病院の統合再編における指定管理者制度活用時の留意点 ブックマークが追加されました
ナレッジ
病院の統合再編における指定管理者制度活用時の留意点
2003年に設けられた指定管理者制度は、公立病院でも導入が進められ、2020年度末時点で、全国で79病院が指定管理者により運営されています。総務省の調査によれば、指定管理者制度を導入した公立病院では経営の効率化に一定の効果があったとされている一方で、導入がうまくいかなかったケースも存在します。統合再編等の支援の知見を踏まえ、指定管理者制度導入にあたって留意すべき点を紹介します。
指定管理者制度とは
指定管理者制度は2003年の地方自治法の改正により新たに設けられた制度であり、公の施設について、普通地方公共団体が指定する法人その他の団体に管理を行わせることができるようになりました。公の施設の管理を民間に委ねることにより、民間的な経営手法が導入され、施設利用者へのサービスの向上や効率的な運営を行うことを目的としています。制度の開始以後、指定管理者制度導入施設は増加傾向にあり、総務省の調査によると2021年4月1日時点において、全国で77,537の施設*1で指定管理者制度が導入されています。
(*1) 参考:「『公の施設の指定管理者制度の導入状況等に関する調査結果』の概要」(総務省)(https://www.soumu.go.jp/iken/main.html)
病院事業における指定管理者制度の活用
指定管理者制度の対象となる公の施設には病院も含まれ、総務省の「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン(以下、『経営強化ガイドライン』)」によると2020年度末時点で、全国の公立病院853病院の内、79病院が指定管理者により運営されています。また、経営強化ガイドラインにおいて、公立病院の経営強化に向けた経営形態見直しの選択肢の一つとして、「地方独立行政法人化」「地方公営企業法の全部適用」と並び「指定管理者制度の導入」が挙げられています。
経営強化ガイドラインでは、経営形態見直しによる効果についての調査結果も提示されており、指定管理者制度を導入した病院の内、総務省の調査に回答した35病院全てにおいて、経営の効率性に効果があったと回答されています。
出所:「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(総務省)P25より抜粋 (https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/hospital/hospital.html)
このように公立病院の経営効率化に一定の効果があると考えられる指定管理者制度ではありますが、地域医療を支える公立病院の管理が民間に委ねられる点から、導入にあたっては留意すべき事項もあります。病院事業での指定管理者制度の導入については、地域の病院の統合再編の手法として利用されることも多いため、指定管理者制度を利用した病院統合再編の主な留意点を「ヒト」「モノ」「カネ」の軸で以下に解説します。
指定管理者制度を利用した病院統合再編の留意点
指定管理者制度導入にあたっての一般的なプロセスは以下のとおりですが、今回は主に「⑥指定管理方法等の詳細について協定締結」に関して、指定管理者と締結する協定内容および協定締結に向けた事前協議時の主な留意点を解説します。
出所:「指定管理者制度について」(総務省)P6より抜粋(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/chizai/02zaisei02_04001397_00613.html)
1. ヒトに関する留意点
■病院職員の身分および待遇
指定管理者制度導入後の病院で働く職員は、原則として指定管理者の職員となります。そのため、既存の病院職員が指定管理者による管理開始後も当該病院で働き続ける場合、公務員としての身分を辞し指定管理者に転籍することとなり、待遇についても指定管理者の内部規定に沿った取扱いとなります。なお、公務員としての身分を維持したまま出向という形で働き続ける方法もありますが、出向可能期間には制限があり(最大5年)、いつまでも公務員としての身分を維持したまま働き続けることはできません。
公務員としての身分がなくなり、待遇も変化するということで既存職員への影響は大きいと考えられます。一方で、次の項目である人材流出とも関連しますが、指定管理制度導入後の病院運営の観点からは、できる限り既存の職員には転籍してもらうことが望ましいと考えられます。そのため、地方公共団体がコストを負担する形で、一定期間は現給保障等待遇の維持が図られるケースがあります。
■人材流出
