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令和6年度診療報酬改定における療養病棟入院基本料

令和6年度診療報酬改定を踏まえた、療養病棟の運用上の要点

療養病棟入院基本料は令和6年度診療報酬改定において、医療区分とADL区分に基づく9分類から、疾患・状態に係る3つの医療区分、処置等に係る3つの医療区分および3つのADL区分に基づく27分類及びスモンに関する3分類の合計30分類で評価されることとなりました。本稿では、中央社会保険医療協議会で示された分析結果や議論の内容から、どのような改定となったかを示し、療養病棟の運用に際しての要点を解説します。

中央社会保険医療協議会における療養病棟入院基本料の議論

療養病棟入院基本料の改定にあたり、中央社会保険医療協議会では特に医療区分と中心静脈栄養について議論が行われてきました。

  • 医療区分を疾患・状態と処置等に分けたうえで、それぞれを組み合わせ、入院料ごとにどのような患者が多いか分析しています。入院料AからCでは、疾患・状態の医療区分1かつ処置等の医療区分3に該当する割合が最も多い傾向にありました。

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出所:厚生労働省第577回中央社会保険医療協議会総会「入院(その10)について」(2024年1月10日)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00237.html
 

疾患・状態の医療区分1かつ処置等の医療区分3の患者とは、具体的には以下のような患者です。

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参考:厚生労働省第577回中央社会保険医療協議会総会「入院(その10)について」(2024年1月10日)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00237.html
 

  • また、中心静脈栄養については入院・外来医療等の調査・評価分科会において、「中心静脈栄養が漫然と続いている可能性があるため、医学的根拠に基づいて、腸を使った栄養管理へシフトし、中心静脈栄養ができるだけ早期に終了されるような促しが必要ではないか」、さらに、「中心静脈栄養の医療区分3としての評価は、経腸栄養が可能な患者は対象とせず、腸閉塞等の腸管が利用できない患者のみを対象とし、それ以外の患者についての評価は医療区分3から2あるいは1に引き下げるなど見直しが必要ではないか、との指摘があった。」という意見が挙がっていました。

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出所:厚生労働省第566回中央社会保険医療協議会総会「入院(その4)について」(2023年11月22日)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00225.html
 

  • 中心静脈栄養に関する分析では、療養病棟において患者が受けた医療行為・処置等についての調査が行われ、中心静脈栄養は14.3%の患者に実施されていました。一方で、人工呼吸器の管理は2.2%の患者に実施されていました。

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出所:厚生労働省第566回中央社会保険医療協議会総会「入院(その4)について」(2023年11月22日)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00225.html
 

さらに、施設単位で中心静脈栄養を連続して実施した日数の平均を、平成30年と令和4年で比較した分析結果があります。中心静脈栄養を連続して実施した日数が平均30日未満の施設は令和4年になると2.9%減少しています。一方で、30日以上の割合が令和4年には多くなっています。

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出所:厚生労働省第566回中央社会保険医療協議会総会「入院(その4)について」(2023年11月22日)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00225.html
 

これらの厚生労働省が実施した調査・分析および、中央社会保険医療協議会における議論を踏まえ、医療区分と中心静脈栄養に関して療養病棟入院基本料の診療報酬改定は行われました。

療養病棟入院基本料の具体的な改定内容

中央社会保険医療協議会での議論を踏まえ、令和6年度診療報酬改定の内容が決まります。このセクションでは、療養病棟入院基本料の具体的な改定内容を整理します。

  • 医療区分とADL区分に基づく9分類となっている現行の療養病棟入院基本料について、疾患・状態に係る3つの医療区分、処置等に係る3つの医療区分および3つのADL区分に基づく27分類及びスモンに関する3分類の合計30分類に変更されました。

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出所:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定説明資料等について「11  令和6年度診療報酬改定の概要 入院Ⅳ(慢性期入院医療)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html
 

  • また、中心静脈栄養について、患者の疾患及び状態並びに実施した期間に応じた医療区分に見直されました。中心静脈栄養の対象疾患ではない場合、30日を超えると医療区分が3から2に下がることになりました。

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出所:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定説明資料等について「11  令和6年度診療報酬改定の概要 入院Ⅳ(慢性期入院医療)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html
 

  • 30分類ごとの点数は以下の通りとなりました。

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出所:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定説明資料等について「11  令和6年度診療報酬改定の概要 入院Ⅳ(慢性期入院医療)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html

令和6年度診療報酬改定の内容を踏まえた、今後の病棟運用の要点

前述の通り、療養病棟入院基本料は医療区分が詳細に分割され、中心静脈栄養は30日以上となると医療区分が3から2に下げられる改定となりました。これらを踏まえ、このセクションでは、具体的に従来からどのように点数が変わるか、今後の病棟運用の要点について解説します。

