最新動向/市場予測

政策動向から見るヘルスケア産業振興

ここ10年程で個人、組織、企業等そして社会全体が健康や予防、疾病対策に対する意識が非常に高くなってきたと感じます。今回は改めてヘルスケアに関連する政策動向と、ヘルスケア業界、ヘルスケア関連の商品・サービス開発について考えてみたいと思います。

検診は仕事

先日の日本経済新聞の「日曜日に考える」の記事の見出しに(平成28年11月6日(日))『検診は仕事 企業は後押し』と書かれていました。筆者はここ15,6年程保健、予防、疾病対策等の領域の業務に従事していますが、少なくとも10年前には「健康管理は個人が自己責任で管理すべきである」という風潮が強かったように思います。一方、ここ10年程で個人、組織、企業等そして社会全体が健康や予防、疾病対策に対する意識が非常に高くなってきたと感じます。今回は改めてヘルスケアに関連する政策動向と、ヘルスケア業界(*1)、特にヘルスケア関連の商品・サービス開発の今後について考えてみたいと思います。
*1:本稿におけるヘルスケアの定義は「健康の維持や増進のための行為や健康管理のこと、及び第一次予防及び保健に関連すること」としています。

健康づくり、予防の転換期は平成18年

平成18年6月に、国民皆保険制度設立以来の大改革といわれた医療構造改革関連法が成立しました。ここには、生活習慣病予防、医療提供体制、医療保険制度に関する改革を総合的かつ一体的に行うものと記されています。(平成18年度厚生労働白書を参考)
この法律が健康や予防の転換期とどう関係するのか、ということですが、戦後日本は国民への健康づくりを続けてきていましたが、平成18年に成立した医療構造改革関連法で初めて、健康づくりは、医療費適正化の手段として明確に位置づけられました。
従来以上に予防が重視され、生活習慣病予防(運動・食事・禁煙)に重点的に取り組むことで中長期的に医療費適正化を図るという考え方が示されました。これは、簡潔に言うと、「病気になったら治せばいい」では なく、「病気にならないためにはどうするか」、に向けて取り組むという姿勢を示したと言えます。
同法律に基づき、生活習慣病予防対策の一環として、今や40歳以上の人なら誰もが受診している特定健康診査(及び特定保健指導)が平成20年度から始まり、また、同時に特定健康診査で取得する健診データの電子化の重要性も示されました。

平成18年度を契機とした各省における健康づくり、予防の取り組み

医療構造改革関連法以降この10年間でヘルスケアに関連する取り組みは、厚生労働省だけでなく、総務省、国土交通省、文部科学省、経済産業省等と複数官庁の主務領域を踏まえ分担・連携し実施されてきました。後述する日本再興戦略では、ヘルスケア産業の市場規模は2020年26兆円、2030年には37兆円と予測され、今後の成長市場のひとつと位置付けています。

図1 ヘルスケア関連施策は厚生労働省のみではなく複数官庁の主務領域を踏まえ分担・連携し実施されている。

  

ヘルスケア産業は日本の戦略市場のひとつ

さらに、平成25年6月にはヘルスケア産業の成長を後押しする日本再興戦略が閣議決定されました。その戦略市場創造プランのひとつとして健康・医療市場が位置付けられています。(同再興戦略は、平成26年6月に改訂版(外部サイト)が公表、以下改訂版と表記)
改訂版では、「健康産業の活性化と質の高いヘルスケアサービスの提供」として具体的に
以下の3点が重点事項とされています。


(1)医療介護等を一体的に提供するための新たな法人制度の創設等により、医療介護サービスの効率化・高度化を図り、地域包括ケアを実現することで、医療介護の持続性 と質の向上を両立すること
(2)健康増進・予防へのインセンティブを高めることにより公的負担の低減と公的保険外の多様なヘルスケア産業の創出を両立すること
(3)保険外併用療養費制度の大幅拡大により多様な 患者ニーズへの対応と最先端技術・サービスの提供を両立すること


