ナレッジ

2018年度介護報酬改定と介護業界における今後のM&A 

ライフサイエンス・ヘルスケア 第10回 

2018年は6年に一度の診療報酬・介護報酬の同時改定の年です。本稿では、介護報酬の概要と今年度の改定内容について解説するとともに、報酬改定とM&Aの関連性、介護業界におけるM&Aの今後の動向について考察します。

Ⅰ.はじめに~市場拡大が期待されるなかでの2018年度報酬改定

国内では生産年齢人口の減少により、既存市場の縮小が懸念されるなか、近年の高齢者人口の顕著な増加により、介護市場への注目やその市場規模の拡大への期待が高まっている。

一方で、介護事業は、一種の公定価格である介護報酬に収入を左右される事業である。特に2018年は2年に一度の診療報酬と3年に一度の介護報酬の同時改定の年であり、団塊の世代が75歳以上となり、国民の25%が後期高齢者となる2025年の地域包括ケアシステム構築に向けた、重要な年でもあった。

ここでは、介護報酬の構成について簡単に述べたのち、介護報酬改定動向と今後の報酬改定について説明し、報酬改定を踏まえた今後の介護業界におけるM&Aについて考察したい。

 

II.介護報酬とは

介護報酬とは、事業者が介護サービスの利用者に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われる報酬のことである。介護報酬は、厚生労働大臣が社会保障審議会 介護給付費分科会の意見を聴取し、定めている。

介護報酬には、本体に相当する基本報酬部分と、一定の条件を充足すると発生する加算(減算)が存在する。基本報酬部分は、介護サービスごとに定められているもので、その基本報酬部分に上乗せ・減額されるものが加算(減算)である。介護報酬の改定においては、基本報酬部分の引き上げ、引き下げが行われる場合と、加算・減算の新設または、条件強化が行われる場合がある

図表1 介護報酬の構成
※クリックして画像を拡大表示できます

III.介護報酬改定の概要と今後

1) 改定推移
2018年の介護報酬改定については、2016年に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に基づく2017年の処遇改善に関する臨時改定もあり、当初マイナス改定との話もあったとされるが、臨時改定(2014年・2017年)を除けば、6年ぶりのプラス改定となった。
 

図表2 介護報酬改定の推移
※クリックして画像を拡大表示できます
図表3 過去の改定内容
※クリックして画像を拡大表示できます

2) 2018年介護報酬改定の内容
2018年介護報酬改定は、図表4のとおり、①地域包括ケアシステムの推進、②自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現、③多様な人材の確保と生産性の向上、④介護サービスの適正化・重点化を通じた安定性・持続可能性の確保の4点を主軸に報酬の改定がなされている。本稿では、①および④の一部について、代表的な改定例を以下にて述べる。
 

図表4 2018年度介護報酬改定概要
※クリックして画像を拡大表示できます
地域包括ケアシステムの推進

地域包括ケアシステムとは、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」システムのことである。今般の改定では、主に次の4点において、地域包括ケアシステム推進のための改定がなされている。(主な例は図表5参照)

  • ターミナルケアや看取りを行う事業所を評価
    従来病院・診療所で行っていた、看取りやターミナルケア、看護師の行うたん吸引などを介護事業者が行うことに対し、加算を創設・強化した。
  • 医療・介護の連携推進
    地域包括ケアシステムの柱は、医療・介護が一体的に提供されることである。一体的な提供のためには、病院・介護事業所間での情報連携が重要であるため、連携を行う事業者に対し加算を創設した。
  • 介護医療院の創設
    介護医療院とは、2017年6月の介護保険法改正より新規に創設されたサービスで、2024年3月末で転換期限を迎える介護療養型医療施設(介護療養病床)の受け皿となり、「医療の必要な要介護高齢者の長期療養・生活施設」との位置づけである。
  • 認知症への対応強化
    認知症罹患者に対し専門的なケアを提供している場合や、看護師を手厚く配置している事業者に対し、加算を創設・強化した。
     
図表5 主な加算の概要
※クリックして画像を拡大表示できます
介護サービスの適正化・重点化を通じた安定性・持続可能性の確保

政府の財政状況から、過去にも収益の大きなサービスについては、基本報酬が引き下げとなっており、今回の報酬改定においても、過大な収益を上げているとされる一部サービスについて、引き下げが行われている。(主な例は図表6参照)

  • 訪問系介護サービスにおける同一建物集中減算の拡大
    従来より存在していた介護事業所と同一敷地内(または隣接する敷地内)に所在する建物居住者へのサービス提供への減算幅を拡大した。
  • 基本報酬の引き下げ
    訪問介護(予防含む)、大規模型の通所介護・認知症通所介護、通所リハビリテーションに関しては、基本報酬を引き下げた。
     
