業界展望2025年 航空宇宙・防衛業界 ブックマークが追加されました
最新動向/市場予測
業界展望2025年 航空宇宙・防衛業界
航空宇宙・防衛業界では、様々な技術の広範な実用化が進む
本稿は、デロイト ネットワークが毎年発刊している航空宇宙・防衛業界のトレンドに関する考察を翻訳したものであり、航空宇宙・防衛業界の各種アジェンダに対応していくためのヒントが散りばめられている。
目次
- 日本語版発行に寄せて
- 1. アフターサービス:AIやデジタル技術がMRO(整備、補修、オーバーホール)を通じた価値提供に革命を起こす
- 2. 人材:デジタル技術を活用して、人材の獲得や従来の人材戦略の強化を図る
- 3. 戦略的投資:防衛領域が業界全体の投資を牽引している
- 4. AAM:規模拡大、認証取得、社会受容性確保の取組を通じて、運航開始に向けて前進している
日本語版発行に寄せて
直近の航空宇宙・防衛業界を概観すると、マーケット環境としては、民間航空機業界が新型コロナウイルスの影響から脱却し再び需要増加傾向にあるとともに、防衛業界においても防衛関係費の増額に伴う受注増が毎年続く状況となっているなど、昨年の業界展望発行時と比較しても安定的な成長市場となっていると捉えられる。
国内では、2024年4月には経済産業省が「航空機産業戦略」を発表し、完成機事業も視野に入れた自律的な成長を実現するための産業構造への転換や脱炭素化を目標としたグリーントランスフォーメーションの方向性が示されるとともに、防衛分野では「防衛産業基盤強化法」をはじめとする国内防衛産業の維持・強化についての諸施策が実行に移されている。また、宇宙分野では「宇宙戦略基金」の設置による政府からの大規模な支援の枠組がスタートし、AAM(Advanced Air Mobility)分野では2025年大阪・関西万博をキーマイルストンに置いた社会実装の取組が進むなど、新たなエコシステム形成の動きも加速している。
このように大きな転換期を迎えている航空宇宙・防衛産業において、市場成長の追い風を自社の事業成長に繋げるために、様々なチャレンジに直面している企業が多いのではないだろうか。特に、深刻化する人材不足を背景とした技術伝承、地政学リスク・サイバーセキュリティリスクをはじめとした様々なサプライチェーンリスクへの対応、急速に進展する人工知能・デジタル技術の製品・業務プロセスへの適用、持続的なイノベーションを起こすための仕掛けづくりなどは、業界の共通課題になっていると考えられる。また、各分野で市場投入される製品アセットが増加していくのに伴い、これらのアフターサービスの重要性は益々高まっていくことが予想される。
本稿は、デロイト ネットワークが毎年発刊している航空宇宙・防衛業界のトレンドに関する考察を翻訳したものであり、各章では上に挙げたような業界アジェンダに対応していくためのヒントが散りばめられている。これが、日本の航空宇宙・防衛関連企業が今後の成長に向けた変革に取り組む際の参考となれば幸いである。
上杉 利次
デロイト トーマツ グループ 執行役員
谷本 浩隆
デロイト トーマツ グループ ディレクター
直近1年間(2023年から2024年)、航空宇宙・防衛業界はサプライチェーンの問題から人材不足や生産量不足に至るまで、様々な課題に直面してきた。しかし、デロイトの分析では、業界はこのような領域において成長と進歩を遂げている。民間航空機業界では、2024年の航空旅行の需要は高水準を保ち、新型コロナウイルス感染症の拡大による需要の落ち込みから完全に回復した1。IATA(国際航空運送協会)によると、2024年における世界の航空旅客輸送需要は、有償旅客キロベースで、2023年比で11.6%増加すると予想されている2。2024年8月時点において、世界の航空旅客数は年初来で11.9%増加し、有効座席キロベースでの総輸送容量は年初来で10.2%増加した3。
防衛業界では、地政学的緊張が続き、各国は防衛費の増額を余儀なくされている。ストックホルム国際平和研究所によると、2022年に戦争状態にあった国は約59カ国で、2019年比で27カ国増加している4。その結果、2023年の全世界の防衛費は2兆4,000億米ドルを超過した(本レポート発行時の最新データに基づく)5。
