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M&A会計 企業結合の実務 第3回

逆取得となる株式交換の会計処理

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、取得に分類される企業結合のうち、「逆取得」を取り上げます。逆取得とは、株式を交付した会社と会計上の取得企業が一致しない組織再編をいい、該当する取引は数としては少ないのですが、会計処理はわかりづらく難しいので、慎重に対応する必要があります。

1.逆取得となる組織再編

―株式を交付した会社と会計上の取得企業が一致しない組織再編

Q:今回は取得に分類される企業結合のうち、「逆取得」を取り上げたいと思います。逆取得に該当する取引は数としては少ないのですが、会計処理はわかりづらく難しいので、慎重に対応する必要があると思います。

A(会計士):そうですね。逆取得とは、株式を交付した会社と会計上の取得企業が一致しない組織再編をいい(企業結合会計基準79項)、株式交換では株式交換完全親会社が被取得企業となるケース、合併では存続会社が被取得企業となるケース、吸収分割では承継会社が被取得企業となるケースが該当します。また、株式移転では、株式を交付する株式移転完全親会社が取得企業になることはありませんので、常に逆取得に該当する、ともいえますね。

2.逆取得となる株式交換

―被取得企業が株式交換完全親会社となる

Q:それでは、具体的に逆取得に該当する株式交換が行われた場合の会計処理を考えてみたいと思います。P社(上場会社)には、70%子会社S社(上場会社)があります。今般、S社は第三者であるX社(上場会社)と株式交換を行い、X社の完全子会社となりました。P社は当該株式交換の結果X社の株式の51%を保有することになりました。これを図表にまとめると以下のような関係になります。この場合の取得企業はどの会社になりますか。

図表1:逆取得となる株式交換の会計処理
※クリックして画像を拡大表示できます

A(会計士):企業結合会計基準では、取得企業を決定するためには、連結会計基準の考え方を用いるとされていますが、適用指針32項では「結合後企業に支配株主が存在するとき、当該株主により企業結合前から支配されていた結合当事企業(子会社)を取得企業とする」とされています。したがって、このケースでは株式交換後のX社に支配株主P社が存在しますので、株式交換前から支配株主が存在していたS社が取得企業になります。この組織再編は、P社が主導して、そのグループ会社S社を活用してX社を買収したわけですから、取得企業はS社になるという点について異論はないでしょう。

3.取得企業・被取得企業と親会社・子会社との関係

-企業結合の会計処理と連結財務諸表の作成

Q: 企業結合会計基準9項では、「取得」とは、ある企業が他の企業又は企業を構成する事業に対する「支配を獲得する」ことをいう、とされています。全体の枠組みとしてみれば、S社(ないしP社)がX社に対する支配を獲得した、という点は理解できます。ただ取得企業であるS社が買収されたX社の子会社になる、というのはどういうことなのでしょうか。財務諸表等規則8条3項では「親会社」とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を「支配している会社」をいうとされています。すなわち、取得企業=親会社、被取得企業=子会社が整合的で、取得企業=子会社という組合せの意味が良く分かりません。

A(会計士):確かに分かりづらいのですが、連結財務諸表上の親子会社関係と組織再編が行われたときの会計処理に関する取得企業・被取得企業との関係は分けて考える必要があります。まず、親子会社関係についてですが、X社はS社の議決権を100%保有しているわけですから、X社が親会社であることは間違いありません。すべてX社の指示に従うわけですから。ただ、株式交換に当たり、X社の大半の役員にP社やS社の役員が就任した場合はどうなりますか。X社はS社を支配していますが、その肝心のX社の意思決定機関はP社とS社関係者が占めているわけです。そうすると、X社は連結財務諸表の作成に当たっては親会社ではあるけど、企業結合の会計処理としてはX社を取得企業として扱う必要がありますね。取得企業も親会社も「支配」という概念が使われますが、その使われる局面が違うということになります。

Q:なるほど。取得企業/被取得企業という分類は、企業結合が行われたときの会計処理に当たって、どちらの会社が支配を獲得したのか、というときの概念で、その後の連結財務諸表の作成に当たっては、資本関係に従い、親会社/子会社の関係を考えるわけですね。

A(会計士):はい。企業結合には株式交換のように株式の保有を通した間接的な結合もありますが、合併のように事業体レベルで一体となる場合もあります。後者の場合にはそもそも親会社/子会社という概念もありませんので、2つの言葉を別々に考える必要があります。ちなみに、逆取得となる株式交換は、まずX社(存続会社)とS社とが合併し、その後、S社事業を単独新設分割により100%子会社として分離しても同じ状態が作れますね。

4.逆取得となる株式交換の連結財務諸表の作成

-取得原価の算定

Q:逆取得となる株式交換が行われた場合、個別財務諸表上は帳簿価額を基礎とした会計処理になります。一方、連結財務諸表上では株式交換完全子会社(取得企業)は、株式交換完全親会社(被取得企業)を被取得企業としてパーチェス法を適用するとされ(適用指針119項)、企業結合会計基準(注1)では、連結財務諸表上の取得原価の算定の方法が記載されています。これが何を言っているのか良くわからないのですが。

