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新人病院経理課長の1年(第3話)

医療機関の月次作業

新人病院経理課長、等松太郎の視点を通じて、財務会計上のポイントや留意点をケーススタディの形で解説する「新人病院経理課長の1年」。第3話では医療機関の月次決算作業の迅速化について経営管理の観点から解説いたします。

新人病院経理課長の1年 (第3話) ストーリー

「等松くん、毎日夜遅くまで頑張っているようだね。さすが僕が見込んだだけはあるよ。」こう切り出すときの山本事務長はいつも等松太郎に難題をぶつけてくる。「忙しいのに恐縮だが、実は院長から毎月の経営会議を見直すように指示を受けて困ってるんだよ。民間企業経験者の等松くんなら何とかしてくれるよね。よろしく頼むよ。」そう言いながら等松太郎の肩に軽く手を置き、山本事務長は足早に去って行った。

「いつものことながら・・・」と途中まで出かかった言葉を飲み込んで、等松太郎は、前回初めて出席した経営会議の状況を思い返していた。

等松太郎が所属する医療法人トーマス(一般200床)の経営会議は毎月第4木曜日に開催され、院長、事務長、副院長2名、看護部長の計5名と事務方から数名が出席している。経営会議資料は医事課が取りまとめ、これを医事課田中課長が説明して概ね1時間程度で終了する。

「経営会議を毎月実施することはいいんだけど、結局、大半の時間が事務方が作成した資料の説明を聞くだけで終わっているんだよな。」そう呟きながら、等松太郎は自分の机に戻り、おもむろにキーボードをたたき始めた。「経営会議資料も医事関係のデータを中心に分量が多い割に分析されていないし、月次決算の報告も行われていないし・・・」気がつくと画面はメモでいっぱいなった。

そこから等松太郎はマウスを小気味よく動かしながら各項目を分類して整理し、下記3項目に集約した。

  • タイムリーな経営会議の開催
  • キャッシュ・フロー経営の視点(資金繰り管理)
  • 効果的な経営会議の実施

「まずは、経営会議を早期化(解説1参照)できないか検討してみよう」

経営上の課題はできるだけ早期に発見し対応しなければならないが、その検討を行う経営会議が遅ければ遅いほど、対策が遅れてしまう。
むしろ過去のことだからと結論づけて、経営会議でも詳細に検討しないことが多い。院長もそこのところを気にしていたなあ、と以前に院長とディスカッションした時のことを思い返していた。

「そういえば、この前、石上さんが未払金処理が遅れるから月次決算が締まるのが2カ月後の月初って言っていたな。」
黒縁眼鏡を押えながら淡々と語っていた石上の姿を思い出しながら、月次決算結果を含めた経営会議をタイムリーに実施できないか等松太郎は考えを巡らせていた。ふと何か気付いたかのように等松太郎は経理担当の石上に語りかけた。

「石上さん、毎月の未払金の相手先は何件くらいあるの?」意識を別世界に飛ばしていた石上は突然声をかけられて一瞬ビクッとしたあと、何もなかったかのように淡々と口を開いた。「毎月の状況で違うんですが、だいたい30~40件くらいの件数になります。」
「じゃあ、未払金額の大きい順に相手先を並べてみたら、どう?」
「そうですね、5業者でだいたい未払金全体の8~9割を占めていますね。」

その程度なら、翌月初には見込額レベルの金額は把握できそうだ。等松太郎はそう思いながら、独り言のようにこうつぶやいた。「そもそも月次決算は年度末決算と同じ精度で会計処理する必要はなく、経営状況をできるだけ早期に把握できればいいんだから、時間のかかる会計処理は予算等の概算値でいったん月次決算を組めばいいんだよ。」

おそらく、また意識を別世界に飛ばしている石上からの答えは帰ってこなかったが、経営会議に提出する月次決算の早期化に一定の目処が立ちそうだと等松太郎は確信した。あとは医事関係のデータについてもレセプト請求期限の10日以降までまたなくても、大きな乖離さえなければ月末の速報値でなんとか月次決算が組めるはずだ。

