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M&A会計 企業結合の実務 第1回

のれんの評価と監査報告書の記載

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、2018年7月に改訂された監査基準の影響について説明します。

1.大型の企業買収

―のれんの評価は継続的に重要なポイント

Q:最近、大型の企業買収のニュースが相次いでいますが、それに伴い、「のれんの減損」も度々話題になります。

A(会計士):のれんが多額に発生した場合、企業は、企業結合を実施した年度はもちろんですが、その後の年度においても減損の要否を、しっかり検討する必要があります。その業界が属する市場環境など評価時点の状況を反映した事業計画に基づいて将来キャッシュ・フローの現在価値を算定しますが、見積期間の年数、現在価値算定において使用する割引率などさまざまな検討が必要ですね。重要性に応じて、外部の専門家の支援を受けることもあると思います。

Q:使用価値の算定基礎となる事業計画は、経営者の見積り、すなわち主観が入りますので、監査人にとって、のれんの評価はとても重要ですね。

 

2.監査報告書の改善

―監査上の主要な検討事項の報告

Q:実は、この点に関して、本年7月に監査基準が改訂されまして、監査報告書がこれまでの標準化されたいわゆる短文式から変更されることになりました。
(参照:監査基準の改訂に関する意見書/平成3 0 年7 月5 日 企業会計審議会 https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20180706/1.pdf

監査人がその年度の監査において特に重要であると判断した事項(「監査上の主要な検討事項」(Key Audit Matters :以下、「KAM」。)を監査報告書に追加して記載する様式になります。具体的には、監査人は監査報告書で関連する財務諸表における開示を参照したうえでKAMの内容、KAMと決定した理由、監査人の対応を記載するわけです。先程のように、のれんが多額に発生した場合には、監査上、その評価は重要な検討事項になるでしょうから、今後は監査報告書に一定の事項が記載されることが多いでしょうね。

Q:監査報告書の様式が大きく変わりますね。そのような改革がなぜ行われたのでしょうか。

A(会計士):一言でいえば、国際的な動向を踏まえつつ、監査プロセスの透明性の向上を図るためです。日本を含め、かねてより監査意見に至る監査プロセスの情報が十分でなく、監査がブラックボックス化しているとの指摘に対して改善を図るためです。現在、多くの国は、国際会計士連盟(IFAC)に置かれた国際監査・保証基準審議会 (IAASB)により設定された国際監査基準(ISA)を自国の監査基準として採用し、あるいはこれを踏まえた基準設定を行っており、ISA701「監査上の主要な検討事項」を公表しています。
この基準の公表は、2008年の世界的な金融危機、いわゆるリーマンショックを契機に、監査の信頼性を確保するための取り組みの一つとして行われました。これに伴い日本においてもこれまでのように監査意見が適正かどうかなどを簡潔明瞭に記載する枠組みを維持しつつ、財務諸表利用者に対して監査に関する情報提供を充実し、監査の信頼を取り戻そうとしたわけです。

 

3.改訂のポイント

-監査上の主要な検討事項(KAM)の記載

Q:期末の監査報告書にKAMが突然記載されたら、企業側はビックリしますね。

A(会計士):監査人は、これまでも監査上の重要論点について監査役等と適時・適切なタイミングでコミュニケーションをとってきました。KAMはそれらの論点の中で監査人が特に注意を払った事項のうち、特に重要と判断された事項となりますので、監査役等にとって、“突然”ということはありません。一年を通して、監査人と監査役等とのコミュニケーションの深度は今まで以上に高まると思います。ちなみに、監査人は、事前にKAMに関して経営者や監査役等とコミュニケーションはとるでしょうが、どの項目をKAMとして監査報告書に記載するかは、最終的には監査人の判断になりますね。

Q:監査役等と協議された監査ポイントや監査手続などが監査報告書に記載されると、監査意見に至るプロセスが透明化されますね。ところで、監査報告書に記載されるKAMの個数はどのくらいが想定されているのでしょうか。

A(会計士):日本公認会計士協会が、昨年(2017年)11月に企業会計審議会で報告した「KAM試行の取りまとめ」* (以下、「取りまとめ」。詳細は
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kansa/20171117/20171117/1.pdf 参照)によれば、1社当たりのKAMの個数は2.61個でした。すでに英国では2年の導入実績があり、その平均は3.9個、導入1年目のシンガポールでは2.3個だったようです。KAMの個数は、規模や業種、リスクなどによりさまざまなので、一概に言えませんが。