指定管理者制度の導入による、身分や待遇等の変化を嫌う職員の離職についても留意が必要です。極端な病院規模の縮小や医療機能の変更が行われない限り、現在の病院職員数と、指定管理者制度導入後に必要となる病院職員数に大きな乖離は生じないと想定されるため、退職者の人数が多くなると指定管理者制度導入後の病院運営に支障が生じる可能性があります。職員に対して指定管理者制度導入後の病院のあり方や職員の待遇等について事前に丁寧な説明を実施し、職員の不安をできる限り解消することが重要です。また、指定管理者選定の際に、希望する職員の雇用の継続を選定条件に含めるケースもあります。
2. モノに関する留意点
■医療機能の維持
指定管理者制度導入後も維持されるべき医療機能については、指定管理者と事前に協議する必要があります。特に政策医療については、地域住民の健康に影響が大きい医療である一方で、採算性の低さから指定管理者の経営判断により医療機能が維持されなくなる可能性があります。そのため、指定管理者制度導入後も維持すべき医療については、指定管理者との協定内容に盛り込むケースがあります。
■施設設備の費用負担
指定管理者制度導入後も、公的病院の施設整備は地方公共団体が担うこととなり、施設整備費用は一義的には地方公共団体が負担することとなります。一方で、施設を運営した結果の収益については指定管理者が受け取ることになるため、施設整備費用の一部を指定管理者に負担させるケースがあります。その場合、例えば、施設の減価償却費に一定割合を乗じて算定した額を「指定管理者負担金」として、負担させるといったことが行われています。
■医療機能の変更に伴う施設設備の改修
統合再編において病院の医療機能が変更となる場合、新たな医療機能を提供するための施設設備の改修が必要になる可能性があります。その場合、施設設備の改修範囲の検討や事業費の算定を行ったうえで、その負担方法について指定管理者と協議する必要があります。また、過度な改修を行った場合、減価償却費等の負担は、指定管理者制度導入後の病院経営にも影響を与えるため、改修内容についても指定管理者と事前に協議することが望ましいと考えられます。
3. カネに関する留意点
■指定管理料
政策医療に関する費用として地方公共団体から指定管理者に支払われるケースがあります。また、名目については、指定管理料以外に交付金(政策医療交付金等)として支払うケースもあります。金額の算定方法等、指定管理者と協議する必要があるため、算定方法等事前に交渉方針を検討しておく必要があります。
■補助金
指定管理者制度導入後も、公立病院として国および都道府県から公立病院の運営に関して受け取れる補助金があります。これらの国および都道府県からの補助金は、実際に病院の運営を担っている指定管理者に交付することを協定内容に定めているケースもあります。指定管理料等の交渉に影響する可能性がありますので、指定管理制度導入後受け取れる補助金やその金額は、交渉に向けて整理しておく必要があります。
まとめ
病院統合再編への指定管理者制度活用には、民間的経営手法の導入によるサービスの向上や効率的な運営による医療の持続可能性の向上といったメリットがある一方で、手続や条件の設定等導入に向けて検討すべき事項が多くあります。また、病院事業特有の論点も存在するため、指定管理者制度導入におけるリスクを適切にコントロールしながら制度のメリットをフルに活用するには、病院統合再編への指定管理者制度活用に精通したアドバイザーの活用も重要です。
デロイト トーマツ グループでは、指定管理者制度を活用した病院の機能再編や統合を支援してきた豊富な知見を有しており、今回ご紹介した指定管理者制度だけでなく、地方独立行政法人や一部事務組合等地域の状況に適した手法を活用した統合再編の実現に貢献しています。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/7
関連サービス
ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。
ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ
■ ライフサイエンス
■ ヘルスケア
ヘルスケアメールマガジン
ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)
>記事一覧
メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。
>配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更
お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。