多くは病院のため、病診・診診連携における双方向での情報提供には課題がある。さらに、住民参加率が10%を超える地連NWは稀であるため、患者に関連する医療情報の有無を多面的に把握する際には、地連NWは適さないと言える。
一方で、地連NWで連携される情報やシステム機能は、予め実際の臨床現場での要求を考慮して決定されているため、特定の利用シーンにおける有効性は今後も変わらないだろう。
第二に、本仕組み(全国で医療情報を確認できる仕組み)だが、本仕組みの特徴は高い悉皆性である。これは、本仕組みがレセプト情報を主な情報源としており、特定の患者に対して複数の医療機関で発生した情報を網羅的に参照できるためである。
ただし、データ利活用の観点では幾つかの弱点もある。具体的には、①医療機関から保険者へのレセプト提出が原則月1回であるためリアルタイム性が低い点、②本来、レセプトは請求情報であるため分かり易さが考慮されていない点、③情報参照時の同意取得にはマイナンバーカードを用いた患者認証が必要であるもののカードの普及率の低さから同意を得ることがまだ少ない点等があげられる。
なお、2点目、3点目については、今後の改善が期待される。例えば、分かり易さについては、現時点では医療従事者側が能動的に提供される情報を参照し、目視で気になるポイント(例えば、抗凝固薬服用や、ペースメーカー植込み手術の履歴等)を探す必要がある。しかし、同時に救急医療提供時のUI・UXについても今後検討が進められる見込みであり、現場が使い易い仕組みへの段階的な更新が期待できる。
さらにマイナンバーカードは、健康保険証や運転免許証の代わりとして今後機能拡張が進められ、本人確認書類として携帯する国民が増えることが予想されるため、時間の経過とともに本仕組みの有効性も高まっていくことが予想される。
第三の「電子カルテ情報交換サービス(仮称)」については、詳細は現在検討中だが、情報利用可能な時期は明確になっている。このサービスを用いて交換できる情報は、現時点では診療情報提供書、退院サマリ、健診結果報告書の3文書を構成する情報に限定されている。すなわち、情報登録のタイミングは少なくともこれらの文書が発行されるタイミングに限定されている。
図表2 地域医療連携ネットワークと全国で医療情報を確認できる仕組み、電子カルテ情報交換サービス(仮称)の違い
地域ごと・医療機関ごとに、使い分けの議論が求められる
これまでの議論をふまえて、地連NWと本仕組みはどのように使い分ければよいだろうか。各地連NWの機能にもよるが、筆者はおおむね図表3のように考える。
本来、地連NWは、紹介・逆紹介時、救急時の情報提供を目的に構築されているケースが多い。したがって、当該利用シーンにおいて、対象患者が地連NWに参加している場合は、現行の運用を継続し、本仕組みは補助的に活用することが想定される。
一方、診療所における初診など他医療機関からの情報提供がないケースや、地域に地連NWがないケースでは、本仕組みが主な情報源として有効に機能するであろう。
また、災害時の運用においては、情報確認の効率性、システム的な安定性、災害時の特別運用の取り決め状況などを考慮して、判断されることになる。
このように、今後、地域ごと・医療機関ごとに、どのように使い分けるか、議論を進めることが求められる。
図表3 地域医療連携ネットワーク参加状況別、「全国で医療情報を確認できる仕組み」の利用の仕方
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/9
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