図表5 主な加算の概要
※クリックして画像を拡大表示できます

3) 今後の改定
政府の方針である、2025年の地域包括ケアシステムの構築まで後7年しか残っていないなか、臨時改定が無い前提においては、介護報酬改定についてはあと2回、診療報酬改定については、あと3回しか改定タイミングが残っていない。2018年と同様の介護報酬・診療報酬の同時改定ができる次のタイミングは2024年であるが、2024年は、地域包括ケアシステムの構築の前年ということもあり、事業者への負担を鑑みると、抜本的な報酬改定は実施しにくいものと想定される。そのため、次回2021年の介護報酬改定が、事実上地域包括ケアシステムの構築のための、抜本的な報酬改定の年となるものと考えられる。

図表7 今後の報酬改定スケジュール
※クリックして画像を拡大表示できます

IV.介護業界におけるM&A

1) 過去の報酬改定とM&Aの動向
2008年4月以降の介護事業者に関するM&Aは図表8のとおりである。2012年4月の報酬改定の前後では、目立った案件数の増減は見られないが、2015年4月の改定以降は、案件数が2桁に達しており、案件数の増加が見て取れる。

これは、2015年4月の改定が大幅なマイナス改定であり、介護事業者の中においても、「勝ち組」と「負け組」に差が出てくるなかで、同業の買収や異業種からの参入、外部資本の導入による更なる成長など、さまざまな要因が考えられる。

図表8 介護業界におけるM&A件数推移
※クリックして画像を拡大表示できます

2) M&Aの類型
前回介護報酬改定のあった2015年4月以降の主だった介護事業者に関するM&A実績は、図表9のとおりで、以下の点を読み取ることができる。

  1. 同業によるM&Aは、創業者らからの株式取得のような事業承継のような案件が多いと思われること。
  2. 比較的規模の大きい案件や主要事業の1つが介護事業である案件はファンドが手掛けていること。
  3. 異業種からの介護事業への参入が盛んであること。
図表9 介護業界における近時のM&A事例
※クリックして画像を拡大表示できます

3)  今後の介護業界におけるM&A
過去のM&A実績と2018年4月の報酬改定を踏まえ、今後の介護業界におけるM&Aの傾向は以下のとおり予測される。

  1. 異業種からの参入
    図表9でも明らかであるが、国内において唯一と言ってもよい成長市場である介護事業について、既存事業とのシナジーを狙い異業種からの参入は継続して発生するものと考えられる。
  2. 事業承継に絡んだ中小規模案件の発生
    介護保険法施行後18年が経過しており、施行直後に事業参入した会社の創業者の高齢化が進んでいるものと推測される。そのため、一定の事業承継ニーズが発生する可能性があるものと考えられる
  3. 既存事業者のサービスの絞り込みによるM&A
    中堅~大手の介護事業者は、在宅系~施設系、複合型まで幅広いラインナップを揃えるととともに、プライベートペイ(介護保険外収入)の比率の大きい施設系介護サービスでは、幅広い価格帯を取り揃えている。これは、各介護サービス間におけるシナジーや顧客囲い込みを図るものと考えられるが、全てのサービスを同様に拡大してくことは困難である。
    そこで、事業者によっては、得意とするサービスに注力する、不得手なサービスは売却するという、取捨選択を図る可能性があると考えられる。
  4. ノンコア部門としての売却
    介護事業が本業ではない事業会社においては、景気の波に関係なく、公定価格である介護報酬により業績が左右される介護事業を保有し、事業運営することは難しいものと考えられる。
    そのため、ノンコア部門として保有している介護事業を専業大手に委ねるようなM&Aも発生する可能性があるものと考えられる。

 

V.おわりに

2018年の介護報酬改定は、一部の介護サービスにとっては、影響が大きいものの、大半の介護サービスについては、基本報酬部分の改定は軽微であり、大きな影響が出ることは考えにくい。

一方で、次の報酬改定は、抜本的な改定も予測されるため、この3年間で、「どのような介護事業にしていくのか」を十分に検討し、生き残る方策を考えていくことが肝要であると思料する。


※ 本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
※ 詳細情報をご要望の場合は別途お問い合わせください。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ライフサイエンスヘルスケア
シニアアナリスト 田中 克幸

(2018.5.22)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

記事全文[PDF]

こちらから記事全文[PDF]のダウンロードができます。
[PDF: 407KB]
お役に立ちましたか?