このような傾向は2025年に入っても続くと予想され、人工知能や先進航空モビリティ(Advanced Air Mobility、以下「AAM」)から無人システムに至るまで、多くの技術が広範に実用化される可能性を秘めている。直近1年間で、AIはいたるところで見られるようになった。これは、防衛業界の企業がこのような技術に習熟してきていることを示している。2025年には、アフターサービスの充実やサプライチェーンの最適化など、様々な分野でAIの進展がさらに進むと見込まれる。
航空宇宙・防衛業界ではまた、2025年もハード面での技術成長は続き、おそらく加速していく。米国だけでも、バイデン政権は2025年度の米国国防総省(Department of Defense、以下「DoD」)の予算として8,498億米ドルを要求している6。このように予算に優先順位が付けられたことで、無人システムと宇宙経済に対する業界内での投資が促進される。具体的には、民間航空機業界は引き続きAAMソリューションを推進していくことが予想される。2025年には、航空宇宙企業や防衛企業が、自社の技術の未来に向けて、サプライチェーンにおけるレジリエンスと可視性向上に優先的に取り組むことが見込まれる。
本「業界展望2025年 航空宇宙・防衛業界」レポートでは、以下のトレンドを踏まえながら今後の見通しを探求する。
- アフターサービス:AIやデジタル技術がMRO(整備、補修、オーバーホール)を通じた価値提供に革命を起こす
- 人材:デジタル技術を活用して、人材の獲得や従来の人材戦略の強化を図る
- 戦略的投資:防衛領域が業界全体の投資を牽引している
- AAM:規模拡大、認証取得、社会受容性確保の取組を通じて、運航開始に向けて前進している
- サプライチェーン:可視性の向上は依然として優先事項である
1. アフターサービス:AIやデジタル技術がMRO(整備、補修、オーバーホール)を通じた価値提供に革命を起こす
直近1年間の航空旅行需要の復活は、航空機の新造需要を急激に押し上げた。航空宇宙・防衛関連企業はサプライチェーンの品質問題や航空機の可用性の低下に直面しており、既存の民間航空機の運用寿命の延長を求める声が高まっている7。
航空機の運用寿命を延ばす一つの方法は、効果的な整備、補修、オーバーホール(Maintenance, Repair, and Overhaul、以下「MRO」)である。そのため、企業は、MROサービスにデジタル技術を組み込んで改善することで、効率性と費用対効果の向上というニーズに対応する等、価値を創出可能な機会を見出そうとしている8。
最近のデロイトの調査では、航空宇宙・防衛業界の回答者の81%が、人工知能及び機械学習(Artificial Intelligence及びMachine Learning、以下「AI/ML」)技術を既に使用しているか、または使用する計画があると回答している9。アフターサービス関連企業の回答者も、AI/ML、生成AI、拡張現実が今後1年から3年の間における主たる重要技術であると回答した(図1)10。AI/MLやデジタル革命は、運用効率とカスタマーエクスペリエンスを同時に向上させることに重点を置いた維持・管理の改善の一助となっている。
MRO関連企業の中には、予知保全などの単発的な領域でAIを導入している企業もある11。これら領域は、2025年には、維持・管理に係るデジタル戦略に含まれていくだろう。そのような戦略を実施している航空宇宙・防衛関連企業は、業務をよりグローバルな視点で捉え、デジタル技術を駆使して業務を計画するようになる。インテリジェントなMRO運用計画は、維持・管理における予測可能性を高め、顧客が必要とするときに航空機が必ず利用可能な状態であることの実現に役立つ。これらのサービスを利用することで、民間の視点では航空機の可用性を常に維持可能になり、加えて、防衛の視点では任務遂行に際して運用可能な航空機の安定確保が可能になる。
このような可用性を保つことが可能ということは、業界を問わず、整備のダウンタイムを最小限に抑えることにつながる。この理想的な状態を実現するために、企業は複数の重要な計画段階でソリューションを取り込み、時間、技術者、及び部品の最適化を検討するようになる(図1)。
- 運航管理:機体を導入する最適なタイミングはいつか。予測機能は、航空機オペレーターが運航スケジュールを把握し、航空機の稼働に係るニーズと必要な整備を調整するのに役立つだろう。
