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新人病院経理課長の1年(第9話)

実地棚卸 

新人病院経理課長、等松太郎の視点を通じて、財務会計上のポイントや留意点をケーススタディの形で解説する「新人病院経理課長の1年」。第9話では実地棚卸に焦点をあてて解説していきます。

新人病院経理課長の1年 (第9話) ストーリー

少しずつ春の足音が近づいてくるなか、医療法人トーマスもあと少しで今期の決算を迎える時期に来ていた。経理課では等松太郎が各部署から上がってきた昨年度の実地棚卸報告に目をとおしていた。

「石上さん、去年の3月末の実地棚卸だけど、内容わかる?」理由はわからないが最近やけに愛想がいい石上は満面の笑顔で答えた。「やだ、課長、簡単ですよ。各部署から上がってきた資料を顧問税理士にわたしているだけですよ。」「・・・・」少し沈黙が続いた後、等松太郎は「ごめん、石上さん、今から各部署にいってヒアリングしてくるから少し席外します。」去年の実地棚卸報告の資料をもって足早に経理課を出ていく等松太郎の背中から石上の声が聞こえた。「課長、いってらっしゃーい」

医療法人トーマスの実地棚卸の範囲は、医薬品と診療材料、医療消耗品が中心となっているが、棚卸を実施する部署は日常在庫を管理している看護部や薬剤部、放射線科など各部署に任されている(図表1参照)。等松太郎はもう一度去年の実地棚卸報告に目を通しながら、「しかし,この棚卸結果はどこまで正確なのかな。」とつぶやいた。この前、用度課長の伊東さんと話した限りでは、在庫管理だけでなく、実地棚卸の時期や手法についても各部署の裁量にまかせているようだ。等松太郎は院内用PHSで各部署の責任者にアポイントを取りながら、最初のヒアリング先である用度課へ足を速めていった。

あたりが真っ暗になったころ、疲れた表情で等松太郎は経理課に戻ってきた。誰もいなくなった室内の一角の電気をつけ、等松太郎は机の上のキーボードをたたき始めた。「やっぱり部署ごとに棚卸方法とかバラバラなんだよな。」等松太郎は手元のノートに目を落としながら、自身のパソコンに棚卸の実施状況を「棚卸時期」、「棚卸範囲」、「棚卸方法」毎にまとめ出した(図表2)。

入力し終えた画面を見ながら、等松太郎は一つ一つの課題を確認するようにつぶやいた。「まず、棚卸時期だけど、常時稼働している手術室はしょうがないけど、臨床検査科や用度課は早い時期からカウントしているよな。動いていないものからカウントしているっていってたけど、やっぱり3月末でカウントしないと棚卸の意味がないよ。」「それから棚卸範囲もバラバラだ。用度課なんて6個入りのカテーテルの箱が開封されて5個のこっていてもカウントしないなんて、棚卸範囲自体を見直さないと。逆に看護部は細かすぎるくらいカウントしているけど、むしろ病棟や外来の定数配置分をカウントしていない方が問題だよ。この前、病棟を見たけど定数を超える診療材料などが結構あったし。」「棚卸方法も各部署とも忙しいのはわかるけど、2名1組でやらないとカウント誤りの可能性が高くなるよなぁ。」誰もいない部屋の中で等松太郎の声だけが響き渡った。「よし、各部署の棚卸責任者に一度集まってもらって、医療法人トーマスの共通の棚卸ルールを作ろう。去年まではともかく、今年の棚卸には何とか間に合わせないと。」

自身の行動方針が決まって一息ついた等松太郎に空腹感が襲ってきた。「そういえば朝から何も食べていなかったな。」ふと眼を横にやると、机の上に石上が書き残したと思われる『課長、お先に失礼します。お腹がすいた時に食べてください』のメモとともに、以前見たことのあるお菓子が置いてあった。「ちんすこうか、そういえばこの前も石上さんにもらったけど確か賞味期限がどうとか言ってたな。」食べるべきか食べざるべきか、本日最大の課題に等松太郎は直面している。

※本記事はデロイト トーマツ グループ ヘルスケアユニットが執筆し、野村證券㈱のFAX情報として2009年から2010年まで連載されていた「病院経理課長の一年」を最新の情報を盛り込み再構成したものです。

連載目次

【第1話】「財務分析と会計基準
【第2話】「業務活動から会計処理」 
【第3話】「医療機関の月次作業
【第4話】「キャッシュ・フロー経営(資金繰り管理)
【第5話】「月次経営管理 効果的な経営会議の実施」 
【第6話】「患者未収金管理と貸倒引当金(徴収不能引当金)
【第7話】「不正と内部統制
【第8話】「購買管理
【第9話】「実地棚卸」※本ページです
【第10話】「決算作業 1
【第11話】「決算作業 2
【第12話】「会計監査

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