M&A会計 企業結合の実務 第4回 ブックマークが追加されました
ナレッジ
M&A会計 企業結合の実務 第4回
持分変動と税効果会計
企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、支配獲得後の子会社に対する持分変動に係る連結財務諸表上の税効果を取り上げます。平成25年改正の連結会計基準では、支配獲得後に親会社が子会社株式を追加取得したり、一部売却したときに生じた持分変動による差額は資本剰余金の増減として処理することとされました。今回はこの取引に関する税効果の会計処理を簡単な仕訳イメージでみてみたいと思います。
1.支配獲得後に子会社に対する持分が変動した場合の連結財務諸表上の税金費用の会計処理
Q:本日は、支配獲得後の子会社に対する持分変動に係る連結財務諸表上の税効果を取り上げたいと思います。平成25年改正の連結会計基準では、支配獲得後に親会社が子会社株式を追加取得したり、一部売却したときに生じた持分変動による差額は資本剰余金の増減として処理することとされました。本日はこの取引に関する税効果の会計処理を簡単な仕訳イメージでみてみたいと思います。
A(会計士):その前に、まず連結財務諸表に税効果会計を適用するときの基本的な手続きを確認したいと思います。税効果会計は、資産・負債に係る一時差異、すなわち税務上の簿価と会計上の簿価との差額に対して、繰延税金資産または繰延税金負債を計上しますが、連結財務諸表上は、以下のように、個別財務諸表で税効果会計が適用されていることを前提として、個別上の会計簿価(A)を税務上の簿価、連結上の会計簿価(B)を会計上の簿価とみなして一時差異を算定し、適切な額の繰延税金資産または負債を計上することになります。
2.追加取得の税効果
-持分変動による「差額」は一時差異に該当する
Q:それでは、最初に子会社株式を追加取得したときの税効果を考えてみます。まず、連結会計基準の改正前と現行連結会計基準に基づく追加取得の連結修正仕訳のイメージを比較してみましょう。前提として、子会社の純資産が200あり、その持分の40%を100で追加取得したものとします。
A(会計士):改正前は個別上の会計簿価である追加投資額(100)とこれに対応した連結上の会計簿価は、差額で算定されるのれん(資産)を含めると100となり、一致していました。すなわち、追加取得時に一時差異は発生しなかったわけです。他方、改正後は、差額20は資産でも負債でもない資本剰余金となるため、将来減算一時差異が20発生します(個別上の会計簿価(税務上の簿価)100>連結上の会計簿価(会計上の簿価)80となるので、将来減算一時差異が20発生する)。このため、この一時差異に対して税効果会計を適用することになるわけです。
Q:この将来減算一時差異に対して繰延税金資産を計上するのでしょうか。
A(会計士):子会社への投資に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上するための要件を踏まえると、当該将来減算一時差異について繰延税金資産を計上する場合とは、例えば、当該子会社株式の売却の意思決定をしたときになると考えられますので、通常、繰延税金資産は計上されないものと思われます。なお、もし繰延税金資産を計上するときの相手勘定は、発生原因が資本取引によるものですから、通常の「法人税等調整額」ではなく「資本剰余金」として処理することになります。
3.一部売却に係る税金の処理
-売却価額と連結会計簿価との「差額」に係る税金は資本剰余金から控除
Q:次に投資の一部が売却され、売却後も支配が継続している場合の会計処理を考えてみましょう。
A(会計士):投資の売却の意思決定をしたときは、それまで投資先で積み上げてきた留保利益(将来加算一時差異)のうち、売却持分に対応した額について税効果の処理をする必要があります。例えば、P社は200を出資して100%子会社S社を設立し、売却直前にはS社の留保利益が100(純資産300)であったとします。そして、P社はS社株式の40%を売却すると決定したときは、その年度末に次の会計処理を行う必要があります。
Q:P社が翌年度にS社株式の40%を150で売却した場合にはどのようになりますか。