- キャパシティ管理:AIはキャパシティ管理において複数の用途が期待されている。現在、シミュレーション技術は、整備のために機体を受け入れる際に、十分なキャパシティ(物理的なスペース、技術者、部品の在庫)があるかを判断するのに役立っている。将来的には、1機の機体がMROのために物理的な空きスペースを占有できる時間を計算する上で、AIが重要な役割を果たす。最終的には、MRO担当者や航空機オペレーターがより効果的にキャパシティの可用性をシミュレーションする際に役立つだろう。
- 予知保全と在庫最適化:AIを活用して過去のデータを分析し、今後必要になる修理と必要な部品を予測することが可能である。これにより、在庫が最適化され、ダウンタイムが短縮され、準備とリソースの割り当てが改善されるだろう。
- リソースの割り当て:AIを活用して、適切な部品、リソース、技術者を適切なタイミングで利用できるように管理し、最も必要とされる場所に割り当てることが可能になるだろう。また、最も近くにある交換品とその交換作業に最も適した技術者を特定し、それを航空機オペレーターに伝えることが可能になるだろう。
MROの領域でAI利用の精度が向上すれば、カスタマーエクスペリエンスの向上も同時に期待できる。様々なソースからデータを集約することで、AIは航空機の状態と整備のニーズを俯瞰的に把握することが可能である。MROサービス関連企業は、航空機の実際の使用状況に基づいてリアルタイムの最新情報と推奨事項を提供するといった、AIを活用した顧客別のユーザーマニュアルを検討することが可能になる。これにより、整備業務をシームレスに実施して必要なときに航空機を利用可能になり、運航効率と顧客満足度の向上につながるだろう。
2. 人材:デジタル技術を活用して、人材の獲得や従来の人材戦略の強化を図る
2024年、航空宇宙・防衛業界は人材の獲得と定着という課題に引き続き苦戦しており、2025年もこれらの課題が続く可能性が高い。実際、全米製造業協会(the National Association of Manufacturers(NAM))の2024年第2四半期の展望に関する調査では、回答者の67%以上が「優れた人材の獲得と定着」を主要なビジネス上の課題として挙げている12。同業界は以前にもこの問題に直面しているが、AIや生成AIのようなデジタル技術が従来の人材戦略を強化する上で果たす役割に鑑みると、2025年は航空宇宙・防衛関連企業にとって重要な年になる。
人材の獲得
現在の労働市場における航空宇宙・防衛業界の需要は、2019年の水準と比較して急増している。実際、ある世界大手の航空機OEMは、米国の民間航空宇宙セグメントだけでも、今後20年間で123,000人の技術者がさらに必要になると推計している13。米国の航空宇宙製品及び部品製造業における雇用件数は現在534,442件存在する(図2)。
航空宇宙・防衛関連企業は、組織を構築するために、全国レベルと地方レベルの両方の求人市場に焦点を当てた二方面の戦略で人材獲得を狙う。全国レベルでは、平均を上回る賃金と複合的な技術に携わる機会を提示して、技術者を獲得し続けると予想されている14。
地方レベルでは、航空宇宙・防衛関連企業がエコシステム・アプローチを活用する可能性が高い。つまり、官民パートナーシップによって生産業務に携わる人材を育成し、一定人数を安定して供給できるようにするというアプローチである15。その一例として、高等学校や専門学校の学生を対象とする実際の業務に基づく学習プログラムに投資し、それによって人材を獲得することが考えられる16。技術力を備えた人材を失うことによる機会損失は非常に大きいことが立証されており、早期の人材パイプラインの開発が重要になるだろう。
人材の定着
米国航空宇宙工業会(the Aerospace Industries Association(AIA))の会員企業における2023年の離職率は約13%(定年退職を除く)で、米国の平均離職率の3.8%をはるかに上回った17。人材の高齢化は業界の慢性的な問題であり、人材の25%は20年以上の経験を有し、定年退職の年齢を迎えているか、あるいはそれを過ぎている18。米国全体で定年退職の年齢が上昇している一方で、航空宇宙・防衛業界では退職者が組織に関する豊富な知識を伴って退職してしまうため、退職者の数にかかわらず、既存の人材のギャップが深刻になりつつある。
