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新人病院経理課長の1年(第8話)

購買管理

新人病院経理課長、等松太郎の視点を通じて、財務会計上のポイントや留意点をケーススタディの形で解説する「新人病院経理課長の1年」。第8話では購買管理に焦点をあてて解説していきます。

新人病院経理課長の1年 (第8話) ストーリー

「等松君、大活躍ですねえ。今度のターゲットはうち?」等松太郎が職員食堂で納豆蕎麦をすすっていると、伊東用度課長がおもむろに近寄り隣に座ってきた。伊東用度課長はいつもカレーの大盛りを食べる。

「ターゲットだなんて、ちょっと分からないことを教えてもらっただけですよ。」 

等松太郎は昨年の決算資料を見て、多額の在庫金額と減耗損が気になっていた。そこで先週、診療材料や消耗品などを管理する用度課の事務員、長井さんに根掘り葉掘り質問したことが伊東用度課長の耳に入ったようだ。 

「先日は伊東課長がお休みだったので、長井さんにいろいろ教えてもらいました。」

「長井さん、今度、寿退社すること知ってますか?」

「ああ、放射線科の鈴木君とですよね?おめでたい話じゃないですか。」

「等松君、全然分かってない。熟練の長井さんがいなくなったら、用度課も病院も崩壊するわ。」ずいぶん大袈裟だなと思いながら、等松太郎は蕎麦をすすった。

伊東用度課長はカレーを飲みこみ、ゆっくりと口を開いた。

「用度課は僕も含めて三人なの。三人だと発注管理や検収作業、在庫管理、業者との交渉、現場のパソコン修理までやるのは大変なのよ。その上、もうすぐ実地たな卸の時期でしょ。長井さんまでいなくなっちゃうし、地獄よ。本当に困ってるの。」伊東用度課長は続けた。「昨日、用度課の倉庫見た?」

「ええ、もうほとんど空きスペースないですよね。それに熟練じゃないと、どこに何があるのか・・・」

「整理整頓する暇なんてないのよ。」伊東用度課長が等松太郎の言葉を遮った。

「それにね、病棟の看護師が好き勝手に業者に材料を発注しててね、用度課で材料の発注を一元管理できてないのよ。業者が用度課に納品に来るくらいなら可愛いもんだわ。この前なんて業者が直接病棟に材料を納めててね。現場が勝手に発注して、検収して、それを等松君の経理で支払っているのよ。知ってた?」伊東用度課長はまくし立てた。 

確かに用度課以外の現場から経理課に納品書が回付されてきている。一定品目について現場に発注・購買の裁量が与えられているものだと、等松太郎は勝手に思い込んでいた。これでは業者と共謀すれば、架空納品書と架空請求書でいつでも不正ができるではないか。先日懲戒免職になった田中医事課長など氷山の一角かもしれない。 

「病院全体でいくら材料を購入していて、どれくらい在庫があるのか、業者から請求書が来るまで、実地たな卸が終わるまで、誰も知っている人はいないわ。」伊東用度課長は遠くを見つめている。

「ちょっと待って下さい。受払記録もない、ということですか?」

「用度課の受払記録はあるけど、用度課から払出した後のことは知らないわ。多分ないわよ。病棟とか現場保管の材料は実地たな卸しないからね。病棟が勝手に買っているものなんて推して知るべしね。」

「もしかして医薬品も同じですか?」

「さあ、それは薬局に聞いて。」 

等松太郎は経理課に戻り、席に座った。伊東用度課長と話した後はいつもどっと疲れる。しかし、多額の在庫金額と減耗損の原因はよく分かった。購買管理ができていないのだ。在庫は金食い虫だということを伊東用度課長は身にしみて感じているはずである。

「課長、食後のコーヒーはいかがですか。」考えて込んでいる等松太郎の目の前で、石上さんがマグカップを持って微笑んでいる。「はい、今日は沖縄名物のお菓子付きです。食後に頭を使うのは消化に悪いですよ。」

「誰か沖縄行ってきたの?」等松太郎は聞いた。

「さあ?前から食器棚に入ってました。賞味期限は一昨日だからたぶん大丈夫ですよ。食器棚もたな卸です。」そうか、もうすぐ実地たな卸だと伊東用度課長も言ってたな。やや湿ったお菓子を無理やり流し込みながら、等松太郎は次の課題への対応を考え始めた。

※本記事はデロイト トーマツ グループ ヘルスケアユニットが執筆し、野村證券㈱のFAX情報として2009年から2010年まで連載されていた「病院経理課長の一年」を最新の情報を盛り込み再構成したものです。

解説1:購買管理

医療機関における購買管理は、医薬品や診療材料、消耗品など在庫の発注から検収、支払いに至るまでの一連の業務(図表1)を対象とします。 

購買管理のポイントとしては、(1)不正を防ぐこと、(2)過剰在庫を防ぐこと、(3)購入価格の低減化の3点が挙げられます。

購買業務は、支払と密接に関わることや在庫の換金可能性が高いことから、不正の温床となりやすい業務です。したがって、いかに業務遂行に相互けん制を働かせるかが重要となります。

また、「在庫は金食い虫」という言葉があるように、在庫を持ちすぎると管理費用が増えるのみならず、期限切れや紛失などによる損失発生のリスクが生じます。したがって、適正在庫水準を把握し、発注量をコントロールすることが重要となります。

以上から、購買管理(不正・過剰在庫の防止)の具体的な留意事項としては次の3点が挙げられます。

(1)必要なもの以外は発注しない
必要数以上の発注は過剰在庫につながります。したがって、在庫量がどれくらいの水準になったら発注するのか、客観的に発注点(定数)を決めておく必要があります。
また、業者へ発注する権限を有する部署(今回の事例では用度課)を一元化し、病院全体としての発注量(発注金額)を把握し、コントロールすることが不可欠です。
さらに、不正を防ぐためには上記に加え、病棟など各部署の管理者が用度課への発注依頼内容を都度承認し、承認があるもののみ用度課が業者へ発注を行うルールを定めることが有用です。 

(2)発注したものしか検収しない
今回の事例では、用度課が発注していないもの(病棟が勝手に発注したもの)まで検収を行っているようです。
これではたとえ上記(1)で必要なものしか発注しない体制を整えても、発注内容と関係なく検収が行われていては意味がありません。
したがって、発注書(控)と納品書と現物の3つの整合性をチェックし、有効な発注に基づかない検収を防止する必要があります(図表2)。 

(3)検収したものしか支払わない
経理課では、検収実施部署から提出された納品書(控)が在庫の受入事実を示していることを前提に、納品書(控)と請求書とを照合し支払処理を行います。
したがって、架空の検収がなされた納品書を提出された場合、経理課で不正な支払いを防止することには一定の限界があります。
そこで、発注依頼者(部署)と検収担当者(部署)を分離し、検収業務での内部牽制を働かせることが有効と考えられます。

連載目次

【第1話】「財務分析と会計基準
【第2話】「業務活動から会計処理」 
【第3話】「医療機関の月次作業
【第4話】「キャッシュ・フロー経営(資金繰り管理)
【第5話】「月次経営管理 効果的な経営会議の実施」 
【第6話】「患者未収金管理と貸倒引当金(徴収不能引当金)
【第7話】「不正と内部統制
【第8話】「購買管理」※本ページです
【第9話】「実地棚卸
【第10話】「決算作業 1
【第11話】「決算作業 2
【第12話】「会計監査

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