最新動向/市場予測

2つの連携推進法人制度は地域社会を変えられるか

地域社会を支える新たなスキームの比較解説

2017年4月から地域医療連携推進法人が設立できるようになり、5年が経過しました。また、2023年度から、いよいよ社会福祉業界においても、社会福祉連携推進法人制度がスタートすることが予定されています。 今回は地域医療連携推進法人や社会福祉連携推進法人が今後の地域社会のインフラ整備にあたっての切り札となりうるのか、設立状況や制度間比較をしながら解説していきます。

ホールディングカンパニーがトレンド化

地域医療連携推進法人は医療法により規定されている法人であり、設立にあたっては一般社団法人をベースとし、都道府県に地域医療連携推進法人としての認定を申請し、認定されると地域医療連携推進法人と名乗ることができることとなる。

地域医療連携推進法人は通常の一般社団法人と何が異なるかといえば、いわゆるホールディングカンパニーとして参加することが認められている点が挙げられる。

つまり、通常の一般社団法人では法人に対して“参加”することは法人の制度設計上はされておらず、連携推進法人の大きな特徴といえる。一般の事業会社のような親子会社のような関係性は制度として存在してこなかったところであるが、昨今では国立大学法人の経営統合スキームとして活用されていたり、次年度から施行される社会福祉連携推進法人制度の施行と、非営利法人のホールディングカンパニー制度はトレンドと化しつつある。

地域医療連携推進法人と社会福祉連携推進法人の制度間比較

地域医療連携推進法人と社会福祉連携推進法人はいずれも“連携推進法人”である点は共通しているが、そもそも違いがあるのか、制度間の比較を通じて解説を進める。

図1は筆者が両法人の制度の基本的な事項について比較を実施している。

共通点は、いずれも一般社団法人が根幹となる法人の形態である点にある。また、いずれの法人も地域における社会インフラとして課題解決を目的とした法人である点も共通点といえる。

他方で、連携推進業務の内容については、それぞれの法人制度が異なる目的を有するため、業務の内容には共通した項目もあれば、相違する項目もある。例えば、両法人の制度に共通している点は、研修事業・物品の供給に関連する業務、資金貸付業務である。特に参加法人の経営を支援する視点から、これらの業務は共通して実施可能な業務となっているものと考えられる。

一方で、地域医療連携推進法人では、医療機関(病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院・介護事業等に係る施設・事業所)を開設できる点が、社会福祉連携推進法人にはない特徴である。社会福祉連携推進法人は原則として、社会福祉連携推進業務を支援することと定められており、社会福祉事業を行うことはできないとされている。社会福祉連携推進法人では、例外として一部の福祉サービス(社員である社会福祉法人等を支援する一環として、社会福祉を目的とする福祉サービス)の提供は可能であるが、社員である法人の経営に大きな影響を及ぼすおそれも懸念されることから、入居系施設の運営は難しいとされている。

また、地域医療連携推進法人は限定的ではあるが、出資を行うことが認められている。社会福祉連携推進法人でも、社会的信用を傷つける恐れや投機的でなければ、事業として実施することが可能であるため、同様の出資は実施できる可能性はあるのではないか、と筆者は考えている。

続いて、法人を構成する機関設計に関する共通点と相違点について説明する。

 

主な機関設計には大きな相違がないところである。しかし、会計監査人の設置については、地域医療連携推進法人は規模に関わらず、設置が必須となっている。社会福祉連携推進法人は一定規模以上(損益計算書におけるサービス活動収益の合計が30億円を超えるか、貸借対照表の負債の部の合計が60億円を超えるかのいずれか)の場合に設置を義務付けることが予定されている。会計監査人の設置に関しては、社会福祉連携推進法人の方が設置義務条件のハードルは低くなる予定である。

次に社員に参画できる者については、両法人ともに医療・社会福祉それぞれの事業を実施している法人であることが条件となっている点は共通である。しかし、地域医療連携推進法人の場合、株式会社立の病院が限定的に参画できる可能性はあるものの、営利法人の参画は認めていない。一方、社会福祉連携推進法人の場合は法人格の種別を問わないとしている点で異なる。社会福祉事業には一定の営利法人の参画が見られることを背景とした制度設計であると考えられる。なお、地方公共団体は両法人ともに社員となり得るところであるが、社会福祉連携推進法人においては、地方公共団体が社会福祉法人等の事業者に対して施設の許認可や補助金の支給、指導監督権があるなどの優越的地位にあることから、議決権行使は認められない制度設計になっている点は社会福祉連携推進法人特有の設計である。

社員の議決権については、原則的な扱いとして1社1議決権である点は共通しているが、例外的な取扱いの方法には若干条件に相違がみられる。社会福祉連携推進法人には、明示的に過半数の議決権を一定の社員に割り当てることはできないとされている。ただし、地域医療連携推進法人においても議決権に関しては、医療連携推進目的に照らして不当に差別的な取扱いをしないことが例外的な議決権の割当ての条件となっていることから、明示されてはいないが、過半数の一定の社員への割当ては難しいと考えられる。

 

連携推進法人制度の活用パターンと留意点

連携推進法人制度の活用方法はケースバイケースとなると筆者は考えている。もちろん社会福祉法人が中心となった検討でなければ、社会福祉連携推進法人の選択肢が取りえないところであるが、社会福祉法人にとっては、2つの制度いずれも選択の検討の余地があるところと考えられる。

制度自体はほぼ同様の制度設計が確認されており、それぞれの法人制度の趣旨を鑑みれば、地域包括ケアシステムのような地域社会インフラの実現に向けた制度である点は変わりないところである。

地域医療連携推進法人はすでに全国に30の法人が認定を受け、活動を進めているところであるが、社会福祉法人の参画もみられるところである。社会福祉法人にとっては、地域医療連携推進法人にも参画でき、また社会福祉連携推進法人にも参画ができ、いずれの法人制度を活用することが適当であるかどうかは、地域の課題の内容によって法人制度を吟味し、検討していくことが有益であると考えられる。

具体的な地域の医療・介護に関連する課題として、地域医療連携推進法人の方が有利となるケースとしては、地域医療連携推進法人に認められている医療施設の開設を法人で行うことが課題解決方法の場合には有効であると考えられる。

また、地域における社会福祉事業の事業者に営利法人が含まれる場合には、地域医療連携推進法人は営利法人の参画が原則認められていないことから、社会福祉連携推進法人の方が有用となる。

社会福祉を担う事業者に地方公共団体が大きく貢献をしているようなケースの場合であって、社会福祉法人が地域には十分に存在しない場合には、広域的な社会福祉連携を目的とした社会福祉連携推進法人の設立も可能ではあるものの、地方公共団体が参画していくことが有益である場合には、地域医療連携推進法人の方が当該地域においては選択しとなり得る場合もあると推察される。

社会福祉連携推進法人は、社会福祉の連携を通じて、社会福祉に従事する事業者の発展に非常に高く貢献する制度となることが期待される。地域医療連携推進法人とは目的が重なるケースもあるが、地域の社会福祉事業者の数や、地域が抱えている医療・社会福祉に関する課題の関連性から検討していくことがベストフィットする法人制度を選択することができると考えられる。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/6

関連サービス

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ

■ ライフサイエンス

■ ヘルスケア

ヘルスケアメールマガジン

ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)

記事一覧

メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。

配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更

お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。

>メールマガジン利用規約
>プライバシーポリシー

お役に立ちましたか?