航空宇宙・防衛関連企業は、そのような英知を吸い上げ、知識が一点集中しているために生じる障害を回避し、退職によって生じる重大な影響を軽減する方法を常に探索している。そのため、2025年には、従来の手法とハイテクを駆使した手法の両方を導入して知識移転に取り組むことが見込まれる。
従来の手法である実習生プログラムが再び注目されているという流れは、今後も継続することが期待できる。最近のデロイトの分析では、先進製造技術職の実習生の数は、2023年度には59,500人に増加し、2021年度のほぼ3倍になっている19。
今後、同業界では拡張現実などの新しい技術の助けを借りて研修環境を充実させ、従業員の業務習得時間を短縮していくことが見込まれる20。航空宇宙・防衛関連企業は、部品や製品に関する計画と同等の厳密さで、人材配置やキャリア開発の機会に関する計画の策定に着手し、現在の人材に係る課題への対処を図る。人員計画を重視した販売計画や業務計画により、製品需要を人員需要に適切に反映することが可能になる。このような計画や、見積の根拠といった計画の必須事項については、今後1年の間に、AIのようなデジタル技術によるサポートの向上や最適化が期待されている。
3. 戦略的投資:防衛領域が業界全体の投資を牽引している
航空宇宙・防衛関連の製品・サービスの需要には民間領域と防衛領域の側面があるが、それらに対する戦略的投資の多くは、防衛領域が牽引、または下支えとなっている。2025年は、引き続きロケット技術、無人航空機システム、宇宙関連のケイパビリティといった重要分野に注目が集まっていくものと見込まれている。
宇宙関連分野は民間領域が成長を牽引する
米国宇宙財団によると、世界の宇宙関連分野は民間領域を中心に、2023年に5,700億米ドル規模にまで成長した(前年比7.4%増、これは過去5年間の年間平均成長率(CAGR)7.3%とほぼ一致する)21。特に、測位・航法・タイミング(Positioning, Navigating, and Timing、以下「PNT」)市場は、民間領域の総額4,450億米ドルのうち、約47%(2,090億米ドル)を占める22。同市場は2035年までに155%成長すると予想されており、今後が最も注目されている市場である23。特にサプライチェーン管理や輸送関連領域の企業は、PNT技術を使った位置情報サービスを、さらに活用していくものと見込まれる24。
防衛領域では固体ロケットモーターへの注目が集まっており、投資額も高まっている
2025年度のDoD予算要求には、引き続き戦略分野への投資が含まれており、国防生産法(Defense Production Act Purchases (DPAP))や産業基盤分析・維持プログラム(Industrial Base Analysis and Sustainment (IBAS) Program)を活用して産業基盤を強化していく方針が反映されている。当該取組の予算要求額は合わせて15億米ドルである25。一方、2025年度の予算要求のうち1億6,340万ドルは極超音速兵器の研究開発活動に割り当てられており、特に熱防護技術や固体ロケットモーター技術におけるリードタイム短縮やTier 1以下のサプライヤーに係る諸課題への対処が図られる見込みである26。
固体ロケットモーターへ優先的にリソースが割かれる傾向は、ミサイル技術から宇宙分野まで及んでいる。実際、固体ロケットモーターへの注力は、新たな傾向ではなく継続的なトレンドであり、民間企業活動の活性化につながっている。昨年だけでも、米国陸軍、海軍、及び空軍は大型固体ロケットの開発に取り組む企業に1億米ドル以上を投資した27。ここ2年間だけでも、航空宇宙・防衛業界では注目度の高い取引が数多く行われた。例えば、ある米国プライムメーカーが米国固体ロケットモーター企業2社のうちの1社を買収し28、別のプライムメーカー2社は固体ロケットモーターを大量生産する旨の戦略協定に署名した29。
過去10年間で、ミサイルと弾薬の調達、及び研究開発に関連するDoD予算要求は340%増加しており、2015年度の90億米ドルから、2024年度には306億米ドルに達した30。このトレンドは、2025年も世界の固体ロケット市場の拡大継続が見込まれることを示している。
無人航空機システムは、防衛領域と民間領域双方で拡大を続ける