「ただ、田中課長を説得するのが大変なんだよなぁ。」医事課30年のベテラン田中課長に怒られている自分の姿を想像しながら、等松太郎は座席深くに腰を落としていった。 

※本記事はデロイト トーマツ グループ ヘルスケアユニットが執筆し、野村證券㈱のFAX情報として2009年から2010年まで連載されていた「病院経理課長の一年」を最新の情報を盛り込み再構成したものです。

解説1 :経営会議の早期化(月次決算管理)


等松太郎は、現状の経営会議の問題点の一つとして経営会議の早期化を挙げています。多くの医療機関が毎月経営会議を行っていますが、早い医療機関は翌月初、遅いところでは翌月末や2カ月も遅れて実施しているところも見受けられます。

等松太郎も指摘してましたが、タイムリーに経営情報等を取り扱わない経営会議では、過去の経営状況を把握するだけとなってしまい、会議自体が形骸化する傾向にあります。また月次決算についても、そもそも実施していない医療機関もまだまだ少なくないようです。

タイムリーに月次決算や経営会議を実施するためには、【1】月次管理のプロセスの整理、【2】月次決算の早期化の2つについて検討していく必要があります。

【1】月次管理プロセスの整理

月次決算や経営会議の実施が遅い医療機関は、毎月の業務のなかで必ず何かがボトルネックとなっています(図表1参照)。特に特定の担当者に業務が偏っている場合は、既存の業務内容について見直しが行われず、長期に わたって非効率な業務が行われ ているケースも少なくありません。
月次決算や経営会議の早期化 を検討するにあたっては、まず 経営会議にいたるまでの各業務の洗い出しを行い、それぞれの 業務を時間軸で整理することで、 ボトルネックとなっている箇所 を洗い出す必要があります。

図表1では未払金の処理が他の業務と比較して著しく遅いことがわかるかと思います。

 ポイントとしては下記の3つの視点があげられます。
 (1)特定の人に業務が集中していないか?(生産性の視点)
 (2)PCの活用やシステム化、業者の協力によるデータ入手などで早期化できないか?
  (効率性の視点)
 (3)経営状況を早期に把握する観点から省略・簡略できないか?(重要性の視点)

【2】月次決算の早期化

月次決算の早期化においては、前述のポイント(3)の重要性の視点が重要になります。等松太郎が指摘したように重要な未払金のみを先に処理する方法もそのひとつといえます。ここでは参考に月次決算の早期化のポイントを2つご紹介します。

(1)会計処理の省略・簡略化

繰り返し説明しているように、月次決算においてはタイムリーに経営状況を把握することが重要となってきますので重要性の低い未払金の処理や集計に時間のかかる実地棚卸結果に基づく棚卸資産の計上などは月次決算上は省略・簡略化していくことが考えられます。

(2)見込額(予算額)による月次処理

減価償却費や退職給付費用などは見込額を毎月均等で計上し、年度末に洗替処理します。また賞与など発生した月の費用負担が大きくなるものについては、その見込額を賞与支給対象期間にわたって均等に計上する(引当処理する)ことで、各月の損益がぶれずに経営状況を把握することが可能となります。

図表1 :月次管理プロセス分析例

連載目次

【第1話】「財務分析と会計基準
【第2話】「業務活動から会計処理」 
【第3話】「医療機関の月次作業」※本ページです
【第4話】「キャッシュ・フロー経営(資金繰り管理)
【第5話】「月次経営管理 効果的な経営会議の実施」 
【第6話】「患者未収金管理と貸倒引当金(徴収不能引当金)
【第7話】「不正と内部統制
【第8話】「購買管理
【第9話】「実地棚卸
【第10話】「決算作業 1
【第11話】「決算作業 2
【第12話】「会計監査」(2017年3月末 公開予定)

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