A(会計士):P社の個別財務諸表上、売却持分に対応するS社株式の簿価80(=200×40%)と売却額150との差額である売却益70に対して、税金が21(=70×30%)発生することになります。これを前提に、連結仕訳を示すと、次のようになります。
※1:非支配持分120=300 (S社純資産)×40%(売却割合)
※2:P社の個別上、S社株式売却益は70発生しているが、連結上はすべて消去される。
※3:P社の個別上、S社株式売却益に係る税金が21発生するが、連結上は資本取引として処理された30に対応する税金9は資本剰余金から控除する(損益計算書には反映されない)。なお、当該9は一時差異に該当しない(売却価額と連結上の会計簿価との差額である)ため、税効果の処理ではない。
※4:株式売却の意思決定をした年度に処理した税効果は、売却により一時差異が解消された年度に取り崩すことになる。なお、これは留保利益に対応する税効果(損益取引)であるため、繰延税金資産・負債の相手勘定は「法人税等調整額」となる。
※5:資本剰余金30=150(売却価額)-120(=300(純資産)×40%(売却割合))。なお、改正前連結会計基準では、当該金額は子会社株式売却益として損益計算書に計上されていた。
仕訳イメージだけだと難しいので、これを図解すると、次のようになります。
Q:上記の会計処理を行うと、P社の個別P/Lと連結P/Lは次のようになります。P社は個別上、売却益に対応する税金を21支払うことになり、「法人税、住民税及び事業税」が21記載されますが、連結上は「法人税、住民税及び事業税」に記載される額は12となり、支払うべき税金の額とは異なっています。これはなぜなのでしょうか。
図表6 P社個別P/L抜粋(S社株式売却年度)
子会社株式売却益 | 70 |
税引前当期純利益 | 70 |
法人税、住民税及び事業税 | 21 |
当期純利益 | 49 |
図表7 P社連結P/L抜粋(S社株式売却年度)
税金等調整前当期純利益 | 0 |
法人税、住民税及び事業税 | 12 |
法人税等調整額 | △12 |
当期純利益 | 0 |
A(会計士):とても難しい問題ですが、先ほどコメントしましたとおり、資本剰余金から控除した税金部分9は、一時差異に対する税効果ではなく、支払った法人税(法人税等相当額)を控除しているだけです。このため、税効果会計が適用されたときに使用される「法人税等調整額」に計上することは適当ではなく、結果として「法人税、住民税及び事業税」にも計上しないことにしたのではないかと思います。
Q:本日はありがとうございました。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎
(2019.1.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
記事全文[PDF]
こちらから記事全文[PDF]のダウンロードができます。
関連サービス
M&A、企業再生、知的財産に関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。
M&A:トップページ
■ M&Aアドバイザリー
■ 企業再生
■ 知的財産アドバイザリー
シリーズ記事一覧
M&A会計 企業結合の実務
第1回 のれんの評価と監査報告書の記載
第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
関連記事
M&A会計シリーズ 第3弾
日本基準と国際会計基準との主な相違 全5回(記事一覧)
第三者間の企業結合、すなわち「取得」と分類された企業結合の会計処理における、日本基準と国際会計基準(IFRS)との相違についてQ&A形式でわかりやすく解説します。
M&A会計シリーズ 第2弾
M&A会計 実践編 全10回(記事一覧)
連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを事例を挙げ、より実践的な内容でお届けします。
M&A会計シリーズ 第1弾
M&A会計の解説 全12回(記事一覧)
M&Aのプロフェッショナルが、M&A会計のポイントをQ&A形式でわかりやすく簡潔に解説する全12回のシリーズ記事です。
基礎からのM&A講座 全12回(記事一覧)
大学で講義を受けるように基礎からM&Aを学ぶ12回完結の講座型連載記事。 今更聞けないM&Aの基礎から、現場に近い筆者だから書ける事例を踏まえた解説など、より実践に役立つ内容となります。