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M&A会計 企業結合の実務 第5回

会計基準と会社法との関係

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は会計基準と会社法との関係や会社計算規則、無対価組織再編の規定について説明します。

1.会計基準と会社法との関係

-株式会社の会計は“企業会計の慣行に従う”

Q:本日は会計基準と会社法との関係を伺いたいと思います。平成18年以前の商法の時代は、時価以下主義に代表されるように商法の条文に会計処理に関する規定がありました。また、分配可能額も、平成14年改正前までは、すべて商法で規定されていました。

A(会計士):そうですね。会社法では、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」(431条)と規定されているのみです。すなわち、会社法では、独自の会計処理を規定していないわけです。また、分配可能額は、これまで同様、基本的には純資産額から資本金・準備金等を控除して算定される剰余金の額とするところまでは法律で規定されていますが(461条2項)、それ以外は省令委任しています(同条2項6号)。

Q:それはなぜなのでしょうか。

A(会計士):会社法における会計の目的は、株主・債権者に対する情報提供と、株主・債権者との利害調整(分配可能限度額を定めること)の2つになります。前者については、2001年(平成13年)に民間・常設の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が発足したので、そこでの議論を基本的に取り入れることにしたのだと思います。提供すべき情報を国が決めるより、市場関係者の議論に委ねる方が良いと考えたのでしょう。また、後者については、基本的な枠組みは維持したうえで、頻繁に改正される会計基準に迅速かつ適切に対応するため、一部を省令委任したのだと思います。法律の改正は国会で行いますが、省令であれば法務省で決めることができますので。

Q:会計基準の改正→純資産額の変動→分配可能額の変動につながるので、それに迅速に対処するためですね。法務省と会計基準を開発するASBJとの連携はどのようになっているのでしょうか。

A(会計士):ASBJでは、特に純資産額に変動を及ぼすような会計基準を開発する場合には、法務省担当官をオブザーバーとして委員会・専門委員会に参加して頂いているようです。

Q:例えば、分配可能額の算定において、会社計算規則では、のれんの1/2を控除するとされています(158条1号ハ)。これは差額で算定されるのれんは、分配可能額の算定上、他の資産と同様に扱うことは適当でないと法務省が考えた、ということなのでしょうか。

A(会計士):そうだと思います。このように、会社法では、ASBJで検討した会計処理を情報提供の観点でいったんは受け入れますが、分配規制の観点から改めてチェックする、という流れになっています。

2.会社計算規則の規定

-企業会計の慣行に照らして解釈する

Q:次に計算書類に関する表示や開示、分配規制について詳細に定めている会社計算規則にテーマを移します。私は、組織再編に関する事項など、この規則は極めて難解だと感じています。組織再編については、もともと会計基準が難解なところに、会社計算規則を読むと、さらに分からなくなります。例えば、11条では「会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる。」とされています。会計基準では、負ののれんは取得時の利益とされますが、会社法上は負債計上できるのでしょうか。会社計算規則だけをみると、会計基準の定めを超えて、会社法は幅広い会計処理を容認しているようにみえます。

A(会計士):確かに会社計算規則の文言を読むと、幅広い会計処理が可能であるように読めますね。ただもう一度確認したいのですが、会社法では「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」とされていますね。

Q:ということは、その公正妥当な「会計慣行」が何かが問題になりますね。それに違反していると、会社法431条に違反している、という関係になるわけですね。

A(会計士):そうなのです。法務省担当官の解説を踏まえると、「会計慣行」は1つではなく、会社の規模、株主構成などに応じ、複数存在することになります。例えば、金商法適用会社や会社法上の大会社(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上)の場合には、企業会計審議会やASBJが作ったルールが基本になるのでしょうが、中小企業については、「中小企業に関する会計の指針」やそれ以外のルールでも認められることになるのだと思います。

Q:なるほど。それでは、ここからは金商法適用会社や大会社を前提に話を進めます。先程の負ののれんについては、会社法上は利益ではなく、負債計上しても良いのでしょうか。

A(会計士):会社計算規則の読み方のポイントは、3条になります。3条では「この省令の用語の解釈及び規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない。」とされています。したがって、会社計算規則を読むときは、常に「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行」を念頭に置く必要があるわけです。金商法適用会社や大会社の場合には、ASBJが作成したルールを意識する必要がありますね。

Q:そうすると、「負ののれん」は企業結合会計基準では負債計上は認められておらず、一時の利益となるので、負債計上は禁止となるのでしょうか。

A(会計士):はい。そのようになります。「適正な額」「計上することができる」の「適正」や「できる」は、会計基準の定めを斟酌することになりますので、結局、適正な額はゼロになりますね。このほかにも、損益計算書の表示区分を定める88条では、特別損益の例示として「前期損益修正損益」が規定されていますが、金商法適用会社については過年度遡及会計基準が適用されますので、実際にはその科目が使用することはありません。「前期損益修正損益」は、中小企業のための規定といえるでしょう。

3.無対価組織再編の規定

-完全親子会社関係の組織再編が前提となる

Q:組織再編に関連して会計基準を斟酌すべき例としては、他にどのようなものがありますか。

A(会計士):会社計算規則36条では、共通支配下の取引において子会社同士で吸収合併した場合の存続会社の増加する株主資本等を定めています。このうち2項では子会社同士の無対価吸収合併のケースを取り扱っており、「吸収型再編対価が存しない場合であって、吸収合併消滅会社における吸収合併の直前の株主資本等を引き継ぐものとして計算することが適切であるときには、吸収合併の直前の吸収合併消滅会社の資本金及び資本剰余金の合計額を当該吸収合併存続会社のその他資本剰余金の変動額とし、吸収合併の直前の利益剰余金の額を当該吸収合併存続会社のその他利益剰余金の変動額とすることができる。」と規定されています。この「対価が存しない場合」であって「適切であるとき」とは、適用指針203-2項(1)に照らして判断する必要があります。すなわち、それは完全親子会社関係にある子会社同士の合併の場合に適用され、この場合に限り、増加する株主資本は、その他資本剰余金/その他利益剰余金になるわけです。もし子会社同士の合併であっても、どちらか一方の会社に非支配株主がいれば、この規定は適用できないので、結果として株主資本を増加させることはできず、その場合には受け入れた資産・負債との差額は、負ののれん(又はのれん)になるものと思います。繰り返しになりますが、この「適切である」というのは、個々人が適切に思ったということではなく、あくまで会計慣行に照らして適切かどうかを判断すべきもの、という点がポイントになります。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2019.2.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 企業結合の実務

第1回 のれんの評価と監査報告書の記載
第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係

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