地政学的緊張を背景に、現在、及び今後の防衛関連投資に注目が集まっている。この影響が最も顕著なのは、無人航空機システム(ドローン)市場である。昨年は、2023年における世界の軍用ドローン市場規模が202億1,000万米ドルに達するという推計もなされていた31。
無人航空機システム市場の成長スピードは、2025年も堅調だろう。2025年度のDoD予算要求では、612億米ドルの一部がMQ-4トライトンやMQ-25スティングレーのような無人航空機システムの航空戦力に割り当てられている32。
民間領域においては、建設、不動産、インフラ、石油・ガス、農業、物流など、様々な業界で無人航空機システムの利用が進んでいる33。米国航空業界にとって画期的な事例であったのは、米国連邦航空局(Federal Aviation Administration、以下「FAA」)がテキサス州ダラスにおいて、複数の民間運航オペレーターに対して、複数ドローンの目視外同時飛行を許可したというものである34。これは、無人航空機システムのさらなる発展に向けた土壌作りであると考えられる一方、将来的に他国製ドローンに運航制限が科される可能性が生じたとも考えられる35。
2025年は防衛領域と民間領域の双方で、次世代無人航空機技術が引き続き拡大する年になる。
4. AAM:規模拡大、認証取得、社会受容性確保の取組を通じて、運航開始に向けて前進している
電動垂直離着陸機(Electric Vertical Takeoff and Landing、以下「eVTOL」)を中心とするAAM業界は近年注目され、投資を集めている。プロ投資家はAAMの将来性に魅力を感じており、1兆7,870億米ドルを上回る運用資産(Assets Under Management(AUM))を預かる運用会社のうち93%がeVTOLセクターに関心を示している36。
eVTOLは電動推進システムを採用しているため、他の航空機に比べて静かで環境への影響も小さく、ゼロエミッションでの運航が可能である37。貨物輸送や軍事用途で検討されているが、最大のバリュープロポジションは都市内の航空旅客輸送市場であろう。AAMは、都市部や地方での移動において、従来のヘリコプターや地上輸送手段に代わる実行可能な選択肢を提供する。
AAMが一般消費者にリーチするには、運航会社がプレミアムタクシーと同等程度の座席単価で、サービスを提供できることが必要になると想定されるが、デロイトの最近の調査において、それが可能であることが明らかになった38。このような手頃な料金体系は、多数の機体を配備し、最大限の稼働率と座席利用率で運航できて初めて可能となる。
現在、AAM業界の先進企業は、飛行試験を進め、様々なステークホルダーと連携・提携して、機体構造、バッテリー、電子機器などの様々な部品やコンポーネントを改良または製造している39。このような連携・提携は、生産計画の推進、製造工場の建設、バーティポートなどのインフラの活用と構築、エアタクシーネットワークの初期的な開発を目的としている40。実際、いくつかの都市や地域では、AAMのコンセプトとビジネスモデルを検証するためのパイロットプロジェクトや飛行実証実験が実施されている41。
AAMソリューションに対する需要が高まるにつれて、OEMの成功と持続可能性は、航空宇宙水準の品質で自動車に近い生産スピード・生産規模を実現できるかにかかっている42。AAMのOEMは、製造規模を拡大するための手法を特にチーム、技術、資本を中心に適用することによって価値を実現する機会を手にしている43。
2025年、AAMのOEMは、FAAのConcept of Operations v2.0で概説されているように、成熟した運航への道を歩み続けることが予想される44。2024年6月、FAAは、大手OEM2社によって作成された2つの設計に関する耐空性基準が記載された航空局通達の草案を発行し45、2024年9月、バーティポートの設計に関する暫定基準が記載された、バーティポート設計のEngineering Brief (EB) 105Aの草案を発行した46。
AAMのOEMや関連企業の多くは、運航開始に向けて野心的な目標を設定しており、先進企業は認証取得に向けた取組を推進し続けている47。先進企業のうちの2社は、早ければ2025年中のAAM運航サービスの提供開始を目標にしている48。認証取得に係る課題以外にも、2025年は多くの業界リーダーが、ユーザーと地域社会全体の両方から受容されるための取組を開始することが予想されている。ユーザーにとっては安全性、価格、移動時間の観点から、地域社会にとっては社会課題の解決や既存のインフラシステムの活用などの観点が重要な論点になるであろう(図3)。
