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診療報酬改定に備える

激震、地域包括ケア病床の改定内容と対応策

令和4年度診療報酬改定の答申が公表されたことで、改定内容の大枠を把握することが出来ました。本改定で最も大きなトピックスは、地域包括ケア病棟入院料ではないでしょうか。これまでのトレンドとしては、要件の追加によって点数が増加することが多い傾向にありましたが、本改定では様々な減算項目が設けられています。本稿では地域包括ケア病棟入院料の改定内容と対応策について記載いたします。

診療報酬改定の概要

地域医療構想のゴールとなる2025年に向けて、診療報酬改定は残り2回となりました。その中で令和4年度の診療報酬改定は、新型コロナウイルスへの対応と地域包括ケアシステムの構築が一番の重点課題として位置付けられています。特に地域包括ケアシステムの構築は、令和2年度の改定では重点課題の三番目として位置づけられていましたが、本改定で一番目に順番が上がっていることからも重要度が上がっていると言えるでしょう。

実際に、地域包括ケアシステム構築の中心的役割を担う地域包括ケア病棟入院料(医療管理料:以下省略)には大きな変更がありました。

地域包括ケア病棟に関する議論と変更点

診療報酬の変更点の前に、地域包括ケア病棟に関する概要について述べておきます。地域医療構想策定時に2025年の必要病床数に対し、「急性期・慢性期縮減、回復期拡充」という方針が出され、それに向けた政策誘導が進められてきました。その結果、平成29年7月から令和2年7月までで回復期病床は37千床増加しています(地域包括ケア病棟入院料:29,960床、回復期リハビリテーション病棟入院料:7,652床)。しかし、令和2年7月時点の回復期病床数は約181千床と、地域医療構想策定時の目標である375千床に届かせるためには当該機能を倍増させる必要があります。

このような状況の中、次回改定では地域包括ケア病棟入院料に対して、以下のような変更が行われています。

 

平成29年:地域医療構想による2025年の病床の必要量(厚生労働省)

① 在宅復帰率:地域包括ケア病棟入院料1・2は70%以上から72.5%以上に変更されます。一方、地域包括ケア病棟入院料3・4においても、70%以上が求められます(満たせない場合は、所定点数の90%に減額)。

② 自院の一般病棟からの転棟割合:地域包括ケア病棟入院料2・4における施設基準の対象が、許可病床400床以上から200床以上に拡大されます(満たせない場合は、所定点数の90%から85%に減額)。

③  地域包括ケアに関する実績部分:地域包括ケア病棟入院料1・3の要件見直し(自宅等から入棟した患者割合が15%以上から20%以上、自宅等からの緊急患者の受入れが3月で6人以上から9人以上)に加えて、地域包括ケア病棟入院料2・4においても、実績部分が要件化(①自宅等から入棟した患者割合、②自宅等からの緊急患者の受入れ、③在宅医療等の実績から1つ以上)されます。

④ 許可病床数100床以上で地域包括ケア病棟入院料1・2を届出している医療機関において、入退院支援加算1に係る届出を行っていない場合は、所定点数の90%に減額されます。

⑤  一般病床において地域包括ケア病棟入院料を算定する場合は、第二次救急医療機関又は救急病院等を定める省令に基づき認定された救急病院であることが要件化され、さらに在宅療養支援病院・在宅療養後方支援病院・訪問看護ステーションの設置のいずれかが必要となりました。

これらの要件が追加された背景は多岐にわたりますが、「地域包括ケア病棟に求められる3つの役割について、病床規模や病床種別による患者の背景・地域における運用の在り方等や病床種別による患者の背景・地域における運用の在り方等が異なることも踏まえつつ、 役割の一部しか担えていない場合の評価について他の場合と分けて考えることなど、地域包括ケア病棟の機能の差を踏まえた評価について検討を行うべき 」という意見に沿ってなされた変更です。以降で、地域包括ケア病棟の現状の運用課題等について触れながら、今後の対応策について解説します。

 

①在宅復帰率、②自院の一般病棟からの転棟割合、③地域包括ケアにかかる実績部分

①在宅復帰率

在宅復帰率は入院料1・2の場合、現行の70%から72.5%以上に基準が高まっています。入院料1・2では、在宅復帰率75%以上の医療機関が約90%を占めていることからも影響は限定的であると認識しています。一方で、入院料3・4は厚労省のデータでも8件しかサンプルがないため、影響がどれほど出るか不透明です。

 

令和3年10月27日:中医協総会

②自院の一般病棟からの転棟割合

最も大きな影響を与えるであろう項目の一つが当該内容となります。令和2年度の病床機能報告を基にすると、地域包括ケア病棟をもつ病院の約半分の病院が減算対象となります。

 

厚生労働省「令和2年度病床機能報告」よりトーマツ作成

当該要件は、令和2年度診療報酬改定の際に400床以上の病院が対象でしたが、令和4年度にて200床以上へ対象が拡大しています。400床以上の病院での当該減算回避に向けた取り組みとしては、A.地域包括ケア病棟への直入症例の検討、B.入院患者受入時の院内オペレーションの整理、C.左記の取り組みに向けた医師のご理解の3点を行っています。

③地域包括ケアの実績部分

入院料1・3については現行の要件の基準が上がっているため、既存の取組を継続いただく形になります。一方で、これまで実績要件のなかった2・4では新たに要件を満たすことが必要となりますが、他院で対応例の多い内容は以下の4点です。

・自宅等から入院した患者割合:「20%以上」

・自宅等からの緊急患者受け入れ数:「3か月で9人以上」

・在宅患者訪問診療料(I)および(II)を直近3か月間で30回以上算定 

 

④入退院支援加算1の届出、⑤一般病床における要件の追加

④入退院支援加算1の届出

100床以上の病院のうち入退院支援加算1の届出が出来ない場合、10%の減算となりました。入退院支援加算1は、地域包括ケア病棟入院料を届出ている病院のうち、約半数しか届出がされていません。

 

令和3年10月27日:中医協総会

届出が困難な理由としては、過半数が「入退院支援及び地域連携業務に専従する看護師又は社会福祉士を各病棟に確保できないため」というものでした。減算となった場合、30百万円以上の減収となる見通しです。人件費の増加も踏まえ、当該人員を拡充することが必要となります。

⑤一般病床における要件の追加

一般病床における地域包括ケア病床では、救急機能に加え、在宅療養支援病院・在宅療養後方支援病院・訪問看護ステーションのいずれかの対応が必要となります。経過措置の期間は1年間ありますが、万が一当該要件を満たすことが出来なければ、地域包括ケア病棟入院料を算定することは出来なくなります。

選択肢としては、200床未満の病院は在宅療養支援病院 and/or 訪問看護ステーション、200床以上の病院は在宅療養後方支援病院 and/or 訪問看護ステーションという整理となります。自院の規模と機能、マンパワーなどを勘案し、適切な対応が必要となります。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/3

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