最新動向/市場予測

2021年度介護保険制度改正・介護報酬改定に向けた動向

COVID-19による逆風の中での改定

COVID-19の感染拡大による混乱が続く中、2021年度介護保険制度改正・介護報酬改定に向けた準備が着々と進められています。制度動向を注視し、変化に対して柔軟かつスピーディーに対応することは、介護サービス事業所にとって非常に重要な要素です。接触が当然とされた介助を非接触でどのようにサービス提供するか創意工夫を行うとともに、事業の持続的な運営のためには制度改定に向けた準備が不可欠となります。今回は夏以降に本格化する2021年度介護保険制度改正・介護報酬改定の議論に向けて、これまで介護保険部会や介護給付費分科会で行われた議論のポイントについて解説します。

COVID-19が介護サービス事業所に与える影響

世界中で猛威を振るったCOVID-19は、6月1日現在で感染者数が610万人を超え死亡者数は37万人以上となっています。特に高齢者の致死率が高く、要介護高齢者を抱える高齢者施設では多く方が死亡しており、クラスター発生を防ぐことができず爆発的な感染者を生んだ欧州では死亡者数の約半数が高齢者施設の利用者であると報告されています。世界各国で大規模な外出規制や活動の自粛が行われていましたが、感染者数のピークを迎えた一部の地域では少しずつ経済活動の再開に向けた動きが出てきています。日本においても5月25日に緊急事態宣言が解除され、外出自粛や施設の使用制限等を緩和し、社会経済活動を段階的に引き上げていく方針が打ち出されました。政府は感染拡大を予防するための指針として「新しい生活様式」を公表して「ソーシャルディスタンス」を呼びかけており、治療薬やワクチンの開発など、安心して暮らすことができる医療体制が整うまでは、「医療崩壊」と「経済崩壊」をいかに両立させていくかが重要となります。

一般社団法人全国介護事業者連盟が全国約1,800事業所を対象に実施した「新型コロナウイルス感染症に係る経営状況への影響について『緊急調査』」によると、経営への影響について、「影響を受けている」と回答した割合が55.7%(1,037事業所)、「影響を受ける可能性がある」は37.7%(702事業所)と9割以上の事業所で経営に影響が出ています。また、2月と4月第4週における減収割合では、「10~20%未満の減収」が36.6%(380事業所)と最も多く、68.5%の事業所で10%以上の減少が見られるなど事業所経営に非常に大きな影響を与えていることが分かります。サービス別では通所介護が最も経営への影響を受けており、当該調査では「影響を受けている」の割合が90.8%(660事業所)、2月と4月第4週の減収割合では62.3%(411事業所)が10%以上の減収があったと回答しています。

現状の主な経営課題に関する設問では、「利用者のサービス利用控えによる利用者減」や「営業活動や見学自粛等による新規顧客減」、「人手不足・職員体制の維持」と回答する事業所が多数を占め、COVID-19は利用者確保だけでなく、自組織の職員体制にまで影響を与えていることが分かります。社会経済活動は段階的に再開の動きを見せていますが、いわゆる3つの密(密閉・密集・密接)を避ける「ソーシャルディスタンス」が今後の生活のベースとなると想定されており、特に感染により致死率の高い高齢者を顧客とする介護事業においては、今後も「サービス利用控え」などの問題が当面継続するものと思われ、COVID-19以前と比べ介護サービス事業所を取り巻く経営環境は一層厳しくなることが予想されます。今回、多くの感染者を生んだ欧州では死亡者の約半数が高齢者施設であるのに対して、日本の介護施設における死亡者数は世界最低水準となっています。これは日常からの感染防止策がしっかりと徹底されている証であり、世界各国と比べて被害が最小限に抑えられているのも介護現場で働く方々の努力の賜物と言えます。厳しい経営状況の中で日々感染予防に努め、安心・安全なサービスを提供してくださっている介護サービス事業所の方々には頭が下がります。

前回、2018年度介護報酬改定の振り返り

2018年度の介護報酬改定は診療報酬とのダブル改定であり、診療報酬で大幅に引き下げられた薬価分を財源として全体では+0.54%(前回は-2.27%)の改定率となっています。

2018年度は団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、以下の4つのテーマについて改定が行われました。

 1.地域包括ケアシステムの推進
 2.自立支援・重度化防止
 3.多様な人材の確保と生産性の向上
 4.介護サービスの適正化

「地域包括ケアシステムの推進」では、ターミナルケアや認知症対応、医療介護の連携の強化が図られ、新たに介護医療院が創設されました。「自立支援・重度化防止」では、アウトカム評価が拡充され、通所介護におけるADL維持等加算や施設系サービスでは排せつ支援加算などが新たに創設され、「多様な人材の確保と生産性向上」では見守りロボットを導入することで(特別養護老人ホームにおける)夜勤職員配置加算の取得要件が緩和されました。「介護サービスの適正化」では、集合住宅減算の拡大や大規模通所介護等の報酬が引き下げられ、さらに2時間単位であったサービス提供時間が1時間単位となったことが主な改定の内容です。全体では+0.54%の改定率となったものの、改定内容が多岐にわたり、従来のサービス提供体制から大幅な改善を強いられた事業所にとっては非常に厳しい改定となりました。

2018年度介護報酬改定による各サービスの経営状況の変化について、厚生労働省の「令和元年度介護事業経営概況調査」によると、2017年度の全サービス平均の収支差率が3.9%であるのに対して、2018年度は3.1%と-0.8ポイントとなっています。地域包括ケアシステムの構築に向けて拡充が期待される「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」など、一部の地域密着型サービスでは前年比でプラスに転じているものもありますが、多くのサービスにおいてはマイナスとなっており、全体では+0.54%の改定率ではあったものの、収支差率においてはプラスの影響を及ぼしておらず、介護サービス事業所にとっては非常に厳しい改定であったことがうかがえます。