Q:監査報告書に記載されるKAMの内容は、どのようなものが想定されますか。

A(会計士):「取りまとめ」によれば、調査対象会社26社のうち、半数以上の会社が、資産(のれん以外の固定資産)の減損、企業結合に関する会計処理、のれんの計上および評価、引当金・資産除去債務・偶発債務を取り上げています。KAMは監査人が重要な虚偽表示リスクが高いと判断した項目や、見積もりの不確実性が高いなど、経営者の重要な判断を伴う項目ですから、やはり資産の評価、負債の網羅性、企業結合など重要な取引が上位に並んだのだと思います。企業結合の会計処理やその後ののれんの評価は、監査上、経営者の重要な判断を伴う項目ですから、制度導入後もこの傾向は変わらないと思います。

Q:もし、のれんの評価がKAMとされた場合、監査報告書にどのような記載がなされるのでしょうか。もちろん、その会社の置かれた環境により、文言は異なるのでしょうが、もう少しイメージがあればと思います。

KAMの導入にあたっての実務上の課題を抽出するため、監査法人(大手4法人および準大手3法人)と監査先企業(26社、日本基準17社、米国基準・IFRS9社)が参加して、2016年12月期から2017年3月期の連結財務諸表を対象に、2017年8月から10月にかけて実施したもの。

 

4.KAMの試行例

-監査人の対応が具体的に記載される

A(会計士):「取りまとめ」では、のれんの評価(減損の要否)に関して、次の試行例(図表1)がありました。
もちろん、この試行例の脚注に示されているように、企業会計審議会においてKAMの記載について説明・議論するうえで、イメージを与えるたたき台として作成されたものに過ぎず、これがそのまま開示の模範例になるわけではないということ、KAMとして記載する内容は個々の企業の実情に合わせて記載することが求められていることを意味していますので、注意して見ていくことが必要ですが。

図表1:のれんの評価(減損の要否)のKAM試行例

図表1:のれんの評価(減損の要否)のKAM試行例
※クリックして画像を拡大表示できます

出所:日本公認会計士協会 監査報告書の透明化 KAM試行の取りまとめ(2017年11月17日)
KAMの施行例:企業結合に関する会計処理、のれんの計上及び評価の例 (P41)
例示3.のれんの減損要否
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kansa/20171117/20171117/1.pdf  

Q:例示の左側の「KAMの内容と選定の理由」に記載されている内容は、減損テストの実施に当たり、独立した鑑定人が関与するなど、実務で実施されている内容が記載されていますね。

A(会計士):はい。このほか、キャッシュ・フローの算定基礎となる事業計画の対象年数、割引率、取り扱う商品のリスクを踏まえた検討など、より具体的な情報が記載されていますね。ここで留意すべき点ですが、これらの情報は監査報告書で新たに提供されるものではなく、本来は財務諸表に注記されているなど、公表済の情報事項を監査報告書で記載することが想定されているという点です。もし、未公表の情報をKAMとして記載することは禁じられていませんが、その場合監査人はその情報を財務諸表注記に記載するなど、企業に公表を促すことが必要であり、事前に十分な協議が必要になります。

Q:例示の右側の「監査上の対応」の項では、監査法人内部の評価専門家と連携した旨や、検討に当たって留意した点などが記載されていますね。

A(会計士):監査人が守るべきルールである監査基準委員会報告書620「専門家の業務の利用」では、監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために会計又は監査以外の分野の専門知識(例えば複雑な金融商品、土地及び建物、設備等、無形固定資産、企業結合において受け入れた資産及び引き受けた負債、減損の可能性がある資産の評価等)が必要な場合、専門家の業務を利用するかどうかを判断しなければならないとされています。財務諸表の作成責任者である企業(経営者)が利用した外部の評価専門家(上記の独立した鑑定人など)の知識や経験を監査人が評価したうえで、そのデータについても監査人が利用する専門家が改めて検討する仕組みとなっています。このようにKAMに該当するような重要な検討項目については、監査人の対応プロセスが、監査報告書に具体的に記載されるわけです。

 

5.改訂監査基準の適用時期

-2021年末の金商法監査から

Q:監査プロセスの透明化、という意味が実感できました。このKAMに関する規定はいつから適用されるのですか。

A(会計士):東京オリンピックが開催された翌年の2021年3月期の金融商品取引法監査からとなります。ただし、東証一部上場企業に対しては、早期適用が期待されています。したがって、オリンピック開催直前の2020年6月下旬には、早期適用した企業の監査報告書ではKAMが報告されることになりますね。

Q:本日はありがとうございました。
 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2018.8.29)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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