5. サプライチェーン:可視性の向上は依然として優先事項である
航空宇宙・防衛産業は、複数のTierのサプライヤーからなる非常に複雑なサプライチェーンで構成されている。例えば、平均的な米国の民間航空宇宙OEMは、200社以上のTier 1サプライヤー及び12,000社以上のTier 2又はTier 3サプライヤーを擁している49。このようなサプライチェーンは過去数年間、レジリエンス(強靭性)を概ね維持していた。しかし、業界の主要企業は現在、最重要な材料の確保から部品及びコンポーネントの納入手段の確保までの全てにおいて、新たなサプライチェーンの課題に直面している50。多くの企業がサプライチェーンの強靭性と効率性の両立の実現に着手している51一方で、部品不足及び納入遅延、輸送コスト、調達に関する懸念が業界に影響を与え続ける可能性が高く、サプライチェーンの可視化が今後1年間の最重要課題となる52。
2024年、航空業界は旺盛な需要を見せ、旅客収入は2023年から15.2%増の7,440億米ドルに達すると予想されている53。同様に、2024年の有償旅客キロ数は引き続き11.6%の成長となり54、49億6,000万人という過去最高の旅客数に達する可能性があると予想されている。このような航空需要の高まりを受け、機体メーカーはナローボディ機を中心に月産機数を増やすことを計画している55。
一方で、現在、機体メーカーは自社のサプライチェーンにおいて部品不足に直面しており、その結果、事業規模拡大の目標を見直している56。例えば、ある大手機体メーカーのサプライチェーンは9つの層で構成されており、最終部品の80%近くを製造している57。部品不足及び納入遅延はおそらく、世界的な労働力不足及び地政学的緊張の高まりが原因である。例えば、多くの貨物船は、紅海において襲撃される脅威が高まっていることを懸念し、代わりにアフリカ大陸を迂回することとした58。さらに、中米の干ばつによりパナマ運河の水位が低下し、2024年初頭には運河の通航船舶数が制限された。パナマ運河庁は、1日あたりの通航許可船舶数を徐々に引き上げている。2024年6月時点、その数は34隻であるとともに、2024年9月からは36隻に引き上げられる予定であり、干ばつ前の38隻に近づいている59。
しかし、このような引き上げにもかかわらず、通航船舶数の制限により依然、最大2週間60の納入遅延及び輸送コストの大幅な上昇が生じている61。2024年6月時点で、中国から欧州への航路及び、上海からロサンゼルスへの太平洋横断航路など、需要が多い航路の運賃は、新型コロナウイルス感染症拡大前平均のほぼ5倍に上昇した62。
最後に、民間領域と防衛領域の両方において、製造やアフターサービスのための部品、製品及びコンポーネントを調達する上で、その品質及び信頼性を確保することは極めて重要である。模倣品、基準を満たさない製造工程及び不適切な試験手順などの問題は、航空宇宙・防衛システムのインテグリティ及びパフォーマンスを脅かす恐れがある。この問題は決して新しいものではないが63、根強い問題であり、その対策として業界は、今後1年において新しい方式を導入することが見込まれている。
2024年2月、エアラインや機体及びエンジンメーカーを含む大手航空関連企業は、航空サプライチェーンインテグリティ連合(Aviation Supply Chain Integrity Coalition)を設立した64。この連合は、非純正部品の航空サプライチェーンへの混入を防止することで業界全体のインテグリティを強化することを目的としている。2025年は、このような航空宇宙・防衛関連企業による取組により、非認定部品が航空宇宙・防衛サプライチェーンに混入することを防ぐと同時に、サプライチェーン・オペレーションを強化する機会を見出すことができると期待されている65。
上記のサプライチェーン問題は、2025年に入っても続く。また、世界貿易の動向が変化し、米国との国際貿易のシェアがメキシコなどの国に流れるにつれて、航空宇宙・防衛関連企業はサプライチェーンの可視化に注力すると予想されている。これに伴い2025年には、上流サプライヤー(例えば、Tier 2及びTier 3のサプライヤー)からエンドユーザーへの原料の流れを追跡し、サプライヤーのコンプライアンスを監督するために、デジタル技術を採用する企業が増加すると考えられる66。