特に、(2)はヘルスケアサービスの供給側(消費者)から見ると、身近に感じられる変化ではないでしょうか。
健康増進・予防へのインセンティブサービスでは、対個人向けのサービスとして、健康や予防行動に取り組むことで健康ポイントやウエルネスポイント等を付与されるサービスがあります。また、法人向けのサービスとして、民間事業者が従業員の健康や働きやすい職場環境整備への取り組みに対し、銀行が認定を行い、金利優遇等の融資制度を受けられるサービスも各地で始まっています。

ヘルスケア産業振興 ~次世代ヘルスケア産業協議会~

経済産業省では、日本再興戦略に基づき、官民一体となって具体的な検討を行う場として平成25年4月に「次世代ヘルスケア産業協議会」を設置しています。その取り組みのひとつとして、地域における自立的なヘルスケアビジネスの創出拠点となる「地域版次世代ヘルスケア産業協議会」の設置を全国5ブロック(北海道、沖縄県含む)、15道府県、9市で設置してきました。(経済産業省,「次世代ヘルスケア産業協議会のこれまでの成果等について」を参考)。
当法人では、この地域版次世代ヘルスケア産業協議会の設立準備の相談や、設立からその後の運営を継続的に支援しています。また、ヘルスケア商品・サービスの普及や、同商品・サービス開発のアドバザリーサービスも提供しています。
これらの経験から、ヘルスケアビジネス参入、もしくはヘルスケア商品・サービス開発等について共通で見えてきた課題を次に紹介したいと思います。

ヘルスケア産業への参入、商品・サービス開発の共通課題

ここでは地域版ヘルスケア産業協議会に関連する業務を通じて、私達は幾つかの共通課題があると思っていますが、今回はその中の2つを紹介したいと思います。

共通課題1:目指すべき姿が関係者間で共有されていない。

根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine, EBM)ならぬ、根拠に基づくヘルスケア商品・サービスの開発、またその商品・サービスの効果測定に対する認識が不十分な傾向があると感じます。
実証実験や研究結果から導かれた「裏付け」=エビデンスは、消費者にとってヘルスケア関連の商品やサービスを選択する上で、安全性、信頼性といった点で大きなポイントになり得ます。また民間事業者にとっては、「裏付け」が開発した商品・サービスの付加価値となり、一方で他社製品との差別化ともなり得えます。
勿論、民間事業者の開発・研究規模に応じて「裏付け」の構築は、出来る事と出来ない事があると推測します。しかしながら、根拠に基づくヘルスケア商品・サービス開発やその効果測定をどのステージで試み、実施をしているか、説明が出来ることが重要であると考えます。
以下図2にヘルスケアサービスのエビデンス構築のレベル(イメージ)を参考に示しました。また、この図2では、ヘルスケア商品・サービスを開発する側だけでなく、例えば公費や社費を投入してヘルスケア事業を支援する審査側にとっても評価指標のひとつの考え方として参考になると考えます。

図2 ヘルスケア領域のエビデンスの構築において、どのレベルなのかを説明できることが重要です。

  

※なお、図2には、被験者の数、実証期間、回数、や論文化等は考慮してはいないことを留意してください。

日本は世界でも例を見ない超高齢者社会です。一般的に総人口に対し65歳以上の高齢者数が7%を占めると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢社会(スーパ―オールドソサエティ)と言われますが、平成28年度版高齢化白書概要版(内閣府)によると、平成27年度は26.7%で、10年後(平成37年)には30.3%と推計されています。
世界で唯一日本が超高齢社会を経験するこの機会をチャンスと捉え、私達もヘルスケア領域におけるサービス提供を通じ、長生きしてよかったと思えるヘルスケア商品・サービスを生み出し、社会システムの構築に資するサービス提供をしていきたいと思います。

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