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M&A会計 企業結合の実務 第2回

企業結合会計基準等の公開草案の解説

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年8月21日に公表した、「企業結合に関する会計基準」および「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」の改正に関する公開草案について解説します。

1.ASBJは企業結合会計基準等の公開草案を公表

―条件付取得対価が返還された場合の取り扱いの明確化

Q:企業会計基準委員会(ASBJ)は、本年(2018年)8月21日に、「企業結合に関する会計基準」および「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」の改正に関する公開草案を公表し、これに対するコメントを本年 10 月 22 日まで募集しています。この公開草案は何を改正することを意図しているのでしょうか。

A(会計士):ASBJは財務会計基準機構(FASF)内に設置されている基準諮問会議から、平成 25 年 12 月に条件付取得対価に関連して対価の一部が返還される場合の取り扱いについて検討を求める提言がなされました。また、平成 29 年 3 月には、事業分離等会計基準とその適用指針の記載内容の相違について、当該適用指針の改正時に対応を図ることを依頼されていました。今回は、この2つのテーマに対する対応を図るというものです。後者は適用指針の文言の調整ですので、内容に関する修正ではありません。


注:ASBJで審議するテーマの決定手続
・FASFに設置されている基準諮問会議は、ASBJの審議テーマ、優先順位等について審議し、FASFの理事会に報告し、重要性または緊急性の高いものについてASBJに提言する。
・ASBJは、基準諮問会議から審議テーマまたは優先順位等についての提言を受けた場合、原則として、基準諮問会議の提言を尊重し、審議テーマを決定する。
・なお、緊急性がある等の場合、ASBJの審議において審議テーマを決定することもできる。

2.条件付取得対価の定義

―対価が返還された場合も条件付取得対価に含まれることを明確化

Q:それでは、今回は前者の条件付取得対価に関連して対価の一部が返還された場合の取り扱いのみを取り上げたいと思います。具体的な改正内容をご説明ください。

A(会計士):まず、条件付取得対価の定義ですが、現行会計基準では、企業結合契約において定められるもので、企業結合契約締結後の将来の特定の事象または取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される取得対価とされていますが、公開草案では、これに返還される取得対価も含まれる、という点を明らかにしています。 

3.対価が返還された場合の会計処理

-追加的に交付された場合と対称的に会計処理

Q:それでは、対価が返還された場合の会計処理はどうなりますか。

A(会計士):対価が返還された場合は、追加的に交付された場合と対称的に会計処理します。具体的には、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、企業結合時ののれんまたは負ののれんの金額を再計算し、再計算されたのれんの未償却残高が当初ののれんの未償却残高より小さいときは、のれんを減額し、減額されたのれんの金額と返還された対価の金額との差額は損益として処理することになります。

設例を見てみましょう。

【設例】
・×2年4月、A社(3月決算)はB社からα事業を1,000で取得した(対価:現金)
・事業譲渡契約では、譲渡後1年間(×3年3月末)でα事業の業績が一定水準に達しなかった場合には、B社はA社に現金を100返還する旨の条項がある。
・のれんの償却期間は5年である(年間償却額40)
・×3年3月末において、事業譲渡後1年間のα事業の業績は一定水準に達しないことが明らかになった。              

A社(事業譲受会社)の会計処理のイメージ
※クリックして画像を拡大表示できます

・取得原価の再計算:900=1,000-100、のれんの再計算:100=900-800
・再計算されたのれんの未償却残高:80=100-(100×1/5)
当初のれんの未償却残高:160=(200-40)
・再計算されたのれんの未償却残高(80)が当初ののれんの未償却残高(160)より小さいときは、のれんを減額し(80)、減額されたのれんの金額(80)と返還された対価の金額(100)との差額(20)を損益に計上する。 
・なお、20はこれまで計上済の当初のれんの償却費40とこれに対応する再計算されたのれんの償却費20(=100×1/5)との差額になる。

 

Q:これまでの対価が返還された場合の会計処理はどのようになっていたのでしょうか。

A(会計士):会計基準が明らかではなかったのではっきりとしたことは言えませんが、開示例を見ると、公開草案と同様の会計処理が行われていたのではないかと思います。

4.国際会計基準(IFRS)における条件付取得対価の会計処理

-日本基準とは枠組みが異なる

Q:条件付取得対価が返還された場合、国際会計基準での取り扱いはどのようになるのでしょうか。

A(会計士):条件付取得対価の会計処理は、そもそも国際会計基準とは枠組みが異なります。この点については、「M&A会計 日本基準と国際会計基準との主な相違 第2回」をご参照ください。
なお、平成25年改正の企業結合会計基準では、条件付取得対価の取り扱いは、国際的な会計基準との取り扱いと異なるものの、全部のれん方式の採用の可否などとともに、継続検討課題とされています(企業結合会計基準64-3項)。

5.適用時期

-平成31年4月1日以後開始する事業年度の期首(遡及処理は実施しない)

Q:公開草案が確定した時の適用時期はどうなりますか。

A(会計士):平成 31 年 4 月 1 日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用することが提案されています。なお、適用前に行われた企業結合および事業分離等の会計処理の従前の取り扱いについては、改正会計基準適用後においても継続し、遡及的な処理は行わないことが提案されています。

Q:本日はありがとうございました。 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2018.10.16)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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