業界を待ち受ける未来とは―2025年はオペレーションによって差別化される年となる
航空宇宙・防衛業界の2025年は、「実用化」という言葉で定義される年になる。業界は、デジタル技術の進歩、戦略的投資、人材開発の重要性の再認識を背景として、トランスフォーメーションの継続、さらにサプライチェーンの可視化を進めていく。航空宇宙企業や防衛企業は、人材からサプライチェーンの機会に至るまで、業界の慢性的な問題の一部を解決するために、デジタル技術とAIの組み込みに取り組んでいく。
アフターサービスにおいて予知保全にAIを利用することはよく知られるようになったが、大手の航空宇宙企業や防衛企業においては、MROを検討する際の総合的なアプローチにAIソリューションを組み込んでいくことが予想される。同様に、業界の大手企業が自社のデジタルアプリケーションを進化させてサプライチェーンを可視化し、部品・人材不足、部品の品質や信頼性などの様々な問題を解決していくことが期待される。また、人材が逼迫することは現実的な問題であり、先進企業は製造に関する問題と同等の注意を払って人材問題にも対応することが求められている。新製品の分野では、商用利用でAAMや無人システムを運航することで、一部の主要企業は差別化を図っていく。
業界全体としては、各ステップの基盤となる技術の力を借りて、今後も成長していくことが期待される。業界全体に適用されている無数の技術により、企業に非常に多くの機会がもたらされている。そのような技術は、将来の利益拡大とイノベーションの両方を推進して将来に待ち受ける機会を獲得するのに役立つ存在である。
発行人
上杉 利次
執行役員
デロイト トーマツ グループ
谷本 浩隆
ディレクター
デロイト トーマツ グループ
高橋 祐児
シニアマネジャー
デロイト トーマツ グループ
土屋 健太郎
マネジャー
デロイト トーマツ グループ
氷室 尚紀
マネジャー
デロイト トーマツ グループ
小山田 里奈
シニアコンサルタント
デロイト トーマツ グループ
齋藤 太一
コンサルタント
デロイト トーマツ グループ
本稿は、デロイト ネットワークが発行した原著をデロイト トーマツ グループが翻訳・加筆し、2025年2月に発行したものである。
和訳版と原著「2025 Aerospace and Defense Industry Outlook」の原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先する。
著者
Lindsey Berckman
Deloitte United States
Ajay Chavali
Deloitte United State
Kate Hardin
Deloitte United States
Matt Sloane
Deloitte United States
Tarun Dronamraju
Deloitte India
巻末脚注
1. Deloitte analysis based on the International Air Transport Association’s monthly air passenger market analysis from January to July 2024.
2. International Air Transport Association, “Global outlook for air transport,” June 2024, p. 16 table 3.
3. IATA, “Air passenger market analysis: August 2024,” October 2024.
4. Daniel Bachman, “A primer on US defense spending,” Deloitte Insights, Feb. 29, 2024; Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI), “Global military spending surges amid war, rising tensions and insecurity,” press release, April 22, 2024.