2022年度介護保険制度・介護報酬改定に向けた動き

現在、COVID-19によって介護サービス事業所を取り巻く環境は非常に厳しい状況にありますが、2022年度の介護保険制度・介護報酬改定に向けた議論は着々と進められています。2019年12月の社会保障審議会・介護保険部会で「介護保険制度改正の概要」が公表され、本年3月には介護給付費分科会が開催され介護報酬改定に向けた議論がスタートしました。改定に向けては、主要論点に関する討議や事業者団体へのヒアリングを実施して具体的な方向性を議論し、12月に基本的な考え方の整理・とりまとめを行った上で、年明けに諮問・答申が行われる予定です。

■介護保険制度改正の論点

2018年12月に行われた社会保障審議会・介護保険部会では、地域包括ケアシステムの構築に加え、いわゆる団塊ジュニア世代が65歳以上となり高齢者人口のピークを迎えるとされる2040年を見据えて、以下のテーマに重点的に取り組む方針が打ち出されました。

(1) 介護予防・地域づくりの推進

(2) 地域包括ケアシステムの推進

(3) 介護現場の革新

(4) 保険者機能の強化

(5) 制度の持続性の確保

(6) データ利活用のためのICT基盤整備

介護崩壊を招きかねないとして注目されていた、「要介護1・2などの軽度者に対する訪問介護の「生活援助サービス」や食事等の日常生活上の支援や生活機能訓練を日帰りでサービス提供する「通所介護」の地域支援事業への移行」や「ケアマネジメントの自己負担導入」について今回は見送られるなど、消費税増税の影響等にも配慮して、大規模な改正は行われない方針となりました。今回見送られたものに関しては今後も議論は継続していくものとみられ、「保険者機能の強化」の一環として保険者機能強化推進交付金が拡充されたのも、介護予防の通いの場を充実させ、将来的に「軽度者を地域支援事業へ移行」するための受け皿づくりであるとも考えることが可能です。制度の持続性を確保する観点からも軽度者に対するサービスの在り方については長年議論されているテーマであり、軽度者中心にサービスを展開している事業者においては、今後の移行の可能性も踏まえながら、経営戦略を考えておく必要があります。

 

■介護報酬改定に向けた論点

次期介護報酬改定に向けては本年3月に社会保障審議会・介護給付費分科会が開催され、平成30年度介護報酬改定に関する審議報告や認知症施策推進大綱、介護保険制度の⾒直しに関する意⾒等を踏まえ、以下の4つのテーマについて横断的に議論していく方針が提示されました。

1 .地域包括ケアシステムの推進
2 .自立支援・重度化防止の推進
3. 介護人材の確保・介護現場の革新
4. 制度の安定性・持続可能性の確保

提示された主要テーマは前回の介護報酬改定の論点を引き継いだ内容となっており、前回の改定で評価された「医療介護連携の強化」や「アウトカム評価」、生産性向上の観点からは「介護ロボットの活用」などについて今後も一層強化されることが予想されます。介護保険サービスは官製市場である以上、収益を確保しながら事業を持続的に運営させていくには、制度改定に柔軟に対応することが重要です。加算が少額であったこと、業務負担の増大などを理由に前回の制度改定で評価されたことに対応できていない介護サービス事業所は多いと思いますが、次期改定においても前回改定の内容が引き続き強化される方針が打ち出されている以上、早期に対策を講じておく必要があります。本年6月1日に開催された介護給付費分科会でも「介護の質と関わる各種加算を算定している事業所においては、ADL維持・向上につながりやすい可能性が示唆された」と報告されており、自立支援に資するサービスに取り組む事業所は加算上で引き続き評価される一方で、それらに取り組まない事業所は基本報酬が引き下げられるなど、質の高いサービスを提供する事業所とそうでない事業所でメリハリのある改定が行われることが想定されます。

 

まとめ

COVID-19により介護サービス事業所は深刻な状況にありますが、この問題が収束方向に向かったとしても感染予防に対する意識は以前とは異なるものとなります。不要不急のサービスを控える動きは今後も継続していくものと考えられますし、活動の機会が減少することで心身機能や認知機能の低下などによる「利用者の重度化」という新たな課題も懸念されています。このような状況の中で次期介護報酬改定がマイナス改定となると、事業の存続が困難となる事業所が多くなり、倒産やM&Aが今後増大するのではないでしょうか。危機的な状況に対して、介護報酬引き上げを期待する声も上がっていますが、前回の改定では+0.54%、さらに2019年10月には消費税増税に併せて、報酬改定と特定処遇改善加算の創設が実施され+2.13%の改定が行われており、2年連続でプラス改定が行われたことを踏まえると、次期改定で更にプラス改定が実現するかは疑問です。

今後、経営努力をなくして収益が出るような報酬改定は期待できない以上、介護サービス事業所においては感染予防に配慮しながら、改定の準備を行い、さらに生産性を向上させていく必要があります。限られた人材の中で業務の効率化や感染対策を講じるには、介護ロボットやICTなどの最先端技術を積極的に活用する必要がありますし、安全かつ質の高いサービスを実現するためには人材育成も不可欠です。介護サービス事業者において取り組まなければならない課題は多岐にわたりますが、今後も持続的な経営を行っていくためには、課題を先送りすることなく、しっかりと向き合って一つずつ丁寧に対応していく必要があります。あらゆる変化に対して柔軟に対応していくことが重要です。2021年度介護報酬改定に向けた議論は夏以降に本格化します。介護報酬改定の波に乗り遅れ、来年4月以降経営の危機に陥ることがないよう、議論の動向に注視し、できる限り早い段階から改定に向けた対策を講じておくことが必要です。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/06

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