  • 従来の入院料AからCの点数と、令和6年度診療報酬改定後の点数をマッピングすると以下の通りとなります。入院料Aをこれまで算定していた病院は、今後、入院料1・2・10・19・28を算定できなければ現状よりも減収が見込まれます。

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参考:診療報酬の算定方法の一部を改正する告示 令和6年厚生労働省告示第57号 別表第一(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf
診療報酬の算定方法の一部を改正する告示令和4年厚生労働省告示第54号 別表第一(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000907834.pdf

  • 入院料Aを例にとると、入院料A以上の点数を算定するために、どの医療区分及びADL区分を満たす必要があるかを示した表が以下となります。

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参考:基本診療料の施設基準等の一部を改正する告示 厚生労働省告示第五十八号(令和六年三月五日)(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001239962.pdf
診療報酬の算定方法の一部を改正する告示 令和6年厚生労働省告示第57号 別表第一(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf
 

整理すると、主に入院料Aを算定していた医療機関は、収益の減少を防ぐために以下の医療区分及びADL区分の患者を集患する必要があります。

  • 処置等:医療区分3
  • 疾患・状態:医療区分3(処置等3かつADL区分3の場合は、医療区分が1もしくは2でも可)
  • ADL区分:3(処置等3かつ疾患・状態2の場合は、ADL区分2でも可)

このため、入院料Aから収益の減少を防ぐためには、少なくとも、スモンを除き処置等3を満たす必要があります。具体的な処置等3の内容は以下の通りです。中心静脈栄養も処置等3に該当しますが、対象疾患ではない場合、30日を超えると医療区分が3から2に下がるため注意が必要です。

  • 中心静脈栄養(療養病棟入院基本料を算定する場合にあっては、広汎性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、難治性下痢、活動性の消化管出血、炎症性腸疾患、短腸症候群、消化管瘻若しくは急性膵炎を有する患者を対象とする場合又は中心静脈栄養を開始した日から三十日以内の場合に実施するものに限る。)
  • 点滴(二十四時間持続して実施しているものに限る。)
  • 人工呼吸器の使用
  • ドレーン法又は胸腔若しくは腹腔の洗浄
  • 気管切開又は気管内挿管(発熱を伴う状態の患者に対して行うものに限る。)
  • 酸素療法(密度の高い治療を要する状態にある患者に対して実施するものに限る。)
  • 感染症の治療の必要性から実施する隔離室での管理

出所:基本診療料の施設基準等の一部を改正する告示 厚生労働省告示第五十八号(令和六年三月五日)(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001239962.pdf

ここでは、入院料Aを例に整理しましたが、入院料A以外を主に算定している場合であっても、30分類の中でどの入院料を目指すのか、その入院料を算定するためには、どのような医療区分及びADL区分の患者を集患する必要があるかを検討することが重要です。

また、中心静脈栄養に関する基準が厳しくなっていますが、令和6年度診療報酬改定では静脈経腸栄養ガイドライン等を踏まえた栄養管理に係る説明を実施し、新たに経腸栄養を開始した場合に一定期間算定可能な経腸栄養管理加算が新設されています。静脈経腸栄養ガイドラインで示されている、「腸が機能している場合は、経腸栄養を選択することを基本とする」という内容からも、経腸栄養をより評価することを打ち出されています。

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出所:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定説明資料等について「11  令和6年度診療報酬改定の概要 入院Ⅳ(慢性期入院医療)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html

おわりに

ここまで、令和6年度診療報酬改定における療養病棟入院基本料について、中央社会保険医療協議会における検討内容から、具体的な改定内容、今後の病棟運用の要点についてみてきました。

今回の改定では、特に中心静脈栄養の改定で大きな影響を受ける医療機関があると想定されます。一方で、入院料が30分類に詳細化され、疾患・状態の医療区分3における「医師及び看護職員により、常時、監視及び管理を実施している状態」を満たすため、現状よりも増収する、という事例もあります。診療報酬改定の影響をどこまで抑えられるか、もしくは追い風と出来るかは、各医療機関において現状分析と目標の設定及び実行が重要となります。現状分析では、疾患・状態の医療区分と処置等の医療区分、ADL区分ごとにどのような患者が入院しているかを可視化するだけでなく、自院の人員や設備・機器も踏まえる必要があります。現状分析を踏まえ、今後どのような患者を受け入れるか目標を立て、実行に移すことが重要になると考えます。

デロイト トーマツ グループでは、様々な規模・機能の医療機関に対して、経営改善の計画策定から実行支援までをご支援しており、多数の実績を有しております。本稿で取り上げた療養病棟に限らず、経営改善のご支援が可能なため、是非お気軽にご相談下さい。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/5

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