5. Bachman, “A primer on US defense spending.”
6. Office of the Under Secretary of Defense (Comptroller)/Chief Financial Officer, “Defense budget overview: United States Department of Defense fiscal year 2025 budget request,” April 4, 2024; This request represents a $7.8 billion (0.9%) increase over the President’s FY24 request and therefore is in line with the Fiscal Responsibility Act of 2023.
7. Lindsey Berckman, Ajay Chavali, Pete Robertson, Misha Nikulin, Kate Hardin, and John Morehouse, “The future of the digital customer experience in industrial manufacturing and construction,” Deloitte Insights, Sept. 24, 2024 .
8. Keith Mwanalushi, “Unlocking MRO opportunities through AI and machine learning,” Aviation Week Network, Dec. 13, 2023.
9. Berckman, Chavali, Robertson, Nikulin, Hardin, and John Morehouse, “The future of the digital customer experience in industrial manufacturing and construction.”
10. Deloitte survey conducted for “The future of the digital customer experience in industrial manufacturing and construction.” The sample size of aerospace and defense companies is 67, spanning the entire value chain, and 10 responses are from the aftermarket companies.
11. Mwanalushi, “Unlocking MRO Opportunities Through AI and Machine Learning.”
12. National Association of Manufacturers, 2024 second quarter manufacturers’ outlook survey, June 26, 2024.
13. Darren Hulst, “Commercial market outlook,” Boeing, July 16, 2024.
14. Aerospace Industries Association, “2024 facts & figures: American aerospace and defense remains an economic powerhouse”, press release, Sept. 9, 2024.
15. John Coykendall, Kate Hardin, John Morehouse, Victor Reyes, and Gardner Carrick, “Taking Charge: Manufacturers support growth with active workforce strategies,” Deloitte Insights, April 3, 2024.
16. John Coykendall, Kate Hardin, John Morehouse, Victor Reyes, and Gardner Carrick, “Taking Charge: Manufacturers support growth with active workforce strategies,” Deloitte Insights, April 3, 2024.
17. Cathy Buyck, “Aerospace and defense firms face stiff competition for talent,” Aviation International News, July 15, 2024.
18. Cathy Buyck, “Aerospace and defense firms face stiff competition for talent,” Aviation International News, July 15, 2024.
19. Coykendall, Hardin, Morehouse, Reyes, and Carrick, “Taking Charge.”
20. Coykendall, Hardin, Morehouse, Reyes, and Carrick, “Taking Charge.”
21. Space Foundation, “Space Foundation announces $570B space economy in 2023, driven by private and public sector growth,” press release, July 18, 2024.
22. Douglas Gorman, “The $570B space economy,” Payload, July 22, 2024.
23. Aaron Sorenson, “The $1.8T space economy”, Payload, April 8, 2024.
24. Aaron Sorenson, “The $1.8T space economy”, Payload, April 8, 2024.
25. Office of the Under Secretary of Defense (Comptroller)/Chief Financial Officer, “Defense budget overview.”
26. Office of the Under Secretary of Defense (Comptroller)/Chief Financial Officer, “Defense budget overview.”
27. Sandra Erwin, “Pentagon ramps up investments in solid rocket motor suppliers to bolster domestic industry,” SpaceNews, April 8, 2024.
28. Stephen Losey, “Business reposition amid growing demand for solid rocket motors,” Defense News, Oct. 31, 2023.
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謝辞
Luke Monck、Pete Robertson、Kevin Brannon、Julia Tavlasには、各自の専門分野の知見提供やレビューをしていただきました。感謝を申し上げます。
最後に、本レポートに関するリソースの調整を行ってくれたClayton Wilkerson、市場戦略や関連資産を駆使し、本レポートを説得力のあるものにしてくれたKimberly PraudaとNeelu Rajput、広報でリーダーシップを発揮してくれたAlyssa Weir、本レポートの発行にあたり尽力してくれたDeloitte InsightsチームのAparna Prusty、Pubali Dey、Elizabeth Payesに感謝を申し上げます。
表紙画像:Rahul Bodiga、Natalie Pfaff