A(会計士):(注1)では、逆取得となる企業結合が行われた場合、連結財務諸表上、「取得の対価となる財の時価は、被取得企業の株主(X社の株主)が結合後企業(株式交換後のX社)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の取得企業株式(S社株式)を、取得企業(S社)が交付したものとみなして算定する。」とされています。カッコ内は、今回の逆取得となる株式交換に置き換えてみたのですが、要は、X社/S社のどちらが株式交換完全親会社になるのかは、経済実態に影響を与えない形式的な話(いずれの場合も完全支配関係が成立)であり、逆取得が行われた場合の連結財務諸表では、取得企業であるS社が株式交換完全親会社になる場合と同様に、取得原価を算定することを求めているわけです。

5.株式交換に伴う「のれん」「非支配持分」の考え方

-最上位の親会社と結合当事企業の観点

Q:もう1つ質問ですが、X社の株式の51%はP社が保有しているということは、49%は非支配株主持分ということになるのでしょうか。

A(会計士):そのご質問は、誰にとって、という主体が重要になります。あくまで最上位の親会社であるP社にとっては、X社グループの51%持分を保有しており、49%は非支配株主持分になります。他方、依然として上場しているX社の連結財務諸表の観点からは、S社とX社は100%関係ですから、非支配株主は存在しないことになります。関連して、P社の立場からはのれんは原則としてX社の事業に対して51%分計上され、S社が取得企業であるとの観点で作成されるX社の連結財務諸表上は、X社の事業に対して100%分ののれんが計上されることになります。

6.連結財務諸表の作成方法

-期首から取得企業の観点で作成されるため、前年度情報との連続性はない

Q:最後にX社が作成する財務諸表について質問があります。X社は株式交換後も上場会社として財務諸表を提出することになりますが、X社の個別財務諸表上は特に評価替されることなく、株式交換の前後でX社の帳簿価額は承継されています。
他方、連結財務諸表上は、適用指針119項で示されているように、株式交換完全子会社(取得企業)は、株式交換完全親会社(被取得企業)を被取得企業としてパーチェス法を適用する、つまり、X社の資産・負債は時価評価替されることになります。したがって、株式交換の前後でX社の連結ベースの帳簿価額(財務諸表)の継続性が断たれてしまうのでしょうか。

A(会計士):そのようになります。連結財務諸表は経済実態を表すように作成しますので、X社が提出する連結財務諸表は、株式交換が行われた年度の期首からS社(取得企業)の観点で連結財務諸表を作成することになります。なお、前年度の比較情報は、X社の情報が記載されるため、単純な2期比較は意味がありません。このため注記で補足することが適切です。また、2期比較は意味をなさないため、比較情報を記載していない場合もあるようです。いずれにせよ、これは特殊な会計処理ですから、誤解のないように適切な注記が必要になります。次の注記例をみると具体的なイメージが分かると思います。

注記例1 決算日:3月末日 X社
(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)

当社は、平成×年×月×日付で当社を株式交換完全親会社、S社を株式交換完全子会社とする株式交換を実施いたしました。本株式交換は企業結合会計上の逆取得に該当し、当社が被取得企業、S社が取得企業となるため、連結財務諸表については、当社の株式交換直前の連結財務諸表上の資産・負債を時価評価した上で、S社の連結貸借対照表に引き継いでおります。また、当連結会計年度(平成×年4月1日~平成×年3月31日)の連結業績は、S社の第2四半期連結累計期間(平成×年4月1日~平成×年9月30日)6カ月分の連結業績に、株式交換後の当社の当第3四半期連結会計期間から第4四半期連結会計期間まで(平成×年10月1日~平成×年3月31日)の6カ月分の連結業績を合算した金額となっております。このため、当社の前連結会計年度の連結財務諸表と当連結会計年度の連結財務諸表との間には連続性がなくなっております。
 上記より、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号 平成21年12月4日)及び「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号 平成21年12月4日)を適用しておりますが、比較情報として(被取得企業である)当社(X社)の前連結会計年度に関する事項を記載しております。

( )内は補足記載している。

 注記例2 決算日:5月20日 X社
(連結株主資本等変動計算書関係)

(注)1.当社(X社)は平成×年×月×日付で当社を株式交換完全親会社、S社を株式交換完全子会社とする株式交換を実施いたしました。当該株式交換は企業結合会計上の逆取得に該当するため、当連結会計年度の純資産の当期首残高は、S社(取得企業)の当期首残高となっております。

 

注記例3 決算日:3月末日 X社
(連結株主資本等変動計算書関係)

4.企業結合(逆取得)に関する事項
 当社(X社)は、平成×年×月×日付けで当社を株式交換完全親会社、S社を株式交換完全子会社とする株式交換を実施いたしました。当該株式交換は企業結合会計上の逆取得に該当し、当社が被取得企業、S社が取得企業となるため、当社の連結上の資産・負債を時価評価した上で、S社の連結貸借対照表上に引き継いでおります。このため、当連結会計年度の純資産の期首残高はS社の期首残高となっており、当社の純資産の前連結会計年度の期末残高と当連結会計年度の期首残高との間には連続性がなくなっております。

1)「被取得企業の期首残高」は、当社(連結)の期首残高を記載しております。
2)「取得企業の期首残高」は、S社の期首残高を記載しております。
3)「株式交換」は、S社を取得企業、当社を被取得企業としてパーチェス法を適用したことによる増加であります。


Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2018.12.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 企業結合の実務

第1回 のれんの評価と監査報告書の記載
第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係

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